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2015年1月10日土曜日

[IS-REC/BOOK]ジョナサン・ワイナー著(樋口広芳・黒沢令子訳)『フィンチの嘴』(ハヤカワ文庫)を読む

進化のスピードは想像以上に速かった

     ダーウィン「種の起源」に始まる進化論は宗教的物議をかもしたものの数世紀ないし数千年の単位で生じる種の環境への適応、自然選択である。種が分岐しその多様性を生んでゆくという進化論は現在、広く受け入れらているが、ダーウィン以降もその実証には乏しい状況であった。

この進化論を構想するフィールドとなったカラパゴス諸島ダフネ島を中心に、生物学者のグラント夫妻はスズメほどのフィンチという小鳥の全島調査・観察を年余にわたって続けた。絶海の孤島で気象は厳しく、1年以上雨の降らない時期もある。そこには明らかに嘴の長さ・形の異なるフィンチが生息する。そして夫妻はこのフィンチの長期観察から、様々な条件・過酷環境の中で生き抜くため、環境に応じて餌を採るに適する嘴変化がフィンチの次世代に受け継がれていっていることを発見した。すなわち種の遺伝的分化は当初考えられたよりずっと短い期間で起こっていた。

・・・この“フィンチの嘴”に象徴される事象、現在では「適者生存、外環境の大きな変化を的確にとらえて生き延びる術を持つ」という意味でさまざま援用されるようになっている。たまたま読んだ本の文中記載や、以下に紹介するブログ記事から興味かき立てられて本書を手にした。

フィンチの嘴の違いは、1個の遺伝子の差で生じていた

  さまざまな要因により、形質発現に関わる遺伝子は比較的短期間に変異していくようだ。最近の新聞記事で京大iPS細胞研究所の山中伸弥教授は、“体内の細胞でも、遺伝子配列は徐々に変わっていくことがわかってきている”と述べている(2015/01/08朝日新聞科学「開発止まった薬を復活させたい」)。

一方、フィンチの嘴の違いを、DNAチップによる遺伝子発現の違いで明らかにしようという試みが行われた。その結果、嘴の形と対応する遺伝形質がカルモデュリンであることがわかった。そして長い嘴を持つフィンチほど、嘴の先にカルモデュリンが発現しているというのである(石浦博士のオドロキ生命科学第31回『フィンチの嘴の謎』)。

“進化”という気の遠くなるようなスパンで起こる種の形質変化は、ダーウィンの著書以来つい最近までその直接的証明は困難と考えられてきた。しかし本書で紹介された生物学者の地道なフィールド研究、そして近年の遺伝研究の進歩によって種の形質変化が実際にはもっと短い周期で生じている事がわかり、しかも実際は相当複雑だが1形質1遺伝子で発現し、件(くだん)の石浦博士は、“遺伝子導入で(美容)整形も可能になるらしい”と冗談めかして語っている。

地球温暖化など、環境激変によって種の遺伝的変化が速まっている事への警告

      本書『フィンチの嘴』が書かれたのは20年以上も前の1994年である。しかし著者は当時すでに始まっていた人間自身の繁栄によって引き起こされた地球規模の環境変化が、進化の原因とも結果ともなっている事を知るべきと警告していた。

     『フィンチの嘴』は進化を信じない創造論者が半数近くを占めるアメリカでも相当多くの読者を獲得してきた。早川書房から日本語訳が出版されたのは翌年1995年。二人の翻訳者の力量もあって本書はフィールド観察の臨場感と、真実追求のサスペンスドラマを読んでいるような迫真性がある。大部だが一気に読める一冊である。

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2014年2月5日水曜日

[IS-REC/BOOK] 太田成男著『水素水とサビない身体』(小学館)を読む

文庫本化された、瀬名秀明・太田成男著『ミトコンドリアのちから』 に触発されて・・・

去年の同じ頃、文庫本化された、瀬名秀明・太田成男著『ミトコンドリアのちから』を読んだ。『ミトコンドアリのちから』は科学的読み物として、また細胞生物学の基礎を整理する本として大いに面白く、かつ役に立つ一冊であり、既にこのブログでも紹介した。その後に著者の一人、太田が書いた啓蒙書『からだが若くなる技術』は、健康指向の一般の方々へわかりやすくその具体的戦略を述べた好著であり、これも後日ブログで続けて紹介した。著者、太田成男は日本医大・大学院教授で本書に自身で紹介する通り、活性酸素のうち、遺伝子や細胞傷害を来すハイドロキシラジカルを“悪玉”活性酸素として紹介し、またその悪玉活性酸素を選択的に消去する作用が水素にあることを世界に先駆け報告した基礎医学研究者である。

水素を体内に取り入れる様々な手法とサプリ

太田教授の発表後、水素を体内に取り入れる様々な手法が考案された。特に水に水素を溶解した水素水が多くのメーカーから市販されていることは健康サプリに関心を持つ者であれば十分御承知のことと思う。本書は身体にとって格段副作用などなく、身体に良いことづくめで、健康指向サプリにありがちな、“過剰宣伝”、“インチキ”、“ウソ”の類に誤解されかねない水素関連サプリを、改めて著者自ら、その後の研究成果の蓄積を踏まえて一般向けに紹介した本である。

“人間がサビる?”=“老化や生活習慣病の原因とされる活性酸素からの害”

ヒトの日常生活に必要な活動エネルギーは食事を通して供給される栄養と呼吸による酸素供給で賄われる。これら栄養器質と酸素の供給を受け、細胞レベルでエネルギー代謝が進行する。その役割を担う場所と構造の大部分が細胞内ミトコンドリアである。その好気的エネルギー産生は身体活動の需要に応じて効率よくエネルギー通貨であるATPを産生することで達成される。このエネルギーはミトコンドリア膜にある電子伝達系を流れる電子の動きによって電気的エネルギーから変換されて生じる。この仕組みの宿命は、エネルギー産生プロセスで漏れこぼれる電子と酸素分子が不可避的に結合して活性酸素を生じてしまうこと。その発生する活性酸素量は急激な活動エネルギー需要の変化で大きく異なるという。したがって日常生活でも急激な運動や大喰いなど、急な活動エネルギー需要の高まりが多くの活性酸素を産む原因となる。

また臨床医学の分野で虚血(脳血管や冠動脈閉塞による臓器の虚血状態)後の再潅流で起こる脳や心臓の臓器障害は大量の活性酸素発生で説明されている。活性酸素は、炎症細胞などでも産生され、一部は異物の排除やその解毒化にも使われる。したがって活性酸素すべてが老化や疾患の原因となるわけではない。

活性酸素のうち、遺伝子や細胞膜を傷つけ老化や疾病原因となるのは、より酸化力の強いハイドロキシラジカルである。体内の細胞や組織に対して強力な酸化作用により遺伝子や膜の傷害をもたらすので、ハイドロキシラジカルを著者らは“悪玉”活性酸素、と名付け、その作用結果を“人間がサビる”と、わかりやすく表現した。

水素の効用=強力な活性酸素除去作用(ラジカル・スカベンジャー)

水素を体内に取り入れると、その分子は最小分子である故に体内組織の至る所、その水溶、油溶に関わらずよく浸透する。そして何らかの原因で組織に発生している“悪玉活性酸素”ハイドロキシラジカルがあると、これと反応して無毒化する。反応に関わらなかった水素は速やかに呼気から排出される。水素の効用はこの化学的作用で簡単に説明されるので、“悪玉活性酸素”が多く生じていない状態で水素はあまり必要ないだろう。しかし、このストレス社会、肥満や生活習慣病が社会問題となる現代では多くの“悪玉活性酸素”が体内に生じて老化や肥満、生活習慣病の原因となっていることは容易に想像される。こういった現代社会では健康サプリとして水素を大いに活用して欲しいというのが著者の主張だ。

水素水が健康飲料として普及する時

水素水飲用は水素を体に取り込む最も身近な方法。しかし健康飲料として利用するにはまだまだ高価なようだ。とはいうものの、飲んで特に害なく、清涼感あって間違いなく健康に良いとなれば、この日本で水道水に代わりミネラル・ウオーターが普及したように、水素水が普及するのではないか。週刊誌などでも取り上げられ、水素水効用がわずかずつ一般にも知られるようになった。価格も低下してきた。普通の自動販売機に水素水が並ぶ日も近いと思われる。

読み終えて

日常の水素水飲用や水素のバブル浴、治療医学への水素応用がここ数年進んできている。市販される水素水についてはアルミパウチ入りで十分な容存水素量があり、また“還元水”、“○○水素”など、特殊な名称を付けて売り出さない限り過剰宣伝やインチキなどと水素自体に言いがかりを付けられるいわれはない。とはいえ、その効果・効能はやはり使ってみなければわからない。

最後に本書に対しもう少し希望を述べるとすれば、たとえ普及書とはいえ、興味あればさらに詳しく調べられるように引用文献など、巻末最後につけて欲しかった。無論、水素を臨床応用する医学研究会などもあると聞く。そこまでのめり込む者、特に医学関係者であれば、本書程度の普及書には決して手を伸ばさないのではないだろうか?

2014年1月16日木曜日

[IS-REC]林 洋著『食と健康の話はなぜ嘘が多いのか』(日経プレミアシリーズ)

 

いたって真面目な栄養学の教科書

  本書は書名から私が期待した内容と多少異なって、いたって真面目な栄養学の教科書であった。その硬い内容を少しでも和らげ、飽きさせないよう漫談調で書かれている(その調子がやや鼻についてしまった)。しかしともかくも著者が食と健康情報の多くを敢えて『嘘が多い』と書名にするのは健康食品やサプリに確かな根拠なく“利いた”とか、“○○に効果がある”と宣伝するからだろう。私は本書を手に取り、こういった宣伝に対する真っ向からの反証を期待した。著者はしかし真正面からの衝突を回避し、正攻法で「どんなものが出ても、それを正しく評価できる能力が大切だ」と述べて、食(≒栄養)の生化学的知識をよく整理し提供している。その主だった点を紹介する(但し、内容が教科書的だからといってすべて正しいと思えない所のあったことを付記する)。

なぜ食の生化学が大切か?

  栄養は食べ物とほぼ同等の意味合いを持つ。しかし食べ物に表示される栄誉成分すべてが体に吸収される訳ではない。いくら口にする食品の栄養や健康効果を謳っても、また、いくら優れた食品組み合わせによる食事療法を実践しても、食が体に入りどう最終的に利用されるかを知らなければ、怪しげな食の宣伝文句にだまされてしまう。

ヒトの体組成と食の関係

  ヒトの体組成について分子レベルでみると、最大は水(全体重の60%)次いで脂質(20%)・蛋白(15%)、残るはミネラルと炭水化物。体組成を組織レベルでみると、最大は筋肉(40%)、次いで脂肪組織(20%)・血液・骨・皮膚・内臓と続く。栄養補給がこれら体組織の補充と生成にあたると考えれば、食(≒栄養)は主に肉中心で良いはず(著者はそうではないと否定する)。肉は特徴として、その含有蛋白の30%を強制的に体温上昇の熱産生に使うという。

三大栄養素の関係

  炭水化物は大雑把に言って体の動力源。生きるに必要だが補給がないと(絶食)、代わりに脂質や蛋白質から炭水化物が生成されその動力源を提供する。だから食べないと体構成蛋白や脂肪が減少して痩せる結果となる。


消化吸収

  この項で注目するのは、脂質吸収機構。脂質は消化酵素リパーゼや胆汁の力で小腸粘膜に吸収され、粘膜細胞に入ってから再び脂質となり、リポ蛋白の形でリンパ管を通り運ばれていく。このため脂質吸収と分解には時間がかかり、代謝に必要なエネルギーも炭水化物や蛋白質に比べて大きくなる。

糖質制限は体にいい?

  グリコーゲンは備蓄用ブトウ糖として肝や筋肉で作られる。しかしマラソンなどの長時間運動では最初の20分程度でそのすべてを使い果たす。その後のカロリー補給は脂肪組織から供給される中性脂肪がエネルギー源となる。この状態が続くと脂肪分解の不完全燃焼のためケトン体が持続的に発生し、組織に悪影響を及ぼす。糖の利用障害である糖尿病でも病態はほぼ同様である。


「酵素を食べても・・」


  遺伝情報はすべて蛋白質の設計図である。栄養素の消化や代謝に関わる酵素(蛋白質)をいくら食べてもそのままの形で利用される訳ではない。すべてアミノ酸まで分解され、あらためて身体に必要な蛋白質に再合成される。従っていくら酵素を食べても直接に体に利用され栄養効果を発揮する訳ではない。

微量栄養素(サプリ)


  ビタミンやミネラルなど微量栄養素は生体維持に必須。しかし微量で足りるはずであり、一般には不足は生じない。 

 

最後に私見:健康食品(サプリ)はホントに不要か?


  著者が本書で力説する通り食と健康の話、特に特定のサプリを売り込もうと目論んで書かれる情報には誇大宣伝や嘘も多いだろう。『未病』という言葉も生まれているように、本格的医療を必要とする前に大病を防ぐ努力が今求められている。厚労省が音頭をとった『生活習慣病』『メタボリック症候群』という用語も大いに普及して、必要以上と思われる薬がこれらの状態に対して処方されている。健康食品(サプリ)の中には医薬品として使われている類のものもあり、一定の効果をエビデンスとして示しているものもある。うたい文句に乗せられるのは困るが、それを服用する者がよく検討した上で上手に利用するのであれば、したり顏に、“ソンナノイミナイヨ”と言われてもまったく動じることはないのではないか?

2014年1月9日木曜日

[IS-REC] “夏井 睦著『炭水化物が人類を滅ぼす』光文社新書 糖質制限からみた生命の科学”を読む

何故、炭水化物が人類を滅ぼす?その意味がわかった気になる本

炭水化物が人類を滅ぼす  本書のはじめに著者は「糖質制限」を「驚異のダイエット法」と紹介している。ほんとはなかなか厳しいはずの「糖質制限」をその人柄を反映しているのか、軽い乗りで著者自身がいともたやすく実践しているかのように書き始めている。
  著者は「外傷の湿潤治療」を世に紹介した有名人である。外傷の湿潤治療有効性は確かに医師一般に知られ、私自身も日常臨床で応用するが、彼の名前は本書を手に取るまで知らなかった。その有名人が今度は「糖質制限」である。本書を読むと特にその後半で「外傷の湿潤治療」と「糖質制限」の接点が見えてくる。

「糖質制限」は、人類の食物史と密接に関わる食事療法

 

  「糖質制限」は、人類の食物史と密接に関わる食事療法であり、著者も本書の後半で持論を展開している。本書の前半は著者自身の体験を踏まえた「糖質制限」の威力を紹介している。そのダイエット効果に始まり、いわゆる生活習慣病の高血圧や脂血異常も治癒、日中の居眠り解消などなど、良い事づくめである。

  続く章節で糖質制限の基礎知識やその問題点に触れている。この中で傑出するのは飲食物中の砂糖量を角砂糖の個数で換算して表示するウエブサイトの紹介である。清涼飲料水の多くに角砂糖十数個以上の糖が含まれていることを知れば、喉が渇いたからといってそれを何本も飲むなど、空恐ろしく感じることだろう 。

  次章「糖質制限すると見えてくるもの」では、そもそも、“糖質は栄養素なのか?”と疑問を投げかける。オーソライズされた食事指導で、“総摂取カロリーのうち、糖質6割以上”とされている事に何ら科学的根拠はないとする。

  さらに続く本書の後半部分では、穀物生産の現状に始まり、歴史的に産業革命以来、労働搾取の手段として食事に糖質が麻薬のように加えられてきたこと、などなど意外な事実を突きつけて糖質食の意味を紐解いている。

  引き続く次々章「哺乳類は・・・」からは、著者のスケール大きい蘊蓄が披露される。この後半部分の内容信憑性は私のような素人には判断できない。しかし全体として大げさに感ずる本書のタイトル、なぜ〈炭水化物が人類を滅ぼす〉のか、少しわかったようにさせられのが本書の魅力でもある。

一読を勧める。

2013年9月13日金曜日

[IS-REC]岡田正彦著『人はなぜ太るのか』(岩波新書)をG.トーベス著の同名書と比べて読む

ヒトはなぜ太るのか2

 先頃読む機会のあった、G.トーベス著『人はなぜ太るのか』を検索していたとき、まったく同名の書が岩波新書から出版(2006年初版)されていることを知った。著書は岡田正彦氏である。

「肥満を科学する」と副題ついた本書の構成

 本書のプロローグ。太りすぎたある患者さんの、“食べる量を十分減らしても太ってしまう“という言葉。そしてその回答を求めるとして、“肥満を最近のデータで科学する”と本書のねらいを示す。後の構成は、第1章:肥満の仕組み、第2章:肥満をはかる、第3章:肥満はなぜ健康に悪いか、第4章:健康的にやせるには?、という構成。核心は第1章。第1章では「太る」という言葉の定義「脂肪などがついて体重が増えること」を仮に挙げて、からだを構成する成分のうち、唯一タンパク質のみ遺伝情報に基づき人のからだを再生する、それ以外の脂肪や水分は物理法則に従って自然に構成されてゆくと説明する。

わかりやすい三大栄養素の消化と代謝の説明

 代謝酵素そのものや運動を起こすのに必要な筋肉など、すべてタンパク質である。タンパク質は摂取されると胃腸でアミノ酸まで分解され、代謝が昂進した特殊な状態でない限り、再利用されることなくユビキチンがついて分解され排出されてしまう。すなわち、エネルギーとして利用されるのはごく少量だという。一方、炭水化物の多くはスターチ(でんぷん)。スターチは動物のグリコーゲンに相当する植物(食品の基本)の貯蔵糖である。スターチは摂取すると消化吸収されてブドウ糖まで分解され、エネルギー源となる。エネルギーに使われなかった分は肝や筋肉で貯蔵糖(エネルギー)のグリコーゲンに変えられる。だが炭水化物すべてが貯蔵エネルギーとはならず、実は多くが脂肪酸に変換され、中性脂肪となり、皮下や内臓に蓄積されてしまう。したがって炭水化物のとりすぎは肥満の原因である。

 栄養素としての脂肪の役割は体を構成する細胞やホルモンなどの原材料となること、およびエネルギー源である。後者は肝臓で一旦分解され、必要に応じて中性脂肪に再合成される。

 以上、ここら辺りの説明は一般向けでとてもわかりやすい。

肥満と食事の関係について岡田氏の主張

 著者は、“太る食品”についての疫学的データを紹介している。それによると、男は甘味類すなわち糖分、女は脂肪を多く摂ると太るという比較的明快な結果が出ている。しかし肥満自体や脂肪の付き方など、個体差や人種差が大きく、背景に遺伝形質の違いが考えられると述べている。ここで肥満をもたらす食品としてジャンクフードに触れている。ハンバーガーは脂肪と炭水化物が多い。特に脂肪は1個で一日必要摂取量の40%にもなり習慣的に食べていると肥満になるのは当然であろう。

G.トーベスの主張との違いは?

 2006年に出版された岡田氏の本書、2010年出版のG.トーベスの著書、この主張の違いをみる。人が太ること、ないし食事と肥満との関係について、二つの本の主張に矛盾はないが、後者の主張と結論は明快である。

 

G,トーベスの著書は後で出版されただけ、文献渉猟も網羅的であり、また肥満の問題について、その歴史についても詳しく述べて説得力がある。

  岡田氏の本書を加味した肥満の原因の結論である。肥満の元凶は三大栄養素うち、炭水化物(糖質)であること。脂肪(脂質)はカロリー源としての熱量は大きいものの単独では肥満の原因とはならず、炭水化物と同時に摂取された時、相乗的に肥満の原因となる。

 岡田氏の本書を追加して読み、肥満との関係でみた三大栄養素の消化・代謝機構の知識がよく整理できた。そして肥満の原因は総摂取カロリーにあるのではなく、糖質過多であることをあらためて再認識した。

2013年8月26日月曜日

[IS-REC] 『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』を読んだ!!

日本医師会(広報・情報課)からサイン入り山中伸弥先生の表題本をいただく


  山中伸弥2本書は山中先生のこれまでの医師・研究者人生の歩みと今ホットな医学トピックである“iPS細胞”について一般の方にもわかりやすく脚注付きで解説した本である。多忙な山中教授に代わってジャーナリストの緑 慎也氏が先生から直接聞き取りをして一冊の自伝としてまとめ、完成された。 

小生、幸いにも山中先生サイン入りの本書を医師会から頂戴するチャンスに恵まれたので早速読んでみだ。

“現役で医師・研究者を人生ランニング中”


 気さくさ、失敗を隠さない率直さ、そして人間くささは先生の大きな魅力であるが、50歳そこそこでノーベル医学生理学賞に輝いた偉人であることに違いはない。無論、現在もアクティブな研究者として、またそのオーガナイザーとして活躍中であり、同じ医師人生を歩んでいる者として親近感を抱き、全く遠い存在に思えない感覚をもつのは私だけではないだろう。

整形外科医から基礎医学へ


  大学医学部に入るまでの様々な経験、特に両親の影響や愛読書からの影響、そして柔道など、学生時代のスポーツで何度も骨折した経験から医師となった。卒業後は整形外科医としてスタート。研修医時代、不治の病に苦しむ患者をもっての苦悩や自分の外科医としての限界を感じて基礎医学に転向。

 この辺りの心の動きも決して格好良いものでなかったことを率直に認める。神戸大学から大阪市立大学薬理学の大学院に進み、そこでの研究から同じ基礎医学でも毛色の異なる胚性幹細胞の研究にどうしてつながって行ったのか?、留学先でのさまざまな経験、特に研究能力のみならず、発表(プレゼン)能力が如何に大切かを教えられ、学ぶ機会を得たこと、帰国後の彼我の研究環境の違いからうつ状態が続いたこと、そして幸運にも新しい奈良先端科学技術大学に勤めて米国での研究を日本で発展させる素地を作ったこと、すばらしい後輩や仲間に恵まれ、iPS細胞の開発につながっていったこと・・・まさにドラマチックなストーリー展開で、ある種冒険小説でも読むようなわくわくした気持ちで一挙に最後まで読み進んだ。

「バテずに走り続けること」


  本書で印象に残る言葉は、本書最後に近い部分で緑氏のインタービュー形式で語られている。「僕の使命は、マラソンと同じように、患者さんにこの技術を届けるまで、バテずに走り続けることです」・・・研究そのものも、また多額な費用をかけて研究体制を維持し続けることも、とてつもない重圧であることを尋ねられたときの答えである。崇高な使命を目標として走り続ける若いノーベル賞受賞者に相応しい言葉ではないか。

2013年5月19日日曜日

[IS-REC] 山野井 昇著『水素と電子の生命』:病気や老化を分子・原子のレベルから見直す



身体の仕組みや働きを理解するのは生物学のレベルである。生物学は遺伝子・細胞に始まり、組織・器官・器官系という階層性の中で生命体の構造と機能を系統的に説明する。基礎医学は生物学的知識を中心に解剖学、生理学、生化学の知識を取込み、さらに環境や生活といった分野の理解も加えてその理論体系を構築する。病態生理学や病理学は臨床医学の基礎として、ヒトに起こるさまざまな変化や異常を系統的にとらえる。われわれ医療者はこういった知識の積み重ねでヒトの病気や障害を理解し治療に当たっている。


遺伝子・細胞レベルから原子・分子レベルでヒト身体の仕組みや異常を理解する


近年、遺伝子・細胞レベルの医学的理解は飛躍的に増大している。遺伝子・細胞レベルの医学はこれまで治療困難であった難病治療の可能性に光を当て、また老化やヒトの寿命についてもその解釈を可能としている。“tailor-made medicine”が近未来医学の主流となるだろうととも言われている。
本書、山野井昇著『水素と電子の生命』は、ヒトの健康維持やその破綻である病気・老化の問題を体内イオン環境から説明する。そして、ホメオスタシス、すなわち生体内至適環境への働きかけを通じた治療の可能性を提案する本である。


身体がさびる(体内の酸化)と病気や老化が起こる!!


今日、医学や生理学的研究の成果で「活性酸素」が体内の酸化を進め、ガンや生活習慣病、慢性疾患、老化現象を引き起こしていることがわかっている。活性酸素による体内酸化を防ぐには生体エネルギー産生の主要な仕組みであるミトコンドリア電子伝達系を円滑に作動させる必要がある。また活性酸素が一定割合で生じる事は避けられないため、その除去装置をうまく働かせることも必要である。本書では、原子・分子レベルからこの問題を見直し、“酸化還元電位を下げる”、すなわち酸化と逆方向に体内環境を是正する“還元”をどう治療に活かすか、そしてその実例として古来から知られる“名水”や“奇跡の水”の意味、物理療法として知られる電位治療の意味をわかりやすく説明している。


水素は体内で酸素・炭素に次いで多い構成元素


水素は体重当たり約10%を占め、酸素65%、炭素18%についで多い。生体内で水として存在するほか、生体構成蛋白、遺伝子DNA二重らせん構造、糖質・脂質の一部として広く体内に分布する。その特徴として低電位、還元力(電子を与える役目)という電気的特性や分子量1で、極めて小さく吸収性高くほとんどの物質・膜を通過して自由に体内に拡がる特性を持つ。また酸素(特に活性酸素)と反応して水に変わる極めて安全性の高い物質である事が挙げられる。


ヒドロキシラジカル除去に水素水


ミトコンドリアの研究から悪玉活性酸素であるヒドロキシラジカル無毒化に体内へ誘導した水素が有効であることが実証された。≪詳細は瀬名秀明・太田成男著『ミトコンドリアのちから』(新潮文庫)に紹介されている≫ 水素は肝臓での代謝や解毒にも関わっている。また体内の酸とアルカリバランス、ホメオスタシス維持にも働いている。
われわれが治療に用いる薬、特に西洋薬はピンポイントでその治療効果を期待出来るが一般には諸刃の剣である。われわれ医療者は改めてこれまで軽視していた感ある電位治療(生体の電気的治療)を見直しする必要があろう。また分子・原子レベルから生体を理解して、その至適環境(ホメオスタシス)維持に水素を応用することももっと真剣に考える必要がある。山野井の本書はこういった知識を深める第一歩である。

2013年4月13日土曜日

[IS-REC] 後藤 眞著『老化は治せる』をアンチエイジング本の一冊として読む

 

本書は数年前、著者の書かれたイラスト本、『痛快!不老学 』(集英社インターナショナル)に続く新書版の一冊であり、アンチエイジング本として期待して読んだ。著者の主張、「(加齢と異なり、)老化は病気です」は、それなりの根拠を持っており、私も賛成できる。しかし現代医学をいくら駆使しても、病気すべての原因がわかり、その原因に基づいた治療がすべての病気で可能ではないように、“老化も治せる”とは、とても言い切れないというのが目下、私の結論。

さて、著者がリウマチの専門家として、老化と慢性炎症の関係を強調するのは良くわかる。著者は本書の中で、“炎症老化”という新しい医学用語も紹介している。体内で起こる炎症は、熱エネルギー産生を伴う酸化であり、そのうちの“非常に弱い炎症”は、ヒトの成長や性成熟にも関わった自然現象である。この炎症の強さが一方で病的老化の原因となる。“炎症老化“はこの老化炎症説を強調するのに確かに都合良い用語かも知れない。そして老化すべてを慢性炎症で説明し、慢性炎症を治療する薬剤にアスピリンがある故、このアスピリンを上手に使えば、「老化は治せる」というのが著者の結論のようだ。アスピリンは確かに一世紀以上も生き残った良薬。しかしこのアスピリン服用に加えて、これまでアンチエイジングに良いとされる方法をさまざま加味したとして、ホントに「老化は治せる」と宣言できるのだろうか?

動脈硬化は、“血管内皮に生ずる慢性炎症”を基盤

最近、動脈硬化発生の基盤が、“血管内皮に生ずる慢性炎症”という考え方が受け入れられつつある。いわゆる、悪玉コレステロールが高いだけで動脈硬化が起こる訳ではない。血管内皮の炎症を来す背景、糖尿病や家族性脂血異常、歯周病や免疫系の異常などがないと、脂血異常でも動脈硬化治療薬であるスタチンを使う意味はないと言われるほどだ。ヒトは“血管から老いる”と言うように、老化と動脈硬化は密接に関係する。過食や急激な激しい運動とその停止など、エネルギー代謝バランスが一時的に崩れる需要-供給変化があると、特に好気的熱エネルギー産生に伴ってラジカルが発生する。その消去役である生体内ラジカルスカベンジャーが十分機能できないと、ラジカルは膜脂質を酸化して過酸化脂質を生じる。血管内皮に慢性炎症があるとはじめてこの過酸化脂質が動脈硬化を引き起こすという訳だ。

アンチエイジングとの関係で組織修復蛋白HSPや生体エネルギー産生機構“ミトコンドリア”と、そのラジカル発生等、組織・細胞レベルでの老化とその抗老化に、もっと詳しく触れて欲しかった

著者は「不老の妙薬?」として、アスピリンを紹介し、その発見から心筋梗塞、ガン、糖尿病、アルツハイマ-病予防の可能性も持った夢の薬として、この抗炎症剤のすばらしさを語っている。無論アスピリン使用にも様々な問題があり、その代薬や「抗酸化剤」の抗老化効果について触れている。結論としては、“老化は複数の仕組み・原因が関与している”と述べ(p112)、抗酸化物質を含むサプリメント等、夢の抗老化薬はないともいう。本のタイトルとは、何ともわかりにくい論理構成だ。また最終章の「老化は予防できる」で、少食や長寿者の低体温、咀嚼能力、運動・筋トレの老化予防効果など、これまで言われているアンチエイジング手法を盛りだくさんに語る。しかし生体の組織、細胞、分子レベルでの老化メカニズムとその予防策については必ずしも十分触れられていない。低体温として、本当に代謝を下げるのが長生きの秘訣とすれば、運動や筋トレで熱エネルギー産生を促すことと矛盾しないのか?体温を上げて組織修復蛋白HSPを産生し、組織や細胞レベルの新陳代謝で生ずる遺伝子のキズ修復や蛋白合成ミス修復が老化予防に重要とする説と、紹介された様々なアンチエイジング手法とどう整合性を取るのか、期待した回答は残念ながら本書には見受けられなかった。本書も、“タイトル倒れ”に終わった感が否めない。

2013年3月19日火曜日

[IS-REC] 太田成男著『体が若くなる技術』はわかりやすい一般向けの好著


瀬名秀明・阿部成男共著『ミトコンドリアのちから』(新潮文庫)は科学的読み物として内容濃い力作であった。しかしこの本を読みこなすにはある程度の基礎学力がないと、とても読み切れたものではない。それに比べ本書は、突っ込んだ説明が幾分不足に感じるところはあるものの、健康志向の一般大衆向けに良く書かれた一冊である。

 

“スキル・テクニック”ではなく“技術”

本書のエピローグで著者も断っている。残念ながら“体が若くなる”、あるいは“体を若くする”のに、決して誰でもどこでも簡単・容易に達成できるテクニックやスキルがある訳ではない。書籍タイトルというものは本屋で手に取ってみる者がこれは読んでみたいと食思がのびるタイトルとするのが出版社の常である。本書もそういった要望から付けられたものと想像する。しかし決して“看板に偽りあり”ではないようだ。著者は本書を“スキル・テクニック”ではなく“技術”書であると強調している。体を維持し新陳代謝を行う細胞生物学的単位、ミトコンドリアは好気的エネルギー代謝の場であり、不可避的に活性酸素(ラジカル)を発生させる。ラジカルは遺伝子を傷害して老化を進める第一の原因。我々の手に届く所にあるもっとも有効な“体を若くする”技術は、このラジカル対策なのだ。

“エネルギッシュに生きる”には

“体が若くなる”とは、基礎代謝・活動代謝が上がり、日常生活がエネルギッシュとなる状態である。ヒトの体のエネルギー産生機構とは基質である糖質や脂質を消費して、それをエネルギーに換える細胞内解糖系と細胞内ミトコンドリアの好気的エネルギー産生系のこと。その産生効率は、後者が圧倒的に良い。しかし好気的エネルギー産生には酸素という諸刃の剣を使うため、エネルギー産生過程で不可避的に活性酸素(ラジカル)を生じてしまう。ラジカルは細胞障害を引き起こし遺伝子を傷つけ老化やガンの原因となる困りものである。著者はこういったエネルギー産生のしくみを理解すること、さらにヒトの日常行動のみならず、生きて行く上で最低限必要な行為、すなわち食行為やその結果必要となる消化吸収、呼吸など、すべてエネルギーが必要であること、急激な酸素需要と供給が変わる状態で活性酸素の生じやすいことを理解すること、以上二点が大切と説く。これらを知れば、活性酸素の生じにくい状態を技術として手に入れることが出来るというわけだ。

「老いる仕組み」にラジカル関与

体を構成する組織は核とミトコンドリアにある細胞内遺伝子の遺伝情報によって絶えず新陳代謝されている。この遺伝情報がラジカルによる遺伝子の傷(根拠不明だが1日10万カ所と書かれている)によって撹乱される。また遺伝情報発現時のコピーミスによって新たに再生されるアミノ酸などが変化する。これら組織再生ミスが老化の主な原因となるのだ。一方、ヒトの体にはこういった変化やミスを修復する機構も備わる。すなわち、老化は加齢によって起こる不可避的現象とばかりは言い切れないのだ。また、発がんや血管の老化として認識される動脈硬化、これらも加齢に伴うネガティブな現象である。これらもその多くの原因がミトコンドリアで発生するラジカルにあるのだ。

ラジカル、特に“悪玉”ラジカルを発生させない工夫、退治する手段が“若くなる技術”

「若くなる技術」とは、ヒトが生きてゆく上で必要となるミトコンドリアでの好気的エネルギー産生、それに伴うラジカル発生を極力抑える工夫である。発生したラジカルを無毒化する機構(スカベンジャー)がある一方で、ラジカルはさらに電子を吸収して反応性の高いヒドロキシラジカルに変化する。著者は体の酸素要求が急激に変化する行動を極力避ける工夫がラジカル発生を少なくする鍵と説明する。またラジカルはそのすべてが悪さをするのではなく、発がんや感染制御上、有効な働きをする場合もある。加齢に繋がる活性度の高いヒドロキシラジカル(悪玉ラジカル)を特異的に阻害・無毒化するものとして、体内のどこにでも入りうる水素ガスが有効であるという。著者はこのために水素を加圧溶解したり電気分解して作製した水素水、水素バブルを発生する浴槽装置の利用などを提案している。ご承知の方も多いと想われるが、水素水はアルミパックにはいって既に市販されており、そのニセモノ・ホンモノについて先頃某週刊誌でも話題となったようだ。

“不老”や“若返り”技術はホントにあるのか?

テロメアという遺伝情報に基づいた組織再生を有限にコントロールする機構を知れば、活性酸素発生量をコントロールしても、“不老”や“若返り”を実現する技術のハードルは高いと誰しも考えるだろう。しかし本書はバイオサイエンスの情報に基づいて、その可能性を夢ではない現実のものとして語っている。「それは本当か?」という疑問を自分なりに解消するには、やはり本書のみならず「ミトコンドリアのちから」までの一読が必要”というのが私の結論である。

2013年3月10日日曜日

[IS-REC] 瀬名秀明・太田成男著『ミトコンドリアのちから』(新潮文庫)を読んで、バイオサイエンス基礎から臨床知識の整理ができた

文庫本423頁の小さな活字を老眼で読み通すのは辛かったが・・・

をようやく読み切った。本書を読むそもそものキッカケは、高齢者と障害者の心血管疾患・脳卒中再発予防リスク管理や抗加齢ドック検診を担当するリハビリテーション科医師として、あれこれ参考書を漁っている中で是非読まねばと思ったからだ。アマゾンでみた書評で興味引かれ、また文庫本表紙のイラストもなかなか良い出来。何か著者の一人、瀬名の書いたサイエンスフィクション、「パラサイト・イヴ」のようにワクワクしながらすぐにも読んでしまえそうな錯覚で早速注文した。しかし読み始めると、その内容は濃く、また老眼の入った眼で243頁におよぶ文庫本の小さな活字を追うのに疲れ、なかなか一気呵成には読み進めなかった。さて、本書は日本のミトコンドリア研究第一線にある二人の著者が分担して書いた、細胞生物学的にはミトコンドリアという細胞内器官、生理・生化学的にはエネルギー代謝と様々な臨床医学と関わり深い活性酸素の病態生化学を縦横に解き明かした読み物となっている。

本書は老化や生活習慣病を病態生理・生化学の基礎から理解するのに役立つ一冊

脂質管理におけるスタチンの位置づけ、肥満や糖尿病治療でのカロリー制限や糖質制限食の評価など、加齢現象や生活習慣病を管理するとき、自分なりに納得して理解を深めるにはどうしても今一度バイオサイエンスや病態生理・生化学の基礎知識に眼を通す必要性を頓に感ずるようになった。学生時代に教科書として読んだ「ハーパー生化学」の最新版も、イラスト入り翻訳版を最近購入。昔と違って、そのカラー版はイラスト豊富でとても読みやすい。しかしやはり教科書だけにその本の厚さや内容に圧倒され最初から最後まで読み通す気力はない。

ヒトは生き、活動し続けるために三度の食事をする。食事から得られた栄養成分の一部は体組成の新陳代謝素材となり、残る多くは生命維持に必要な基礎代謝エネルギーと日常行動に必要な活動エネルギーとして消費される。このバランスがうまくゆかなかったり、食習慣や飲酒・喫煙を含む生活習慣の乱れ、加齢による新陳代謝やエネルギー産生系の機能低下・不全が起こると体調不良からさらに疾病発生へと繋がる。この生命維持に必要なエネルギー産生の中心がミトコンドリア。そして脳卒中・心血管疾患発症の引き金となる活性酸素もこの酸素を使ったエネルギープラントであるミトコンドリアでもっとも多く産生されている。

障害の原因となったそもそもの動脈硬化、大血管病である脳卒中・心筋梗塞もこのミトコンドリアの機能抜きに語れないとしたら・・・・これまで担当する高齢者やドック受診者、あるいは脳卒中後遺症の障害患者に対して高血圧や糖尿病、動脈硬化、脂質異常、認知症などの背景病態を自分なりに十分理解したつもりで説明してきた。疾病発生とその再発予防、機能障害に対するリハビリ継続のアドバイスなどを主に臨床的知識にのみ則って行ってきた訳だ。本書を読んで、加齢や生活習慣病は勿論、ガンや自己免疫疾患、さらにミトコンドリア病に分類される疾患も含めて、分子細胞学的レベルからこれら病態の全体像を俯瞰して臨床知識の整理ができたように思っている。すなわち、ミトコンドリアで不可避的に生ずる活性酸素、活性酸素による細胞障害とその結果起こっている様々な臓器障害がバイオサイエンスの基礎から臨床に繋がる形でよく理解された。今後はこういった問題を扱う臨床医として、活性酸素による細胞レベルから臓器レベルの傷害をどう上手にコントロールするか、それが学習と臨床スキルを高める鍵だと考えている。

運動時の過剰な活性酸素発生を防ぐクールダウンの意味、ヒドロキシラジカルを処理する水素水、等々日常生活や臨床にすぐ役立ちそうな知識も

懐かしい“パスツール効果”をたどった乳酸菌や酵母による発酵と腐敗の問題、ヒトの老化や寿命に関わるミトコンドリア、母系由来のミトコンドリアDNAからわかる人類の起源や進化、等々ミトコンドリアに関わる科学読み物として、本書は多方面に渡る話題を提供している。そういった中でも日常生活や臨床に関わる情報としてすぐに役立ちそうなことは、これまで運動時の注意点として言われる本運動前の準備体操や終了後のクールダウンの意味(激しい運動による酸素需要が急速に不要となるとき活性酸素が発生。クールダウンはその予防に必須)、あるいは細胞障害性が最も強いヒドロキシラジカルの無毒化に水素水が有効、などはすぐにも役立つ情報で大いに興味をそそられた。それにしても“ミトコンドリア研究の基礎と臨床”は日進月歩であり、特に生活習慣病や栄養、治療手段としての運動(リハビリ)を考えるわれわれリハビリ臨床医には今後も眼を離せない領域のようだ。



2012年12月16日日曜日

[Med-REHA] 大櫛陽一著「間違っていた糖尿病治療」の衝撃

医学芸術社という馴染みのない出版社の本で社会保険旬報の簡単な書評を見なければ目に触れない本であった。糖質制限食がダイエットや糖尿病治療食として好意的に受け取られるようになり、最近では糖尿病治療に関係した学会でもそれまでの全く無視する立場から、一定の評価を加えたり、批判的立場からのコメント、素人が闇雲に実践した場合の危険性(心血管死亡リスクが高くなる)を指摘するなどの動きがみられるようになった。
   糖尿病予備群や糖尿病患者が激増して糖尿病非専門医でも治療に当たる機会が増えている。リハビリ医は脳卒中などの生活習慣病を背景に生じた障害患者のリスク管理と入院リハビリ終了後の患者フォローアップをするのでやはり相当数の糖尿病患者を扱っている。体験的に糖質制限食はこういった患者に有効である。障害があると運動過少からしばしば運動不足による肥満がおこり機能低下をきたしてしまう。こういった場合の食事指導にカロリー制限より糖質制限の方がわかりやすく指導しやすい。
   これまで異端的に扱われているが一般向けに書かれた江部先生や釜池先生の本がとても参考となっていた。これらの本はそれなりの臨床経験や生化学知見に基づいて書かれているが、文献的裏付けに乏しい印象は拭えなかった。 
   この度出版された大櫛先生の本はこれまで糖尿病関連学会はじめ権威ある医学界が推奨してきた糖尿病の基本的治療方針のみならず特に糖尿病の心血管合併症、脂質代謝異常、降圧治療のあり方にも文献的根拠を挙げながら批判している。また糖質制限を基本とした糖尿病治療・生活指導の全体像も提起している。
   これまでの糖尿病治療指針を全否定するようで表現が過激なところ、取り上げたエビデンスの解釈に誇張を感じるところもある。一般受けはするだろうが、医学書としてみるならばさらに内容を批判的に吟味する必要があろう。
   それにしても医学読み物としてはなかなか痛快な出来映えの本となっており、こういった本にありがちな部厚く読みにくい印象もなく一気に読めてしまう手軽さは大いに気に入った次第である。

2012年9月24日月曜日

[Med-REHA] 紫外線・素肌・化粧品、そしてHSP


化粧品は2兆円産業!!

  今朝、朝日新聞広告局による全面広告で再春館製薬所の化粧品宣伝が掲載された。ホンの小さな新聞広告でも相当のお金がかかる。地方独立行政法人に所属する我々リハセンター15周年記念行事を新聞に掲載するのに相当宣伝費がかかった。全面広告では一体いくらかるの?

HSPと化粧品

  水島 徹著「HSPと分子シャペロン」(講談社・ブルーバックスB-1774、2012年6月20日刊行http://amzn.to/SNSKQC)にHSPの一種でHSP70という成分が紫外線による皮膚傷害と表皮の壊死を防ぐ話が紹介されている。これが化粧品として応用できないか、当時熊本大学に奉職していた水島が化粧品メーカーとの共同研究を行った話が紹介されている。ちなみに化粧品市場規模は2兆円を超え、一般の市販薬市場8000億円と比べても非常に大きな成長産業である。HSP70は、紫外線によるシミ、すなわちメラニン過剰産生や皮膚障害を予防し、また紫外線による皮膚損傷を修復するという。
  HSP70を含む生薬を検索してヤバツイという生薬が見出され、この生薬を含む化粧品が水島のサポートで発売された。この化粧品自体の名前は小生にはわからないが、その発売元はこの熊本にある再春館製薬所。
 実験的にその効能は確認されており、実際に使っているご婦人の方々の評判上々で、きっと高価でもどんどん売れているのだろう。広告の大きさがそれを物語っている。

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