2013年2月3日日曜日

[IS-REC] 櫻井 武『食欲の科学』(講談社ブルーバックス)を読む

 

食欲とは何とも悩ましい


ヒトの基本欲求で最も大切な食欲。肥満や生活習慣病を恐れて食をコントロールしたいと思う者は多い。かく言う私自身も若い頃からの生活習慣で早食い、大食傾向が未だ治らず、今や年齢的にもその是正に悩んでいる。
      櫻井先生の本書は彼の睡眠に関するオレキシン発見物語である『睡眠の科学』(同ブルーバックス、2010年)に続くものであり、前著の出来が良かっただけに、正直なところ、「柳の下の二匹目の泥鰌」をねらったものではないかとあまり期待はしていなかった。しかし新聞書評に動かされて購入し、読んでみるとその中身の濃さに圧倒された。まず食欲の根源的役割として、ホメオスタシスの一つでもある体重恒常性と食欲の関係、その仕組みを支える中枢である視床下部での食中枢について解説している。飢餓と飽食によって食欲が二相性にコントロールされるのであれば話は単純であったはず。しかし食欲調整の仕組みに限らないのだろうが、身体機能コントロールはほんとに複雑だ。

「レプチン発見物語」で話は進む


   たまたま発見された肥満マウス(ob/obマウス)や肥満を呈する糖尿病マウス(db/dbマウス)系列を利用した肥満メカニズムの研究から食欲制御因子が想定され、幾多の苦労と様々な技術の進歩によりながら、1994年それはレプチンとして発見、報告。しかしその働きは当初想定されたほど単純ではなく、レプチン血中濃度上昇で食欲が直接抑制されるものでないことがわかる。適度なレプチン濃度は身体が十分エネルギーを蓄積していることを知らせ、痩せてレプチンレベルが低下すると、強力な食欲を惹起するという。すなわち広い意味での食行動と連動した長いスパンでの働きがレプチンにはあるというのだ

レプチン発見から食欲と食行動の脳内機序が解き明かされた

   

食欲の昂進と抑制、栄養状態という長いスパンはレプチンが情報源となり空腹というより短いスパンでは血糖レベルがその情報を視床下部(弓状束)に伝える。情報に答えるニューロンは様々で、さらに線状体にある側坐核という報酬系にその情報は伝わり、食行動が惹起される。これだけでも複雑だが話はもっと複雑で、なかなかついて行けない。

食欲と食生活

本の後半三分の一が神経性食思不振症や大食症、生活習慣病の話、肥満は遺伝する、肥満者をみていると大食となるなど、エピソディックに語られ、最終章は「食欲に関する日常の疑問」となる。全体バランスを考えた章立てなのだろうが、最後の二章は蛇足に近い。

全体としては食欲に関するサイエンス読み物として読み応えあり

食欲の根元に始まり、レプチン発見から様々な食欲に関わる脳内物質が落とすことなく網羅され、内容は複雑で素人がすべてを理解するのを困難にしている。しかし食欲のサイエンス本としてはしっかりした内容で最後に引用文献も記載され、本書は先生の前著『睡眠の科学』同様に手元に残したい一冊と感じた次第である。



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