2023年8月18日金曜日

[IS-REC/ISSUES]『大人の発達障害とリハビリ入院の接点』

 大人の発達障害については近年、話題性に富むテーマである。しかしその診断は精神科領域でもかなり難しいらしい。精神科診断で、“性格環境因性”という要素がある時に発達障害を可能性のひとつとして考えるようだ。ただ大人の発達障害は近頃さまざまな情報から社会生活上の困難があると、自ら“自分は発達障害ではないか?”として精神科を受診するらしい(宮岡 等・内山登紀夫著『大人の発達障害ってそういうことだったのか』医学書院2013年)。最近、リハビリ入院のケースに相次いでそういった事例を経験した。以下、ケースが特定できない範囲で自験例を紹介する。


事例A:40代男・高校卒独身


 実母が付き添い、急性期病院から脳出血後リハビリ目的に転院した。前医情報や付き添う母親の説明では既往に特記なく、介護職などの職歴もある。運動失語・右片麻痺の前医診断だがいずれも軽微。転院後短期間に歩行も可能となり、排泄を除く病棟生活も自立に近づいたが、言葉のやりとりだけは興奮しやすく困難であった。理解障害や言語表出に錯語はないため失語とは異なる情緒異常によるコミュニケーション障害と判断した。排尿困難が続き、留置カテーテル状態で退院。排泄の問題を除けば日常生活の自立度が高いため、復職の道筋を示した。しかし母親を仲立ちにした意思疎通で自ら障害者の軽作業所利用を希望した。


事例B:50代男・大学卒独身


 近県から紹介。既往に心疾患や高血圧・糖尿病あり。秋田県内に姉夫婦が在住し、姉を頼って来県した。生活歴では大学卒業後、職を転々とし最近は派遣職員として全国各地で生活していた。最終的に近県に在住、その折に姉が訪ねると居住先アパートはジャンクフードの山で、いわゆるゴミ屋敷同然であったという。背景疾患治療が不規則であったらしく出張先の屋外で転倒、そのまま起き上がれず近医へ入院した。糖尿病性ケトージスとサルコペニアの診断で前者の治療後、勤め先のある近県かかりつけ病院へ転院。治療とリハビリが行われた。当院へは継続リハビリ目的に紹介。入院時、低タンパク・低アルブミン血症とサルコペニア・筋力低下著しく、高タンパク食で低栄養改善と筋力回復を図った。しかし糖尿病性網膜症・白内障もあって歩行補助具は外せない状態で施設入所退院となった。


事例C:50代男・大学卒独身


 頭部打撲による脳挫傷後7週目にリハビリ目的で紹介。転院時、意識・見当識良く認知機能良好。筋力低下や体幹失調による開脚歩行傾向、手指巧緻障害がわずか指摘できる程度。両側前頭葉障害の影響で反復的行為あるが注意機能低下は目立たず、指示されれば自己行動制御も良好。後日の高次脳機能精査で遂行機能に軽度の障害あるが知識や記憶検査は正常であった。脳挫傷後遺症が心配され、前医でも予後は厳しいと説明された。約2カ月半の入院中、病棟生活は規則正しく訓練にも熱心で優等生レベル。但し過剰に礼儀正しい事や病棟廊下の頻回周回行動がやや異常に感じられた。ほぼ身体能力が回復した時点で今後の復職について相談した。返答は予想以上に消極的で結局、障害者福祉施設作業所の利用を自ら希望して退院となった。


若年のリハビリ入院では発達障害も背景にあるかも知れない

 3事例に共通する点は高卒以上の学歴に関わらず独身で就業に難があったこと、不足を親族が補っていたが生活管理上の問題を抱えていたこと、自己肯定感や自己高揚感に乏しいことなどが挙げられる。前述成書によれば大人の発達障害はその履歴をたどるのが難しく“性格環境因性”を証明できないことが多いという。以前、若年脳卒中患者を検討したことがある。該当3分の1は、血管異常(解離性動脈瘤・脳血管奇形・モヤモヤ)であったが残る3分の2は高齢者脳卒中と同様の原因であった。当時の検討では、大人の発達障害についてまったく眼中になく、背景因として検討しなかった。しかし今考えればそのようケースもきっとあったのだろうと考えられる。老リハ医となってもまだまだ実臨床から学ぶことが多いようだ。

由利本荘医師会報NO590『銷夏随想』

2023年8月14日月曜日

[IS-REC/ISSUES]高齢者の活動を支えるICTとモニタリング手法

○リハビリ入院する患者さんから思うこと

 
   高齢で要介護度の高いリハビリ入院患者さんが多くなっている。また地域で介護保険のお世話になっていない高齢者もさまざま持病があり、身体リスクを抱えてプレフレイル・フレイル・サルコペニアから要介護状態に陥る場合も多いだろう。健康寿命、男72歳・女75歳で寿命を終えるまで更に男9.0年・女12.4年の期間がある。この健康寿命を超えた時期にリハビリを希望して入院するから、患者さんや御家族に納得ゆく退院を提示するのはなかなか難しい。また入院する患者さんは、経済的支援や医療介護面での支援を必要とする背景、家族構成でいえば高齢二人世帯や、“80-50(80代親と50代子の同居)問題”などを抱えていることが多いので、そうなると障害の軽減・回復を図るリハビリ医療だけではもうお手上げ状態である。そこで、ある程度経済的に恵まれ、自ら障害の発生や進行を予防するヘルスリテラシーを持った高齢者を念頭に介護予防戦略を夢想してみる。


○健康維持やフレイル予防に役立つICTやAI機器の活用

 
 健康寿命延伸を目的にさまざまな地域の取り組みがある。コロナ感染の蔓延でそういった取り組みは一時下火となったが、それとは別にネットを利用した相互情報交換の場を事業として提供した自治体レベルの成功事例がある(宮寺ら、総合リハVol.51、2023年)。この取り組みでは自主学習や自主トレーニングを主体に、LINE活用によるネットでの相互学習効果が成功の鍵となっていたようだ。スマホ世代が増え、今後はこういった情報交流が社会的孤立を防ぎ、健康志向を生む結果につながってゆくのかもしれない。

○疾患増悪や障害発生を予防するモニタリング手法

 
 さまざま持病を抱え治療を受けている高齢者は多い。疾患を重複して抱え、多種の内部障害があっても元気に暮らしているケースは決して稀ではないのだ。いわゆる“無病息災”や“一病息災”である元気老人も確かに数多いが、大半は背景疾患を重複して持つ高齢者社会である。こういった高齢者も適切に疾病やバイタルサインをモニタリングできれば体力や筋力を維持向上することができる。リハビリ医学の領域では、フレイル・サルコペニアの診断と治療的介入から、1)体組成、2)心拍モニター、3)加速度モニター、を利用するようになっている。体組成は日内変動もあり、一定時間帯に電気インピーダンス法によって正確な測定をすることが望ましい。しかし個人向けで簡便に測定できる体組成・体重計もあり、精度の限界を知った上で上手に利用すれば結構参考となるだろう。心拍モニターや加速度計の機能は今のスマホやウエアラブルデバイスであるスマートウオッチにはがたいてい備わっている。操作法さえ知れば決して難しくはない。加速度計はいわゆる“万歩計”として多くの高齢者が利用している。スマートウオッチにある心拍モニターは突発性心房細動を検出できる。可能であれば利用したいものだ。


○血糖モニター、“フリースタイル・リブレ”


  I型糖尿病やインスリン注射が必要なII型糖尿病患者では持続血糖モニター(CGM)ができれば治療コントロールがとても容易となる。糖尿病に限らずハードな運動をこなすスポーツ選手などでも運動時のカーボローディイグを検討する上でCGM活用は有効だろう。最近、CGM機能を謳うAbbott社の“フリースタイル・リブレ”が市販もされるようになって一般にも普及しつつあり、世界的にも注目されている。これは皮下に細い留置針の電極を置いて組織間液の糖度をモニターするもの。血糖値との相関は良好で、その測定結果は血糖値として表示される。糖尿病の有無に関わらず、長時間運動を行う高齢者では“フリースタイル・リブレ”の活用を考えてみても良いだろう。


○医療者として高齢者の活動を支える

 
 高齢者が安全に運動を行い、フレイル・サレコペニアを予防して健康寿命を延ばすにはやはりそのリスク管理が大切である。そのためには専門領域の身近にあるさまざまなICT手法やモニタリング手法を宝の持ち腐れとせずに医療専門職として一般に広く紹介・普及させてほしいものだ。

 秋田県医師会報NO.・2023年8月銷夏随想から




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