大人の発達障害については近年、話題性に富むテーマである。しかしその診断は精神科領域でもかなり難しいらしい。精神科診断で、“性格環境因性”という要素がある時に発達障害を可能性のひとつとして考えるようだ。ただ大人の発達障害は近頃さまざまな情報から社会生活上の困難があると、自ら“自分は発達障害ではないか?”として精神科を受診するらしい(宮岡 等・内山登紀夫著『大人の発達障害ってそういうことだったのか』医学書院2013年)。最近、リハビリ入院のケースに相次いでそういった事例を経験した。以下、ケースが特定できない範囲で自験例を紹介する。
事例A:40代男・高校卒独身
実母が付き添い、急性期病院から脳出血後リハビリ目的に転院した。前医情報や付き添う母親の説明では既往に特記なく、介護職などの職歴もある。運動失語・右片麻痺の前医診断だがいずれも軽微。転院後短期間に歩行も可能となり、排泄を除く病棟生活も自立に近づいたが、言葉のやりとりだけは興奮しやすく困難であった。理解障害や言語表出に錯語はないため失語とは異なる情緒異常によるコミュニケーション障害と判断した。排尿困難が続き、留置カテーテル状態で退院。排泄の問題を除けば日常生活の自立度が高いため、復職の道筋を示した。しかし母親を仲立ちにした意思疎通で自ら障害者の軽作業所利用を希望した。
事例B:50代男・大学卒独身
近県から紹介。既往に心疾患や高血圧・糖尿病あり。秋田県内に姉夫婦が在住し、姉を頼って来県した。生活歴では大学卒業後、職を転々とし最近は派遣職員として全国各地で生活していた。最終的に近県に在住、その折に姉が訪ねると居住先アパートはジャンクフードの山で、いわゆるゴミ屋敷同然であったという。背景疾患治療が不規則であったらしく出張先の屋外で転倒、そのまま起き上がれず近医へ入院した。糖尿病性ケトージスとサルコペニアの診断で前者の治療後、勤め先のある近県かかりつけ病院へ転院。治療とリハビリが行われた。当院へは継続リハビリ目的に紹介。入院時、低タンパク・低アルブミン血症とサルコペニア・筋力低下著しく、高タンパク食で低栄養改善と筋力回復を図った。しかし糖尿病性網膜症・白内障もあって歩行補助具は外せない状態で施設入所退院となった。
事例C:50代男・大学卒独身
頭部打撲による脳挫傷後7週目にリハビリ目的で紹介。転院時、意識・見当識良く認知機能良好。筋力低下や体幹失調による開脚歩行傾向、手指巧緻障害がわずか指摘できる程度。両側前頭葉障害の影響で反復的行為あるが注意機能低下は目立たず、指示されれば自己行動制御も良好。後日の高次脳機能精査で遂行機能に軽度の障害あるが知識や記憶検査は正常であった。脳挫傷後遺症が心配され、前医でも予後は厳しいと説明された。約2カ月半の入院中、病棟生活は規則正しく訓練にも熱心で優等生レベル。但し過剰に礼儀正しい事や病棟廊下の頻回周回行動がやや異常に感じられた。ほぼ身体能力が回復した時点で今後の復職について相談した。返答は予想以上に消極的で結局、障害者福祉施設作業所の利用を自ら希望して退院となった。
若年のリハビリ入院では発達障害も背景にあるかも知れない
3事例に共通する点は高卒以上の学歴に関わらず独身で就業に難があったこと、不足を親族が補っていたが生活管理上の問題を抱えていたこと、自己肯定感や自己高揚感に乏しいことなどが挙げられる。前述成書によれば大人の発達障害はその履歴をたどるのが難しく“性格環境因性”を証明できないことが多いという。以前、若年脳卒中患者を検討したことがある。該当3分の1は、血管異常(解離性動脈瘤・脳血管奇形・モヤモヤ)であったが残る3分の2は高齢者脳卒中と同様の原因であった。当時の検討では、大人の発達障害についてまったく眼中になく、背景因として検討しなかった。しかし今考えればそのようケースもきっとあったのだろうと考えられる。老リハ医となってもまだまだ実臨床から学ぶことが多いようだ。
由利本荘医師会報NO590『銷夏随想』
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