2013年3月19日火曜日

[IS-REC] 太田成男著『体が若くなる技術』はわかりやすい一般向けの好著


瀬名秀明・阿部成男共著『ミトコンドリアのちから』(新潮文庫)は科学的読み物として内容濃い力作であった。しかしこの本を読みこなすにはある程度の基礎学力がないと、とても読み切れたものではない。それに比べ本書は、突っ込んだ説明が幾分不足に感じるところはあるものの、健康志向の一般大衆向けに良く書かれた一冊である。

 

“スキル・テクニック”ではなく“技術”

本書のエピローグで著者も断っている。残念ながら“体が若くなる”、あるいは“体を若くする”のに、決して誰でもどこでも簡単・容易に達成できるテクニックやスキルがある訳ではない。書籍タイトルというものは本屋で手に取ってみる者がこれは読んでみたいと食思がのびるタイトルとするのが出版社の常である。本書もそういった要望から付けられたものと想像する。しかし決して“看板に偽りあり”ではないようだ。著者は本書を“スキル・テクニック”ではなく“技術”書であると強調している。体を維持し新陳代謝を行う細胞生物学的単位、ミトコンドリアは好気的エネルギー代謝の場であり、不可避的に活性酸素(ラジカル)を発生させる。ラジカルは遺伝子を傷害して老化を進める第一の原因。我々の手に届く所にあるもっとも有効な“体を若くする”技術は、このラジカル対策なのだ。

“エネルギッシュに生きる”には

“体が若くなる”とは、基礎代謝・活動代謝が上がり、日常生活がエネルギッシュとなる状態である。ヒトの体のエネルギー産生機構とは基質である糖質や脂質を消費して、それをエネルギーに換える細胞内解糖系と細胞内ミトコンドリアの好気的エネルギー産生系のこと。その産生効率は、後者が圧倒的に良い。しかし好気的エネルギー産生には酸素という諸刃の剣を使うため、エネルギー産生過程で不可避的に活性酸素(ラジカル)を生じてしまう。ラジカルは細胞障害を引き起こし遺伝子を傷つけ老化やガンの原因となる困りものである。著者はこういったエネルギー産生のしくみを理解すること、さらにヒトの日常行動のみならず、生きて行く上で最低限必要な行為、すなわち食行為やその結果必要となる消化吸収、呼吸など、すべてエネルギーが必要であること、急激な酸素需要と供給が変わる状態で活性酸素の生じやすいことを理解すること、以上二点が大切と説く。これらを知れば、活性酸素の生じにくい状態を技術として手に入れることが出来るというわけだ。

「老いる仕組み」にラジカル関与

体を構成する組織は核とミトコンドリアにある細胞内遺伝子の遺伝情報によって絶えず新陳代謝されている。この遺伝情報がラジカルによる遺伝子の傷(根拠不明だが1日10万カ所と書かれている)によって撹乱される。また遺伝情報発現時のコピーミスによって新たに再生されるアミノ酸などが変化する。これら組織再生ミスが老化の主な原因となるのだ。一方、ヒトの体にはこういった変化やミスを修復する機構も備わる。すなわち、老化は加齢によって起こる不可避的現象とばかりは言い切れないのだ。また、発がんや血管の老化として認識される動脈硬化、これらも加齢に伴うネガティブな現象である。これらもその多くの原因がミトコンドリアで発生するラジカルにあるのだ。

ラジカル、特に“悪玉”ラジカルを発生させない工夫、退治する手段が“若くなる技術”

「若くなる技術」とは、ヒトが生きてゆく上で必要となるミトコンドリアでの好気的エネルギー産生、それに伴うラジカル発生を極力抑える工夫である。発生したラジカルを無毒化する機構(スカベンジャー)がある一方で、ラジカルはさらに電子を吸収して反応性の高いヒドロキシラジカルに変化する。著者は体の酸素要求が急激に変化する行動を極力避ける工夫がラジカル発生を少なくする鍵と説明する。またラジカルはそのすべてが悪さをするのではなく、発がんや感染制御上、有効な働きをする場合もある。加齢に繋がる活性度の高いヒドロキシラジカル(悪玉ラジカル)を特異的に阻害・無毒化するものとして、体内のどこにでも入りうる水素ガスが有効であるという。著者はこのために水素を加圧溶解したり電気分解して作製した水素水、水素バブルを発生する浴槽装置の利用などを提案している。ご承知の方も多いと想われるが、水素水はアルミパックにはいって既に市販されており、そのニセモノ・ホンモノについて先頃某週刊誌でも話題となったようだ。

“不老”や“若返り”技術はホントにあるのか?

テロメアという遺伝情報に基づいた組織再生を有限にコントロールする機構を知れば、活性酸素発生量をコントロールしても、“不老”や“若返り”を実現する技術のハードルは高いと誰しも考えるだろう。しかし本書はバイオサイエンスの情報に基づいて、その可能性を夢ではない現実のものとして語っている。「それは本当か?」という疑問を自分なりに解消するには、やはり本書のみならず「ミトコンドリアのちから」までの一読が必要”というのが私の結論である。

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