※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報NO492(2015年1月号)
~脳卒中治療・リハビリテーション医療の進歩を活かすために~
●はじめに
ここ数年、脳卒中治療やそのリハビリは大きく進歩している。今年まもなく「脳卒中治療ガイドライン2015」が公表・出版される。そこでは脳卒中リハビリについても多くの紙面が割かれるはずである。拙文ではその詳細に触れないが、当地区の現状を踏まえ今後その治療と技術の進歩を日常診療に活かすため、当地区全体で何を目指すべきか、その方向性について私見を述べる。
●由利本荘医療圏の現状
平成24年度の由利本荘保健所管内の死因統計では、死因の多い順にガン・心臓病・脳血管疾患・肺炎・不慮の事故であり、脳卒中割合は死因第3位。また要介護・寝たきりの原因は全国共通し、脳卒中後遺症が第一位。これは当地区でもおそらく同様であると思われ、脳卒中治療とそのリハビリには未だ十分な力を注ぐ必要性を感じている。当医療圏は病院数6、多くは一般病床であり、療養病床は1病院50床のみ。リハビリに特化した病床はない。脳卒中医療やそのリハビリは、急性期から慢性期に区分されたシームレスな地域完結型医療が最も有効とされる。こういった地域の体制について当地区は残念ながら秋田県内でも相当遅れをとっている。一方、近年国の目指す医療と介護の一体化構想のもとで地域包括ケア病棟が生まれつつある。この中には在宅診療支援機能も含まれており、“慢性疾患やそれによる機能低下・生活機能障害(要介護状態)”に対して、有効な対処の枠組みが用意されたかにみえる。
●治療の進歩・リハビリの進歩
脳卒中急性期治療について、当地区の脳卒中センター機能を担う由利組合総合病院は国内でも屈指の高い医療レベルを誇る。急性期病院でrtPA使用や血管内治療が行われ、引き続き急性期・亜急性期のリハビリが行われる。機能回復を目指すリハビリ、障害が残っても、その障害を代替したり補助的手段を導入して社会や在宅復帰につなげるリハビリ技術は大きく進歩している。身体機能という場合、特に脳卒中では運動麻痺に眼が奪われがちである。しかし近年注目されるのは運動障害治療以前の問題として、栄養障害や認知障害の問題があり、このような背景を改善することで機能予後が大きく変わることも周知の事実である。リハビリそれ自体は、要点として医師やセラピストのスキル(リハビリの質)と、訓練の量が挙げられている。特に後者の量的問題については理解しやすく、“24時間365日リハビリ”の有効性は実際高い。
●地域の実情にあわせて何が用意されるべきか?
生活圏は広域であり、脳卒中後遺症を抱えて自動車運転が出来なくなると地域生活は“アウト”となる。痙性や拘縮で手の機能が低下するとそれまで可能だった身辺処理が自力で出来なくなる。疾患管理が悪いと脳機能が低下して嚥下障害が起こり誤嚥性肺炎を来す。家屋環境や季節的影響で運動やリハビリが行えないと運動過少による肥満から日常生活活動が困難となることもある。こういった様々な生活上の問題に対して適切な評価と指導(自動車運転であれば“運転シミュレーター”、痙性や拘縮は麻痺上下肢の管理と治療的ブロック療法、嚥下障害であればその評価と食事形態・栄養摂取法の検討、肥満であれば障害にあった運動・訓練法や栄養指導、など)がなされ、必要と適応あれば治療と短期集中リハビリが可能となる専門的施設(“リハビリセンター”)が利用される。それは脳卒中センター同様に地域全体で共有できる“リハビリセンター”でなければならない。そのためには地域で一貫した治療方針で患者さんをみる“地域連携医療”の中で利用される形が望ましい。地域連携医療は医療・介護の担い手個々の協力で可能だが、リハビリセンターなど、“ハコモノ”の設置は容易ではない。しかしリハビリの大きな目的は“要介護者を減らし、要介護度を下げ、tax-payerを増やすこと”。この目的実現で削減できるコストも大きいはずである。“リハビリセンター”の採算性を是非どこかで検討していただきたいものである。
●おわりに
私個人の当面の目標は地域連携医療の構築で急性期から回復期へ脳卒中治療とリハビリの流れを作ること。そしてその結果を出して行くこと。なかなか大変な課題である。諸兄姉のご支援をお願いして筆を置きたい。
※医師会報掲載の関連記事は以下の通りです。
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