2013年7月28日日曜日

[IS-REC] G.トーベス著『ヒトはなぜ太るのか?』:肥満・糖尿病、そして生活習慣病予防に必要な糖質制限の教科書そしてバイブルと理解した

メディカルトリュビューン社の一般向けサイエンスブック

 最近の医学教育にどれだけ病態栄養学や実際の臨床場面で必要となる栄養指導の基礎知識が取り入れられているのか私はよく分からない。

 肥満や各種の代謝病では臨床栄養の知識をもとにチームで対象となる患者にさまざまな食事指導や生活習慣こ関わる運動習慣の指導などが行われているだろう 障害を抱えた患者の合併症や障害の管理、広い意味での健康管理は、リハビリテーション医の主要な役割であり、またリハビリテーションにおけるチーム医療の主要な課題でもある。

障害による運動不活発、ストレスによる過食が肥満を含む生活習慣病の増悪因子に

 障害発生の原因として最も多い脳卒中自体が生活習慣病を背景としている事が多い。しかし一旦脳卒中を経験した患者の多くは食生活を含む生活習慣を大きく変えて健康維持に努めている。リハビリテーションに関わる医師やセラピスト、栄養士は嚥下障害による栄養不良、逆に運動過少や不活発と障害によるストレスを背景とする過食で起こる肥満に適切にアドバイスする必要がある。

太るのはホントニ、“食べる量(摂取カロリー)>運動量(消費カロリー)”?

 肥満や糖尿病で悩む代謝病の患者。その患者に対する内科医やそのチームスタッフである栄養士の指導は、バランスのとれた形での総摂取カロリーの制限が指導されているだろう。私もこういった問題の患者に対する指導は、身長で決まる標準体重1kgあたり25キロカロリーとして総摂取カロリーの目安を決め、栄養士に指導を依頼している。総カロリーを減らすと確かに一時的に効果はあるようだ。しかしカロリー制限による空腹感やストレスで長続きせず、残念ながら失敗に終わることが多い。おそらく代謝疾患専門医療機関での食事指導についても似たりよったりだろう。

ヒトはなぜ太るのか?~医療者に求められる科学的再検討

 本書のタイトル、「ヒトはなぜ太るのか?」 この問いに対して、肥満を扱う医師や栄養士を含め多くの者はその理由に、“摂取食事量の過多”、“運動不足“、を挙げるだろう。本書の著者はまず第一に、肥満の起こるメカニズムはそもそも生物学の問題であって、摂取と消費エネルギーに関わるIn/Outバランスという単純な熱力学的問題に帰すべきではないではないと釘を刺す。体内で起こる栄養の消化と吸収、そしてその代謝メカニズムは医療者の受ける教育の中でも詳しく触れられたはずだ。そういう教育を受けた我々すら、どういう訳か肥満患者を目の前にしてその治療や生活指導を考える時、肥満の原因を単純な摂取と消費のIn/Outカロリーバランスに帰して、唯一カロリー制限を念頭に置いた指導をする。一方、肥満治療に推奨される運動療法は確かに多くのプラス効果が期待される。しかし、その運動とて減量の切り札とならないことを著者は様々なエビデンスをもとに強調する。それどころか運動は空腹を呼び、その空腹は食事の消化吸収や代謝効率を挙げ、却って体重増加のリスクすらあるというのだ

 貧困で重労働を強いられる人々すべてがやせこけている訳ではなく、また栄養失調に悩む子供を抱えた母親が高度の肥満であったりもする。これらの事実は食事摂取量のIn/Outカロリーバランスだけでは到底説明出来ない。すなわち医療者が現在是としている主要な肥満原因の理解とそれにもとずいた食事と運動に関わる生活指導には大いなる疑問、というより誤りがあると著者は強調するのだ。

肥満をどう正しく理解し、どう正しく対処するのか?


 肥満は体内に蓄積する脂肪増加の結果である。しかし体重増加すべてを肥満とは言わない。成長の過程で起こる体重増加や出産を控えた妊婦の体重増加も肥満ではない。生理的体重増加と肥満は異なる。肥満を正しく理解する鍵は、脂肪蓄積や脂肪消費の細胞・組織レベルでの酵素やホルモンの働きを知ることが第一である。脂肪の消費と蓄積をもたらす酵素やホルモンの量や働きは、ヒトの成長時期や年齢で異なり、また個人差も大きい。

 一方、どういった食品、ないし栄養成分(栄養素)が脂肪蓄積に回りやすく、また同じカロリーでもどういった食品が生体活動エネルギーに利用されて蓄積されにくいか、などを人類発達の歴史にも照らして理解する必要がある。

 本書の結論を急げば、“肥満の元凶”は炭水化物、糖質である。肥満に対する糖質制限の有効性についても長い歴史の中で幾度となく立証されながら、さまざまな事情で無視されてきた。糖尿病に対する糖質制限療法についても未だにその筋の権威から異論や疑義が声高にいわれる。

大いに魅力を感じる、肥満と糖尿病の食事療法“糖質制限療法”

本書は肥満・糖尿病治療に対する糖質制限療法のバイブルだと言ってよいだろう。巻末の文献も充実している。これまで異端視されがちだった糖質制限療法が本書によってさらにさまざまな臨床の場で利用されてゆくと思われる。

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