80歳過ぎのAさんは夫婦二人暮らしとなった頃から身勝手な行動が目立ち、近くに住む次男夫婦ももてあまし気味であった。夫が施設入所して一人暮らしを始めたが、身の回りのことは入浴以外可能であった。入浴は介護ヘルパーを利用していた。その後序々に火の不始末、服薬の管理や定期的服用が出来ない、介護ヘルパーへの暴言や暴力、物盗られ妄想などがみられるようになり、この9月には自宅の池州でおぼれそうになるなど、眼離しがきかない状況となった。緊急的に小規模多機能施設へ入所した。ここでもトラブルが続き、家族・ケアマネ・かかりつけ医との相談結果、認知症周辺症状の調整目的に当センター認知症病棟に医療保護・紹介入院となった。
入院直後に判明した腹部症状と異常所見
入院時、両耳難聴で意志疎通が一部困難だが、声を大きくして話すとコミュニケーション可能で指示に従い、診察やその後の検査も一応可能であった。
入院時診察と検査で、難聴による意志疎通困難を伴う中等度認知症(アルツハイマ-病?、前頭側頭型認知症?)と診断。さらに採血検査では白血球増多と炎症反応陽性、視診で下腹部膨満あり、腹部X線写真で回盲部から大腸全般にガス像が観察され、回盲部には糞液のニボー形成がみられた。
入院後、排便あり食事も可能な事から経過観察となった。一方、入院したその日に窓から逃走を図るなど、精神症状や問題行動が目立って、その周辺症状管理に関心を奪われていた。
夜半から悪化した腹部症状
夕食も5割以上摂取。しかし夜半より元気がなくなり、下腹部膨満と触診で回盲部付近を中心に下腹部全体の圧痛あり、発熱もみられるようになった。腹部蠕動音亢進なく、向精神薬服用の影響や糞便性イレウスを考え、浣腸したが廃液のみ。
早朝、救急病院外科へ転院、手術で救命
翌早朝には腹部膨満や圧痛が増悪したため下部消化管の閉塞性イレウス、急性腹症として救急病院外科に紹介転院した。これまでの経緯から家族の連絡対応が遅く、ヤキモキしたが同日昼には緊急手術となってショックとはならず一命を取り止めたらしい(その後の詳細は家族の説明のみで不明)。
本人が自覚症状をうまく訴えないこと、前景に立つ認知症症状に惑わされて、背後の問題を見逃し対応が遅れる可能性があること、このAさんの例は、紹介入院となる認知症患者の抱える危うさを知り、その後の対応を考える上でとても教訓的なケースであった。
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