2024年1月10日水曜日

IS-REC/ISSUES]『スマートウオッチと遊ぶ』

●大学同期会

 コロナ流行数年前の開催以来5年以上を経て、つい先頃大学医学部の同期会が開かれた。卒業から半世紀近い年月を過ごし古希をとうに越しているにも関わらず同期入学・卒業の半数に近い面々が元気に参集した。個々人のスピーチは卒業後の足どりと近況が主であったが、多忙さから一段落した我々の年齢では仕事以外の趣味やボランティア活動に触れた内容も多くなった。世代は皆一様なのだが仕事以外のそういった話はつい熱が籠もって若さを感じる。そして学生時代の生活からは想像に難い多彩な趣味やボランティア活動に打ち込んでいる旧友の話を聞くと、自分もまた楽しく、誇らしく思ってしまう。体型や風貌は人それぞれで大病を患った話も聞いたが、それとは別に何かに打ち込んで生活している姿にはつい若さと元気を感じてしまう。そして仕事に振り回されず自分の好むところに打ち込める時間や期間、空間は既に限られているだけに多忙極める自らの現在の姿を恨めしく思ったりもする。

●趣味の遍歴

 時間の多くを仕事に費やす生活は職業柄、致し方なかった。しかしこれまで仕事一筋だったかと問われれば決してそうではなかった。仕事に利用するとの口実で、パーソナルPCやワープロはそれが出始めた頃から嬉々として使っていた。デジタル原稿や学会スライド作成、また症例データベースの作成、健康ドック対象者のカルテ作り等も手がけて結構楽しんでいた。また、“ノマドワーカー”よろしく、デスクトップPCやノートPCを何台も揃えて同一環境を構築して仕事をこなし悦に入っていた。そのうち、自作PCに凝りだし、マザーボードと筐体をあれこれ組み合わせ最速・最強PC作成に打ち込んだ。昔は脳外科医としてマイクロサージェリーを行ったが、歳とともに視力は衰え、マイクロの眼も指先もすっかり駄目になった。自作PCの細かい作業はもう困難となった。

●健康管理とガジェット

 歳をとって生活習慣病に悩まされることが多くなった。リハビリ医となって、一般の方々や患者さんに健康講話をしたり、診療場面で生活上の健康アドバイスをする。自分の健康管理もできないで患者の指導もないだろうと、健康関連の本を読み漁ったり、雑誌や新聞の切り抜きをするようになった。紙媒体のデータベースをPC上に作り、それを機会ある毎にスライドや講話にまとめた。自分の趣味との接点では、体重や血圧・脈拍、運動指標の歩数・歩行距離・消費カロリー・脂肪燃焼量など記録するようになった。記録手段はノートなどに書き留めるのではなく、測定機器から直接スマホに記録する方法で、データを一括管理できるように測定機器は概ねオムロンに統一した。数年前、クラウドファンディング(CF)で理論上、経皮的、非侵襲的に血糖を持続モニタリング(CGM)可能なことを知り、そういったスマートウォッチ型の機器開発が手がけられていることから早速CFに応募した。見本も完成していてすぐにも実用化されるものと期待した。しかし精度管理上の問題がクリアできないらしく3年以上も経った今もも市販はされていない。

●持続血糖モニタリング(CGM)

 糖尿病管理や食事管理、体重管理には持続血糖測定(CGM)が有効である。スマートウオッチで非侵襲的にCGMが可能となるのを目前にしている。しかしそれを待ちきれずにCGM可能なFreeStyle Libre(Abbott社)とNight Rider(Ambrosia社)を使ってCGMを開始した。スマホとスマートウォッチに同時に5分毎の血糖値が数値やグラフで確認可能である(写真)。食後高血糖や食べ過ぎの高血糖時間間延長、長時間運動時の低血糖などをスマートウォッチで簡単に知ることができる。高血糖や低血糖のアラームも可能である。

●スマホからスマートウオッチへ

 スマホについてはいつしか人並みに携帯電話やメールのやり取りに使い始め、現在はさまざまな辞書機能・治療薬・臨床ノートの参照機器として、趣味より仕事や日常に欠かせないツールとして使用している。一方で活動量測定など、健康機器として使い始めたスマートォッチは、機能が飛躍的に進歩して、その便利さ、多機能さから今の自分をまったく虜にしてしまった。今、同系統機種の最新版「TicWatch Pro 5」を使用している。シンプルで見やすいなデザイン、快適でサクサクした操作性はまさに遊び心をくすぐるガジェットである。Wear OSの機能で必要な機能のインストールも可能で、定番のスケジュール機能と付随するリマインダーやアラーム機能、メールやニュースの通知機能など、ポピュラーな機能の視認性は当ウオッチが抜群である。健康管理機器として不整脈検出可能な脈拍・心拍数計測、酸素飽和度などがあり、基本的なバイタルチェック、体調管理に活用している。またスポーツウォッチとして運動種目に応じた運動量測定が可能で体操や筋トレ・トレッドミル走など、楽しさより継続に多少の努力が必要な運動にもモチベーションを維持する役割を担ってくれている。スマホを鞄やポケットから出し入れするのは格好よいものではない。スマートウォッチをそれとなく眺めて時間や情報を確認したり、アラーム機能をセットしてスケジュールを時間通りに行動する。私お好みのスマートウォッチは仕事と両立した上に自分の遊び心を大いにくすぐる必須アイテムである。

(本稿は2024年1月、秋田医報NO.1620「新春随想」に掲載した)





(写真説明)スマートウオッチの持続血糖モニタリングの表示結果画面. 
5分おきに血糖値がグラフと値で表示されている.




2024年1月7日日曜日

IS-REC/ISSUES]『ながら運動とオーディオブック』

 ●運動・食事と健康長寿

 ウォーキングの効用が繰り返し強調されている。健康寿命延伸には身体的フレイルを予防する、そのためには適切な運動と食事が必要である。ウォーキングはその最も有効な手段であり、“1日8000歩で病気予防、そのうち20分間を大またで力強く歩く、歩数や頻度が増えても死亡の減少率はほぼ同じ”(朝日新聞「知っ得・なっ得、正しい歩き方2・歩くとどんな効果が?」2023年11月25日号)などと具体的に目標と方法が書かれている。医学雑誌やその関連記事を読んでもおおよそ同じである。日常の身体活動量低下が問題であり、身体的フレイル予防にウォーキングなど有酸素運動や筋力トレーニング継続が有効である。また食事については良質な高タンパク食の摂取が勧められている。しかし食事はともかく、結構まとまった時間を要する運動を続けるのは決して容易ではない。私自身はリハビリ医として障害のある患者さんや高齢者に障害予防や健康維持の必要性、そのノウハウを話す機会が結構多い。そんな時、自らどれだけ実践しているかがいつも気になる。好きなだけ食べ、肥満して筋力衰え、動作ものろのろしているようでは、たとえそれが加齢の影響であっても誰も話に耳を傾けてくれないだろう。障害の悪化予防や健康長寿を伝えるにはその理屈以上に自ら実践しているという心身の張りや自負、自信が必要なのだ。

●運動継続の工夫

 運動継続にはそれを“習慣化する力”が必要だ。しかし多少でも辛いと感じる事は気合や掛け声、まして他人の促しでできるものではない。時間が限られる現職生活では尚更だ。誰かと一緒に運動するのも一つの工夫。朝早く夫婦や仲間を集ってウォーキングするのをよく見かける。私は娘婿の早朝ラジオ体操や筋トレ習慣を真似て、メールで互いに励まし合いながら毎朝実践できるようになった。しかし仕事から帰り、その日の歩数を万歩計で確認すると、せいぜい3000歩程度。8000歩にはほど遠くガックリ。帰宅してからの運動や何かにと予定の入る事が多い週末に運動をプランするのはやはり時間的のみならず精神心理的にも負担が大きい。運動を習慣化するには何らかの“奥の手”が必要だ。

●“読む”から“聴く”読書へ

 読書は若い頃からの習慣で、水上 勉や松本清張、高村 薫、宮部みゆきなどの社会派推理小説、五木寛之、遠藤周作、三浦綾子などのロマン派長編小説を読み、また仕事がらブルーバックスの脳科学など、サイエンスものもよく読んでいた。しかし視力の衰えとともに、最近は“ツンドク”はやっても通常の読書はだんだん億劫で難しくなくなってしまった。そんな頃、“耳で聴く読書”を知った。当初、 遠藤周作『沈黙』や水上 勉『雁の寺』などの名作をCD-ROMで購入し聴いた。夢中になり床についても聴いて寝不足になったが、確実に読書に代わる新しい趣味・習慣となった。そのうち、ネット上のオーディオブック、特にアマゾンのaudible.comから日本語版が出るようになり、有料会員となった。audible.com日本語版の収録作品が増え、一時収録作品が読み放題であったため、吉川英治の『新・平家物語』や『三国志』など歴史小説の大著を次々と聴いていった。そしてこの“聴く読書”と屋外ウォーキング、自宅でのトレッドミル運動とが自然に結びつくこととなった。屋外ウォーキングは市内の子吉川河川敷を本荘インター付近からその河口近くまで10数キロを2時間ほどかけて、ネックスピーカーからのaudible作品を聴きながら歩く。そして犬の散歩やサイクリングを除いて、同じウォーキングをしている多くの人もそういったmusic playerを聴きながら歩いているのに気づかされた。

●運動しながら“聴く読書”:認知症予防のDual Task

 毎日運動を継続する秘訣は私の場合、このaudible.comを聴く楽しみと運動を組み合わせた事だった。相当以前に秋田セントラルクラブで本を読みながらトレッドミルに上がって運動している強者をみかけたが、トレッドミル上を歩いたり、河川敷を歩きながら“聴く読書”はずっと容易に運動と読書のDual Taskを可能にしてくれた。帰宅して夕食後のトレッドミルも聴きかけた作品の続きが聴きたくて全く苦にならなくなった。毎日1万数千歩の歩数と距離も現在は当たり前となって、fltnessにも成功した。また最近物忘れが多く、自身の認知症を心配したり相談を受けたりするが、運動と“聴く読書”のDual Taskはその予防にも多少貢献しているのではないかと密かに思っている。

※本稿は、由利本荘医師会報NO.595「2024年新春特集号」“新春随想”に掲載した




IS-REC/ISSUES]嚥下障害と胃瘻造設

●当地域と当院の現状

  秋田県の高齢化と人口減少が進んでいる。最近、秋田市の人口総数が自然減で30万を割った事が報じられた。由利本荘地域では、2021年~2023年の2年間で由利本荘市7.5→7.18万人、にかほ市2.5→2.27万人と5000人以上の自然減がみられ、また超高齢化も進んでいる。要介護者や要介護者に占める認知症高齢者も多く、由利本荘市の統計では、2022年12現在で要介護認定5695人、集計時期は多少ずれるが、2023年7月までの要介護者認知症判定3528人で6割程度の要介護者が認知機能低下を合併している。この要介護認定に前後してリハビリを含む入院治療が当院に期待されている。入院目的はさまざまだが、急性疾患や外傷・骨折などで寝たきり、在宅生活が困難となって、その後の社会生活の道筋をつけること、入院治療・リハビリに多少なりとも介護やケアの軽減を期待されたものである。他方、全身状態が不良か、若しくは老衰状態で看取り目的の入院となるケースも半数以上を占めている。一月当たりでみると、死亡を含む退院患者が入院を上回る出超の月も多い。看取り以外の入院患者では紹介もとからの治療継続とともに、寝たきりによる廃用とその予防を目的に身体リハビリが行われる。また嚥下機能低下による栄養失調や誤嚥性肺炎治療後の栄養改善、嚥下評価・リハビリ目的の入院も多くなっている。

●嚥下障害入院の現状

 2022年10月から2023年10月末までの13カ月間に、嚥下障害・嚥下困難(ICD10でR13)の診断で入院対応した延べ総数は、入院総数465名中、67名(14.4%)であった。うち当院併設の介護医療院入所を含む入院ないし療養中は19名。現時点での転帰は死亡22名(33%)、経鼻胃管17名(25%)、嚥下調整食による経口摂取回復15名(22%)、胃瘻造設(PEG)9名(13%)、静脈栄養4名(6%)であった。嚥下障害患者は原則、嚥下評価として嚥下内視鏡(VE)、可能であれば嚥下造影(VF)を行うが主治医の判断で嚥下評価う行わない場合もある。胃瘻造設を行った例は全例、造設前にVEを行い、PEG後の栄養改善で車椅子座位がとれるようになったケースでは、VFを実施して気晴らし的となるが安全に経口摂取可能な食材・食種や食形態を検討している。認知機能が低下して経口摂取を拒否したり望まなかったりするケースはPEG栄養のみとなる。しかし身体機能が改善して座位が可能となり食思のあるケースでは、嚥下評価と造設後の嚥下訓練で何かしらの経口摂取が可能となっている。

●嚥下訓練とPEGの果たす役割

 嚥下障害が脳卒中急性期にみられるケースでは、当初経鼻胃管栄養を行っても、時間経過で十分な経口栄養を取り戻すことが多い。回復の予測は病変の広がりや陳旧性脳病変の有無、発症時年齢で予測可能である。しかし、むせ込みや嗜好の変化、体重減少などの嚥下障害の兆候が認められて数カ月以上経過しているケースでは、紹介時の脳画像で脳萎縮による両側島回の露出、硬膜下水腫、ラクネの多発を認めることが多い。臨床的には偽性球麻痺であり、嚥下障害に加えて構音障害や嗄声があり、認知機能低下を伴っていることが多い。このような場合、経口栄養のみでの生活体力維持は困難と判断される。ある程度の経口摂取が可能で身体機能の著しい低下がないケースでは、嚥下訓練で嚥下調整食(軟食やトロミ食などの嚥下治療食)で退院出来る場合も多い。しかしその後に再び誤嚥を起こすことがあり、その場合、栄養の安全弁にPEGを造設を勧めている。

●嚥下障害の予後

 嚥下障害の原因や発症後の期間、年齢や認知症の有無でその予後はさまざまである。しかし生命や体力維持のために何らかの栄養手段が必要である。重度の認知症や意識障害でない限り、生命維持に必要な栄養を手足を抑制して経鼻胃管や静脈栄養で行うことは患者に苦痛を強いる事になり賛成出来ない。また抑制を良しとしない施設入所も困難である。たとえ高齢であっても、また終末期であっても意識がある限り、苦痛を与えない緩和医療としてPEGは最良の方法であり、PEGは施設での看取りを可能とする有効手段でもあると考えている。

※本稿は、由利本荘医師会報NO.595「2024年新春特集号」“いいたい放題”に掲載した



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