●運動・食事と健康長寿
●運動継続の工夫
●“読む”から“聴く”読書へ
●運動しながら“聴く読書”:認知症予防のDual Task
※本稿は、由利本荘医師会報NO.595「2024年新春特集号」“新春随想”に掲載した
※本稿は、由利本荘医師会報NO.595「2024年新春特集号」“新春随想”に掲載した
※本稿は、由利本荘医師会報NO.595「2024年新春特集号」“いいたい放題”に掲載した
大人の発達障害については近年、話題性に富むテーマである。しかしその診断は精神科領域でもかなり難しいらしい。精神科診断で、“性格環境因性”という要素がある時に発達障害を可能性のひとつとして考えるようだ。ただ大人の発達障害は近頃さまざまな情報から社会生活上の困難があると、自ら“自分は発達障害ではないか?”として精神科を受診するらしい(宮岡 等・内山登紀夫著『大人の発達障害ってそういうことだったのか』医学書院2013年)。最近、リハビリ入院のケースに相次いでそういった事例を経験した。以下、ケースが特定できない範囲で自験例を紹介する。
実母が付き添い、急性期病院から脳出血後リハビリ目的に転院した。前医情報や付き添う母親の説明では既往に特記なく、介護職などの職歴もある。運動失語・右片麻痺の前医診断だがいずれも軽微。転院後短期間に歩行も可能となり、排泄を除く病棟生活も自立に近づいたが、言葉のやりとりだけは興奮しやすく困難であった。理解障害や言語表出に錯語はないため失語とは異なる情緒異常によるコミュニケーション障害と判断した。排尿困難が続き、留置カテーテル状態で退院。排泄の問題を除けば日常生活の自立度が高いため、復職の道筋を示した。しかし母親を仲立ちにした意思疎通で自ら障害者の軽作業所利用を希望した。
近県から紹介。既往に心疾患や高血圧・糖尿病あり。秋田県内に姉夫婦が在住し、姉を頼って来県した。生活歴では大学卒業後、職を転々とし最近は派遣職員として全国各地で生活していた。最終的に近県に在住、その折に姉が訪ねると居住先アパートはジャンクフードの山で、いわゆるゴミ屋敷同然であったという。背景疾患治療が不規則であったらしく出張先の屋外で転倒、そのまま起き上がれず近医へ入院した。糖尿病性ケトージスとサルコペニアの診断で前者の治療後、勤め先のある近県かかりつけ病院へ転院。治療とリハビリが行われた。当院へは継続リハビリ目的に紹介。入院時、低タンパク・低アルブミン血症とサルコペニア・筋力低下著しく、高タンパク食で低栄養改善と筋力回復を図った。しかし糖尿病性網膜症・白内障もあって歩行補助具は外せない状態で施設入所退院となった。
頭部打撲による脳挫傷後7週目にリハビリ目的で紹介。転院時、意識・見当識良く認知機能良好。筋力低下や体幹失調による開脚歩行傾向、手指巧緻障害がわずか指摘できる程度。両側前頭葉障害の影響で反復的行為あるが注意機能低下は目立たず、指示されれば自己行動制御も良好。後日の高次脳機能精査で遂行機能に軽度の障害あるが知識や記憶検査は正常であった。脳挫傷後遺症が心配され、前医でも予後は厳しいと説明された。約2カ月半の入院中、病棟生活は規則正しく訓練にも熱心で優等生レベル。但し過剰に礼儀正しい事や病棟廊下の頻回周回行動がやや異常に感じられた。ほぼ身体能力が回復した時点で今後の復職について相談した。返答は予想以上に消極的で結局、障害者福祉施設作業所の利用を自ら希望して退院となった。
3事例に共通する点は高卒以上の学歴に関わらず独身で就業に難があったこと、不足を親族が補っていたが生活管理上の問題を抱えていたこと、自己肯定感や自己高揚感に乏しいことなどが挙げられる。前述成書によれば大人の発達障害はその履歴をたどるのが難しく“性格環境因性”を証明できないことが多いという。以前、若年脳卒中患者を検討したことがある。該当3分の1は、血管異常(解離性動脈瘤・脳血管奇形・モヤモヤ)であったが残る3分の2は高齢者脳卒中と同様の原因であった。当時の検討では、大人の発達障害についてまったく眼中になく、背景因として検討しなかった。しかし今考えればそのようケースもきっとあったのだろうと考えられる。老リハ医となってもまだまだ実臨床から学ぶことが多いようだ。
由利本荘医師会報NO590『銷夏随想』
秋田県医師会報NO.・2023年8月銷夏随想から

秋田に居た頃からの運動習慣は由利本荘市に転居してからも続いている。秋田では夕食後ひと休みしてからセントラルスポーツのジムで汗を流していた。由利本荘では夜遅くまで出来るスポーツジムがなく、自宅に小さなトレーニングルームを作りトレッドミルで走るのを日課とした。またウイークエンドは本荘大堤から水林に抜けるハイキングコースを通り、子吉川河川敷に沿って薬師堂踏切を超え自宅に戻る10数kmのウォーキングコースをオーディブルを聴きながら歩く。結構の運動をこなしているつもりでもやはり歳には勝てない。体重は変わらないが筋肉量が減って、めっきり寒がりになった。そこでこの春からダンベル運動などの時間を増やした。
筋トレメニューにその場ジャンプや踵(かかと)落としも良いというので、これらも普段の運動に取り入れた。ところが、この7月頃から運動と関係なく平時の歩行中、左足を挙げた時(遊脚期)、左鼠蹊部を縛ったような感覚に陥り、また大腿から下腿の前面、足背に灼熱感を伴う痛みが出現した。この症状は左足だけに時々起こり、右足になく、また腰痛はほとんど生じなかった。中通病院の親友に相談した。末梢循環障害ではないかという。そこで早速、血圧脈波検査を受けたが、ABI1.12で末梢循環障害は否定的だった。その後も同じ程度の症状は時々あったが日常生活に影響するほどではなく運動も続けていた。
9月半ばから起床時の左足のこむら返り、歩行時の左下肢の痛みが増悪した。最も困ったのは階段昇降時に痛みで足を宙に浮かせず、足先が段差で引っかかる事だった。もっぱらエレベーターを使うしかなかった。自院の整形外科S先生に相談した。診察の上、すぐに腰椎MRIがオーダーされた。その結果は、L4/5、L5/S1の腰椎椎間板左横ヘルニアによる椎間孔狭窄症の診断。灼熱痛はL5デルマトームと一致していた。まず神経障害性疼痛に対してタリージェ5mg2錠から開始となった。
痛みは診断が確定した心理的影響もあって、常時感じるようになった。そして組織損傷と釣り合わない疼痛や異常感覚(灼熱感)など、これが神経障害性疼痛というものか、と納得した。タリージェを処方してもらいその鎮痛効果はあったが、仕事を休まず続けていたため、そのほかの鎮痛剤も併用した。しかし腎障害少ないカロナールを含めてnsaidsは無効、セレコキシブも気休め程度だった。痛みがあると、仕事に集中できず、また患者さんに笑顔で向かえなくなった。手術も考えざるを得ないか、と暗い気持ちになっていった。
改めて文献や教科書で椎間板ヘルニアの治療と予後を調べ、またネットでの検索も行った。福島県立医大・整形の菊地名誉教授や紺野慎一教授は「多くの場合、6カ月程度でヘルニアは自然になくなる」と述べており、この観察を信じ、さらに自然回復を促す運動、運動習慣を一時中断したことによる廃用の回復を図れないものか検討した。なかなかその方面の情報はない。そこで痛みをコントロールしながら主にロングウォーキングを再開した。ジャンプや踵落とし、腰の運動は怖くて出来なかった。筋トレを休み運動量を減らしたことで、これまで体重を落とせなかったのが1kg以上減って60kgを切った。これはやはり筋肉量が落ちたせいなのだろう。筋肉を落とすのは簡単でも増やすのはなかなか大変なことを改めて実感した。
教科書やネット検索で椎間板ヘルニアの原因を調べるとおおよそ、“スポーツ、不適切な荷物の持ち上げ、長時間の座りっぱなしなど、背骨に負担をかける不適切な動作を繰り返すこと”とあり、想像通りであった。しかし紺野慎一教授は、“スポーツは、直接的には関係しない”、と述べ、またヘルニアがあっても症状が出ない場合もあり、症状出現には神経への圧迫の強さ、仕事上の満足度の低さ、そして、うつ・不安・ストレスなどが関係しているとしている。
タリージェは有効であったが日中の眠気が強く、また動作時のめまいも起こるようになり、早々に中止した。幸い、薬を止めても痛みを含むヘルニア症状は徐々に改善して消失した。11月には痛みや異常感覚は全くなくなり、主に筋力低下による歩行、特に階段昇降時の擦り足が問題であった。その擦り足も運動、特にトレッドミルや週末ロングウォーキングの再開で大分改善している。私の場合も症状出現にヘルニアによる直接神経圧迫以外の周辺要因があったのだろうか? 再発予防にはやはり“心の健康”が大切なようだ。
これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報NO566(2021年9月号)
秋田県の無料広報雑誌「楽園」(平成22年~)は、中高年向けの健康記事を掲載しています。冊子は、 県内(銀行、図書館、宿泊施設、協力医療施設)および県外のアンテナショ ツプに設置されています。本稿はその65号(令和3年6月1日号)に掲載されたものです。
一般にフレイルは老化に伴う心身機能低下と考えがちですが、老化の必須プロセスではありません。事実、私たちの身の回りには高齢でもたくさんの“元気老人”がいます。一方、徐々に食が細くなり痩せてきた、外出しなくなった、外出時には信号機のある横断歩道を渡り切れなくなった、などの症状があればフレイルの可能性が高くなります。フレイルになると簡単に骨折する、食事の偏りや低栄養、脱水から脳卒中・心筋梗塞などに罹患する、また認知症を発症する、などの可能性が高くなります。
※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報NO492(2015年1月号)
※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報O550(2020年3月号)

背景疾患の治療を前医に引き継いで行う。新たに発生した障害はそのリスク管理を行いながらリハビリを行う。リハビリでは阻害因子を明らかにし、回復や改善の見通しをスタッフと共有する。その阻害要因が大きければ、時に“リハビリ適応なし”と判断するケースも出る。意識障害や全失語で訓練時の協調動作が期待できないケース、極度の栄養不良で訓練負荷に耐えられないケースなどはリハビリ適応外となる。これらの問題がない場合でも、フレイルや認知症によって、訓練しても機能的状態は変わらないか、悪化するケースがある。主治医の仕事は、したがって背景疾患を治療し、阻害因子の軽減を図り、家族やMSWと相談しながら退院先を決定する、チーム全体の方針の取りまとめを行う、などである。その場合、“患者の機能的状態が入院時より良くなっているか、退院後にその変化が患者本人のQOL改善につながるか?”を絶えず考える必要がある。
“リハビリ適応外”、“現疾患治療優先でリハビリ困難”と判断されるケースのリハビリ科入院は悩みが多い。訓練で機能維持すら困難なケースもある。家族に状況を説明してケアに重点に置いたメニューを実施する。背景疾患が重症であったり、もともとフレイル高度な患者は、この“リハビリとケアの境目”に位置した治療目標を立てることとなる。
「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」、いわゆるACPが提案され、その身近な代替語として「人生会議」が昨年から提唱されている。ACPは、自らが望む「人生の最終段階における医療・ケアの方針」を前もって話し合い、いざその場面となった時に活用しようという当事者中心のもの。一方、ケアを提供する側の指針「エンド・オブ・ライフケア」は、“リハビリ入院治療スペクトラム”の一端も説明しているように思われる。機能回復や改善を図るリハビリ、機能維持を図るリハビリが困難でも医療者として何かできることがあるはず だ。意識が良いのに四肢拘縮進行で苦しむ患者、経鼻胃管挿入のまま四肢の抑制を受けている患者などをみると、“リハビリとケアの境目”の患者でもそのQOL改善を目指す治療やケアがあると確信する。
医療全般が進歩した。服薬アドヒアランスを上げるOD錠、ポリファーマシーを避ける合剤、安定した血糖変動が得られる持効型インスリン、などがそれである。リハビリ医学も対象患者の高齢化でその質と内容が少しずつ変化してきている。フレイルとの関連で、“リハビリ栄養”や“障害予防リハビリ”の言葉が生まれた。訓練場面でのロボティクス応用は高齢者リハビリ現場ではやや縁遠いので触れないが、変形拘縮予防のボトックス治療や物療の利用はもっと考慮すべきだろう。また、治療的胃瘻造設は終末期医療に至るまで「緩和ケア」や「エンド・オブ・ライフケア」の観点から有用と確信しており、まだまだそのプロパガンダが必要と思っている。

職場の日常業務は時間でびっしり埋まる。検査や処置、面談、外来、会議など時間に遅れることなくこなすようにしている。看護師さんなどからその時間前にお呼びがかかり、貴重な数分間を時間泥棒されることも多い。親切心から出でいるものなので怒らないようにしている。この仕事スケジュールは“Yahooカレンダー”、プライベートは、“Googleカレンダー”に分けて入力している。週や月単位のスケジュールは課題としてクラウド上(iCloud)のリメンバーソフト、“リマインダー”に記録する。設定で期日前になるとアラームが出るようになっている。予定の記載などは最近の音声入力の正確度がアップしているので固有名詞を除いてiPhoneからの音声入力で十分事足りている(組写真2:Yahoo & Googleカレンダーとリマインダー )。
自分の趣味と健康を兼ねてウォーキングやジョギング、体操などをする。その時、有料のauidible.comからダウンロードしたさまざまなメディアを“ながら聴き”する。シリーズものでは,吉川英治の「宮本武蔵」、「三国志」、「新・平家物語」、五木寛之「青春の門」など、さまざま長編大作を聴いた。audible.comを知るまでこういった作品を読む機会は死ぬまでないだろうと漠然と考えていたので、「聴き語り」形式ではあるが大作に触れるチャンスのあったことを幸運に思っている。運動しながら耳で聴く本を読むとは、まさに認知症予防のコグニサイズ、いいことずくめのようだ。しかし特に高齢者運動指導時には却ってその問題を指摘する論文(川嶋一成:高齢者運動指導時の留意点~「ながら運動」防止の観点から.日医雑誌148、2019年)もある。実際、私自身もトレッドミル運動など、運動に集中が必要な場合、宮部みゆき・貴志祐介・今野 敏、といったワクワク・ゾクゾクするようで内容的に軽めのホラーやサスペンスでない限り、“ながら聴き”の出来ないことがわかってきた(組写真3:audible.comのメディア案内)。
神はすべての人に等しく1日24時間を与えている。その時間を有効に使えるかどうかは、このIT時代に人間に備わった能力の一部を代替したり、補ったりできそうな機器を上手に使いこなす「ライフハック」力とそれを習慣化することが大切だと思っている。
※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報NO542(2019年7月号)
社会の階層化が進んでいる。非正規雇用が増加し普通に働いても貯蓄できず、結婚出来ず、生活が苦しいという階層が相当割合を占め、かつて総中流であった中から貧困層やさらにアンダークラスという階層が生まれている。安定した雇用と収入は階層化が進む以前の中間層の絶対条件であった。現在の雇用流動化で、中間層から下層へ転落する不安や危惧が今や社会全体のぎすぎすした空気を生んでいるように見える。貧困や貧困化の重要な背景のひとつに“障害”がある。近年、障害者に対する理解が進んで、街中や駅、公共施設のバリアフリー化、障害者権利条約採択、障害者雇用の義務づけ等、生活や働く環境整備とその法的整備に力が入れられてきている。とはいえ障害内容と障害者自体の多様性からまだまだ“健常人”との差が大きい現実である。障害を負ったことで生活の貧困化、下層への転落が起こるとすれば、それは障害者を受け入れる社会が十分成熟していない証であろう。地域間経済格差と生活利便性の差、少子高齢化に影響された世帯構造の変化、すなわち高齢単身世帯の増加も、加齢や病気で障害を抱えた場合に起こる高齢者の貧困や生活困難と大きく関わっている。三世代家族が極端に減って、身近な所で障害ある高齢の肉親に手を差し延べる微笑ましい光景は滅多に見かけなくなった。現在多くの高齢者には障害を契機に社会参加への著しい困難が待ち受けているようだ。○リハビリ医療における障害
リハビリ医療はもっぱら障害を問題とする。教科書的に言えば、障害は階層構造を持ち、機能障害-能力低下-ハンディキャップとして捉えられる(WHO,ICIDH,1980)。診療場面でくりかえし行われるリハビリカンファランスは、チーム医療として欠かせない役割を持つ。その際の議論でもこの障害の階層構造に沿って問題が解析されている。近年では“生活機能の低下を障害とする”*ICFの障害概念が取り入れられて、“障害”の軽減のみならず、患者の持つ生活機能へ働きかけで生活の質(QOL)向上を目指そうとするアプローチが主流となっている。
*ICF:国際生活機能分類、WHO、2001年
○日常生活と障害
多くの人は日常生活に眼鏡を必要としている。眼鏡を必要とする状態でもそれを障害とは言わない。私は加齢により体力が低下して山歩きする自信をなくした。グループで出かけた時に他人に迷惑をかけたくないからだ。また老眼が進んで以前からの趣味である自作PC作りも困難となった。PC筐体の深い所でのネジ止め等の操作が出来ないからだ。加齢や病気の結果起こる大小の障害、それは趣味の領域はもとより身近に必要な日常生活にも大きく影響を与えて生活機能の一部撤退を余儀なくしている。
○医療と介護を結ぶ視点としての障害
もっぱらの仕事を“慢性期医療”とする医師会病院では、慢性期の疾患管理とリハビリが主な診療内容である。受け入れる患者さんの多くは長い人生と生活の中で様々な病気と障害を持ち、ICFで言う“生活機能の低下”を抱えている。入院直後には病気悪化による症状の治療と、抱えている要素的障害の軽減が目標となる。全部の患者さんがリハビリに回される訳ではないが、障害状況に合わせた退院先を考える段階で、すべて介護の視点が医療とオーバーラップしてくる。すなわち入院から退院への流れの中で医療-リハビリ-介護に視点が移ってゆく。そこに一貫して流れるのは患者の“障害”に対する理解とそれを少しでも解決に結びつけようとするアプローチである。患者の“生活機能の低下”を注視する必要があるのだ。単に退院先を決めるのではなく、患者の“生活の質(QOL)向上”の視点が大切だと思っている。
由利本荘市の本荘公園に近い鶴舞温泉は、家から歩いてすぐの所である。元々、温泉好き夫婦なので週2、3度は回数券を買ってここに通っている。時に医師会長W先生やいつも医師会病院に往診いただくS先生、また私のかかりつけである御門歯科O院長先生などとも一緒になる。気泡浴や露天風呂、サウナなどを利用して温泉を楽しむ。温泉から家に帰るともう時間は午後8時半過ぎ。後はもう寝るだけの生活である。温泉通いは秋田では秋田温泉へ。しかし温泉まで車30分の距離。いくら温泉好きでも月にせいぜい2度か3度がやっとだった。由利本荘市での生活ではワイフが遊泳館で毎日水中ウォーキングを楽しみ、夜は夫婦で鶴舞温泉に通う生活。近くにプールも温泉もある由利本荘市の生活満足度は秋田市に比べて相当高いこととなる。
過日、秋季リハビリ医学会総会があり学会の研修講演を連続して聴講した。その中の一つは温泉医学・物理療法。演者のM教授(国際医療福祉大学)はリハビリ医学でも少し毛色が変わっており、温泉医学を中心に現在も活躍している。今回の研修講演内容は物理療法・温泉療法オーバービュー。彼の解説では、温熱や電気を使い機能回復や疼痛緩和を図る物理療法(物療)の歴史は古く、記紀の神話世界からその記述があり、近年では江戸時代から明治・大正・昭和の戦前にも物療が盛んに行われたという。特に温泉は言わずもがな昔から日本人に欠かせない娯楽や療養手段であった。講演ではこの温泉の効用を温泉医学の立場から様々解説してくれた。温泉は温熱の一般的効果に加え、入浴中の体温上昇が早い(炭酸泉)、浸かった後の保温効果に優れる、リラックス効果も大きい(特に塩化物泉)等々で、実際の実験データを示しながら検証結果を説明した。また疫学研究で温泉の定期的利用者群とそうでない群の比較で大血管病や骨折リスク、死亡リスクが低かったことも話された。温泉の直接的効果については、“疼痛性疾患、関節拘縮、血行不全、肩手症候群、失調症状、褥瘡などの症状緩和や治療に役立つという。
冬場のこの時期、特に東北地方の寒冷地仕様ではない戸建て住宅に暮らす多くの高齢者は風呂場で倒れることが多い。その大半は“ヒートショック”と言われ、注意が喚起されている。これは暖房のある暖かな部屋から寒い脱衣所、さらに冷えた浴室に入り、血圧の急上昇をきたす、さらに浴槽に浸かって血管が開くなど、急激な体温変化が原因となって血圧上昇下降があり、心筋梗塞や脳卒中を起こすというものだ。冬季の救急搬送はこの“ヒートショック”に因るものが多い。入浴前に脱衣所や浴室を前もって十分暖めて置くことが事故防止上、肝要である。さて、“ヒートショックプロテイン(HSP)”はこの高齢者浴室事故の原因、“ヒートショック”とは全く別物だから少しややこしい。HSPについて一般向け書籍を出している伊藤要子氏の「加温健康法」(法研2013)によると、HSPとは熱ストレスで増加する組織修復タンパク質のこと。脳卒中後の急性期に組織修復に働くタンパク質として、しばしば登場するので脳卒中を専門とする医師には結構馴染み深いタンパク質である。「加温健康法」で紹介される事例では、ネズミやウサギを使ったストレス実験でそのストレス負荷の前に加温時間を入れるとそのストレス緩和効果は絶大だという。また実生活上では、スポーツ選手のトレーニングメニューにマイルドな加温(サウナや入浴)を入れると入れないとではその疲労回復程度やスポーツ記録で相当の差が出るという。実際、カナダでの冬季オリッピックの際、日本選手が試合直前にサウナを利用し好成績を挙げたそうである。このHSP(特にHSP70)は体内に増加しても特段の副作用発現はない。また自己の工夫で体内に増やすことも比較的容易である。入浴で適度な熱ストレスを与えるとHSPが増加する。入浴中の体温を2度上昇出来れば、HSP増加は確実だ。体温を上げる運動や食べ物も有効だが、無理な運動は余分な酸化ストレスも増やすので前準備が必要となる。薬では抗潰瘍薬セルベックスの有効成分GAAによりHSPがふえるという。こういった事実から美容医学や抗加齢医学でしばしばHSP上昇法が紹介されている。
慢性心不全の高齢者が増加している。リハ医学進歩の恩恵を受けて、近年急性心筋梗塞後の心臓リハビリテーションの施設要件が緩和され、多くのリハ施設で心臓リハが取り組まれるようになっている。それでも循環器科や心臓血管外科が併設された病院や循環器センターなどでないと、なかなか一般のリハ施設で心臓リハを行う敷居は高い。ところが最近、我々の病院でも様々な障害で入院してくる高齢者の多くが慢性心不全や腎不全などの既往疾患を抱えている。否が応でもこういった心不全患者の治療を続けながらリハビリを行うこととなるのだ。さてこの十数年以来、HSPの組織修復や機能回復作用を利用した、低温サウナ浴による慢性心不全治療「和温(WAON)療法」が認知されるようになってきている。この4月に保険適応され、慢性心不全高齢者のリハビリにも応用されている。これは鹿児島大学の鄭忠和教授の開発によるもので、“日本循環器学会の慢性心不全に対するガイドラインにクラスIとして掲載され、「高度先進医療」として承認”されている(「和温(WAON)療法」ホームページから)。一人利用のサウナが“和温療法器”として市販され、低温サウナであるので治療の危険性は少なく、管理も比較的容易なようだ。一般の病院ではこの和温療法器を使って治療する。残念な事に東北地方では仙台の東北大学リハビリテーション部の一施設のみで可能。慢性期で高齢者のリハビリを行う施設にはもっと普及して欲しいものだ。
10年ほど前、斉藤真嗣著「体温を上げると健康になる」という本がベストセラーとなった。この本はオーディオブックにもなって更に読まれるようになった。また最近では雑誌「アエラ」で「体温で24時間を整える」という特集記事があり、体温と生活リズムの関係、自分で熱を作り出す効用などを解説していた。最近は特に女性で低体温者が多く、コロナ感染のスクリーニングに体温を測定すると、その低体温ぶりには驚かされる。もっとも体温計自体の問題もある。サーモグラフィーによる非接触型や、脇の下や口中で測定する接触型でも15~25秒で結果が表示される予測値で実測値をみない体温計の信用性は乏しい。いずれ体温を上げると身体の免疫力(?)が上がって身体能力がアップし病気・障害に対する抵抗力が上がるのは間違いなく、我々はコロナ感染予防のためにも体温を上げる工夫と努力が必要である。
温泉に比較して水道水を使う自宅の風呂では浴槽に浸かってじっくり時間をかけないと、なかなか体温は上がってこない。我が家の風呂温度は43度。通常は41度前後の家庭が多いので、慣れないと43度は結構熱いと感じるだろう。43度の湯に浸かり実測体温計を口にくわえて体温を測る。2度上昇するのに約7~8分、42度で約10分、41度では15分かかる。もっと短時間に体温を上げたいなら炭酸入りの入浴剤を使う。いずれにせよ体温上昇効果は温泉浴に敵わない。入浴や温泉などに浸かってHSPを上昇させる、高価なサプリや薬を使わなくとも、身近なところに比較的安価な方法で適う健康法があるのだ。その健康法を自ら実践するため、“今日は温泉に行くか、じっくり自宅の風呂に浸かるのか”、夕食時からあれかこれかと悩む毎日なのである。
1)伊藤要子著「加温健康法」(法研2013)
2)斉藤真嗣著「体温を上げると健康になる」サンマーク出版(2009/6)
3)和温療法:http://www.waon-therapy.com/message.html
4)アエラ2020年11月23日号
(由利本荘医師会報2021年1月『新春随想』掲載)
※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報O558(2020年12月号)
“毎日体重当たり1gのタンパク質、野菜料理と主菜の3食、
●経口摂取・嚥下障害
国民生活白書2019年の死因統計をみると、“肺炎”・“誤嚥性肺炎”が合わせて死亡原因の10%、それぞれ、5、6位を占める。第1~4位を占める疾患でも実際には相当多くが肺炎・誤嚥性肺炎を合併した死亡であり、高齢者死亡原因の多くは(誤嚥性)肺炎と考えられる。“オーラルフレイル”という言葉があり、適切な栄養を摂り続けるために歯の状態や嚥下機能を維持することがフレイル予防上重要とされる。リハビリ入院高齢者の多くは歯牙欠損や義歯不適合など、歯科的問題による経口摂取困難な問題を抱えている。そういった場合に歯科医から往診を快諾していただけるのは有り難い。背景の加齢や認知症、脳卒中などで、“口から食べられない”、“食べる、食べさせると、誤嚥を繰り返してしまう”ケースも多い。最近は急性期病院からの継続入院で嚥下障害が問題となる場合だけではなく、施設入所中に食事量が急激に減少したり、誤嚥による発熱を繰り返して嘱託医から紹介されるケースが増加している。2013年、入所者の85歳女性がおやつのドーナツを食べた後に窒息死、介護に当たっていた准看護師が業務上過失致死に問われることがあった。この8月、その上告審で無罪が確定、施設関係者は大いに安堵した。嚥下困難がある施設入所者には同様なリスクがついてまわる。だからこそ適切な医療的判断や対応がなくてはならない。
●“安易に胃瘻を作る?!”
内視鏡的に胃瘻を作るのは治療手技として確立している。日本で胃瘻造設(PEG)が行われ始めた頃、経口摂取が困難だととにかくPEGを行ってしまう施設が急増した。リハ科で行うPEGは機能回復治療の一環であり、栄養障害を治療しながら経口摂取再獲得を目指す。したがって胃瘻造設前後の嚥下評価と嚥下訓練は欠かせない。胃瘻について患者家族の立場や終末期医療を担う医療者側から様々な批判がなされ、過剰医療として現在は“安易に胃瘻を作る“ことはなくなった。
●胃瘻を作って良い場合、控える場合
未だに長期間の経鼻胃管挿入で薬剤や物理的身体抑制を行っている悲しいケースが多い。経鼻胃管や持続点滴時のトラブル予防のために抑制することは医療者の都合であり、患者には大いなる苦痛を与える。したがってGrengerなどの脳卒中教科書にはその長期化は厳に慎むべきと書かれている。栄養評価や嚥下評価の結果、経口で栄養維持が困難と考えたケースは速やかにPEGを検討する。家族や本人に、PEGは経口摂取を否定するものではなく造設後も口から食べられる食材やその形態を検討し、また嚥下機能回復を目指した訓練を行う旨を説明する。IM(80歳)さん、SK(84歳)さん、SA(87歳)さんなど、最近でも特に施設に戻られた患者さんでは胃瘻と経口摂取を併用して安全な施設ケアと本人・家族の満足度高い生活が可能となっている。他方、経口摂取が不十分でも代替栄養の併用を望まない家族もいる。最近ではYR(92歳)さんがその例で、食事摂取が減少しても最終的看取りは自宅でしたいとの申し出あり、胃瘻造設は行わず退院した。このような胃瘻など代替栄養を望まないケースでは施設入所継続は困難である。でも本人や家族にとってはとても望ましい選択肢である事に違いはない。
●胃瘻は終末期の医療と矛盾しない
残念ながら「人生会議」(ACP)で終末期医療に関する本人の明確な意志表示された例を未だみたことがない。“ピンピンコロリ”は望ましいが、多くは長い寝たきり・要介護状態で終末期を過ごす。体力低下に伴って食べるのも苦痛であり、食べた時のむせ込みはもっと苦しい。まして経鼻胃管の挿入を強いるのは医療者側の都合でしかない。未だに現場を良く知らずに、“胃瘻は終末期に不要”と言われる方が多い。しかし胃瘻は癌性疼痛を和らげる麻薬と同じ緩和医療であるのだ。
2020/12(由利本荘医師会報『言いたい放題』に掲載)
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| 組写真1:酒田・飛島旅行 |
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| 組写真2:1カ月の毎日歩数と今日のウォーキング |
| 2019/05/19 今日の食事 |
| 5/12[日]の朝・昼・夕食 |
| 西目高校・ボクシング帯同 |
| 八塩いこいの森「黄桜まつり」 |
| 4月13~1カ月の毎日歩数記録(左) 4月1カ月のトレッドミル運動距離(右) |
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| 組み写真1:運動記録と池田修三版画 |
| 組み写真2:4/20[土]朝市 |
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| 組み写真3:県医師会のセミナー参加 |
| 組み写真4:4人の孫たち |
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| 組み写真5:SE(96歳女)さんの嚥下造影(VF)所見 |
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| 組み写真6:4/16[火]の食事 |
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| 組写真1:左延髄外側から中脳病変による嚥下障害 |
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| 組グラフ:4/13[土]・4/14[日]の運動記録 |
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| 組写真2:休日応急診療所 |
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| 組写真3:夕方ウォーキングと桜開花状況 |
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| 組写真4:今日の食事、左から朝・昼・夕食 |