独り暮らしする98歳の現役医師
本書の著者、高橋幸枝さんは、独り暮らしする98歳の現役医師(精神科)。私は以前から健康長寿やアンチ・エイジングに関心を持ってさまざま本を読んできた。
しかし私が知っている長寿やアンチ・エイジングの知識は、超高齢者で障害のため寝たきりで、多かれ少なかれ認知症も併発している患者さん、フレイルを診る上で余り役立ってはいない。
フレイルを如何に元の生活、あるいはそれに近い生活に戻すか、その多くは介護・ケアの問題ではある。と同時に、超高齢者の考え方、生き方を知ってリハビリに対する意欲・動機付けができれば多少なりとも機能回復が図れるのではないか、そんな仕事の悩みを解決したいという思いで本書を読んだ。
「たまたま丈夫で長生きしただけ、秘訣はない」
本書の著者は頭を明晰に保ち、記憶力を保つために、日常生活の中で様々な出来事を思い出すようにしている。また80歳で絵を描くことを覚え、その楽しみを知った。「新しいことを学ぶことは人生の視野を広げてくれる」 そのように述べる一方で、「たまたま長生きで、その秘訣はありません」とも書いている。
毎日、階段の上り下り、食事はいつも腹八分目、よく噛むこと
3階の部屋に住み、エレベーターなく毎日階段の上り下りをしている。80代で歯のインプラントをやり、好きなものをしっかり噛んで食べる。食物で必ず食べるものはなく、唯一決めているのは、食べすぎないこと。また80歳過ぎて晩酌を楽しみとするようになり、日本酒を冷やで1日150ccほど飲んでいる。
昔とあまり変わらない生活をする、毎日規則正しい生活をする
週一回の精神科外来担当を現役で続け、その生活パターンはずっと変わらない。設定43度とした熱いお風呂が好きで、部屋も「常夏の国」のようにしている。世間の常識にとらわれずあくまでもマイペースである。
92歳で骨折、どうしても家に帰りたいという執念
92歳の時、自宅内で転倒し大腿骨を骨折。接合術を受けてリハビリ。“筋肉は92歳のものではない(ほど若い)”という主治医の言葉が励ましになった。骨折後も家をバリアフリーとせず、自分が十分注意することが肝心だという。
体の衰え、人とのコミュニケーション
体の衰えを自覚するが、「まだまだやればできる」と思うことが大切で、独り暮らしで必要に迫られれば98歳でもなんでもやるという。また、「頑張りすぎはいけないが、億劫で誰かに頼もうと、いったん他に依存してしまうとキリなく自分が崩れていく」 とも述べる。同世代が身近におらず、人と話すのは億劫だが、心の健康のために日々誰かと話すことを心がけ、どうしても話すのが億劫だったら何かを書くことにしている。
“脆弱老人、フレイル”にかける言葉とアクションは?
私の場合、患者が入院してくると、意欲やうつに関するスケールでテストする。多くの患者は前向きに返答するが、その病前生活自体が家に閉じこもりがちで、家庭内の役割もなくなり、生きがいを失ってみえることが多い。その彼らにかける言葉と依頼するリハビリ内容を吟味しながら治療を開始する。
本書を読んで、そのような時に共通して役立つ“何か”は必ずしも得られなかった。病気・怪我の治療を終えて“リハビリ依頼”でやってくる患者すべてにトコロテン式にリハビリは強要できない。言葉一つで意欲や動機付けに成功するはずもない。体や心の衰えは人それぞれ。しかし判断力が保たれる限り、他人に迷惑かけない最期を迎えるため、自身の身の始末、心や身の回りの整理整頓ができるように今一度頑張ってもらおう、また時間の許す範囲で良い話し相手(主に聞き手)となってあげよう、本書から私へのメッセージはそんな辺りだろうか?