2020年12月12日土曜日

[IS-REC/ISSUES]リハビリ科入院からみた栄養障害と胃瘻造設~

※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報O558(2020年12月号)

●リハビリ高齢者の多くはフレイル状態

“毎日体重当たり1gのタンパク質、野菜料理と主菜の3食、


汗をかく運動週2回以上”・・、フレイル予防に必要な食事や運動について新聞・雑誌などでさまざま情報提供され、ある程度健康意識があればどこかで必ず見たり聴いたりしていることだろう。100歳以上高齢者が全国で8万人を超え、秋田県でも748人。少子高齢化が進み高齢化率は秋田県で38%。経済力に大きく左右される生活と健康は高齢者に限らず社会の二極化が進み、健康で自立生活を送る“元気高齢者”は普段から自分の健康に関心を持って食と運動に心がける。したがってフレイルや入院を必要とするリハビリにも縁遠い存在だ。一方、メディア・リテラシーは経済的余裕のない生活では当然。“フレイル”という言葉を知っている国民は4割に過ぎない。何らかの障害を抱え自立生活が困難となり入院するリハビリ科患者さんはその多くが入院以前からフレイルを通り越した要介護状態である。80-90/50-60の家族構成で同居する娘・息子に離婚者の多いことにも驚かされる。入院時に身体や栄養でフレイル状態から脱しておらず、“リハビリ栄養”として訓練開始に並行して栄養管理が必要となる。“燃料なくして車は走れない”。

●経口摂取・嚥下障害

国民生活白書2019年の死因統計をみると、“肺炎”・“誤嚥性肺炎”が合わせて死亡原因の10%、それぞれ、5、6位を占める。第1~4位を占める疾患でも実際には相当多くが肺炎・誤嚥性肺炎を合併した死亡であり、高齢者死亡原因の多くは(誤嚥性)肺炎と考えられる。“オーラルフレイル”という言葉があり、適切な栄養を摂り続けるために歯の状態や嚥下機能を維持することがフレイル予防上重要とされる。リハビリ入院高齢者の多くは歯牙欠損や義歯不適合など、歯科的問題による経口摂取困難な問題を抱えている。そういった場合に歯科医から往診を快諾していただけるのは有り難い。背景の加齢や認知症、脳卒中などで、“口から食べられない”、“食べる、食べさせると、誤嚥を繰り返してしまう”ケースも多い。最近は急性期病院からの継続入院で嚥下障害が問題となる場合だけではなく、施設入所中に食事量が急激に減少したり、誤嚥による発熱を繰り返して嘱託医から紹介されるケースが増加している。2013年、入所者の85歳女性がおやつのドーナツを食べた後に窒息死、介護に当たっていた准看護師が業務上過失致死に問われることがあった。この8月、その上告審で無罪が確定、施設関係者は大いに安堵した。嚥下困難がある施設入所者には同様なリスクがついてまわる。だからこそ適切な医療的判断や対応がなくてはならない。

●“安易に胃瘻を作る?!”

内視鏡的に胃瘻を作るのは治療手技として確立している。日本で胃瘻造設(PEG)が行われ始めた頃、経口摂取が困難だととにかくPEGを行ってしまう施設が急増した。リハ科で行うPEGは機能回復治療の一環であり、栄養障害を治療しながら経口摂取再獲得を目指す。したがって胃瘻造設前後の嚥下評価と嚥下訓練は欠かせない。胃瘻について患者家族の立場や終末期医療を担う医療者側から様々な批判がなされ、過剰医療として現在は“安易に胃瘻を作る“ことはなくなった。

●胃瘻を作って良い場合、控える場合

未だに長期間の経鼻胃管挿入で薬剤や物理的身体抑制を行っている悲しいケースが多い。経鼻胃管や持続点滴時のトラブル予防のために抑制することは医療者の都合であり、患者には大いなる苦痛を与える。したがってGrengerなどの脳卒中教科書にはその長期化は厳に慎むべきと書かれている。栄養評価や嚥下評価の結果、経口で栄養維持が困難と考えたケースは速やかにPEGを検討する。家族や本人に、PEGは経口摂取を否定するものではなく造設後も口から食べられる食材やその形態を検討し、また嚥下機能回復を目指した訓練を行う旨を説明する。IM(80歳)さん、SK(84歳)さん、SA(87歳)さんなど、最近でも特に施設に戻られた患者さんでは胃瘻と経口摂取を併用して安全な施設ケアと本人・家族の満足度高い生活が可能となっている。他方、経口摂取が不十分でも代替栄養の併用を望まない家族もいる。最近ではYR(92歳)さんがその例で、食事摂取が減少しても最終的看取りは自宅でしたいとの申し出あり、胃瘻造設は行わず退院した。このような胃瘻など代替栄養を望まないケースでは施設入所継続は困難である。でも本人や家族にとってはとても望ましい選択肢である事に違いはない。


●胃瘻は終末期の医療と矛盾しない

残念ながら「人生会議」(ACP)で終末期医療に関する本人の明確な意志表示された例を未だみたことがない。“ピンピンコロリ”は望ましいが、多くは長い寝たきり・要介護状態で終末期を過ごす。体力低下に伴って食べるのも苦痛であり、食べた時のむせ込みはもっと苦しい。まして経鼻胃管の挿入を強いるのは医療者側の都合でしかない。未だに現場を良く知らずに、“胃瘻は終末期に不要”と言われる方が多い。しかし胃瘻は癌性疼痛を和らげる麻薬と同じ緩和医療であるのだ。

 2020/12(由利本荘医師会報『言いたい放題』に掲載)

※医師会報掲載の関連記事は以下の通りです。

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