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2026年4月7日火曜日

養生のヒント 老後の健やかな暮らしを守る『習慣の力』

 ●人生100年時代、いつまでも自分らしい自立生活を送りたい

高齢期の要介護状態を避け、いつまでも若々しく自分らしい自立生活を送るためには中高年期からの習慣の見直しが不可欠です。筋肉量が低下する「サルコペニア」や、心身の活力が低下する「フレイル」を予防するための「養生」の知恵を、科学的な習慣形成の視点から考えます。 

1.筋肉と血管を守る「攻め」の食習慣

筋肉量は20代後半から30歳頃をピークに減少が始まり、80歳以上ではピーク時の5〜7割程度まで低下します 。これを防ぐには、単に食べるだけでなく「何を、どう食べるか」が重要です。特に適正体重1kgあたり1g以上のたんぱく質摂取がサルコペニア発症予防に有効です 。また筋肉の合成を促す「ロイシン」を含む必須アミノ酸(BCAA)を意識しましょう 。加えて、多くの種類の食品を食べる習慣があるとサルコペニアのリスクが低いとされます。骨を強くし転倒を防ぐビタミンDは、1日20μgの補給が推奨されます 。脳卒中予防のため、就寝前や起床後にコップ1杯の水を飲む習慣をつけましょう。糖と塩を控える事も大切です。高血圧予防の減塩に加えて、最近では砂糖の摂りすぎが血圧を上げ、血管疾患のリスクを高めることが指摘されています。

2 生活に溶け込ませる「ながら」運動

筋肉を維持するには、適切な栄養管理と運動(レジスタンストレーニング)の併用が最も効果的です 。「トイレ・スクワット」を推奨します。トイレに行くたびに便座の前で2回スクワットをしましょう。1日8回行えば計16回になり、血圧や血糖値の改善が期待できます。不要な安静を避けることも大切です。「活動量の低下」はサルコペニアの大きな原因です 。日常の些細な動作を「運動」と捉え、こまめに体を動かすことが寝たきり予防に繋がります。

3.  三日坊主を脱する「習慣化」のメカニズム

健康に良いと分かっていても続けられないのは、意志の力のせいではありません。脳の「習慣ループ」を理解することが鍵です。「きっかけ→ルーチン→報酬」のループです。 習慣は、何らかの「きっかけ(例:トイレに行く)」、それに応じた「ルーチン(例:スクワット)」、そして脳が喜ぶ「報酬(例:スッキリした、自分を褒める)」の3ステップで構成されます 。

●「習慣化」の黄金律

 悪い習慣を直したいときは、きっかけと報酬はそのままに、真ん中の「ルーチン」だけを健康的なものに置き換えます 。


SMARTな目標設定とは、「具体的(Specific)」「測定可能(Measurable)」など、実現可能な目標を立てることで、リハビリテーションの効果も高まります。老後の健康は、日々の小さな選択の積み重ねです。「栄養ケアなくしてリハビリなし」と言われるように、食事と運動をセットで習慣化し、自立した毎日を長く楽しみましょう 。


※当稿は、秋田県で配布される広報誌『楽園』VOL.94/2026.4.1に掲載されました.


2026年2月1日日曜日

[IS-REC/ISSUES]『いいたい放題』“食べられない"は、“命の分かれ目?”~超高齢者の胃瘻造設

  超高齢者の胃瘻造設依頼が増加している.ムセや咳き込みで食事が摂れず栄養障害を来した例、食事介助で誤嚥を繰り返し喀痰喀出困難となった例など、その多くは施設利用中の患者さんで施設職員が対処に困り果て紹介となったケースである.一方、在宅療養中の高齢者が自ら嚥下困難で来院するケースはすこぶる少ない.また意を決して来院した場合でも症状が相当進行しており短期の外来対応では困難な場合がほとんどである.生活体力や生命維持に必要十分な栄養を確保するにはたとえ一部の食材を選択して口にできても胃瘻という代替栄養路も併せて必要な場合が多く、入院治療が必要なことを説明する.しかし多くの患者は事の重大さに関わらず即座の対応を拒否し結局、誤嚥性肺炎を繰り返して急性期病院に入院する事となる.

●嚥下障害入院の現状

 摂食嚥下障害を主病名の一つとして当院に入院した患者さんの退院時予後を検討した.2022/10/01~2023/10/31までの13カ月間、該当する入院患者60名.嚥下障害・栄養障害への主たる対応は、経鼻胃管13、嚥下困難食による対応11、維持的静脈栄養4、胃瘻造設9、対症療法(看取り・早期死亡)23である.嚥下障害・栄養障害で積極的対応が出来なければその多くが死に至る結果であった.また継続入院例を除く入院期間は2~156日(中央値51日)で治療法によらず入院が長期化する傾向であった.胃瘻造設9例でみると栄養管理の問題が解決しても夜間喀痰吸引の必要などで施設再入所が困難となり退院が決まらない場合が多い.

●胃瘻造設が生命予後・QOLを維持改善した例

(1)ケースKS(PEG当時78歳・女性)

 一人暮らしで以前から誤嚥による肺炎を繰り返し、肺膿瘍を合併した.由利組合総合病院で胃瘻造設を含む治療を受け、その後の嚥下を含む訓練を希望して当院入院となる.嚥下評価の結果、食品の適切な種類とその形態で経口摂取可能と判断した.補水と内服のみ胃瘻を利用し嚥下訓練後、施設入所となった.その後、経口摂取継続と補水・服薬のみ胃瘻の方針は変わらず、約10年後の現在も家族に連れられて定期的胃瘻ボタン交換目的に当院外来を受診している.

(2)ケースTS(PEG時74歳・女性)

 パーキンソン病でくも膜下出血を併発した.経口摂取困難で胃瘻造設となり、治療継続目的に紹介された.嚥下評価の結果、補水と内服薬のみ胃瘻から投与となった.維持的訓練を継続し歩行器歩行可能で、日中は車椅子に座りデイルームで趣味の読書やスケッチをしていた.その後パーキンソン病の進行で寡動・振戦が悪化し、3年目に鬼籍に入った.

(3)ケースTA(PEG時85歳・女性)

 アルツハイマー型認知症で陽性症状が強く菅原病院入院中であった.転倒骨折して寝たきりとなり当院へ転院となった.簡単な意思疎通可能なほかは、食事を含め介護抵抗が激しかった.家族の希望も強く胃瘻造設による強制栄養となった。家族とのやりとりや手を握り視線を合わせたスタッフとの対話は意外に大人しく対応し、結局老健施設入所退院となった.その後、家族に連れられ定期的に胃瘻ボタン交換に外来を受診していたが、約6年目の本年91歳で死亡した.

●終末期医療ではない胃瘻造設

 “食べる・呑む”機能=摂食嚥下機能も加齢に伴って徐々に低下する.いわゆる口まわりの衰えであるオーラルフレイルの時期から予防が大切であるが、脳卒中や神経筋疾患、認知症でない限り、相当高齢となるまで摂食嚥下機能は保たれる.したがってひとたび“食べる・呑む”機能が障害されると、終末期としてその積極的対応を放棄する場合が多いように思われる.胃瘻造設は口から食べることを排除するものではなく、食種や食形態を選んで継続も可能である.本人や家族が望むのであれば、生命予後・QOLを維持改善する手段の一つとして胃瘻を検討して良いのではないだろうか.

※当該記事は2026年1月、由利本荘医師会報NO.616『新春特集号』に掲載した

2026年1月1日木曜日

[IS-REC/ISSUES]私の医師会病院10年~リハビリテーション科外来~

●リハ医はよくわからない

 内科医や外科医などと違って、リハビリテーション科医師(以下、“リハ医”)はその存在がよく分かられていない.リハ医者を名乗る者をみると、そのキャリアはさまざま.つい最近までは何を専門として何をやっている者をリハ医と称するか、そのコンセンサスのない時期が相当長く続いていたように思われる.今でこそ大学にリハ医学講座が増え、そこでストレート研修を終えて専門医となるリハ医も多くなった.リハ医療は患者の持つ疾患とその結果生じる生活機能上の障害を対象とするチーム医療なので、その臨床科としての実際的ニーズは相当高い.他方、様々なキャリアを経てリハ医となった者は、やはり自分の経験やスキル、判断力を総合的臨床能力として活かしたい.その場合、リハ医の主たる力量発揮の場は、やはり外来診療である.

●医師会病院10年、私の外来診療

 前職の県立リハセンでは、外来患者の多くがリハ依頼の新患患者であった.医師会病院に来てからしばらくの間、整形外科医不在の影響で主にその代理的診療をこなしていた.整形外科医の前院長外来を引き継いた形である.また元々私のライフワークであった脳卒中や高齢障害者のリハ、特に高次脳機能障害や摂食嚥下機能障害・栄養障害などについても現院長の御配慮で赴任当初から徐々に体制を整えていくことができた.入院リハ患者を対象とした摂食嚥下機能評価として嚥下内視鏡(VE)、嚥下造影(VF)装置を導入した.外来紹介患者を対象にした“摂食嚥下機能評価短期入院”も立ち上げた.またスペースのやりくりに難儀したが言語訓練室を拡充し、未就学児童を対象としたコミュニケーション障害(機能性構音障害や言語発達遅滞)患児を受け入れやすくした.診療内容に関わる診療報酬改訂の影響も大きかった.療養病棟に代わる介護医療院の開設など病院全体に関わることのほか、リハ科を含む外来診療にも大きな影響があった.

●訪問リハ医師診察と生活習慣病療養管理

 いずれも診療報酬点数に影響する形で導入された.それまで訪問リハは依頼元の診療情報提供書からリハ医が指示を出し、担当スタッフから訪問時の報告を受ける形で完了したが、新たに2~3カ月に一度リハ医の直接診察が必要となった.外来に来院出来る患者を除いてセラピストと一緒に患家へ出向くこととなる.主治医が別の場合が多いので、診察も指導も疾患や服薬を除いた障害状態の変化や入浴・排泄・食事など生活機能上の問題を評価しアドバイスする.外来受診可能な患者についてもほぼ同様だが力点は肥満と廃用予防の食事・運動に関する評価と指導が多くなる.生活習慣病療養管理は高血圧・糖尿病・脂質異常症のある患者がすべて対象で、指導は食事と運動に加え、服薬管理と採血検査結果説明などとなる.

●痙性運動障害(SMD)のボツリヌストキシン療法

 ここ数年、重度痙性麻痺でケアが大変な場合や患側上下肢管理を目的にボツリヌストキシン施注を行ってきた.高齢者が増えて比較的若い歩行自立のケースや改善の余地がある上肢の補助手レベル患者は稀で、結果としてSMDで施注適応となる例は必ずしも多くはない.しかし施注を反復してその効果を実感したリピーターが徐々に増えてきている.現在はリハセン同僚の荒巻晋治先生の応援を受けながら主に午後の時間に行っている.

●胃瘻造設患者のアフターケア

 赴任10年が経過し胃瘻造設例も増えた.造設後施設に戻った患者が定期的に胃瘻ボタン交換にやって来る.高齢造設患者でも胃瘻の延命効果は大きい.交換は容易で嘱託医にお願いしているケースも多いが、定期的に外来にやってくる患者さんと交換時にコミュニケーションを取るのも楽しいものだ.

●医師会病院10年目リハ医の今

 外科系医師として出発した私はリハ科担当当初、痙性麻痺の腱切り、経口摂取にこだわる嚥下障害例の喉頭摘出など、整形外科や耳鼻科の支援を受けながら“外科系リハ医“としてスタートした.また内視鏡医・向島 偕先生の協力を得て秋田県内でも相当早く胃瘻造設を開始した.一定期間大学リハ部・中村隆一教授の元で研修を受け、県立リハセンに勤務してからは大学同門の千田富義先生の指導を受けオーソドックスなリハ診療を実践してきた.そして医師会病院に赴任して以後、院内同僚の先生の知恵と知識に学びながら当院に合ったリハ医療を展開してきている.その自己満足度は高い.しかし困ったことに午前中の外来診療が昼を過ぎても終わらなくなってしまった.低血糖と同僚外来看護師さんの迷惑にはらはらしながら今日に至っている.

(本稿は2026年1月、秋田県医師会報NO.1644 『新春随想号』に掲載した)


 

2025年8月13日水曜日

[IS-REC/ISSUES]超高齢者胃瘻造設で学んだこと

 ●摂食嚥下困難・栄養障害・誤嚥性肺炎

 厚労省人口動態統計(2023年)の主な死因構成割合をみると悪性新生物・心疾患・老衰がその半数を占め、次いで脳血管疾患・肺炎・誤嚥性肺炎と続いている.いわゆる市中肺炎は肺炎双球菌ワクチンの普及で減少傾向だろう.実臨床からは肺炎とされた中に相当数の誤嚥性肺炎が紛れ込んでいると思われる.摂食嚥下困難は加齢自体で生じるが、背景にある脳動脈硬化や多発ラクナ梗塞・認知症など全般性脳機能低下に伴ってしばしばみられる事は周知の事実である.また摂食嚥下困難で徐々に食が細くなり、食事のむせ込みが苦しく食欲自体も低下して、枯れるように最後を迎えることも多いだろう.死因として“老衰”が増加しているのはそういった事情を反映していると思われる.他方、食欲が保たれるのにむせで十分食べられず、羸痩が目立つようになったり、介助で無理に一定量食べさせようとして誤嚥性肺炎を繰り返すと、本人やその周辺から何らかの対処が求められるようになる.代替栄養としての胃瘻造設(PEG)は内視鏡で比較的簡単に出来ることから当初、嚥下評価や嚥下訓練なしに過剰に行われた時期があった.現在は嚥下評価と嚥下訓練が可能な施設でのみ行われ、その安全性、またPEGが即・経口摂取不可ではないという認識が普及して超高齢者でもPEGが選択されるようになってきている.PEGは誤嚥性肺炎や栄養障害を減らしてQOLの高い生命予後改善に寄与している.

●由利本荘医師会病院でのPEG現況

 
 過去5年間に42例でPEGを行った.その紹介元(表)は総合病院16、施設(または嘱託医)20、当院外来(神経内科・リハ科)5、耳鼻科1であった.原則として、入院時に造設について家族の意向を十分確認し、造設前に嚥下評価(嚥下内視鏡VE)を行ない、PEG後も食事内容により気晴らし的経口摂取が可能かどうかを検討した.施設から入院の場合、評価から造設、胃瘻ボタン交換まで1カ月目処の入院で実施した.内視鏡による造設で、造設中も、その後の嚥下訓練でも特段のトラブルはないが、認知症患者では、嚥下訓練に応じてもゼリー摂取など直接訓練を拒否する例があり、PEG後に経口摂取のできない例も多かった.

●超高齢者の胃瘻造設pitfall

 最近、90歳前後以上の超高齢PEG患者が増加している.過去5年間でも42例中11例26%が90歳以上であった.そして超高齢者PEGで意外な伏兵に気づかされることとなった.典型例は嚥下障害で胃瘻造設希望入院、術前の嚥下評価で咽頭期嚥下障害が比較的軽く、食形態を選べは多少の経口摂取が十分可能なケースである.紹介元情報では経口摂取で頻繁に誤嚥性肺炎を繰り返していた.このようなケースで多少の気晴らし的経口摂取も可能と造設後退院時コメントに付記して施設に戻ったところ、トラブルが発生した.胃瘻栄養や気晴らし的経口摂取で再び嘔吐や誤嚥性肺炎を起こし、施設では対処困難となって舞い戻ってきたのだ.そんな超高齢者の問題ケースを続いて2例経験した.

●脊柱変形と上腸管膜動脈による十二指腸水平部狭窄(いわゆる、“上腸管膜動脈症候群”)

 


 施設の現状から経管栄養が朝夕1日2回注入で維持されている場合が多い.造設直後、当院では1日3回で胃瘻栄養を行うため、退院まで栄養注入後の嘔吐や逆流性誤嚥のトラブルはなく、このようなトラブルを予期していなかった.最近経験した1例(91歳男性)では脊椎変形と四肢屈曲拘縮があり、腹部が常時圧迫気味であり、十二指腸球部以遠の機能的通過障害に気づいた.幸いこのケースでは注入量減量で辛うじてその後のトラブルは消失した.2例目(93歳女性)は退院先施設で注入量調整など再三試みられたが、一定量一定回数注入で嘔吐が繰り返され、再紹介となった.本例は上部腰椎の圧迫骨折の既往で十二指腸水平部の機能的狭窄が強く、腹部CTで器質的イレウスを認めなかったが、胃瘻から注入したガストログラフィンを時間的に追いかけると、数時間経過しても胃内に造影剤が多く滞留していることがわかった(図).本例は現在、中心静脈栄養と少量の気晴らし的経口摂取で経過をみているが、本人が強く希望する経口摂取を続ける限り、食塊の胃内蓄積と嘔吐は避けられないようである.

●超高齢者経口摂取困難は咽頭期嚥下機能低下のみにあらず


 


 パーキンソン病その他の神経難病は別として、PEGはいよいよ超高齢者でも増加している.今回、あまり間をおかずに経験した超高齢者2例のいわゆる、“上腸管膜動脈症候群”は経口摂取困難・栄養障害の原因が必ずしも咽頭期嚥下の問題のみに帰せられないこと示しており、良い教訓となった次第である.








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(表)由利本荘医師会病院・リハビリテーション科でのPEG実施例内訳(2021~2025)

(図)いわゆる、“上腸管膜動脈症候群”2例目の腹部Xp所見.ガストログラフィン100ccを胃瘻からゆっくり注入し、数時間後に撮影.胃内に未だ多量の造影剤が滞留している.

※本稿は2025年8月、秋田医報NO.1639号記事『銷夏随想』に掲載した



2025年2月28日金曜日

[IS-REC/ISSUES]~看護学校で教えて~

○看護学校で教える

 リハビリ科を唯一標榜して臨床する医者が少ないせいなのだろう、医師会看護学校で「リハビリテーション看護」(以下、「リハビリ看護」)を教える役回りが巡ってきてしまった。リハビリ臨床の中身は、私自身がリハビリ医者になった頃、ちょうど理学診療科の名称がなくなりリハビリテーション科標榜が認められるようになった30数年前と比較するとずいぶん様変わりしてしまった。当時は中村隆一教授の『入門リハビリテーション医学』(医歯薬出版)、や上田 敏先生の『目でみるリハビリテーション医学』(東大出版会)が私のバイブルであった。これらの教科書に書かれた機能回復が目標の臨床医学は無論昨今でもリハビリ臨床の根幹である。しかし今のリハビリ現場で求められるところは大きく変貌してしまっている。

○「リハビリ看護」教育で期待されるもの

 私の担当する「リハビリ看護」には、346頁の大部な教科書(「系統看護学講座別巻『リハビリテーション看護』」医学書院)があって、これが学生には、タブレットPCに丸ごとインストールされている。相当以前にPTとOT学生対象にリハビリ医学の講義をした経験はあるが、看護と名のつく教育に携わるのは初めて。そこでこの教科書を読み、これを自分なりに再消化するため『目でみるリハ・・』にも再度目を通した(中村著『入門リハ・・』は紛失して参照不可であった)。教科書を読み込むのは大変だったが、私の考えるリハビリ臨床に共通する点も多く結構楽しく最後まで読み通すことが出来た。教科書にはリハビリ看護の対象、法制度、ステージ別看護、基盤となる考え方、対象疾患とその機能障害、これからのリハビリ看護、が項目順でならび、疾患と機能障害ではアセスメント手段としてWHOの国際生活機能分類(ICF)の考え方が根本に据えられている。ここでいうアセスメントという言葉はこれまで臨床医学ではあまり用いられてこなかった。疾患や障害の診断のみならず、対象患者が持つICFでいう個人因子・環境因子を含めて評価する意味合いがアセスメントに込められている。そして教科書に記載され、教育目標として強調される点は、医師を含む関連職種との協業・チームアプローチで対象を捉えること、特に看護師は対象患者とその家族に最も接する機会の多い職種として他職種と患者・家族との仲立ちをする役割、患者ニーズを捉えてチームに問題提起する役割を育てようとしている。

○リハビリ科として日常心がける患者ニーズに答える臨床

 リハビリ臨床はまさにチーム医療であり、医者一人がいてもどうにもならない。各専門職種がその持てる力を最大限発揮できるようにチームをまとめていく、それがリハビリ医者の仕事である。その仕事のバックボーンは、障害医学の診断技法と治療法を身につけ、「リハビリ看護」教科書に書かれたアセスメントが適切に出来ることである。具体的には実臨床で最も多い超高齢患者の抱える問題、すなわち疾病・障害発生以前から存在する栄養障害やフレイル・ロコモ・サルコペニアの問題、認知機能低下の問題、心不全や呼吸器疾患、生活習慣病などによる疾患や障害重複の問題など、さまざまな問題を整理し対処すること、またその生活環境(ケア体制を考慮した退院先)にも配慮してゴールを設定することである。これは患者の欲する心身や生活ニーズを念頭に、そのQOL向上をめざす臨床である。

○「リハビリ看護」で教えたこと

 「リハビリ看護」と現在のリハビリ臨床には共通点の多い事がわかった。当然であるが「リハビリ看護」教科書の主体(主語)は看護師であり、チーム医療の中でも看護師のリードが強調されている。また疾患や障害の評価も本来ほかの専門職種に委ねるべきものも看護師の評価手段として記載されている。そのあたりは誤解がないように、チームでは医師中心のラインが大切なこと(リハ医学の教科書では、“ラインとスタッフィング”として強調される)、評価はチームとしてその結果を共有して、対処を考えることが大切なことを教えた。

○これからの患者ニーズに答える病院の仕事は“ケアミックス型地域包括チーム医療”

 人口減少が進み、医療の規模縮小と集約化が喫緊の課題である。医療に従事するスタッフ自体の高齢化や看護師を含むなり手の不足も問題である。今後の地域包括ケア体制の中で病院の役割は、“ケアミックス型地域包括チーム医療”であることに異論はないだろう。その一員として期待される看護師の継続的確保も重要である。国試合格率100%の医師会看護学校を存続させるためにも優秀な学生を輩出し続けられるように微力ながら応援していきたいと考えている。

(本稿は2025年3月1日、由利本荘医師会報NO.609の連載記事『いいたい放題』に掲載した)


2025年1月10日金曜日

[IS-REC/ISSUES]『未就学児対応の外来ST』~発達障害~

  外来で扱う未就学児のうち、機能性構音障害は、5歳児健診で指摘され就学までの一定期間の指導で改善・治癒する場合が多いと述べた。これに対して言語発達遅滞・自閉スペクトラム症(ASD)などと診断される発達障害のケースは、訓練期間が長く、完全な治癒をめざすものではなく、社会生活・学校生活を送る上での折り合いを付けることに主眼をおいた指導をする。前回は当院において未就学児の認定ST(言語発達障害領域)による外来診療活動を外観した。今回は発達障害の事例を紹介し、それらを医学モデル(発達神経学の裏付け)と社会モデルの立場から振り返り、特に後者に連動する「ニューロダイバーシティー」の考え方に触れる。

●事例1:4歳男児. 診断「言語発達遅滞」

 言葉の遅れを主訴に市内小児科から紹介された。言語面の初回評価では、2語連鎖の受容、3語連鎖の一部表出が可能。動作性課題で、図形弁別10種、積み木構成、縦横の描線が可能。観察では、単語レベルの表出が多く、会話はオウム返しとなる。行動面に衝動性なく着席動作が可能。視線注視が可能で他者への関心もある。2語文レベルの表出・理解の向上を目標に課題を反復した。その結果、5歳9カ月時評価では、身近な関心事に文章レベルの自発話が増え、会話でのオウム返しは消失した。しかし話題が変わり関心事から逸れると会話は困難で、自信なく無言で通す事が依然みられた。一方で言葉を介さないコミュニケーションで他者と関わる事が増えた。

●事例2:2歳3カ月男児. 診断「言語発達遅滞」

   有意味語表出なく市保健センターを介し紹介された。受診時、喃語含む表出はまったく訊かれず。簡単な口頭指示理解も困難で、事物の操作のみ対応する。手元の図形弁別や積み木が可能。線や円の描出はST指示で困難だが、家で母親の指示で描けることがある。訓練開始当初の評価では自発的表出が身振りを含めてなく、要求時のみ大人の手を使う“クレーン現象”で行った。視線を合わせた会話は困難。行動面の衝動性を認めないが、着席などは促しに大きく抵抗する。コミュニケーション面では、待っていると視線を合わせるが不定で顔を近づけ声かけすると無意味声をあげて相手の顔を叩こうとする。遊びも一人で行う。その後の訓練は他者との関わりを楽しく行うように誘導する課題を設定した。時間を要したが6歳6カ月で時点では、文章レベルの自発話が可能となり、会話が成立し、行動面で時間中継続して学習でき、他者と楽しく交わる事が可能となって目標達成・訓練終了となった。

●事例3:3歳女児.  診断「自閉スペクトラム症」

  行動面・コミュニケーション面での評価・訓練継続のため小児療育センターから紹介された。受診時、有意味語の表出なく、口頭指示理解不能。簡単な物品操作可能。図形の弁別や積み木重ねが可能。描線は誘導や模倣でも困難。初回訓練時、表出は単音のみで喃語や身振りでの表出もない。呼びかけに応答せず会話できない。行動面で動きが多く同席の母親に抱きつき、要求が通らないと床に寝ころがり抵抗し、着席は困難。コミュニケーションで視線を合わせず、遊びは一人で部屋の隅から隅を走り回り、玩具を手にせず他者への関わりは拒否的である。その後の訓練方針は他者の存在を理解し、関わる事の楽しさを主眼に訓練を継続した。訓練開始9カ月目には明瞭な有意味語を認めないが、それらしい発語や状況に応じた身振りが視線を合わせて可能となった。会話継続は困難なままで改善なし。一方、着席動作ができるようになり、意志に沿わない事で床に転がる事はなくなった。

●症状・障害はどうとらえられているか?

 症状・障害を診断する基礎となるICD-10、 DSM-IV分類では、心理的発達障害と行動・情緒の発達障害に大きく二分されている。日常、他とのコミュニケーション障害は、心理的発達障害に含まれ、構音器官によらない言葉の表出・理解、言葉を繰る能力の障害である。また読字・書字・算数の学習障害や運動機能の発達障害(発達性協調運動症、DCD)が知られている。さらに自閉症(ASD)などを含む広汎性発達障害が同じグループに入る。後者の行動および情緒の障害には、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、選択性緘黙症(場面緘黙症)などが記載されている。

●発達障害の神経基盤*

 神経ネットワーク発達過程でのシナプス“刈り込み”遅延や未成熟が原因である。脳の正常発達には内部の神経回路ネットワークの発達が必要で、その発達を終えるのに20年程度要するとされる。脳の働きが特化する過程は、個人差と生育環境の影響があり、心理的発達障害はこのネットワークの異常で説明され、中枢性統合の障害(「木を見て森をみない」)や感覚過敏や鈍麻・共感覚などの日常生活に影響する症状を生じる。したがってその正常化には時間と教育上の様々な配慮が必要となってくる。行動・情緒の発達障害の代表であるADHDは、脳全体の時間リズムの切り換え不全の結果と考えられている。

●コミュニケーションに関する発達障害とニューロダイバーシティー**

 発達の遅れ(≒神経ネットワーク発達の遅れ)によるコミュニケーションの障害を、“能力の欠如”として捉えるか、個人の特性や多様性と捉えるかで治療者の関わり方が決まってくる。事例1~3では、受診・訓練開始時期、障害の重症度はさまざまで、再評価や終了時に“普通や正常”に届いていない点もある。しかし訓練場面では遅れを要素分解しステップバイステップに指導し、時間を要しても場を重ねる毎に外来担当STと患児のコミュニケーションは改善している。患児の示す特性の周囲理解も進めばインクルーシブな就学も可能となる。医療の基本が患者の自然治癒力を促すものであるように、外来ST場面で対応する発達障害の基本も障害治療というより患児の特性や多様性を理解尊重した「ニューロダイバーシティー」の視点からその特性を活かした学習を促し援助してゆく取り組みと考えられる。

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*:Newton2024年11月号「発達障害の脳科学」

**:ニューロダイバーシティーの推進について(経済産業省)


(本稿は2025年1月、秋田医報NO.1632「新春随想」に掲載した)




2025年1月1日水曜日

[IS-REC/ISSUES]~認知症が気になる・・

 ●親友K君が認知症専門書を出版

 親友K君はほぼ毎日のように診察室や往診先での出来事をエッセイ風にフェイスブック(Fb)にまとめている。日常臨床を手抜きなく行い、また新医協代表という要職に着きながら、まさに超人的に仕事をこなしているようだ。外来や往診で見聞きしたり体験したことを個人情報に注意しながら書き続けるのは、自身の経験からも容易ではない。まだこの本が手元にないのは残念だが、そういった苦労の結晶が、この認知症に関した一冊である。

今田隆一 (著), 阿部育実 (著), 𠮷田真理 (著)『認知症が気になるあなたへ──診察室から見たその備え』(新日本出版社、2024/11/23)

アマゾンの紹介記事には、「第一線の医師、看護師、社会福祉士が、病気の原因や特徴をふまえ、治療とケアのあり方、予防を解説します。・・事例も豊富で役立つ制度のガイドもあります。」とある。この本を手に取るのが楽しみだ。

●身近な認知症患者さんとリハビリ

 私自身も認知症のある高齢患者さんを入院や外来で毎日診察する。それは当初、認知症以外の身体疾患が原因でリハビリ科に関わった患者さん達である。そういった患者さん故からか、時に話を聞いていて、認知機能低下からくる話の堂々巡りについ声を荒らげてしまうことがある。またリハビリを通じて一定の信頼関係ができると、担当医を聞き役に止め処なく話を続け、時間に追われる身をイライラさせることもある。認知症の陰性症状や逆に陽性症状が強くなるともう対応が困難だ。認知症自体に対するリハビリは発症の早い時期であれば認知機能を改善させるさまざまな方法もある。一見関係がなさそうな身体的動作訓練やADL訓練が症状改善に有効とされる。精神科リハビリでよく行われるロールプレイを含む生活機能訓練も有効である。日常生活や職場での認知機能低下を補う手段として、記憶ノートやアラーム設定できるスマホの活用、生活場所に必要情報を張り出すなど、さまざまな補助的手段の導入を提案することもある。

●認知症になった夢

 認知症は一定水準以下の記憶検査成績や、日常の記憶力低下、物忘れの自覚だけで診断はできない。記憶であれば食事などの日常イベントそのものを忘れる場合である。そういった自身の経験はないが、ある日、学会発表のために首にネクタイを巻こうとして何度やってもうまく巻けずに焦る自分の夢をみてしまった。そして、“これは認知症の症状だ”と確信し暗然とする夢だ。認知症になった自分が夢に出るのは、やはり認知症になる自分が恐いのだ。

●認知症リスクと私の認知症対策

 最近の新聞記事(2024/11/20付け朝日新聞アピタル「認知症に14のリスク要因」)には、英国医学雑誌専門委の報告を引用して、”(14)すべてのリスクを取り除けば(認知症は)45%予防可能“と書いている。その14のリスクとは若齢期から中年期、高齢期と人生の時期により異なっている。若齢期の教育の不足、中年期の様々な生活習慣やそれに起因する罹病、高齢期の社会的孤立や大気汚染、未治療の視力低下が項目として挙げられている。それぞれ項目の重みは異なるが、多少認知症診療に関わる者として、また高齢期にある自身の体験としてこの14リスクは宜(むべ)なるかなである。特に自身の問題として気になのは情報の窓口、感覚器の機能低下である。視力低下や聴力低下(難聴)がそれで、特に最近進んできた緑内障による視力低下を気にしている。視力が低下すると、患者さんの顔など仕事で遭遇する他人の印象(顔の認知)を1回でできなくなる。さらに書類を読む折、その書面全体を一塊で短時間把握することができない、などの影響がある。また生活上の自覚はなかったが、職場健診で聴力低下を指摘され唖然とした。聴力低下には思い当たることがあった。長時間イヤホンを利用することだ。ウォーキングや交通移動時にイヤホンを常用する。調べると、“イヤホン難聴”という言葉があり、その対策としてイヤホン利用は1時間を限度、ノイズキャンセリングイヤホンを使用することとしている。そしてイヤホン使用に限らず環境音の音量を含め、身近なは音のレベルは60db程度までで70dbを超えないように注意している。認知症リスクの多くは若齢期から中年期の成育や生活環境に関わっており、現在まさに高齢期にある自分にできる認知症対策は限られている。新聞記事にあるように、しっかり持病や生活習慣病の管理をし、加えて“脳へのダメージ”を減らし、身体運動で体も脳も鍛え続けることが肝要である。また認知症リハビリで有効性が高い、記憶力低下の積極的代償手段(スマホやスマートウオッチのメモ機能やアラーム機能)導入で同僚や患者さんに迷惑をかけずスムーズに日常業務をこなすことも職業人として必要だと思っている。

(本稿は2025年1月、由利本荘医師会報NO.607(202501号)『新春随想』に掲載した)


2024年8月18日日曜日

[IS-REC/ISSUES]~リハビリと自動車運転評価~

 ●高齢者の自動車運転

 自動車運転免許更新時に75歳以上高齢者の認知症検査が義務づけられ7年が経過した。検査の結果、免許更新ができなかったり自主返納するケースも増えてきている。運転操作ミスなどで死亡を含む大事故が跡を絶たないが、車の構造上の進歩もあり、いずれAIによる自動運転でこういった問題も解決するだろう。

●リハビリ入院患者さんの自動車運転

 脳卒中などでリハビリを受け、基本動作や日常生活活動が自立に近いと、年齢に関わりなく日常生活に欠かせない手段として自動車運転を希望する患者は多い。現状では高齢者に限らず、脳損傷により多少とも身体や認知行動に影響を受けると発症前同様に運転が可能かどうかを医学的立場から評価する必要が生じてくる。特に高齢患者では加齢や元々の骨関節疾患に伴う動作全般の障害があり、自動車運転を続けるには様々なハードルが横たわっている。リハビリ入院中に身体や認知機能の障害は日常生活上の能力として繰り返し評価される。自動車運転はそれと共通した能力に加え、さらに脳の統合的能力が要求される。脳の統合的機能とは大脳連合野機能としての高次脳機能、そのうち認知と運動を結び行動の指令的役割を果たす前頭連合野機能である。

●自動車運転に必要なスキルとメンタルの評価

 必要検査として自動車運転の身体的スキルの評価は理解しやすいだろう。患者は障害発生まで日常的に運転していた場合が大半であるから五感を含む新たな障害がなければ両手両足を使った運転操作に支障ないはずである。手足の麻痺が残った場合には車への乗降、ハンドルやブレーキ、クラッチ操作などで支障があり、これらを解決するか補助する車の改造が必要である。予め対麻痺用や片麻痺麻痺用に改造され、さらに本人が使用する車椅子積載を片手で簡単にできる構造の既製車も売られている。障害と車の構造的問題が解決しても次に操縦上の問題として、反応時間が上ってくる。ブレーキは一定時間内に踏み替えと踏み込む操作が要求される(通常は0.7秒程度)。次いで注意力。注意にはさまざまな側面があり、視覚的注意・配分的注意などが評価される。注意は、高次脳のうち前頭(連合野)機能と関わり、机上検査として、Stroopテストやかなひろいテスト、TMT(A&B)などが行われる。自動車運転評価の多くは、後2者で評価される。TMT(A&B)は、注意の持続と選択を視覚的探索、視覚と手の運動協調の面から評価する。テストAはランダムな25個の数字を線で順に結ぶ。テストBでは数字と仮名を交互に数の昇順、五十音順で結んでゆく。いずれも完成までの時間、誤反応の有無を評価する。図はその実際例である。本例のテストBでは完成に要した時間も誤反応数も多く注意力の低下があると判断される。

TMT(A&B)評価結果の例

自動車模擬運転


●経験例から

 相当以前の話だが前交通動脈瘤破裂くも膜下出血の若い患者でメンタルを含む脳機能障害の回復良く、てんかんのエピソードもない例を経験した。特に本人や家族から自動車運転の是非について相談なく、私自身も指導・アドバイスの必要性を失念していた。自宅退院数カ月後、自動車運転中の自損事故で死亡したことを新聞で知り、呆然とした。現在はリハビリ医療機関と運転免許センターの密な連携があり、このような痛ましい事例はないと確信する。他方、秋田県のような広域で交通不便な環境で生活するには自家用車は生活必需品であり、特に自営業に戻る場合には仕事上も車運転が是非とも必要である。したがって退院時には運転希望の有無、運転可否について必ず確認・評価・指導する必要がある。

○自験例1(KT65歳男性):自営業。仕事上、秋田と実家のある由利本荘を頻繁に往復する必要があり、自家用運転を希望された。右内頚動脈血栓性閉塞で急性期再開通療法が成功した。しかし右半球前方域のまだら梗塞が発生したため、軽度左片麻痺と前頭葉機能障害が残りリハビリを行った。入院中に麻痺はほぼ消失した。記憶検査は正常だが、易怒的で判断力・注意力に難があり、大仙市協和の県立リハセンで自動車模擬運転評価を行った。模擬運転では状況に応じた運転が可能であったが、机上検査で全般的注意力の低下、瞬時視や移動視で左視野に見落としがあり、結果は運転不可とされた。しかしその半年後の再検査では合格となり、保留中の運転免許更新と自家用運転が可能となった。

○自験例2(SK78歳男性):10数年来の右脳血栓で左片麻痺を後遺する。廃棄物処理業自営で自家用運転も普通にこなしていた。しかしここ数カ月前から物忘れがあり、また軽微な自損事故が目立つようになった。MRI画像のフォローアップで左放線冠に新たなラクナ梗塞を発見した。自覚的に障害が悪化した意識はなく、仕事上も自家用運転が必要なため、家族や主治医の免許返上のアドバイスは受け入れ難いようであった。リハセンで自動車模擬運転評価を行った。その結果、模擬運転や机上検査で失点が目立ち、この検査結果から本人もようやく免許返上に応じてくれた。

●高齢者・障害者など移動手段弱者の問題

 障害者に対する運賃割引精度に始まり、2000年の交通バリアフリー法で公共交通機関利用時の物理的障害の一部は解決した。しかし過疎化が進んで生活に必要な公共交通手段自体が乏しくなった。高齢者や障害者はますます遠くへの移動が困難となってきている。障害の程度や有無に関わらず誰もが自由に移動できる手段が必要である。しかし目下のところ、コストに見合う有効な解決策は見当たらない。時間がかかっても一度外出したらワンストップで用を足せる町づくり、コンパクトシティー化の環境整備が必要である。また生活や仕事にどうしても車が必要な場合には、もはや夢ではない段階まで技術が進んできたAIによる危険回避・自動運転可能な構造の自家用車普及が待たれている。

(本稿は2024年8月、由利本荘医師会報NO.602「いいたい放題」に掲載した)






2024年8月17日土曜日

[IS-REC/ISSUES]未就学児対応の外来ST』~これまでの診療活動~

 ●未就学児童のコミュニケーション障害

 現職場に勤務以来、リハ医として児童のコミュニケーション障害を診るようになった。数年前からいくつか関連する書籍を漁り、その中で自分に一番役立ったのが平岩幹夫先生の教科書であった。この書籍については自身のブログ読書録で以前に紹介した(脚注)。さて当院リハ科には県内唯一の認定言語聴覚士(言語発達障害領域)の資格を持つMさんが勤務しており、彼女を頼ってたくさんのケースが紹介されてくる。今回そのようなケースで、オーダリングシステム稼働後の330例を分析したのでその結果の一部を紹介したい。

●紹介元・紹介時年齢・診断病型(図1~3)

 対象330例の紹介元をみると(図1)、Mさん自身も一部関わる由利本荘市とにかほ市の相談健診の場で該当する児がピックアップされてくることが最も多い(177名・54%)。次いで秋田県立医療療育センター小児科からの紹介84名(25%)、市内などの小児科から紹介43名(13%)、そのほかに巡回相談や就学前健診を機に紹介される場合もある。紹介時の年齢をみると(図2)、1歳6カ月から就学直前の6歳11カ月に分布し、5歳児が最も多い。診断病型(図3)は外来STを行う診療報酬との兼ね合いもあり、必ずしも厳密ではない。機能性構音障害が最も多く、192名・58%、言語発達遅滞110名・34%、自閉症・自閉スペクトラム症(ASD)23名・7%、その他5名・2%である。
図1. 紹介元

図2.当院初診時の年齢分布

図3.病型一覧


●病型ごとの特徴と訓練終了時評価(表)

 機能性構音障害は生後、正しい発音が身についていないための構音障害で、口蓋裂など口腔の器質的異常を伴わない場合、適切な指導と訓練で治癒に至るケースが大半である。また器質的異常があっても適切な治療を受けた後の予後は同等である。機能性構音障害192名中164名・85%が治癒、就学前指導としての目標達成が13名・7%であった。言語発達遅滞は県立医療療育センターで診断されたものが多く、該当110名の訓練期間は機能性構音障害より平均1年長く、終了時評価の治癒と目標達成合わせた数は65名・60%であった。ASDもそのタイプや障害要素も様々だが、該当23名の平均訓練期間は言語発達遅滞より長く平均1年10カ月、終了時評価で就学に対する目標達成は14名・61%であった。
表:病型区分と訓練予後

●機能性構音障害

 ある音の発音が正しくできない状態があると、単語レベルから意図した内容が伝わらず家庭や保育園でのコミュニケーシがうまくゆかず何らかの対応が必要となる。そして3歳児や5歳児健診で指摘され小児科医院などに相談が寄せられる。これらは生後、正しい発音が未獲得の構音障害で、機能性構音障害と診断され、“ハビリテーション”(“リハビリ”ではない)が行われ当院外来STでも最も多い。誤りのタイプには子音の省略(sa,ta,ka→a)・子音の置換(ka,sa,si→ta.ta,chi)が多く、音の歪みや付加などもある。これらは訓練開始前後に行う知能を含めたさまざまな検査で予後を図りながら訓練プランが立てられる。誤りのタイプに沿ったプログラムはあるが、児童の発達や障害の程度に合わせて個別的訓練メニューが決まってゆく。訓練予後は最も良い病型である。

●言語発達遅滞とASD

 2022年の文部科学省調査では通常学級で「発達のでこぼこ」のある子が約8.8%(小学生のみで10.4%)を占めるという。病気ではなく、その子が折り合いを付けていく「特性」((京都教育大教授・小谷裕実)と考える。機能性構音障害は治癒に至るケースが多い。一方、言語発達のでこぼこでは言葉自体の発達が遅れ、緘黙状態であったり表出があっても単語レベルで幼児語に留まっていたりすることがある。相手の言葉の聴理解も遅れるている事が多い。訓練開始に合わせた観察や評価で言葉以外も含めた発達のでこぼこを見つけて個別プログラムを立てる。言葉の表出・理解、書き取り、事物操作、などを遊びの要素を交えながら進める。時間を要するが就学前に支援目標に半数以上が達している。さて、自閉症・自閉スペクトラム症(ASD)の診断例が増え、当院外来STへの依頼も増加している。言葉が出にくい、落ち着きなく動き回る、視線を合わせられない、他の子供と遊べない、等の言葉以外の症状も目立つのがその典型例である。ASDは外来STでの包括的支援のみで困難だが、担当STはその子の特徴や発達の度合いを総合的にみて対応を検討する。言葉が出せなくても人と関わる力をつけると意欲が出て生活力がつき課題のおおまかな改善が図られて指導目標達成に至る事が多い。無理に話させるとかえって失敗するので言葉によるコミュニケーションにこだわらないように親や学校にアドバイスする。比較的短期間で外来STが終了する場合があるのはこのためである。

●地域完結型医療として

 総合病院より専門病院、一病院完結型から地域完結型病院へと舵が切られている。リハビリの中でも小児に十分対応できる施設は限られており、特に精神・身体面、言語コミュニケーションに関わる小児発達障害を扱える施設は秋田県に限らず非常に数少ない現状である。当院では専門性高い分野の資格と知識・経験を持つSTが常駐する。当院リハ科外来で小児コミュニケーション障害も取り扱い可能であることを是非知っていただきたい次第である。

---------(脚注)-----------
https://akitanoichirosayama.blogspot.com/2018/04/is-recbook.html

(本稿は2024年8月、秋田医報NO.1627「銷夏随想」に掲載した)




2021年9月2日木曜日

[IS-REC/ISSUES]秋田県の無料広報雑誌「楽園」NO.65(令和3年6月1日)号掲載

 秋田県の無料広報雑誌「楽園」(平成22年~)は、中高年向けの健康記事を掲載しています。冊子は、 県内(銀行、図書館、宿泊施設、協力医療施設)および県外のアンテナショ ツプに設置されています。本稿はその65号(令和3年6月1日号)に掲載されたものです。

『養生のヒント  ~あなたは、“元気老人?”それとも“フレイル?”』


○リハビリ病院の患者さん達

        入院リハビリを受ける、それは日常生活が困難となる何らかの原因があって、急性期治療後も家に帰ることが出来ず、生活機能の回復を図る入院です。入院理由は要介護・寝たきり原因とほぼ共通。その主な原因は、認知症・脳血管疾患・高齢による衰弱・転倒後の骨折などが挙がっています(厚労省2019)。リハビリ入院はその中でも良くなると期待されるケースなので、認知症患者は除外されます。

○リハビリ入院患者に、“元気老人”はいない!

    
        リハビリ入院患者は、“アラエイティー(80歳前後)”で、フレイル、すなわちヤセで低栄養・筋量低下(サルコペニア)・活動量低下、が共通しています。フレイルでは握力が落ち、両下腿が細くなり、低栄養状態で、意欲・体力なく、栄養の改善を図らないとリハビリ実施は困難です。

○フレイルだから要介護や寝たきりとなる!

        一般にフレイルは老化に伴う心身機能低下と考えがちですが、老化の必須プロセスではありません。事実、私たちの身の回りには高齢でもたくさんの“元気老人”がいます。一方、徐々に食が細くなり痩せてきた、外出しなくなった、外出時には信号機のある横断歩道を渡り切れなくなった、などの症状があればフレイルの可能性が高くなります。フレイルになると簡単に骨折する、食事の偏りや低栄養、脱水から脳卒中・心筋梗塞などに罹患する、また認知症を発症する、などの可能性が高くなります。


○フレイルを予防して健康寿命を伸ばそう!

        寿命自体の調整は困難です。しかし細胞や遺伝子レベルで寿命制御機構が発見され、
実験動物から人の長寿化の試みが現実化しつつあります。他方、老化はプロセスであり個体差が大きく、個人の生活習慣に大きく左右されます。老化に抗して健康寿命を延ばしフレイルを予防するには日常の栄養が最も大切。高齢になるほど淡白で粗食を好み、また生活時間が不規則、食事も朝昼兼用、夕食が夜食となる、などのケースがみられます。三食をきっちりとる、魚肉・鶏肉など、蛋白質を多く食べ、副食多く主食は特に夕方に少なめとする、これが基本です。また自分の歯を残すように定期歯科健診を受け咀嚼力、口腔・嚥下機能を維持してオーラルフレイルを予防します。身体運動能力の維持・改善には毎日の運動が必要。朝のラジオ体操、また仲間と一緒に出来る運動などが良いでしょう。ウォーキングは速歩で息がはずみ汗をかく程度の負荷で行います。社会参加の面では、可能な限り就労を続けます。そうでない場合にはボランティア活動、友人とのおしゃべり・会食、または観劇などの文化活動も望ましいことです。これらの点に心がけるのはもちろん大切ですが、生活習慣病で治療を受けている方はかかりつけ医の投薬と指導で治療を中断しないようにしましょう。老化というプロセスからフレイル、サルコペニア、そして認知症を予防して要介護状態に陥らずに、いつまでも元気老人でい続けられるかどうかはあなたにかかっているのです。

2021年1月2日土曜日

[IS-REC/ISSUES]『湯に浸かって健康になる』

●温泉通い

 由利本荘市の本荘公園に近い鶴舞温泉は、家から歩いてすぐの所である。元々、温泉好き夫婦なので週2、3度は回数券を買ってここに通っている。時に医師会長W先生やいつも医師会病院に往診いただくS先生、また私のかかりつけである御門歯科O院長先生などとも一緒になる。気泡浴や露天風呂、サウナなどを利用して温泉を楽しむ。温泉から家に帰るともう時間は午後8時半過ぎ。後はもう寝るだけの生活である。温泉通いは秋田では秋田温泉へ。しかし温泉まで車30分の距離。いくら温泉好きでも月にせいぜい2度か3度がやっとだった。由利本荘市での生活ではワイフが遊泳館で毎日水中ウォーキングを楽しみ、夜は夫婦で鶴舞温泉に通う生活。近くにプールも温泉もある由利本荘市の生活満足度は秋田市に比べて相当高いこととなる。

●物理療法としての温泉

 過日、秋季リハビリ医学会総会があり学会の研修講演を連続して聴講した。その中の一つは温泉医学・物理療法。演者のM教授(国際医療福祉大学)はリハビリ医学でも少し毛色が変わっており、温泉医学を中心に現在も活躍している。今回の研修講演内容は物理療法・温泉療法オーバービュー。彼の解説では、温熱や電気を使い機能回復や疼痛緩和を図る物理療法(物療)の歴史は古く、記紀の神話世界からその記述があり、近年では江戸時代から明治・大正・昭和の戦前にも物療が盛んに行われたという。特に温泉は言わずもがな昔から日本人に欠かせない娯楽や療養手段であった。講演ではこの温泉の効用を温泉医学の立場から様々解説してくれた。温泉は温熱の一般的効果に加え、入浴中の体温上昇が早い(炭酸泉)、浸かった後の保温効果に優れる、リラックス効果も大きい(特に塩化物泉)等々で、実際の実験データを示しながら検証結果を説明した。また疫学研究で温泉の定期的利用者群とそうでない群の比較で大血管病や骨折リスク、死亡リスクが低かったことも話された。温泉の直接的効果については、“疼痛性疾患、関節拘縮、血行不全、肩手症候群、失調症状、褥瘡などの症状緩和や治療に役立つという。

●“ヒートショック”と“ヒートショックプロテイン(HSP)”は別物

 冬場のこの時期、特に東北地方の寒冷地仕様ではない戸建て住宅に暮らす多くの高齢者は風呂場で倒れることが多い。その大半は“ヒートショック”と言われ、注意が喚起されている。これは暖房のある暖かな部屋から寒い脱衣所、さらに冷えた浴室に入り、血圧の急上昇をきたす、さらに浴槽に浸かって血管が開くなど、急激な体温変化が原因となって血圧上昇下降があり、心筋梗塞や脳卒中を起こすというものだ。冬季の救急搬送はこの“ヒートショック”に因るものが多い。入浴前に脱衣所や浴室を前もって十分暖めて置くことが事故防止上、肝要である。さて、“ヒートショックプロテイン(HSP)”はこの高齢者浴室事故の原因、“ヒートショック”とは全く別物だから少しややこしい。HSPについて一般向け書籍を出している伊藤要子氏の「加温健康法」(法研2013)によると、HSPとは熱ストレスで増加する組織修復タンパク質のこと。脳卒中後の急性期に組織修復に働くタンパク質として、しばしば登場するので脳卒中を専門とする医師には結構馴染み深いタンパク質である。「加温健康法」で紹介される事例では、ネズミやウサギを使ったストレス実験でそのストレス負荷の前に加温時間を入れるとそのストレス緩和効果は絶大だという。また実生活上では、スポーツ選手のトレーニングメニューにマイルドな加温(サウナや入浴)を入れると入れないとではその疲労回復程度やスポーツ記録で相当の差が出るという。実際、カナダでの冬季オリッピックの際、日本選手が試合直前にサウナを利用し好成績を挙げたそうである。このHSP(特にHSP70)は体内に増加しても特段の副作用発現はない。また自己の工夫で体内に増やすことも比較的容易である。入浴で適度な熱ストレスを与えるとHSPが増加する。入浴中の体温を2度上昇出来れば、HSP増加は確実だ。体温を上げる運動や食べ物も有効だが、無理な運動は余分な酸化ストレスも増やすので前準備が必要となる。薬では抗潰瘍薬セルベックスの有効成分GAAによりHSPがふえるという。こういった事実から美容医学や抗加齢医学でしばしばHSP上昇法が紹介されている。

●和温(WAON)療法

 慢性心不全の高齢者が増加している。リハ医学進歩の恩恵を受けて、近年急性心筋梗塞後の心臓リハビリテーションの施設要件が緩和され、多くのリハ施設で心臓リハが取り組まれるようになっている。それでも循環器科や心臓血管外科が併設された病院や循環器センターなどでないと、なかなか一般のリハ施設で心臓リハを行う敷居は高い。ところが最近、我々の病院でも様々な障害で入院してくる高齢者の多くが慢性心不全や腎不全などの既往疾患を抱えている。否が応でもこういった心不全患者の治療を続けながらリハビリを行うこととなるのだ。さてこの十数年以来、HSPの組織修復や機能回復作用を利用した、低温サウナ浴による慢性心不全治療「和温(WAON)療法」が認知されるようになってきている。この4月に保険適応され、慢性心不全高齢者のリハビリにも応用されている。これは鹿児島大学の鄭忠和教授の開発によるもので、“日本循環器学会の慢性心不全に対するガイドラインにクラスIとして掲載され、「高度先進医療」として承認”されている(「和温(WAON)療法」ホームページから)。一人利用のサウナが“和温療法器”として市販され、低温サウナであるので治療の危険性は少なく、管理も比較的容易なようだ。一般の病院ではこの和温療法器を使って治療する。残念な事に東北地方では仙台の東北大学リハビリテーション部の一施設のみで可能。慢性期で高齢者のリハビリを行う施設にはもっと普及して欲しいものだ。

●“体温を上げて健康になる”

 10年ほど前、斉藤真嗣著「体温を上げると健康になる」という本がベストセラーとなった。この本はオーディオブックにもなって更に読まれるようになった。また最近では雑誌「アエラ」で「体温で24時間を整える」という特集記事があり、体温と生活リズムの関係、自分で熱を作り出す効用などを解説していた。最近は特に女性で低体温者が多く、コロナ感染のスクリーニングに体温を測定すると、その低体温ぶりには驚かされる。もっとも体温計自体の問題もある。サーモグラフィーによる非接触型や、脇の下や口中で測定する接触型でも15~25秒で結果が表示される予測値で実測値をみない体温計の信用性は乏しい。いずれ体温を上げると身体の免疫力(?)が上がって身体能力がアップし病気・障害に対する抵抗力が上がるのは間違いなく、我々はコロナ感染予防のためにも体温を上げる工夫と努力が必要である。

●実測体温計をくわえて湯に浸かる

 温泉に比較して水道水を使う自宅の風呂では浴槽に浸かってじっくり時間をかけないと、なかなか体温は上がってこない。我が家の風呂温度は43度。通常は41度前後の家庭が多いので、慣れないと43度は結構熱いと感じるだろう。43度の湯に浸かり実測体温計を口にくわえて体温を測る。2度上昇するのに約7~8分、42度で約10分、41度では15分かかる。もっと短時間に体温を上げたいなら炭酸入りの入浴剤を使う。いずれにせよ体温上昇効果は温泉浴に敵わない。入浴や温泉などに浸かってHSPを上昇させる、高価なサプリや薬を使わなくとも、身近なところに比較的安価な方法で適う健康法があるのだ。その健康法を自ら実践するため、“今日は温泉に行くか、じっくり自宅の風呂に浸かるのか”、夕食時からあれかこれかと悩む毎日なのである。

●参考図書・Web-URL

1)伊藤要子著「加温健康法」(法研2013)

2)斉藤真嗣著「体温を上げると健康になる」サンマーク出版(2009/6)

3)和温療法:http://www.waon-therapy.com/message.html

4)アエラ2020年11月23日号

(由利本荘医師会報2021年1月『新春随想』掲載)

2020年12月12日土曜日

[IS-REC/ISSUES]リハビリ科入院からみた栄養障害と胃瘻造設~

※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報O558(2020年12月号)

●リハビリ高齢者の多くはフレイル状態

“毎日体重当たり1gのタンパク質、野菜料理と主菜の3食、


汗をかく運動週2回以上”・・、フレイル予防に必要な食事や運動について新聞・雑誌などでさまざま情報提供され、ある程度健康意識があればどこかで必ず見たり聴いたりしていることだろう。100歳以上高齢者が全国で8万人を超え、秋田県でも748人。少子高齢化が進み高齢化率は秋田県で38%。経済力に大きく左右される生活と健康は高齢者に限らず社会の二極化が進み、健康で自立生活を送る“元気高齢者”は普段から自分の健康に関心を持って食と運動に心がける。したがってフレイルや入院を必要とするリハビリにも縁遠い存在だ。一方、メディア・リテラシーは経済的余裕のない生活では当然。“フレイル”という言葉を知っている国民は4割に過ぎない。何らかの障害を抱え自立生活が困難となり入院するリハビリ科患者さんはその多くが入院以前からフレイルを通り越した要介護状態である。80-90/50-60の家族構成で同居する娘・息子に離婚者の多いことにも驚かされる。入院時に身体や栄養でフレイル状態から脱しておらず、“リハビリ栄養”として訓練開始に並行して栄養管理が必要となる。“燃料なくして車は走れない”。

●経口摂取・嚥下障害

国民生活白書2019年の死因統計をみると、“肺炎”・“誤嚥性肺炎”が合わせて死亡原因の10%、それぞれ、5、6位を占める。第1~4位を占める疾患でも実際には相当多くが肺炎・誤嚥性肺炎を合併した死亡であり、高齢者死亡原因の多くは(誤嚥性)肺炎と考えられる。“オーラルフレイル”という言葉があり、適切な栄養を摂り続けるために歯の状態や嚥下機能を維持することがフレイル予防上重要とされる。リハビリ入院高齢者の多くは歯牙欠損や義歯不適合など、歯科的問題による経口摂取困難な問題を抱えている。そういった場合に歯科医から往診を快諾していただけるのは有り難い。背景の加齢や認知症、脳卒中などで、“口から食べられない”、“食べる、食べさせると、誤嚥を繰り返してしまう”ケースも多い。最近は急性期病院からの継続入院で嚥下障害が問題となる場合だけではなく、施設入所中に食事量が急激に減少したり、誤嚥による発熱を繰り返して嘱託医から紹介されるケースが増加している。2013年、入所者の85歳女性がおやつのドーナツを食べた後に窒息死、介護に当たっていた准看護師が業務上過失致死に問われることがあった。この8月、その上告審で無罪が確定、施設関係者は大いに安堵した。嚥下困難がある施設入所者には同様なリスクがついてまわる。だからこそ適切な医療的判断や対応がなくてはならない。

●“安易に胃瘻を作る?!”

内視鏡的に胃瘻を作るのは治療手技として確立している。日本で胃瘻造設(PEG)が行われ始めた頃、経口摂取が困難だととにかくPEGを行ってしまう施設が急増した。リハ科で行うPEGは機能回復治療の一環であり、栄養障害を治療しながら経口摂取再獲得を目指す。したがって胃瘻造設前後の嚥下評価と嚥下訓練は欠かせない。胃瘻について患者家族の立場や終末期医療を担う医療者側から様々な批判がなされ、過剰医療として現在は“安易に胃瘻を作る“ことはなくなった。

●胃瘻を作って良い場合、控える場合

未だに長期間の経鼻胃管挿入で薬剤や物理的身体抑制を行っている悲しいケースが多い。経鼻胃管や持続点滴時のトラブル予防のために抑制することは医療者の都合であり、患者には大いなる苦痛を与える。したがってGrengerなどの脳卒中教科書にはその長期化は厳に慎むべきと書かれている。栄養評価や嚥下評価の結果、経口で栄養維持が困難と考えたケースは速やかにPEGを検討する。家族や本人に、PEGは経口摂取を否定するものではなく造設後も口から食べられる食材やその形態を検討し、また嚥下機能回復を目指した訓練を行う旨を説明する。IM(80歳)さん、SK(84歳)さん、SA(87歳)さんなど、最近でも特に施設に戻られた患者さんでは胃瘻と経口摂取を併用して安全な施設ケアと本人・家族の満足度高い生活が可能となっている。他方、経口摂取が不十分でも代替栄養の併用を望まない家族もいる。最近ではYR(92歳)さんがその例で、食事摂取が減少しても最終的看取りは自宅でしたいとの申し出あり、胃瘻造設は行わず退院した。このような胃瘻など代替栄養を望まないケースでは施設入所継続は困難である。でも本人や家族にとってはとても望ましい選択肢である事に違いはない。


●胃瘻は終末期の医療と矛盾しない

残念ながら「人生会議」(ACP)で終末期医療に関する本人の明確な意志表示された例を未だみたことがない。“ピンピンコロリ”は望ましいが、多くは長い寝たきり・要介護状態で終末期を過ごす。体力低下に伴って食べるのも苦痛であり、食べた時のむせ込みはもっと苦しい。まして経鼻胃管の挿入を強いるのは医療者側の都合でしかない。未だに現場を良く知らずに、“胃瘻は終末期に不要”と言われる方が多い。しかし胃瘻は癌性疼痛を和らげる麻薬と同じ緩和医療であるのだ。

 2020/12(由利本荘医師会報『言いたい放題』に掲載)

※医師会報掲載の関連記事は以下の通りです。

過去に記述した関連記事

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