前著「インスリン注射も食事療法もいらない 糖尿病最新療法」は一般的糖尿病治療の問題点を鋭くつき、インスリン治療や血糖降下薬による低血糖に悩まされている患者に正しい糖尿病治療の知識と勇気を与える好著であった。
表題の本書は前著に引き続いて出されたもので、その後の糖尿病治療の最新事情を踏まえ、また前回の内容を更に吟味して一般臨床医や糖尿病に関心持つ読者に一線の開業臨床医である著者が考える糖尿病治療のベストを提案した本である。
この4年間で世界の糖尿病治療は大きく変化
前著で血糖を下げすぎない治療を強調した著者の主張通り、最近の糖尿病治療方針は厳密な血糖コントロールから穏やかで血糖を下げすぎない治療に変化してきている。それは糖尿病治療予後の結果から「高血糖は確かに困るが低血糖はなおさら悪い」という事実に基づく。
本書ではさらに糖尿病患者にうつや認知症が多く、その頻度と血糖値は相関せず治療自体との関連が疑われること、日本の糖尿病治療の現状は未だ血糖値至上主義であり、その結果に基づいて厳しい食事制限が課されることの問題を鋭く追求している。
HbA1c基準でみた血糖コントロール
英国と比較した日本はHbA1c基準でみても血糖コントロールが厳しすぎ、低血糖リスクが高いと警告する。英国は慢性疾患に対する開業医向け臨床指標が決められ、糖尿病コントロールに関わる血糖基準値は国立最適保健医療研究所(NICE)のガイドラインに定められ、その糖尿病治療基準はHbA1c6.5~7.5、低血糖リスクを最小限とするよう勧告しているという。また糖尿病治療指針として血糖値やHbA1c値のほか肥満度や禁煙指導、入中微量アルブミンなどの測定と記録が保険点数の加算ポイントとなっている。
インスリン治療とうつの関係
第二章では重症糖尿病でインスリン治療中患者にうつ発生が多く、インスリンとの因果関係が疑われていること、うつと糖尿病が合併する場合、死亡率は両者のない対照群に比較して3倍以上になると報告されていると述べている。また韓国の大規模研究では糖尿病で自殺リスクの関連が指摘されこれには血糖値との関係は認めず、背景に糖尿病治療が関わっている可能性が高いという。
糖尿病と認知症
最近、糖尿病と認知症の関係・関連が取り沙汰されている。著者は低血糖の影響ものさることながら、インスリン抵抗性による高インスリン血症とアルツハイマー病との関係について言及し、アルツハイマ-病は3型糖尿病とも言える病態が背景にあると指摘する。衝撃的事実として脳内にもインスリン産生機構があり、その働きで神経細胞の栄養が賄われ、その分泌不全や抵抗性がアルツハイマ-病の引き金になるというのだ。著者は 元来アルツハイマ-病研究者であり、こういった情報も本書で書かれていることは特に興味深い。
私の読後感
「糖尿病治療の目的は合併症の予防、小血管症や大血管合併症である心筋梗塞や脳梗塞を起こさないこと、その指標として血糖値至上主義に陥らず大病院にあっても患者さんのQOLを考え、家庭医マインドが必要なこと」著者が終章近くで強調したことである。
いわゆる生活習慣病についての情報は専門書を含めて巷にあふれている。本書は私にとって製薬メーカーとの利益相反に目配りしながら糖尿病治療の情報真偽を見極める良い指南書となった。
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