本書は数年前、著者の書かれたイラスト本、『痛快!不老学 』(集英社インターナショナル)に続く新書版の一冊であり、アンチエイジング本として期待して読んだ。著者の主張、「(加齢と異なり、)老化は病気です」は、それなりの根拠を持っており、私も賛成できる。しかし現代医学をいくら駆使しても、病気すべての原因がわかり、その原因に基づいた治療がすべての病気で可能ではないように、“老化も治せる”とは、とても言い切れないというのが目下、私の結論。
さて、著者がリウマチの専門家として、老化と慢性炎症の関係を強調するのは良くわかる。著者は本書の中で、“炎症老化”という新しい医学用語も紹介している。体内で起こる炎症は、熱エネルギー産生を伴う酸化であり、そのうちの“非常に弱い炎症”は、ヒトの成長や性成熟にも関わった自然現象である。この炎症の強さが一方で病的老化の原因となる。“炎症老化“はこの老化炎症説を強調するのに確かに都合良い用語かも知れない。そして老化すべてを慢性炎症で説明し、慢性炎症を治療する薬剤にアスピリンがある故、このアスピリンを上手に使えば、「老化は治せる」というのが著者の結論のようだ。アスピリンは確かに一世紀以上も生き残った良薬。しかしこのアスピリン服用に加えて、これまでアンチエイジングに良いとされる方法をさまざま加味したとして、ホントに「老化は治せる」と宣言できるのだろうか?
動脈硬化は、“血管内皮に生ずる慢性炎症”を基盤
最近、動脈硬化発生の基盤が、“血管内皮に生ずる慢性炎症”という考え方が受け入れられつつある。いわゆる、悪玉コレステロールが高いだけで動脈硬化が起こる訳ではない。血管内皮の炎症を来す背景、糖尿病や家族性脂血異常、歯周病や免疫系の異常などがないと、脂血異常でも動脈硬化治療薬であるスタチンを使う意味はないと言われるほどだ。ヒトは“血管から老いる”と言うように、老化と動脈硬化は密接に関係する。過食や急激な激しい運動とその停止など、エネルギー代謝バランスが一時的に崩れる需要-供給変化があると、特に好気的熱エネルギー産生に伴ってラジカルが発生する。その消去役である生体内ラジカルスカベンジャーが十分機能できないと、ラジカルは膜脂質を酸化して過酸化脂質を生じる。血管内皮に慢性炎症があるとはじめてこの過酸化脂質が動脈硬化を引き起こすという訳だ。
アンチエイジングとの関係で組織修復蛋白HSPや生体エネルギー産生機構“ミトコンドリア”と、そのラジカル発生等、組織・細胞レベルでの老化とその抗老化に、もっと詳しく触れて欲しかった
著者は「不老の妙薬?」として、アスピリンを紹介し、その発見から心筋梗塞、ガン、糖尿病、アルツハイマ-病予防の可能性も持った夢の薬として、この抗炎症剤のすばらしさを語っている。無論アスピリン使用にも様々な問題があり、その代薬や「抗酸化剤」の抗老化効果について触れている。結論としては、“老化は複数の仕組み・原因が関与している”と述べ(p112)、抗酸化物質を含むサプリメント等、夢の抗老化薬はないともいう。本のタイトルとは、何ともわかりにくい論理構成だ。また最終章の「老化は予防できる」で、少食や長寿者の低体温、咀嚼能力、運動・筋トレの老化予防効果など、これまで言われているアンチエイジング手法を盛りだくさんに語る。しかし生体の組織、細胞、分子レベルでの老化メカニズムとその予防策については必ずしも十分触れられていない。低体温として、本当に代謝を下げるのが長生きの秘訣とすれば、運動や筋トレで熱エネルギー産生を促すことと矛盾しないのか?体温を上げて組織修復蛋白HSPを産生し、組織や細胞レベルの新陳代謝で生ずる遺伝子のキズ修復や蛋白合成ミス修復が老化予防に重要とする説と、紹介された様々なアンチエイジング手法とどう整合性を取るのか、期待した回答は残念ながら本書には見受けられなかった。本書も、“タイトル倒れ”に終わった感が否めない。
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