※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報NO492(2015年1月号)
2021年8月30日月曜日
[IS-REC/ISSUES]~脳卒中治療・リハビリテーション医療の進歩を活かすために~
[IS-REC/ISSUES]リハビリ科入院からみた障害高齢者の治療スペクトラム
※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報O550(2020年3月号)
●高齢者リハビリ入院の背景
巷間の高齢者の多くは元気老人で、“人生100年時代”を謳歌している。一方で少子化による世帯人数減少、高齢者貧困世帯増加を背景に、目立った障害がなくともフレイルという要介護準備状態者が増加している。巷間の高齢者の一方はこのフレイルで、生活習慣病の不十分な治療や未治療、健康維持に必要な食事・栄養・運動習慣の不十分などがその原因となる。フレイルでは高血圧や糖尿病による大小血管病、骨粗鬆症による大腿骨折などをきっかけに、介護を必要とする様々な障害に見舞われる。急性期病院での治療後、“あとはリハビリで”と障害を持つフレイル高齢者が紹介されてくる。また市中の診療所で治療を受けながら徐々に機能が低下し介護が限界に達して紹介されてくる高齢者もある。慢性期医療病院のリハビリ科入院は概ねそのようなフレイル高齢者や既に相当以前から様々な疾病や障害を持った要介護高齢者がほとんど。元気老人が入院してくることはない。
●背景疾患を治療し、“機能的状態”を入院時より良くして帰せるかが問題
背景疾患の治療を前医に引き継いで行う。新たに発生した障害はそのリスク管理を行いながらリハビリを行う。リハビリでは阻害因子を明らかにし、回復や改善の見通しをスタッフと共有する。その阻害要因が大きければ、時に“リハビリ適応なし”と判断するケースも出る。意識障害や全失語で訓練時の協調動作が期待できないケース、極度の栄養不良で訓練負荷に耐えられないケースなどはリハビリ適応外となる。これらの問題がない場合でも、フレイルや認知症によって、訓練しても機能的状態は変わらないか、悪化するケースがある。主治医の仕事は、したがって背景疾患を治療し、阻害因子の軽減を図り、家族やMSWと相談しながら退院先を決定する、チーム全体の方針の取りまとめを行う、などである。その場合、“患者の機能的状態が入院時より良くなっているか、退院後にその変化が患者本人のQOL改善につながるか?”を絶えず考える必要がある。
●リハビリとケアの境目
“リハビリ適応外”、“現疾患治療優先でリハビリ困難”と判断されるケースのリハビリ科入院は悩みが多い。訓練で機能維持すら困難なケースもある。家族に状況を説明してケアに重点に置いたメニューを実施する。背景疾患が重症であったり、もともとフレイル高度な患者は、この“リハビリとケアの境目”に位置した治療目標を立てることとなる。
●ACP「人生会議」と 「エンド・オブ・ライフケア」
「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」、いわゆるACPが提案され、その身近な代替語として「人生会議」が昨年から提唱されている。ACPは、自らが望む「人生の最終段階における医療・ケアの方針」を前もって話し合い、いざその場面となった時に活用しようという当事者中心のもの。一方、ケアを提供する側の指針「エンド・オブ・ライフケア」は、“リハビリ入院治療スペクトラム”の一端も説明しているように思われる。機能回復や改善を図るリハビリ、機能維持を図るリハビリが困難でも医療者として何かできることがあるはず だ。意識が良いのに四肢拘縮進行で苦しむ患者、経鼻胃管挿入のまま四肢の抑制を受けている患者などをみると、“リハビリとケアの境目”の患者でもそのQOL改善を目指す治療やケアがあると確信する。
●リハビリ科入院:これからの課題
医療全般が進歩した。服薬アドヒアランスを上げるOD錠、ポリファーマシーを避ける合剤、安定した血糖変動が得られる持効型インスリン、などがそれである。リハビリ医学も対象患者の高齢化でその質と内容が少しずつ変化してきている。フレイルとの関連で、“リハビリ栄養”や“障害予防リハビリ”の言葉が生まれた。訓練場面でのロボティクス応用は高齢者リハビリ現場ではやや縁遠いので触れないが、変形拘縮予防のボトックス治療や物療の利用はもっと考慮すべきだろう。また、治療的胃瘻造設は終末期医療に至るまで「緩和ケア」や「エンド・オブ・ライフケア」の観点から有用と確信しており、まだまだそのプロパガンダが必要と思っている。
2021年8月29日日曜日
[IS-REC/ISSUES]『NO546「私のオススメ」ライフハックとaudible.com』
※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報O546(2019年12月号)
~ワークライフバランスの生活手法~
私のライフハック1:“ScanSnapとPaperPort”
私のライフハック2:“Yahoo & Googleカレンダーとリマインダー"
職場の日常業務は時間でびっしり埋まる。検査や処置、面談、外来、会議など時間に遅れることなくこなすようにしている。看護師さんなどからその時間前にお呼びがかかり、貴重な数分間を時間泥棒されることも多い。親切心から出でいるものなので怒らないようにしている。この仕事スケジュールは“Yahooカレンダー”、プライベートは、“Googleカレンダー”に分けて入力している。週や月単位のスケジュールは課題としてクラウド上(iCloud)のリメンバーソフト、“リマインダー”に記録する。設定で期日前になるとアラームが出るようになっている。予定の記載などは最近の音声入力の正確度がアップしているので固有名詞を除いてiPhoneからの音声入力で十分事足りている(組写真2:Yahoo & Googleカレンダーとリマインダー )。
“ながら聴き”のaudible.com
自分の趣味と健康を兼ねてウォーキングやジョギング、体操などをする。その時、有料のauidible.comからダウンロードしたさまざまなメディアを“ながら聴き”する。シリーズものでは,吉川英治の「宮本武蔵」、「三国志」、「新・平家物語」、五木寛之「青春の門」など、さまざま長編大作を聴いた。audible.comを知るまでこういった作品を読む機会は死ぬまでないだろうと漠然と考えていたので、「聴き語り」形式ではあるが大作に触れるチャンスのあったことを幸運に思っている。運動しながら耳で聴く本を読むとは、まさに認知症予防のコグニサイズ、いいことずくめのようだ。しかし特に高齢者運動指導時には却ってその問題を指摘する論文(川嶋一成:高齢者運動指導時の留意点~「ながら運動」防止の観点から.日医雑誌148、2019年)もある。実際、私自身もトレッドミル運動など、運動に集中が必要な場合、宮部みゆき・貴志祐介・今野 敏、といったワクワク・ゾクゾクするようで内容的に軽めのホラーやサスペンスでない限り、“ながら聴き”の出来ないことがわかってきた(組写真3:audible.comのメディア案内)。
神はすべての人に等しく1日24時間を与えている。その時間を有効に使えるかどうかは、このIT時代に人間に備わった能力の一部を代替したり、補ったりできそうな機器を上手に使いこなす「ライフハック」力とそれを習慣化することが大切だと思っている。
2021年8月27日金曜日
[IS-REC/ISSUES]『NO542「いいたい放題」~「障害」の諸相 ~』
※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報NO542(2019年7月号)
社会の階層化が進んでいる。非正規雇用が増加し普通に働いても貯蓄できず、結婚出来ず、生活が苦しいという階層が相当割合を占め、かつて総中流であった中から貧困層やさらにアンダークラスという階層が生まれている。安定した雇用と収入は階層化が進む以前の中間層の絶対条件であった。現在の雇用流動化で、中間層から下層へ転落する不安や危惧が今や社会全体のぎすぎすした空気を生んでいるように見える。貧困や貧困化の重要な背景のひとつに“障害”がある。近年、障害者に対する理解が進んで、街中や駅、公共施設のバリアフリー化、障害者権利条約採択、障害者雇用の義務づけ等、生活や働く環境整備とその法的整備に力が入れられてきている。とはいえ障害内容と障害者自体の多様性からまだまだ“健常人”との差が大きい現実である。障害を負ったことで生活の貧困化、下層への転落が起こるとすれば、それは障害者を受け入れる社会が十分成熟していない証であろう。地域間経済格差と生活利便性の差、少子高齢化に影響された世帯構造の変化、すなわち高齢単身世帯の増加も、加齢や病気で障害を抱えた場合に起こる高齢者の貧困や生活困難と大きく関わっている。三世代家族が極端に減って、身近な所で障害ある高齢の肉親に手を差し延べる微笑ましい光景は滅多に見かけなくなった。現在多くの高齢者には障害を契機に社会参加への著しい困難が待ち受けているようだ。○リハビリ医療における障害
リハビリ医療はもっぱら障害を問題とする。教科書的に言えば、障害は階層構造を持ち、機能障害-能力低下-ハンディキャップとして捉えられる(WHO,ICIDH,1980)。診療場面でくりかえし行われるリハビリカンファランスは、チーム医療として欠かせない役割を持つ。その際の議論でもこの障害の階層構造に沿って問題が解析されている。近年では“生活機能の低下を障害とする”*ICFの障害概念が取り入れられて、“障害”の軽減のみならず、患者の持つ生活機能へ働きかけで生活の質(QOL)向上を目指そうとするアプローチが主流となっている。
*ICF:国際生活機能分類、WHO、2001年
○日常生活と障害
多くの人は日常生活に眼鏡を必要としている。眼鏡を必要とする状態でもそれを障害とは言わない。私は加齢により体力が低下して山歩きする自信をなくした。グループで出かけた時に他人に迷惑をかけたくないからだ。また老眼が進んで以前からの趣味である自作PC作りも困難となった。PC筐体の深い所でのネジ止め等の操作が出来ないからだ。加齢や病気の結果起こる大小の障害、それは趣味の領域はもとより身近に必要な日常生活にも大きく影響を与えて生活機能の一部撤退を余儀なくしている。
○医療と介護を結ぶ視点としての障害
もっぱらの仕事を“慢性期医療”とする医師会病院では、慢性期の疾患管理とリハビリが主な診療内容である。受け入れる患者さんの多くは長い人生と生活の中で様々な病気と障害を持ち、ICFで言う“生活機能の低下”を抱えている。入院直後には病気悪化による症状の治療と、抱えている要素的障害の軽減が目標となる。全部の患者さんがリハビリに回される訳ではないが、障害状況に合わせた退院先を考える段階で、すべて介護の視点が医療とオーバーラップしてくる。すなわち入院から退院への流れの中で医療-リハビリ-介護に視点が移ってゆく。そこに一貫して流れるのは患者の“障害”に対する理解とそれを少しでも解決に結びつけようとするアプローチである。患者の“生活機能の低下”を注視する必要があるのだ。単に退院先を決めるのではなく、患者の“生活の質(QOL)向上”の視点が大切だと思っている。