身体の仕組みや働きを理解するのは生物学のレベルである。生物学は遺伝子・細胞に始まり、組織・器官・器官系という階層性の中で生命体の構造と機能を系統的に説明する。基礎医学は生物学的知識を中心に解剖学、生理学、生化学の知識を取込み、さらに環境や生活といった分野の理解も加えてその理論体系を構築する。病態生理学や病理学は臨床医学の基礎として、ヒトに起こるさまざまな変化や異常を系統的にとらえる。われわれ医療者はこういった知識の積み重ねでヒトの病気や障害を理解し治療に当たっている。
遺伝子・細胞レベルから原子・分子レベルでヒト身体の仕組みや異常を理解する
近年、遺伝子・細胞レベルの医学的理解は飛躍的に増大している。遺伝子・細胞レベルの医学はこれまで治療困難であった難病治療の可能性に光を当て、また老化やヒトの寿命についてもその解釈を可能としている。“
tailor-made medicine”が近未来医学の主流となるだろうととも言われている。
本書、山野井昇著『水素と電子の生命』は、
ヒトの健康維持やその破綻である病気・老化の問題を体内イオン環境から説明する。そして、
ホメオスタシス、すなわち生体内至適環境への働きかけを通じた治療の可能性を提案する本である。
身体がさびる(体内の酸化)と病気や老化が起こる!!
今日、医学や生理学的研究の成果で
「活性酸素」が体内の酸化を進め、ガンや生活習慣病、慢性疾患、老化現象を引き起こしていることがわかっている。活性酸素による体内酸化を防ぐには生体エネルギー産生の主要な仕組みであるミトコンドリア電子伝達系を円滑に作動させる必要がある。また活性酸素が一定割合で生じる事は避けられないため、その除去装置をうまく働かせることも必要である。本書では、原子・分子レベルからこの問題を見直し、“酸化還元電位を下げる”、すなわち酸化と逆方向に体内環境を是正する“還元”をどう治療に活かすか、
そしてその実例として古来から知られる“名水”や“奇跡の水”の意味、物理療法として知られる電位治療の意味をわかりやすく説明している。
水素は体内で酸素・炭素に次いで多い構成元素
水素は体重当たり約10%を占め、酸素65%、炭素18%についで多い。生体内で水として存在するほか、生体構成蛋白、遺伝子DNA二重らせん構造、糖質・脂質の一部として広く体内に分布する。その特徴として
低電位、還元力(電子を与える役目)という電気的特性や分子量1で、極めて小さく吸収性高くほとんどの物質・膜を通過して自由に体内に拡がる特性を持つ。また
酸素(特に活性酸素)と反応して水に変わる極めて安全性の高い物質である事が挙げられる。
ヒドロキシラジカル除去に水素水
ミトコンドリアの研究から悪玉活性酸素であるヒドロキシラジカル無毒化に体内へ誘導した水素が有効であることが実証された。≪詳細は
瀬名秀明・太田成男著『ミトコンドリアのちから』(新潮文庫)に紹介されている≫ 水素は肝臓での代謝や解毒にも関わっている。また
体内の酸とアルカリバランス、ホメオスタシス維持にも働いている。
われわれが治療に用いる薬、特に
西洋薬はピンポイントでその治療効果を期待出来るが一般には諸刃の剣である。われわれ医療者は改めてこれまで軽視していた感ある
電位治療(生体の電気的治療)を見直しする必要があろう。また
分子・原子レベルから生体を理解して、その至適環境(ホメオスタシス)維持に水素を応用することももっと真剣に考える必要がある。山野井の本書はこういった知識を深める第一歩である。