2024年1月7日日曜日

IS-REC/ISSUES]嚥下障害と胃瘻造設

●当地域と当院の現状

  秋田県の高齢化と人口減少が進んでいる。最近、秋田市の人口総数が自然減で30万を割った事が報じられた。由利本荘地域では、2021年~2023年の2年間で由利本荘市7.5→7.18万人、にかほ市2.5→2.27万人と5000人以上の自然減がみられ、また超高齢化も進んでいる。要介護者や要介護者に占める認知症高齢者も多く、由利本荘市の統計では、2022年12現在で要介護認定5695人、集計時期は多少ずれるが、2023年7月までの要介護者認知症判定3528人で6割程度の要介護者が認知機能低下を合併している。この要介護認定に前後してリハビリを含む入院治療が当院に期待されている。入院目的はさまざまだが、急性疾患や外傷・骨折などで寝たきり、在宅生活が困難となって、その後の社会生活の道筋をつけること、入院治療・リハビリに多少なりとも介護やケアの軽減を期待されたものである。他方、全身状態が不良か、若しくは老衰状態で看取り目的の入院となるケースも半数以上を占めている。一月当たりでみると、死亡を含む退院患者が入院を上回る出超の月も多い。看取り以外の入院患者では紹介もとからの治療継続とともに、寝たきりによる廃用とその予防を目的に身体リハビリが行われる。また嚥下機能低下による栄養失調や誤嚥性肺炎治療後の栄養改善、嚥下評価・リハビリ目的の入院も多くなっている。

●嚥下障害入院の現状

 2022年10月から2023年10月末までの13カ月間に、嚥下障害・嚥下困難(ICD10でR13)の診断で入院対応した延べ総数は、入院総数465名中、67名(14.4%)であった。うち当院併設の介護医療院入所を含む入院ないし療養中は19名。現時点での転帰は死亡22名(33%)、経鼻胃管17名(25%)、嚥下調整食による経口摂取回復15名(22%)、胃瘻造設(PEG)9名(13%)、静脈栄養4名(6%)であった。嚥下障害患者は原則、嚥下評価として嚥下内視鏡(VE)、可能であれば嚥下造影(VF)を行うが主治医の判断で嚥下評価う行わない場合もある。胃瘻造設を行った例は全例、造設前にVEを行い、PEG後の栄養改善で車椅子座位がとれるようになったケースでは、VFを実施して気晴らし的となるが安全に経口摂取可能な食材・食種や食形態を検討している。認知機能が低下して経口摂取を拒否したり望まなかったりするケースはPEG栄養のみとなる。しかし身体機能が改善して座位が可能となり食思のあるケースでは、嚥下評価と造設後の嚥下訓練で何かしらの経口摂取が可能となっている。

●嚥下訓練とPEGの果たす役割

 嚥下障害が脳卒中急性期にみられるケースでは、当初経鼻胃管栄養を行っても、時間経過で十分な経口栄養を取り戻すことが多い。回復の予測は病変の広がりや陳旧性脳病変の有無、発症時年齢で予測可能である。しかし、むせ込みや嗜好の変化、体重減少などの嚥下障害の兆候が認められて数カ月以上経過しているケースでは、紹介時の脳画像で脳萎縮による両側島回の露出、硬膜下水腫、ラクネの多発を認めることが多い。臨床的には偽性球麻痺であり、嚥下障害に加えて構音障害や嗄声があり、認知機能低下を伴っていることが多い。このような場合、経口栄養のみでの生活体力維持は困難と判断される。ある程度の経口摂取が可能で身体機能の著しい低下がないケースでは、嚥下訓練で嚥下調整食(軟食やトロミ食などの嚥下治療食)で退院出来る場合も多い。しかしその後に再び誤嚥を起こすことがあり、その場合、栄養の安全弁にPEGを造設を勧めている。

●嚥下障害の予後

 嚥下障害の原因や発症後の期間、年齢や認知症の有無でその予後はさまざまである。しかし生命や体力維持のために何らかの栄養手段が必要である。重度の認知症や意識障害でない限り、生命維持に必要な栄養を手足を抑制して経鼻胃管や静脈栄養で行うことは患者に苦痛を強いる事になり賛成出来ない。また抑制を良しとしない施設入所も困難である。たとえ高齢であっても、また終末期であっても意識がある限り、苦痛を与えない緩和医療としてPEGは最良の方法であり、PEGは施設での看取りを可能とする有効手段でもあると考えている。

※本稿は、由利本荘医師会報NO.595「2024年新春特集号」“いいたい放題”に掲載した



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