●摂食嚥下困難・栄養障害・誤嚥性肺炎
厚労省人口動態統計(2023年)の主な死因構成割合をみると悪性新生物・心疾患・老衰がその半数を占め、次いで脳血管疾患・肺炎・誤嚥性肺炎と続いている.いわゆる市中肺炎は肺炎双球菌ワクチンの普及で減少傾向だろう.実臨床からは肺炎とされた中に相当数の誤嚥性肺炎が紛れ込んでいると思われる.摂食嚥下困難は加齢自体で生じるが、背景にある脳動脈硬化や多発ラクナ梗塞・認知症など全般性脳機能低下に伴ってしばしばみられる事は周知の事実である.また摂食嚥下困難で徐々に食が細くなり、食事のむせ込みが苦しく食欲自体も低下して、枯れるように最後を迎えることも多いだろう.死因として“老衰”が増加しているのはそういった事情を反映していると思われる.他方、食欲が保たれるのにむせで十分食べられず、羸痩が目立つようになったり、介助で無理に一定量食べさせようとして誤嚥性肺炎を繰り返すと、本人やその周辺から何らかの対処が求められるようになる.代替栄養としての胃瘻造設(PEG)は内視鏡で比較的簡単に出来ることから当初、嚥下評価や嚥下訓練なしに過剰に行われた時期があった.現在は嚥下評価と嚥下訓練が可能な施設でのみ行われ、その安全性、またPEGが即・経口摂取不可ではないという認識が普及して超高齢者でもPEGが選択されるようになってきている.PEGは誤嚥性肺炎や栄養障害を減らしてQOLの高い生命予後改善に寄与している.
●由利本荘医師会病院でのPEG現況
過去5年間に42例でPEGを行った.その紹介元(表)は総合病院16、施設(または嘱託医)20、当院外来(神経内科・リハ科)5、耳鼻科1であった.原則として、入院時に造設について家族の意向を十分確認し、造設前に嚥下評価(嚥下内視鏡VE)を行ない、PEG後も食事内容により気晴らし的経口摂取が可能かどうかを検討した.施設から入院の場合、評価から造設、胃瘻ボタン交換まで1カ月目処の入院で実施した.内視鏡による造設で、造設中も、その後の嚥下訓練でも特段のトラブルはないが、認知症患者では、嚥下訓練に応じてもゼリー摂取など直接訓練を拒否する例があり、PEG後に経口摂取のできない例も多かった.
●超高齢者の胃瘻造設pitfall
最近、90歳前後以上の超高齢PEG患者が増加している.過去5年間でも42例中11例26%が90歳以上であった.そして超高齢者PEGで意外な伏兵に気づかされることとなった.典型例は嚥下障害で胃瘻造設希望入院、術前の嚥下評価で咽頭期嚥下障害が比較的軽く、食形態を選べは多少の経口摂取が十分可能なケースである.紹介元情報では経口摂取で頻繁に誤嚥性肺炎を繰り返していた.このようなケースで多少の気晴らし的経口摂取も可能と造設後退院時コメントに付記して施設に戻ったところ、トラブルが発生した.胃瘻栄養や気晴らし的経口摂取で再び嘔吐や誤嚥性肺炎を起こし、施設では対処困難となって舞い戻ってきたのだ.そんな超高齢者の問題ケースを続いて2例経験した.
●脊柱変形と上腸管膜動脈による十二指腸水平部狭窄(いわゆる、“上腸管膜動脈症候群”)
施設の現状から経管栄養が朝夕1日2回注入で維持されている場合が多い.造設直後、当院では1日3回で胃瘻栄養を行うため、退院まで栄養注入後の嘔吐や逆流性誤嚥のトラブルはなく、このようなトラブルを予期していなかった.最近経験した1例(91歳男性)では脊椎変形と四肢屈曲拘縮があり、腹部が常時圧迫気味であり、十二指腸球部以遠の機能的通過障害に気づいた.幸いこのケースでは注入量減量で辛うじてその後のトラブルは消失した.2例目(93歳女性)は退院先施設で注入量調整など再三試みられたが、一定量一定回数注入で嘔吐が繰り返され、再紹介となった.本例は上部腰椎の圧迫骨折の既往で十二指腸水平部の機能的狭窄が強く、腹部CTで器質的イレウスを認めなかったが、胃瘻から注入したガストログラフィンを時間的に追いかけると、数時間経過しても胃内に造影剤が多く滞留していることがわかった(図).本例は現在、中心静脈栄養と少量の気晴らし的経口摂取で経過をみているが、本人が強く希望する経口摂取を続ける限り、食塊の胃内蓄積と嘔吐は避けられないようである.
●超高齢者経口摂取困難は咽頭期嚥下機能低下のみにあらず
パーキンソン病その他の神経難病は別として、PEGはいよいよ超高齢者でも増加している.今回、あまり間をおかずに経験した超高齢者2例のいわゆる、“上腸管膜動脈症候群”は経口摂取困難・栄養障害の原因が必ずしも咽頭期嚥下の問題のみに帰せられないこと示しており、良い教訓となった次第である.