●当地区(由利本荘)診療圏概況と当院
●入院患者栄養の問題
本年1月以降、毎月の栄養補給方法をみた(表2)。経口栄養・非経口(経管)栄養・静脈栄養の割合をその実数でみると、2:2:1の割合で変わらなかった。経口栄養のうち、嚥下調整(困難)食提供割合は30%前後で、特に最近は増加傾向である。超高齢者が多く、リハビリ実施困難が相当数おり、また看取りのケースが含まれることを考えると納得される数値である。●超高齢入院者の飢餓・低栄養
当院入院患者の多くが、数値上、低栄養・飢餓状態であり、体重減少、かつサルコペニアが多い。地域復帰を目標に行われるリハビリ実施例は徐々に機能障害が進行した、“廃用症候群”を病名とする場合が多く、リハビリ開始と並行して栄養障害を治療ターゲットとする必要がある。全身疾患に配慮しつつ、摂取カロリー量のアップ、蛋白摂取割合の増加(具体的には高タンパクゼリーの追加)を図っている。超高齢者の低栄養、慢性疾患関連低栄養は、オーラルフレイルや脳機能低下に伴う偽性球麻痺性嚥下障害が多い。そのほか、慢性炎症が関わるもの、疾患に起因しない栄養摂取不良(飢餓関連低栄養)があり、特に後者は加齢・薬剤性・精神心理的変化による食欲不振が多い。●入院患者の生命・生活機能維持の栄養管理
昨年から開始した、“嚥下評価入院”では、チームアプローチにより問題抽出とその解決を図っている。VE、VFなど嚥下機能の直接評価に加えて、食べやすさと栄養諸量を考慮した食材の提供(栄養科)、身体機能と口腔嚥下機能訓練(リハスタッフ)、服用薬剤チェック(薬剤科)、家族環境と精神心理的サポート(連携室と病棟看護チーム)を行う。まだ評価入院依頼のケースは少ないがそれ以外の入院患者を含めて成果は挙がっている。栄養障害がそれまでの独居、孤食などの環境要因が主たる原因であれば、要素的な嚥下困難は少なく、仮性認知症で障害は見かけ上にすぎない場合が多い。生活時間の工夫、上手なデイ利用などの環境調整、食材の工夫、サプリの利用で栄養の改善と生活機能の回復を図る事が可能となる。●生涯の終章を決めるもの
高齢化でもたくさんの元気老人がおり、新聞の“お悔やみ”欄を占める物故者年齢は90歳以上がその大半である。その“お悔やみ”欄の中には当院で亡くなられた方も散見される。“ピンピン・コロリ”と逝ったのか、それとも当面はその広告に載ることなく地域復帰を果たしたのか、その場に立ち会う機会のあった者として考えてみる。ヒトの生涯の終章を決めるものは何か? 癌死など寿命を損なう疾患死を除けば、やはり栄養の問題が大きいと思われる。高齢でも経済的にそこそこで、周囲に良い関係を持った家族縁者・知人・友人がおれば、こころの栄養は満たされる。身体の栄養も医療者の知恵を借りて何とか解決できるものだ。生涯の終章は、生きるに足りる栄養を維持した上で、“コロリ”と決めたいものだ。※当院入院に関わる資料、栄養に関わる資料は地域連携室(岡本)および栄養科(東海林)の協力を得た。