2013年5月2日木曜日

[IS-REC] 三浦雄一郎著『私はなぜ80歳でエベレストを目指すのか』:アンチエイジング本として本書を読む(1)

“抗加齢ドック”を担当している医療者の一人として関係する医学図書や一般向けに書かれたエイジングに関わる書籍を片っ端から読んでいる。加齢(aging)自体は避けられないが、加齢に伴う老化現象(senile process)は遅らせることが出来る。そして一般に後者を“抗加齢(Anti-aging)”と言う慣わしであり、私もこの意味で“抗加齢”を理解し、関係者や健診対象者に説明している。

 

世の中の高齢者には、“アンチエイジングの見本”のような人がいる

知る人ぞ知る三浦雄一郎さん、彼は日野原重明先生と並んでまさに超人的高齢者、“スーパー老人”であり、“アンチエイジングの見本”である。本書はこの夏、80歳でエベレストを目指す彼のリアルタイム中継を織り交ぜながら、他人になんと言われようが目標に向かってわくわくしながら用意周到突き進み、それを実現するため立ちはだかるさまざまな障害物をどう乗り越えてきているかを楽しげに語っている。
そして本書の意図する所、ややもすると自分の体力や年齢に妥協して何事にも引っ込み思案になりがちな多くの本書読者を「自分のエベレスト」を目指すよう焚き付ける事だという。
本書ではまず、今この“スーパー老人”がどのようにして排出したのか、それを解く鍵として彼自身の生い立ちを語り始める。父、敬介はじめ両親や近親者の優しい眼差し、確固とした教育方針、そして貧しいながら恵まれた家庭環境。大学卒業後の思わぬ挫折とプロスキーヤーとして遮二無二かつ大胆に生きて数々の偉業と成功をなし得た栄光の半生。そして誰しもありがちな慢心な気持ちから生まれた50代の挫折。彼の半生は栄光を手にするまでの並々ならない努力とともに、冒険家の自伝ストーリーとしても読者を飽きさせることはない。

本書はしかしメタボで心疾患を患うまでに至った彼が、その後そういった病気や障害を精神的にどう克服して、今再び“80歳、エベレストに立つ”夢を現実とすべく努力しているか、その点にフォーカスされている。メタボからくる冠疾患としての致死的不整脈。カテーテルアブレーションという重なる不整脈手術。普通の人であればそれだけでお手上げである。加えて思わぬ骨盤と大腿骨折を同時期に被る。もうそれを聞いただけで、結果にあるのは“寝たきり老人”と想像してしまう。スーパーマンを描く架空小説ならその後の思いもよらない回復と克服の経過に喝采を送るだろう。彼はその後、現在に至るまですさまじい筋力トレーニングや低酸素環境下でのトレーニングを継続して何とか寝たきりの危機を脱出した。しかし不整脈も完全に治癒した訳ではないようだ。次男の豪太というアンチエイジングを研究する頼もしいサポーターがいるとはいえ、“80歳のエベレスト登頂”はまさにあらゆる意味で死と隣り合わせにあるように思える。勿論それを彼は承知している。承知しているからこそ多少なりともリスクを軽減する努力と準備に余念と怠りがないのだが・・・「読者が目標をもって人生を突き進む」エールを送るための本書であるはずだが、彼の“スーパー老人”ぶりばかりに眼を奪われてしまった。一方で、本書は“人生に大小問わず目標を持つこと。その実現のためにワクワクして生き続けることこそがアンチエイジングである”と、自分体験を語っているところに強さと説得力がある。

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