2022年11月15日火曜日

[IS-REC/ISSUES]:~リハビリ科入院、“生涯の終章を決めるもの”~


●当地区(由利本荘)診療圏概況と当院

秋田県と由利本荘地区人口動態統計調査によると、当該診療圏の総人口は95254人(2022年9月現在)、高齢化率38.3%(75歳以上で20.1%)である。世帯概況では高齢者のみ世帯割合32.7%(うち要介護者割合28.5%)、世帯主高齢者で一人暮らし世帯18.1%(同32.7%)、二人以上世帯14.6%(同23.3%)、すなわち全世帯の3分の2が高齢者のいる世帯であった。全世帯での世帯人数は平均3人未満で、高齢者が障害や重度慢性疾患を抱えると、その在宅介護力は介護保険利用を考慮しても期待が難しい状況と考えられた。当院は当診療圏の慢性期医療を担う医療機関として地域への復帰を目指すリハビリと、入院治療継続が必要な医療機能、そして終末期の看取りを行っている。本年1月から9月末日までの入院患者の実態を調査した(表1)。入院者は在宅や施設入所の地域復帰を目標としたリハビリの有無で大きく2群に分類された。リハビリあり147人・なし175人(総数322人)で後者には看取り目的の入院も含まれる。いずれの群も80歳代が4割で年齢の中央値は84歳・88歳であった。退院時転帰をみると、リハビリあり群では施設を上手に利用しながら自宅退院する割合が最も多く30.6%、次いで施設入所24.5%、死亡10.9%であった。ここでは在宅復帰割合が地域包括や療養病床に求められる7割以上からほど遠い数値であることに留意が必要である。入院時からリハビリを行わなかった群の理由はさまざまである。看取りのケースを別とすれば多くはリハビリに耐えられない全身不良か高齢、またはレスパイトを含む短期調整入院である。半数以上の100人(57%)が死亡退院であった。

●入院患者栄養の問題

 本年1月以降、毎月の栄養補給方法をみた(表2)。経口栄養・非経口(経管)栄養・静脈栄養の割合をその実数でみると、2:2:1の割合で変わらなかった。経口栄養のうち、嚥下調整(困難)食提供割合は30%前後で、特に最近は増加傾向である。超高齢者が多く、リハビリ実施困難が相当数おり、また看取りのケースが含まれることを考えると納得される数値である。

●超高齢入院者の飢餓・低栄養

 当院入院患者の多くが、数値上、低栄養・飢餓状態であり、体重減少、かつサルコペニアが多い。地域復帰を目標に行われるリハビリ実施例は徐々に機能障害が進行した、“廃用症候群”を病名とする場合が多く、リハビリ開始と並行して栄養障害を治療ターゲットとする必要がある。全身疾患に配慮しつつ、摂取カロリー量のアップ、蛋白摂取割合の増加(具体的には高タンパクゼリーの追加)を図っている。超高齢者の低栄養、慢性疾患関連低栄養は、オーラルフレイルや脳機能低下に伴う偽性球麻痺性嚥下障害が多い。そのほか、慢性炎症が関わるもの、疾患に起因しない栄養摂取不良(飢餓関連低栄養)があり、特に後者は加齢・薬剤性・精神心理的変化による食欲不振が多い。

●入院患者の生命・生活機能維持の栄養管理

 昨年から開始した、“嚥下評価入院”では、チームアプローチにより問題抽出とその解決を図っている。VE、VFなど嚥下機能の直接評価に加えて、食べやすさと栄養諸量を考慮した食材の提供(栄養科)、身体機能と口腔嚥下機能訓練(リハスタッフ)、服用薬剤チェック(薬剤科)、家族環境と精神心理的サポート(連携室と病棟看護チーム)を行う。まだ評価入院依頼のケースは少ないがそれ以外の入院患者を含めて成果は挙がっている。栄養障害がそれまでの独居、孤食などの環境要因が主たる原因であれば、要素的な嚥下困難は少なく、仮性認知症で障害は見かけ上にすぎない場合が多い。生活時間の工夫、上手なデイ利用などの環境調整、食材の工夫、サプリの利用で栄養の改善と生活機能の回復を図る事が可能となる。

●生涯の終章を決めるもの

 高齢化でもたくさんの元気老人がおり、新聞の“お悔やみ”欄を占める物故者年齢は90歳以上がその大半である。その“お悔やみ”欄の中には当院で亡くなられた方も散見される。“ピンピン・コロリ”と逝ったのか、それとも当面はその広告に載ることなく地域復帰を果たしたのか、その場に立ち会う機会のあった者として考えてみる。ヒトの生涯の終章を決めるものは何か? 癌死など寿命を損なう疾患死を除けば、やはり栄養の問題が大きいと思われる。高齢でも経済的にそこそこで、周囲に良い関係を持った家族縁者・知人・友人がおれば、こころの栄養は満たされる。身体の栄養も医療者の知恵を借りて何とか解決できるものだ。生涯の終章は、生きるに足りる栄養を維持した上で、“コロリ”と決めたいものだ。

※当院入院に関わる資料、栄養に関わる資料は地域連携室(岡本)および栄養科(東海林)の協力を得た。





2022年4月13日水曜日

IS-REC/ISSUES:「いいたい放題」リハビリ科入院からみた障害高齢者の現場~診療報酬改定~

由利本荘医師会報に掲載した記事を投稿します。(由利本荘医師会報NO.574・2022年4月号)

●超高齢化を反映する入退院

 リハビリ科入院(リハビリ目的入院)を語る前に当院の入退院の現状と病床運用について触れる。端的に言えば、入院患者の超高齢化である。看取りや終末期医療対象が増え、在宅復帰ケースが極限られている。現在、病棟は地域のニーズに応えること、病院収入を最大化することを目的に、一般病床(15)・地域包括ケア病床(35)・療養病床(50)・障害者病床(50)で構成される。この機能別病床をさらに効率的に運用するため、患者の病床間ベッド移動を毎日行い、一般病床の稼働ベット数と平均在院日数、地域包括ケア病床の在宅復帰率の最大化、障害者病棟の相当患者割合、療養病棟のADL区分2・3割合の最大化を図っている。

●リハビリ入院の実態

 当院は慢性期病院の主要な柱として、障害高齢者の機能回復・生活機能回復や生活の質向上を目指すリハビリを重視する。過去20カ月間(2020年1月初~2021年8月末)、実際に入院してリハビリを行った患者は総数387名、年齢分布27~98歳、中央値79歳であった。障害の原因をみると、国民生活基礎調査などでは、認知症・脳卒中・衰弱・骨折転倒が4大原因とされるが、当院の同時期の検討では廃用症候群が半数を超えていた。これは、障害が肺炎や心不全、その他の内科疾患・認知症・老化衰弱などで徐々に起こり自立生活が困難となった事を意味している。こういった背景での廃用症候群は、回復に時間を要し、また回復自体が望めない場合が多い。また患者の家族構成をみると、独居83(21%)・夫婦世帯67(17%)・患者と子の二人世帯40(10%)その他197(51%)で、ほぼ当地域の家族構成に一致していた。一般に障害を持つ高齢老人が在宅で過ごすためには、患者本人一人で留守居が可能か、在宅に適宜交替できる複数の介護者がいるかなどが目安となる。患者を含め3人以上の世帯でも患者以外は働きに出ている事が多く日中の介護力には期待できない。世帯構成での条件達成が困難な場合にはデイサービスやショートを適宜利用する。しかし実態をみると、在宅に戻るチャンスのないロングショートが施設利用者の大半を占めていた。

●診療報酬改定のねらいと当院の状況

 この度の診療報酬改定を日本慢性期医療協会・武久洋三会長の説明に基づいて、特に慢性期医療を中心に触れる。それは療養病床・地域包括ケア病床に関わらず、①その医療内容と質のレベルアップ、②栄養・薬剤・リハビリ重視、③質の向上を目指した機能分化・タスクシフト、である。特に①③に関連して、増え続ける高齢者の救急医療に対応する慢性期病院の整備を求めている。救急医療管理加算に該当しない場合でも24時間365日、患者を受け入れよという事である。①では、地域包括ケア病床の在宅からの入退院割合や救急(緊急)入院割合のハードルを高くしている。現状、出口である当院ケア病棟の在宅復帰率20%未満では到底条件をクリアできず、病床数を減らすかすべて返上するかの選択肢しか残されていないようにみえる。療養病床の質向上については栄養とリハビリに関して厳しい規準を要求している。リハビリ医の立場から妥当で既に実施済みの規準もあるが、いずれも診断・評価やカンファランス等で時間をとられ、少ないスタッフでは相当厳しい内容である。ADL改善度のFIM継時評価、またおむつがはずれた割合、IVHや非経口栄養の患者を経口栄養のみに改善させた割合などを規定して加算や減算を行う仕組みを取り入れている。摂食嚥下について言えば超高齢者を対象としたリハビリでは代替栄養と経口栄養の併用がせいぜいの現実的ゴールであり、経口摂取のみに切り換えられるケースは決して多くはない。

●超高齢化の現状に見合う改定なのか?

 現在の秋田県や由利本荘地区の高齢化率は、2045年頃の全国平均に一致する。今回改訂の主旨に沿った質の高い慢性期医療を当面実現可能な病院は当地区以外の全国にはたくさんあるのかもしれない。しかしそれらの“質の高い”慢性期病院が2045年頃も同じ質を維持しながら生き残り続けることは本当に可能なのだろうか?当地区・当院の現状からは到底そうとは思えないのである。


2022年1月11日火曜日

[IS-REC/ISSUES]『腰椎椎間板・左横ヘルニアにやられた』

 ●密かな自慢、運動習慣

   秋田に居た頃からの運動習慣は由利本荘市に転居してからも続いている。秋田では夕食後ひと休みしてからセントラルスポーツのジムで汗を流していた。由利本荘では夜遅くまで出来るスポーツジムがなく、自宅に小さなトレーニングルームを作りトレッドミルで走るのを日課とした。またウイークエンドは本荘大堤から水林に抜けるハイキングコースを通り、子吉川河川敷に沿って薬師堂踏切を超え自宅に戻る10数kmのウォーキングコースをオーディブルを聴きながら歩く。結構の運動をこなしているつもりでもやはり歳には勝てない。体重は変わらないが筋肉量が減って、めっきり寒がりになった。そこでこの春からダンベル運動などの時間を増やした。

●ヘルニアの前兆

   筋トレメニューにその場ジャンプや踵(かかと)落としも良いというので、これらも普段の運動に取り入れた。ところが、この7月頃から運動と関係なく平時の歩行中、左足を挙げた時(遊脚期)、左鼠蹊部を縛ったような感覚に陥り、また大腿から下腿の前面、足背に灼熱感を伴う痛みが出現した。この症状は左足だけに時々起こり、右足になく、また腰痛はほとんど生じなかった。中通病院の親友に相談した。末梢循環障害ではないかという。そこで早速、血圧脈波検査を受けたが、ABI1.12で末梢循環障害は否定的だった。その後も同じ程度の症状は時々あったが日常生活に影響するほどではなく運動も続けていた。

●腰椎MRIで“L4/5・L5/S1左横ヘルニア”

  9月半ばから起床時の左足のこむら返り、歩行時の左下肢の痛みが増悪した。最も困ったのは階段昇降時に痛みで足を宙に浮かせず、足先が段差で引っかかる事だった。もっぱらエレベーターを使うしかなかった。自院の整形外科S先生に相談した。診察の上、すぐに腰椎MRIがオーダーされた。その結果は、L4/5、L5/S1の腰椎椎間板左横ヘルニアによる椎間孔狭窄症の診断。灼熱痛はL5デルマトームと一致していた。まず神経障害性疼痛に対してタリージェ5mg2錠から開始となった。

●椎間板ヘルニア症状を実体験する

   痛みは診断が確定した心理的影響もあって、常時感じるようになった。そして組織損傷と釣り合わない疼痛や異常感覚(灼熱感)など、これが神経障害性疼痛というものか、と納得した。タリージェを処方してもらいその鎮痛効果はあったが、仕事を休まず続けていたため、そのほかの鎮痛剤も併用した。しかし腎障害少ないカロナールを含めてnsaidsは無効、セレコキシブも気休め程度だった。痛みがあると、仕事に集中できず、また患者さんに笑顔で向かえなくなった。手術も考えざるを得ないか、と暗い気持ちになっていった。

●自然回復を促す運動・廃用の回復

 改めて文献や教科書で椎間板ヘルニアの治療と予後を調べ、またネットでの検索も行った。福島県立医大・整形の菊地名誉教授や紺野慎一教授は「多くの場合、6カ月程度でヘルニアは自然になくなる」と述べており、この観察を信じ、さらに自然回復を促す運動、運動習慣を一時中断したことによる廃用の回復を図れないものか検討した。なかなかその方面の情報はない。そこで痛みをコントロールしながら主にロングウォーキングを再開した。ジャンプや踵落とし、腰の運動は怖くて出来なかった。筋トレを休み運動量を減らしたことで、これまで体重を落とせなかったのが1kg以上減って60kgを切った。これはやはり筋肉量が落ちたせいなのだろう。筋肉を落とすのは簡単でも増やすのはなかなか大変なことを改めて実感した。

●運動でヘルニアは起こるか?

 教科書やネット検索で椎間板ヘルニアの原因を調べるとおおよそ、“スポーツ、不適切な荷物の持ち上げ、長時間の座りっぱなしなど、背骨に負担をかける不適切な動作を繰り返すこと”とあり、想像通りであった。しかし紺野慎一教授は、“スポーツは、直接的には関係しない”、と述べ、またヘルニアがあっても症状が出ない場合もあり、症状出現には神経への圧迫の強さ、仕事上の満足度の低さ、そして、うつ・不安・ストレスなどが関係しているとしている。

●症状消失とヘルニア再発を予防するには・・

   タリージェは有効であったが日中の眠気が強く、また動作時のめまいも起こるようになり、早々に中止した。幸い、薬を止めても痛みを含むヘルニア症状は徐々に改善して消失した。11月には痛みや異常感覚は全くなくなり、主に筋力低下による歩行、特に階段昇降時の擦り足が問題であった。その擦り足も運動、特にトレッドミルや週末ロングウォーキングの再開で大分改善している。私の場合も症状出現にヘルニアによる直接神経圧迫以外の周辺要因があったのだろうか? 再発予防にはやはり“心の健康”が大切なようだ。

秋田県医師会報NO.1956(2022年1月号)『新春随想号』pp53-54、から転載

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