2022年4月13日水曜日

IS-REC/ISSUES:「いいたい放題」リハビリ科入院からみた障害高齢者の現場~診療報酬改定~

由利本荘医師会報に掲載した記事を投稿します。(由利本荘医師会報NO.574・2022年4月号)

●超高齢化を反映する入退院

 リハビリ科入院(リハビリ目的入院)を語る前に当院の入退院の現状と病床運用について触れる。端的に言えば、入院患者の超高齢化である。看取りや終末期医療対象が増え、在宅復帰ケースが極限られている。現在、病棟は地域のニーズに応えること、病院収入を最大化することを目的に、一般病床(15)・地域包括ケア病床(35)・療養病床(50)・障害者病床(50)で構成される。この機能別病床をさらに効率的に運用するため、患者の病床間ベッド移動を毎日行い、一般病床の稼働ベット数と平均在院日数、地域包括ケア病床の在宅復帰率の最大化、障害者病棟の相当患者割合、療養病棟のADL区分2・3割合の最大化を図っている。

●リハビリ入院の実態

 当院は慢性期病院の主要な柱として、障害高齢者の機能回復・生活機能回復や生活の質向上を目指すリハビリを重視する。過去20カ月間(2020年1月初~2021年8月末)、実際に入院してリハビリを行った患者は総数387名、年齢分布27~98歳、中央値79歳であった。障害の原因をみると、国民生活基礎調査などでは、認知症・脳卒中・衰弱・骨折転倒が4大原因とされるが、当院の同時期の検討では廃用症候群が半数を超えていた。これは、障害が肺炎や心不全、その他の内科疾患・認知症・老化衰弱などで徐々に起こり自立生活が困難となった事を意味している。こういった背景での廃用症候群は、回復に時間を要し、また回復自体が望めない場合が多い。また患者の家族構成をみると、独居83(21%)・夫婦世帯67(17%)・患者と子の二人世帯40(10%)その他197(51%)で、ほぼ当地域の家族構成に一致していた。一般に障害を持つ高齢老人が在宅で過ごすためには、患者本人一人で留守居が可能か、在宅に適宜交替できる複数の介護者がいるかなどが目安となる。患者を含め3人以上の世帯でも患者以外は働きに出ている事が多く日中の介護力には期待できない。世帯構成での条件達成が困難な場合にはデイサービスやショートを適宜利用する。しかし実態をみると、在宅に戻るチャンスのないロングショートが施設利用者の大半を占めていた。

●診療報酬改定のねらいと当院の状況

 この度の診療報酬改定を日本慢性期医療協会・武久洋三会長の説明に基づいて、特に慢性期医療を中心に触れる。それは療養病床・地域包括ケア病床に関わらず、①その医療内容と質のレベルアップ、②栄養・薬剤・リハビリ重視、③質の向上を目指した機能分化・タスクシフト、である。特に①③に関連して、増え続ける高齢者の救急医療に対応する慢性期病院の整備を求めている。救急医療管理加算に該当しない場合でも24時間365日、患者を受け入れよという事である。①では、地域包括ケア病床の在宅からの入退院割合や救急(緊急)入院割合のハードルを高くしている。現状、出口である当院ケア病棟の在宅復帰率20%未満では到底条件をクリアできず、病床数を減らすかすべて返上するかの選択肢しか残されていないようにみえる。療養病床の質向上については栄養とリハビリに関して厳しい規準を要求している。リハビリ医の立場から妥当で既に実施済みの規準もあるが、いずれも診断・評価やカンファランス等で時間をとられ、少ないスタッフでは相当厳しい内容である。ADL改善度のFIM継時評価、またおむつがはずれた割合、IVHや非経口栄養の患者を経口栄養のみに改善させた割合などを規定して加算や減算を行う仕組みを取り入れている。摂食嚥下について言えば超高齢者を対象としたリハビリでは代替栄養と経口栄養の併用がせいぜいの現実的ゴールであり、経口摂取のみに切り換えられるケースは決して多くはない。

●超高齢化の現状に見合う改定なのか?

 現在の秋田県や由利本荘地区の高齢化率は、2045年頃の全国平均に一致する。今回改訂の主旨に沿った質の高い慢性期医療を当面実現可能な病院は当地区以外の全国にはたくさんあるのかもしれない。しかしそれらの“質の高い”慢性期病院が2045年頃も同じ質を維持しながら生き残り続けることは本当に可能なのだろうか?当地区・当院の現状からは到底そうとは思えないのである。


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