大櫛陽一先生の近著「間違っていた糖尿病治療」(http://amzn.to/TtOvyp)に大いに感銘を受け、引き続き遡って以前に先生が一般向けに書かれていた『メタボの罠』(角川SSC新書)を読んだ。
この本は既に上梓されて5年経過しており、「間違っていた・・」に比べて糖尿病治療の部分を含めて、歯切れの悪い部分を残している。しかし、生活習慣病予防健診・特定健診への露払いとして、意図したか否かは別として統計手法の誤りを含む捏造的データをもとに創り出されたひとつの診断クライテリア、「メタボリックシンドローム」の持つ問題点と非科学性を余すところなく語っている。
その誤りやいい加減さは、世界標準からみて素人眼にもおかしいものが一杯ある。一体どうして現在も引き続いてこのコンテクストの元に生活習慣病対策が取られ、年々1兆円もの医療費増大が叫ばれながら薬漬け医療がまかり通っているのか、まったく不思議である。
自他覚的に健康な人も加齢に伴ってある程度の身体不調を自覚してくるのはある意味当然である。メタボ健診では健常人の半数以上をメタボないしメタボ予備軍として、その網の目にたぐり寄せてくる。生活習慣改善の注意喚起に留まればあまり害もないだろうに、年齢を考慮しない脂質や血糖値、血圧値の基準からオーバーしており、生活指導のみでは改善困難として世界標準からみると不必要な抗高脂血症薬や降圧薬が医者から処方される。
経歴をみると大櫛先生はMedical Doctorではないようだ。日本のメタボや高血圧の治療指針が利益相反に関わる製薬企業の支援を受けた医学“研究者”が素知らぬ顔で薬の宣伝まがいに指針を出す。それを権威者の提言として我々が唯々諾々と承り、患者さんによかれと治療している構図である。
大櫛先生はこういった構図の外にある医療統計の権威者であり、多くの健診データを解析して生活習慣と死亡原因の関係に「メタボ」予防の薬剤治療を持ち込む危険性を指摘している。降圧剤や抗脂血症薬の使用は、糖尿病の三次予防や家族性脂血異常症などのケースに限られるべきだとの意見が大櫛先生の趣旨であり、その根拠として挙げたデータにとても説得力を感じた。今この本を読んでもわれわれが日常診療を反省するのに大いに役立つことは間違いない。
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