2021年8月27日金曜日

[IS-REC/ISSUES]『NO542「いいたい放題」~「障害」の諸相 ~』

※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報NO542(2019年7月号)

社会の階層化が進んでいる。非正規雇用が増加し普通に働いても貯蓄できず、結婚出来ず、生活が苦しいという階層が相当割合を占め、かつて総中流であった中から貧困層やさらにアンダークラスという階層が生まれている。安定した雇用と収入は階層化が進む以前の中間層の絶対条件であった。現在の雇用流動化で、中間層から下層へ転落する不安や危惧が今や社会全体のぎすぎすした空気を生んでいるように見える。貧困や貧困化の重要な背景のひとつに“障害”がある。近年、障害者に対する理解が進んで、街中や駅、公共施設のバリアフリー化、障害者権利条約採択、障害者雇用の義務づけ等、生活や働く環境整備とその法的整備に力が入れられてきている。とはいえ障害内容と障害者自体の多様性からまだまだ“健常人”との差が大きい現実である。障害を負ったことで生活の貧困化、下層への転落が起こるとすれば、それは障害者を受け入れる社会が十分成熟していない証であろう。地域間経済格差と生活利便性の差、少子高齢化に影響された世帯構造の変化、すなわち高齢単身世帯の増加も、加齢や病気で障害を抱えた場合に起こる高齢者の貧困や生活困難と大きく関わっている。三世代家族が極端に減って、身近な所で障害ある高齢の肉親に手を差し延べる微笑ましい光景は滅多に見かけなくなった。現在多くの高齢者には障害を契機に社会参加への著しい困難が待ち受けているようだ。

○リハビリ医療における障害

リハビリ医療はもっぱら障害を問題とする。教科書的に言えば、障害は階層構造を持ち、機能障害-能力低下-ハンディキャップとして捉えられる(WHO,ICIDH,1980)。診療場面でくりかえし行われるリハビリカンファランスは、チーム医療として欠かせない役割を持つ。その際の議論でもこの障害の階層構造に沿って問題が解析されている。近年では“生活機能の低下を障害とする”*ICFの障害概念が取り入れられて、“障害”の軽減のみならず、患者の持つ生活機能へ働きかけで生活の質(QOL)向上を目指そうとするアプローチが主流となっている。

*ICF:国際生活機能分類、WHO、2001年

○日常生活と障害

多くの人は日常生活に眼鏡を必要としている。眼鏡を必要とする状態でもそれを障害とは言わない。私は加齢により体力が低下して山歩きする自信をなくした。グループで出かけた時に他人に迷惑をかけたくないからだ。また老眼が進んで以前からの趣味である自作PC作りも困難となった。PC筐体の深い所でのネジ止め等の操作が出来ないからだ。加齢や病気の結果起こる大小の障害、それは趣味の領域はもとより身近に必要な日常生活にも大きく影響を与えて生活機能の一部撤退を余儀なくしている。

○医療と介護を結ぶ視点としての障害

もっぱらの仕事を“慢性期医療”とする医師会病院では、慢性期の疾患管理とリハビリが主な診療内容である。受け入れる患者さんの多くは長い人生と生活の中で様々な病気と障害を持ち、ICFで言う“生活機能の低下”を抱えている。入院直後には病気悪化による症状の治療と、抱えている要素的障害の軽減が目標となる。全部の患者さんがリハビリに回される訳ではないが、障害状況に合わせた退院先を考える段階で、すべて介護の視点が医療とオーバーラップしてくる。すなわち入院から退院への流れの中で医療-リハビリ-介護に視点が移ってゆく。そこに一貫して流れるのは患者の“障害”に対する理解とそれを少しでも解決に結びつけようとするアプローチである。患者の“生活機能の低下”を注視する必要があるのだ。単に退院先を決めるのではなく、患者の“生活の質(QOL)向上”の視点が大切だと思っている。

※医師会報掲載の関連記事は以下の通りです。

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