某大学疫学調査に協力して
センターには、方々から様々な調査協力依頼が舞い込んでくる。特に最近は、人口高齢化やその対応が必要となる社会的ニーズを反映した調査が多い。国や大学、各種研究機関などの調査、あるいは社会医学系大学院学生の研究論文作成協力などの調査である。センター業務や従事職員数、医療や病院運営概要など、センターが通常把握している数値そのものであれば回答も容易である。しかし多くの依頼調査は担当事務レベルで回答困難な、臨床成績その他の数値データを求められることがあり、その場合は関係する医療職種が該当データを見返して回答しなければならない。
“若年性脳卒中”患者調査
この度、某大学研究機関から“若年性脳卒中患者実態調査”に協力を要請する旨の文書が舞い込んだ。日常から臨床データをしっかり整備している病院機能評価認定を受けている施設を対象に調査を依頼したとの事である。過去5年間の脳卒中患者のうち、45歳未満の脳卒中患者を“若年性脳卒中”患者として、その実態を知らせて欲しい旨の依頼内容である。
こういった調査は病歴管理資格者が常勤し、取り扱い患者の主診断名やその他、併発症・合併症・続発症がきっちり記載され、入院患者にあっては医師による退院時サマリーが一定期間内に報告される体制が整っていることが必要条件となる。“病院機能評価認定施設はこういった条件を満たしているはず”との調査依頼機関の認識であり、該当する当センターとしては答えざるを得ないと判断した。
当センターの病歴管理は如何?
今回の調査にあまり労することなく答えるためには、
- 入院患者カルテ情報がいつでも参照可能な形で悉皆管理されている
- 診断名がICDコードと対照して入力されている
- 臨床情報データベース(DB)が構築され、基本情報(氏名、性別、生年月日・入退院日とその時点での年齢・性別・住所など)と診断・治療内容に関わる臨床情報・転帰が項目として正しく入力されている
- データベースは、医療スタッフなどが容易に基本情報、臨床情報などの各項目でデータ抽出できるユーザーフレンドリーなDB構造となっている
などの条件が満たされている必要がある。しかし実態は残念ながらそうはなっていない。こういった管理が出来るためには相当のヒト・カネ・時間をかけねばならず、推進役の医師が業務荷重となっている現実では研究部門を併設する臨床センターでもない限り困難だろう。当センターでは、1、2、については対応しているが、3、4についてはオーダリングシステムの付録のようなDBがあるのみ。このDBから医師やリハスタッフが臨床データ分析目的に、特定の疾患や障害のケースをリスト・アップするのはほとんど不可能なのが実態だ。
DBを寄せ集めて該当リスト作成、依頼データを何とかまとめた
前置きが長くなった。使いにくいがオーダリング付属のDBを基本にリスト作成を試みた。不足項目データは、別にある手作りの入院予約システムからそのデータを突き合わせて必要な該当リストを作成した。“若年性脳卒中”患者調査の結果はこのリストから分析・作成したものである(上のグラフ・表参照)。
- 2009/06~2013/03(3.5年)の脳卒中延べ入院733名を分析した。45歳以下の初回入院脳卒中患者は24名(3.3%) ※5年逆上れなかったのは、オーダリング・システムが更新時適切に引き継がれなかったことに依る影響である。
- 全脳卒中患者平均年齢は、68.2±11歳、若年性脳卒中患者平均年齢は、39.1歳、なお男女比に全脳卒中と若年性で特徴的差異はない。
- 病型別では、脳梗塞でアテローム血栓性が全体でも若年性でも最も多い。脳出血では全脳卒中で視床出血が被殻出血に次いで相当数(54例)を占めるのに対し、若年性は被殻出血6例で視床限局型出血はなかった。その他脳卒中の“もやもや病”はすべて若年性例であった。
- 若年性リストには他院で急性期リハビリを行い、反復促通やCI療法など、上肢能力の更なる改善を目的に入院した3例が含まれている。
- 転帰を若年性脳卒中で見ると、脳底動脈閉塞1例を除いて良好であり、日常生活活動(ADL)自立(バーセルスコア:100点)は、17/24(71%)例。杖と装具使用を含む歩行は1例除く23例で可能であった。
- 若年性脳卒中患者退院先は自宅退院21例、残る3例は更生訓練センター入所であった。
- 結論として、“若年性脳卒中”とは言え、その年齢は17歳の1例を除いて平均約40歳、全脳卒中と比較して特に脳梗塞では病型差はみられなかった。また予想していた以上に機能予後は良好だった。
0 件のコメント:
コメントを投稿