※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報O550(2020年3月号)
●高齢者リハビリ入院の背景
巷間の高齢者の多くは元気老人で、“人生100年時代”を謳歌している。一方で少子化による世帯人数減少、高齢者貧困世帯増加を背景に、目立った障害がなくともフレイルという要介護準備状態者が増加している。巷間の高齢者の一方はこのフレイルで、生活習慣病の不十分な治療や未治療、健康維持に必要な食事・栄養・運動習慣の不十分などがその原因となる。フレイルでは高血圧や糖尿病による大小血管病、骨粗鬆症による大腿骨折などをきっかけに、介護を必要とする様々な障害に見舞われる。急性期病院での治療後、“あとはリハビリで”と障害を持つフレイル高齢者が紹介されてくる。また市中の診療所で治療を受けながら徐々に機能が低下し介護が限界に達して紹介されてくる高齢者もある。慢性期医療病院のリハビリ科入院は概ねそのようなフレイル高齢者や既に相当以前から様々な疾病や障害を持った要介護高齢者がほとんど。元気老人が入院してくることはない。
●背景疾患を治療し、“機能的状態”を入院時より良くして帰せるかが問題
背景疾患の治療を前医に引き継いで行う。新たに発生した障害はそのリスク管理を行いながらリハビリを行う。リハビリでは阻害因子を明らかにし、回復や改善の見通しをスタッフと共有する。その阻害要因が大きければ、時に“リハビリ適応なし”と判断するケースも出る。意識障害や全失語で訓練時の協調動作が期待できないケース、極度の栄養不良で訓練負荷に耐えられないケースなどはリハビリ適応外となる。これらの問題がない場合でも、フレイルや認知症によって、訓練しても機能的状態は変わらないか、悪化するケースがある。主治医の仕事は、したがって背景疾患を治療し、阻害因子の軽減を図り、家族やMSWと相談しながら退院先を決定する、チーム全体の方針の取りまとめを行う、などである。その場合、“患者の機能的状態が入院時より良くなっているか、退院後にその変化が患者本人のQOL改善につながるか?”を絶えず考える必要がある。
●リハビリとケアの境目
“リハビリ適応外”、“現疾患治療優先でリハビリ困難”と判断されるケースのリハビリ科入院は悩みが多い。訓練で機能維持すら困難なケースもある。家族に状況を説明してケアに重点に置いたメニューを実施する。背景疾患が重症であったり、もともとフレイル高度な患者は、この“リハビリとケアの境目”に位置した治療目標を立てることとなる。
●ACP「人生会議」と 「エンド・オブ・ライフケア」
「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」、いわゆるACPが提案され、その身近な代替語として「人生会議」が昨年から提唱されている。ACPは、自らが望む「人生の最終段階における医療・ケアの方針」を前もって話し合い、いざその場面となった時に活用しようという当事者中心のもの。一方、ケアを提供する側の指針「エンド・オブ・ライフケア」は、“リハビリ入院治療スペクトラム”の一端も説明しているように思われる。機能回復や改善を図るリハビリ、機能維持を図るリハビリが困難でも医療者として何かできることがあるはず だ。意識が良いのに四肢拘縮進行で苦しむ患者、経鼻胃管挿入のまま四肢の抑制を受けている患者などをみると、“リハビリとケアの境目”の患者でもそのQOL改善を目指す治療やケアがあると確信する。
●リハビリ科入院:これからの課題
医療全般が進歩した。服薬アドヒアランスを上げるOD錠、ポリファーマシーを避ける合剤、安定した血糖変動が得られる持効型インスリン、などがそれである。リハビリ医学も対象患者の高齢化でその質と内容が少しずつ変化してきている。フレイルとの関連で、“リハビリ栄養”や“障害予防リハビリ”の言葉が生まれた。訓練場面でのロボティクス応用は高齢者リハビリ現場ではやや縁遠いので触れないが、変形拘縮予防のボトックス治療や物療の利用はもっと考慮すべきだろう。また、治療的胃瘻造設は終末期医療に至るまで「緩和ケア」や「エンド・オブ・ライフケア」の観点から有用と確信しており、まだまだそのプロパガンダが必要と思っている。
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