2026年8月13日木曜日

[IS-REC/ISSUES] 本を“読めない”、“読まない”

●「趣味は読書」

 昭和後半に学生・研修医時代を過ごした私は他の同世代医師の多くと同じように当時の趣味の一つと問われると、それは「読書」であった。昭和40~50年代の大学紛争で一時的に大学封鎖があり、寮に籠もって全集本などを片っ端から読んだ。読書習慣は、学生から医師となって集中的に文献を多読するスキルにもつながった。医師としてやるべきことが増え、またさまざま興味も増えて、生活時間の中で占める読書時間・習慣は徐々に片隅に追いやられる事となった。新聞雑誌の書評をみたり、本屋で立ち読みして本を購入する習慣は現在まで続いている。しかし御多分に漏れず、“読書する時間がない”、という理由で購入しても“積んどく”状態となっている本の山が心を痛める。もはや趣味の読書は雲散霧消してしまったかのようだ。

●“本を読めない”のは時間のせい?!

 現役医師として一日の多くの時間が仕事に費やされる。仕事以外の残された時間は睡眠を含む家庭での些事で埋まり、それを除くと自分の自由時間はほんのわずかである。そのわずかな時間も現在の生活信条である時間と量で決めた運動習慣によってほとんどが費やされる。継続する運動習慣は生活体力や認知能力維持に間違いなく有効で、自らの経験を元にした患者さんへの生活指導にも熱が入る。しかし、ありていに言えば、現在の私の運動習慣は一つの趣味にぎないのかもしれない。結果として24時間をどう割り振っても読書する時間は捻出できそうにない。ハウツー本には“すきま時間”の利用、目的なくスマホのメール確認、SNS、YouTubeを止めて読書!、等々が書かれている。確かに仕事の合間にそういった事に時間を費やす事がないでもないが、仕事はたいてい分刻みで待っており、仕事で疲れ果てた頭と身体にすきま読書の強要はとてもできっこないのである。

●“本を読めない”という“能力低下”

 老化と共に若いころの不摂生が祟って、生活習慣病・歯周病・持病の悪化などがじわじわと迫ってくる。継続的運動習慣や自分をいたわる健康管理などでその浸食を多少ともくい止めてはいるが、ななかか厳しい戦いである。特に加齢とも関係した視力や聴力の衰えがある。聴力低下は健康診断で指摘され、多用するイヤホンをノイズキャンセル型に換え、長時間利用時には音を低めに利用することでうまく乗り切る事が出来た。しかし視力は老眼に加えて緑内障の合併があり、低眼圧でも羞明や視野障害による光量低下があり、ロービジョン状態である。周囲のまぶしい環境での読字、特に細かい文字を読んだ時の眼の疲労は激しい。“本を読めない”のは時間や習慣の喪失だけではなく、この羞明や眼精疲労の影響が大きく、明らかな“能力低下”なのである。

●“能力低下”の代償

 TV・YouTube・新聞・ラジオなどは情報獲得手段であるが、読書は知識・知力を蓄える別次元のもの。新聞・雑誌の拾い読みをよくするが、これも情報を仕入れる以上の域をでていない。得た情報を何らかの形でアウトプットしなければ、その情報も右から左へ素通りするに過ぎない。読書は視覚以外の感覚情報も駆使し、その内容と共に各頁のイメージを含めてインプットされるので後々まで頭に残り、情報から知識レベルへと昇華される。まさに読書の効用である。能力低下で本を“読めない”、“読まない”のであれば、リハ医のセンスとして何らかの代償手段を講じたいところだ。

●ロービジョンの代償手段

 日本ロービジョン学会から「視覚補助具ハンドブック」が小冊子(2016年6月発行)で出版されている。まぶしい時の遮光眼鏡、様々な拡大鏡、単眼鏡、拡大読書器、複合的な機能を持つタブレットやスマホ端末などの利用である。

●情報から知識へ昇華を助ける代償手段

 新聞記事や、雑誌記事、様々なマニュアル・説明書、書籍、医学文献など、読んで手元に置いていつでも利用・参照したい刊行物がたくさんある。本を“読めない”、“読まない”では済まされないのが現役医師を続ける上でも必定である。私は相当以前からシートフィードスキャナ(ScanSnap)で、手元に置きたい資料や記事、本、教科書をPDFとし、一覧性に優れたPDF画像データベース(PaperPort)に取り込んできた。取り込むPDFを年・月、記事か文献か、等でフォルダ分けしているのでいつでも参照可能である。現在はこのシステムを単なる参照型データベースから機能面で大幅なバージョアップを図っている。すなわち、読書に相当する情報から知識へ、その昇華を助ける代償手段として利用するのである。以前、書籍や教科書のPDF化は本をばらして紙綴じ部分を裁断するなど、手間のかかる作業であった。しかし今はオーディオ化した本を簡単にPDFとする方法があり、大凡の書籍は簡単にPDFとして取り込み可能である。取り込んだPDFをAI(notebook LM)に読み込ませ、内容の要約・個条書き・音声解説・マインドマップ・図表、等々、ソースPDFで自分の知りたかった情報に合わせてアウトプットの形式をさまざま選択をすると、あまり眼に負担をかけずに楽しみながら知識の習得が可能となる。AI時代となって単発的な情報の取得手段でのみAI活用を考えるのは勿体ない。AIは今後リハ領域、特に能力低下やハンディキャプの代償手段としてもさらに利用が拡がっていくだろう。

※本稿は、秋田医報NO1651、2026年8月『銷夏随想号』に掲載した。




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