2021年9月12日日曜日

[IS-REC/ISSUES] ~リハビリ科入院からみた寝たきり患者の拘縮

これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報NO566(2021年9月号)

●拘縮は予防できるか?

        重度片マヒや四肢マヒが残り、結果的に寝たきりとなった患者さんで問題となるのが四肢・体幹の拘縮である。20数年前、頼まれて秋田市内某総合病院の循環器科病棟をリハビリ医の立場でその診察と回診をさせていただいていた。主な役割は何らかの障害を残し、リハビリで良くなるケースあればリハビリ病院へ拾い上げることなのだが、もっとも困ったのは障害発生から時間が経ち四肢の痙性や拘縮が重度となったケースであった。寝たきりに近い状態の患者を病棟看護師は時間で一生懸命体位交換し、確かに臀部や踵の褥瘡は少ない。しかし四肢・体幹の屈曲あるいは伸展拘縮が進んで、股・膝・体幹が折れ曲がりおむつ交換も容易ではなくなっている。また手・手指関節は握り拳状となって指間が開かずそこに褥瘡も発生している。発症の早い時期から拘縮予防のROM(関節可動域訓練)をやっていれば予防できただろうに・・とも当時は考えた。しかし、その後の臨床経験からわかってきた事は拘縮予防ROMは、患者自身にその運動に協調できる自動能力が残り、かつ相当程度の頻度(たとえば毎日数時間かけるような)で実施しない限りほとんど無効であることだ。

●器械で自動・他動ROM訓練を行う

        訓練士によって限られた時間、ROM訓練を行っても拘縮予防が手ごわい事は以前から想像していた。そこで器械で自動・他動ROM訓練を行うことを考えた。幸い開発に手を貸してくれる器械メーカーがあって、まず最も実現可能性のあるマヒ上肢の手・手指関節を空気圧で伸展させる機器を試作した。医療器械としての安全性考慮などメーカー技術者の協力がなければ困難だったが何とか製品・市販まで漕ぎつけた。現在は多くのリハビリ施設や老健施設などで手の拘縮予防機器として使用されている。次いで下肢、特に足関節の尖足予防の機器開発を県立大学工学部の某教授と取り組んだ。しかしこれは結局未完成に終わった。下肢の足底側に押す力は非常に強く、空気圧のみで他動ROMを行うのは困難であり、これを補う硬性素材を使用した場合、医療機器として安全上の問題をクリアできないためであった。

●入院患者の現状と患者QOLを考慮したリハビリ介入の可能性

        当医師会病院の診療目標のひとつは、“慢性期リハビリテーション”である。医学的リハビリの柱の一つは患者さんの機能回復であることは言うまでもない。障害発生の早い時期に急性期病院での治療を終えて紹介され、リハビリのレールに乗り続けられれば、年齢や背景疾患にもよるものの障害を最小限にくい止めて自宅退院や施設入所が可能となる。

しかし障害自体が高度で、かつ背景疾患や合併症を抱える高齢者は機能回復が困難であり、主にケア対象のレベルに留まってしまうのが通例である。ベッド上の動作が要介助で、離床全介助、食事にも介助を要するような場合や静脈栄養、非経口栄養の場合、あるいは気切状態の場合などでは、退院後の受け入れ先がなく、医療リハビリの期限を超えて延々と療養入院を続ける結果となってしまう。そういった機能回復が既に期待できなくなったケースが他院からの紹介を含めて徐々に療養病棟を占めるに至っている。機能回復を期待して積極的リハビリを行っているケースは現在、全病床の3分の1に満たない状態。これは当院リハビリ医療の面からも深刻な状況である。高齢でさまざま合併症を持った入院患者さんの質が今後変わるはずもない。今、漠然と考えるのは従来の機能回復を第一義的に考えるリハビリ医療ばかりではなく、患者QOLを考慮したリハビリ介入の可能性である。ケアの面から考えたボトックスによる痙縮コントロール、そして最も難題である拘縮の予防と改善、認知症に対する取り組み等々。解決すべき課題は、まず口にしたり文字にしたりしないとその道筋すら見えてこない。今は残念ながらまだその課題を挙げて確認する程度の段階に留まっている。

2021年9月2日木曜日

[IS-REC/ISSUES]秋田県の無料広報雑誌「楽園」NO.65(令和3年6月1日)号掲載

 秋田県の無料広報雑誌「楽園」(平成22年~)は、中高年向けの健康記事を掲載しています。冊子は、 県内(銀行、図書館、宿泊施設、協力医療施設)および県外のアンテナショ ツプに設置されています。本稿はその65号(令和3年6月1日号)に掲載されたものです。

『養生のヒント  ~あなたは、“元気老人?”それとも“フレイル?”』


○リハビリ病院の患者さん達

        入院リハビリを受ける、それは日常生活が困難となる何らかの原因があって、急性期治療後も家に帰ることが出来ず、生活機能の回復を図る入院です。入院理由は要介護・寝たきり原因とほぼ共通。その主な原因は、認知症・脳血管疾患・高齢による衰弱・転倒後の骨折などが挙がっています(厚労省2019)。リハビリ入院はその中でも良くなると期待されるケースなので、認知症患者は除外されます。

○リハビリ入院患者に、“元気老人”はいない!

    
        リハビリ入院患者は、“アラエイティー(80歳前後)”で、フレイル、すなわちヤセで低栄養・筋量低下(サルコペニア)・活動量低下、が共通しています。フレイルでは握力が落ち、両下腿が細くなり、低栄養状態で、意欲・体力なく、栄養の改善を図らないとリハビリ実施は困難です。

○フレイルだから要介護や寝たきりとなる!

        一般にフレイルは老化に伴う心身機能低下と考えがちですが、老化の必須プロセスではありません。事実、私たちの身の回りには高齢でもたくさんの“元気老人”がいます。一方、徐々に食が細くなり痩せてきた、外出しなくなった、外出時には信号機のある横断歩道を渡り切れなくなった、などの症状があればフレイルの可能性が高くなります。フレイルになると簡単に骨折する、食事の偏りや低栄養、脱水から脳卒中・心筋梗塞などに罹患する、また認知症を発症する、などの可能性が高くなります。


○フレイルを予防して健康寿命を伸ばそう!

        寿命自体の調整は困難です。しかし細胞や遺伝子レベルで寿命制御機構が発見され、
実験動物から人の長寿化の試みが現実化しつつあります。他方、老化はプロセスであり個体差が大きく、個人の生活習慣に大きく左右されます。老化に抗して健康寿命を延ばしフレイルを予防するには日常の栄養が最も大切。高齢になるほど淡白で粗食を好み、また生活時間が不規則、食事も朝昼兼用、夕食が夜食となる、などのケースがみられます。三食をきっちりとる、魚肉・鶏肉など、蛋白質を多く食べ、副食多く主食は特に夕方に少なめとする、これが基本です。また自分の歯を残すように定期歯科健診を受け咀嚼力、口腔・嚥下機能を維持してオーラルフレイルを予防します。身体運動能力の維持・改善には毎日の運動が必要。朝のラジオ体操、また仲間と一緒に出来る運動などが良いでしょう。ウォーキングは速歩で息がはずみ汗をかく程度の負荷で行います。社会参加の面では、可能な限り就労を続けます。そうでない場合にはボランティア活動、友人とのおしゃべり・会食、または観劇などの文化活動も望ましいことです。これらの点に心がけるのはもちろん大切ですが、生活習慣病で治療を受けている方はかかりつけ医の投薬と指導で治療を中断しないようにしましょう。老化というプロセスからフレイル、サルコペニア、そして認知症を予防して要介護状態に陥らずに、いつまでも元気老人でい続けられるかどうかはあなたにかかっているのです。

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