医学芸術社という馴染みのない出版社の本で社会保険旬報の簡単な書評を見なければ目に触れない本であった。糖質制限食がダイエットや糖尿病治療食として好意的に受け取られるようになり、最近では糖尿病治療に関係した学会でもそれまでの全く無視する立場から、一定の評価を加えたり、批判的立場からのコメント、素人が闇雲に実践した場合の危険性(心血管死亡リスクが高くなる)を指摘するなどの動きがみられるようになった。
糖尿病予備群や糖尿病患者が激増して糖尿病非専門医でも治療に当たる機会が増えている。リハビリ医は脳卒中などの生活習慣病を背景に生じた障害患者のリスク管理と入院リハビリ終了後の患者フォローアップをするのでやはり相当数の糖尿病患者を扱っている。体験的に糖質制限食はこういった患者に有効である。障害があると運動過少からしばしば運動不足による肥満がおこり機能低下をきたしてしまう。こういった場合の食事指導にカロリー制限より糖質制限の方がわかりやすく指導しやすい。
これまで異端的に扱われているが一般向けに書かれた江部先生や釜池先生の本がとても参考となっていた。これらの本はそれなりの臨床経験や生化学知見に基づいて書かれているが、文献的裏付けに乏しい印象は拭えなかった。
この度出版された大櫛先生の本はこれまで糖尿病関連学会はじめ権威ある医学界が推奨してきた糖尿病の基本的治療方針のみならず特に糖尿病の心血管合併症、脂質代謝異常、降圧治療のあり方にも文献的根拠を挙げながら批判している。また糖質制限を基本とした糖尿病治療・生活指導の全体像も提起している。
これまでの糖尿病治療指針を全否定するようで表現が過激なところ、取り上げたエビデンスの解釈に誇張を感じるところもある。一般受けはするだろうが、医学書としてみるならばさらに内容を批判的に吟味する必要があろう。
それにしても医学読み物としてはなかなか痛快な出来映えの本となっており、こういった本にありがちな部厚く読みにくい印象もなく一気に読めてしまう手軽さは大いに気に入った次第である。
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