2015年10月12日月曜日

[IS-REC/BOOK]残間里江子著『閉じる幸せ』(岩波新書)から人生の区切り、ターニング・ポイントを考える

ローカル紙の編集子記事<北斗星>から、

残間里江子の『閉じる幸せ』(岩波新書2014年)を読んでみたくなった

閉じる幸せ

「終活」という言葉には<死に支度>のイメージがあって、今の自分にはそぐわないし、目下の所そんな気にもなれない。一方、「定年退職」という制度がくれた人生の転機で、終の住処だったはずの住居を離れ、さらにローカルな小都市に転居して環境はガラリと変わってしまった。新しい職場での生活が始まり、前職のポストや役職・仕事から隔絶されて、何がしか自分なりの区切りを言葉の上でも持ちたいと考えていた。そんな矢先の去る10月5日、秋田のローカル紙・編集子記事<北斗星>が眼を引いた。そこには人生の棚卸しとして、本書、残間里江子著『閉じる幸せ』が紹介されていた。

閉じるしあわせ本書は昨年刊行されたもので、すぐ手に入った。本書の冒頭、「閉じる」とはよりよく生きるため、今までの自分を脱ぎ捨て、新たな生き方をすること、著者はそう定義していた。自身を振り返ると、これまでも本書の中でさまざま事例が紹介されていると同様に、「還暦を機に生き方を変えたい」とか、ある種の行き詰まり、慣れっことなってマンネリに陥っている自分の気持ちを「整理してみたい」と、人生の「棚卸し」をそれとなく考えたことがあった。しかしそのような時にも著者が自省すると同じように私自身、「前へ、前へ」とせっかちに走り続けて周囲の見えない毎日が続いていた。

残りの人生をどう使うか?

ある事例を引きながら著者は言う、『「第二の人生」などという言葉は、生半可な気持ちでを語ってはいけないような気がします。』 それまでの人生を閉じ、けじめを付けて新たな環境で新たなスタートを切るとは相当の覚悟が必要なのだ。『「閉じる」とは、逃げるのでもなく、戦うのでもない。物事ときっちりミートしていくためにそれまでの自分もその立場も一時休止すること。』「その休止までは関わっている仕事や事業を徐々に縮小などと考えてはいけない。縮小したらそれ相応の仕事しか入ってこない、辞める時はぱっと閉じれば良い・・・。」本書のこれらの言葉はなかなか勇ましく聞こえる。

では何をどう閉じるのか?・・・『「閉じるのは過去」そして、残りの人生をどう使うかを真剣に考えるために「過去を閉じる」のだ。』・・・この言葉はピンときて、わかりやすくすぐに同感できた。

「我が身の棚卸」は、よりよく閉じるためのレッスン

「その日、そのとき、その場をじっくり味わうことなく、ネクストばかりを見たがる私。」、『「いつか」「いつの日か」はもう止め。』、『「開くにしても閉じるにしても「自己確認」から始まる。』、『今の生活になれてきたと思ったら、「閉じ時」です。』

本書「閉じる幸せ」は人生一区切りをつけるために、ある種の緊張を持ちながら、一方でリラックスしたゆとりある大人の気分で「過去を閉じ、新たな地平を開く」ために提供されたエッセイである。「閉じる」ためのレッスンとして、まずは「我が身の棚卸」という訳だ。

著者は「新しい大人文化の創造」を掲げ、<クラブ・ウィルビー>を立ち上げた。<クラブ・ウィルビー>はそれまでの人生を一区切りとして、新たな終生の友(lifelong-friend)と出会える場の創造であり、提供の場であったと言う。

「閉じた後の生活」

本書は著者とその周辺にみられた出来事をたどり、「閉じる」ことの意味、「閉じる幸せ」を考え、感じさせ、さらに「閉じた後の生活」に新たな自分をどう託すのかを語っている。高齢化社会の一員として生き続ける我々に、ある種の道しるべを提供した一冊と言って良いだろう。

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