●運動・食事と健康長寿
ウォーキングの効用が繰り返し強調されている。健康寿命延伸には身体的フレイルを予防する、そのためには適切な運動と食事が必要である。ウォーキングはその最も有効な手段であり、“1日8000歩で病気予防、そのうち20分間を大またで力強く歩く、歩数や頻度が増えても死亡の減少率はほぼ同じ”(朝日新聞「知っ得・なっ得、正しい歩き方2・歩くとどんな効果が?」2023年11月25日号)などと具体的に目標と方法が書かれている。医学雑誌やその関連記事を読んでもおおよそ同じである。日常の身体活動量低下が問題であり、身体的フレイル予防にウォーキングなど有酸素運動や筋力トレーニング継続が有効である。また食事については良質な高タンパク食の摂取が勧められている。しかし食事はともかく、結構まとまった時間を要する運動を続けるのは決して容易ではない。私自身はリハビリ医として障害のある患者さんや高齢者に障害予防や健康維持の必要性、そのノウハウを話す機会が結構多い。そんな時、自らどれだけ実践しているかがいつも気になる。好きなだけ食べ、肥満して筋力衰え、動作ものろのろしているようでは、たとえそれが加齢の影響であっても誰も話に耳を傾けてくれないだろう。障害の悪化予防や健康長寿を伝えるにはその理屈以上に自ら実践しているという心身の張りや自負、自信が必要なのだ。
●運動継続の工夫
運動継続にはそれを“習慣化する力”が必要だ。しかし多少でも辛いと感じる事は気合や掛け声、まして他人の促しでできるものではない。時間が限られる現職生活では尚更だ。誰かと一緒に運動するのも一つの工夫。朝早く夫婦や仲間を集ってウォーキングするのをよく見かける。私は娘婿の早朝ラジオ体操や筋トレ習慣を真似て、メールで互いに励まし合いながら毎朝実践できるようになった。しかし仕事から帰り、その日の歩数を万歩計で確認すると、せいぜい3000歩程度。8000歩にはほど遠くガックリ。帰宅してからの運動や何かにと予定の入る事が多い週末に運動をプランするのはやはり時間的のみならず精神心理的にも負担が大きい。運動を習慣化するには何らかの“奥の手”が必要だ。
●“読む”から“聴く”読書へ
読書は若い頃からの習慣で、水上 勉や松本清張、高村 薫、宮部みゆきなどの社会派推理小説、五木寛之、遠藤周作、三浦綾子などのロマン派長編小説を読み、また仕事がらブルーバックスの脳科学など、サイエンスものもよく読んでいた。しかし視力の衰えとともに、最近は“ツンドク”はやっても通常の読書はだんだん億劫で難しくなくなってしまった。そんな頃、“耳で聴く読書”を知った。当初、 遠藤周作『沈黙』や水上 勉『雁の寺』などの名作をCD-ROMで購入し聴いた。夢中になり床についても聴いて寝不足になったが、確実に読書に代わる新しい趣味・習慣となった。そのうち、ネット上のオーディオブック、特にアマゾンのaudible.comから日本語版が出るようになり、有料会員となった。audible.com日本語版の収録作品が増え、一時収録作品が読み放題であったため、吉川英治の『新・平家物語』や『三国志』など歴史小説の大著を次々と聴いていった。そしてこの“聴く読書”と屋外ウォーキング、自宅でのトレッドミル運動とが自然に結びつくこととなった。屋外ウォーキングは市内の子吉川河川敷を本荘インター付近からその河口近くまで10数キロを2時間ほどかけて、ネックスピーカーからのaudible作品を聴きながら歩く。そして犬の散歩やサイクリングを除いて、同じウォーキングをしている多くの人もそういったmusic playerを聴きながら歩いているのに気づかされた。
●運動しながら“聴く読書”:認知症予防のDual Task
毎日運動を継続する秘訣は私の場合、このaudible.comを聴く楽しみと運動を組み合わせた事だった。相当以前に秋田セントラルクラブで本を読みながらトレッドミルに上がって運動している強者をみかけたが、トレッドミル上を歩いたり、河川敷を歩きながら“聴く読書”はずっと容易に運動と読書のDual Taskを可能にしてくれた。帰宅して夕食後のトレッドミルも聴きかけた作品の続きが聴きたくて全く苦にならなくなった。毎日1万数千歩の歩数と距離も現在は当たり前となって、fltnessにも成功した。また最近物忘れが多く、自身の認知症を心配したり相談を受けたりするが、運動と“聴く読書”のDual Taskはその予防にも多少貢献しているのではないかと密かに思っている。
※本稿は、由利本荘医師会報NO.595「2024年新春特集号」“新春随想”に掲載した
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