2023年6月25日日曜日

[IS-REC/ISSUES]~“活かす医療”とモニタリング

●リハビリ科入院現況

 入院患者さんは平均寿命をとうに越した高齢者が多い。病院の主要な役割は病気を治療して元の生活に戻すこと。しかし実態はリハビリ入院であっても生活機能を回復して自宅に戻る例は多くない。加齢や疾患による嚥下機能低下は栄養失調やフレイル・サルコペニアの原因でリハビリ以前の問題である。リハビリ医療は最低でも患者さんを“活かす医療”であり、治療方針が自然な経過に任せる”看取りの医療“に振れない限り、とてつもなく大変な作業工程である。“リハビリ科”を標榜するとは、患者さんの機能回復、QOLや尊厳の維持を目標とすること。しかし最近はこの生命を取り戻すという最低限の要請に精一杯である場合が多い。

●治療の流れとモニタリング

 死期が近い場合や急変時には酸素吸入を行い、心電図や呼吸、血中酸素濃度のモニターを行う。この辺りはほとんど事後報告を前提にベテラン看護師の判断で行われる。これに対して採血・採尿検査や心電図・心エコーなどの生理検査、胸部レ腺、CTなどが入院時に行われる。これは、“活かす”か、“看取る”かの判断、入院治療の方針決定のために行われる。医療として当たり前の流れであるが、患者の活動(activity)を働きかけるリハビリの分野ではさらにリスク管理も念頭に入れたモニタリング手法が求められる。


●リハビリのモニタリング指標1:体組成計

 電気インピーダンス法により体組成を測定できるInBody®は、栄養や運動効果の客観的指標として欠かせない機器である。体重増加や減少が体組成の何によって生じているのか、特にサルコペニアの栄養と運動による治療効果判定には是非欲しい評価機器である。InBodyS10®は、立位・座位・仰臥位で体組成を測定できるので、嚥下障害による栄養障害を治療に掲げる歯科医院の報告がyoutube動画にもアップされている(https://www.youtube.com/watch?v=dgwavLciRco)。体組成計により大腿四頭筋など局所筋量増加を数値化し体力や動作耐久性の向上を筋量の増大として客観的に捉えられるのはすばらしい。


●リハビリのモニタリング指標2:嚥下機能

 嚥下障害の評価により経口栄養で生命維持できるか?、代替栄養としての胃瘻は必要か?、気晴らし的に経口摂取可能な食形態はどんなものまで許容できるか? これらは嚥下内視鏡VE、嚥下造影VFで評価され、今や数多い誤嚥性肺炎の既往ある嚥下リハビリに欠かせない手技である。


●リハビリのモニタリング指標3:心拍数と活動量

 スマホは年齢に関わらずその普及がめざましい。これに対してスマートウオッチを利用している高齢者はまだ多くはない。しかし活動量の指標でもある万歩計を利用する高齢者は多いだろう。今や安価なスマートウオッチでも心拍数と活動量をみる加速度計を備えていることが多いようだ。心拍と加速度を運動時にモニターすれば非常に有効な運動負荷時のリスク指標となり、リスクを抱える高齢者の日常活動監視(その例に不整脈監視機能が挙げられる)や適切な運動負荷判定が可能となる。リハビリ医療での運動負荷モニターに有効なのはいうまでもない。最近は導電性の着衣から活動計測(心拍と加速度)を行い、脊損患者など歩行不能なケースでも歩行量に代わる動きの指標、体幹運動指数を測定記録して活動性の回復をみる、“hitoe システム”がリハビリ現場でも報告されている。


●血糖モニタリング:フリースタイル・リブレ

 糖尿病治療での血糖測定の意義は大きい。最近は血糖を持続モニターするさまざまな機器が利用可能となり、医療現場ではI型糖尿病やインスリン療法を必要とするII型糖尿病で持続血糖モニタリング(CGM)が行われている。その目的で利用される、Abbott社の“フリースタイル・リブレ”は皮下に細い留置針の電極を置いて組織間液の糖度をモニターするもので血糖値との相関も良好で、測定値は血糖値として表示される。リブレはアマゾンで機器一式購入可能であり、糖尿病患者のみならずマラソン選手などでも利用されている。食事や運動に合わせて任意の時間にスマホを電極付近にかざせば簡単に血糖測定が可能である。針を刺さずにCGM可能なスマートウォッチもフランスのPKvitality社が開発中で K'Watch Glucose(ケーウォッチ グルコース)として近々市販されるそうである。CGMが簡単に可能となれば糖尿病管理が容易となり食事療法や運動療法にも一大革命となる。


●重複障害を持つ高齢者を“活かす”リハビリ医療

 心不全や腎不全、心筋梗塞後や脳卒中後、骨関節疾患を合併後の重複障害はハイリスクで従来であればリハビリ医療の対象外であった。しかしさまざまなモニタリング手法が利用されて、高齢者重複障害でも適切な運動療法で疾患自体の改善までもが期待できるようになった。リハビリ医学は今、“Adding life to years and years to life”を合い言葉に進歩してきている。









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