「読書力」とは?
最初は書店の新書コーナーで著者の名前と書名に引かれて何となく購入した一冊であった。以前に読んでいた『声に出して読みたい日本語』(1・2、草思者)、『三色ボールペンで読む日本語』(角川書店)はともに声や指先という身体運動伴う読書の勧めで、マスコミにもさまざま取り上げられた。『読書力』という言葉は奇をてらうことはないが、どんな事が書かれているのか目を通したくなるタイトル。そして結論から言うと、読みごたえあり購入は正解だった。
本書の序では、先ず「読書力」とは何を指すのか、「読書力がある」の基準は何かを論じている。著者が示す基準は、“精神の緊張を伴う読書”内容の本であり、その対象として「文庫百冊」+「新書五十冊」を読んだという経験で「読書力」の一部を定義している。また本書後半では一冊の本を読み終えたときの全体を要約する力も読書力に含めている。
読書は習慣。幼児期の絵本読み聞かせに始まり、学童期の児童書から少しずつ伝記や単行本に目を通すようになり、さらに中学・高校となって文庫本にステップ・アップしてゆく。しかし最近は高校生や大学生でも「読書力」はおろか、読書習慣のほとんどない者が増えている。「読書力」のある者、高い者は押し並べて「文庫本時代」を経験している。この時期がないと大人となっても「読書力」はなかなか身に着かないようだ。
自己形成と読書
読書は知識の宝庫であるのみならず、自ら体験し難いことを追体験させる。さまざまな考え方を知り、複雑さを共存させる幅広さを持ち、辛い自己体験を乗り切る力にもなる。読書はこういった自己形成手段である。また教養とは一つのことを絶対視せず、幅広く総合的に判断できる能力。読書は自己形成や教養に欠かせない。
読書とテレビ視聴の違い
読書やラジオを聴く行為が想像力をかき立て認知症予防に優れているとの指摘は多い。本書の著者も読書を通じて「自分と向き合う時間」は、時に辛いことも多いが貴重であり、特に優れた相手と内的な会話を繰り返す効果は大きいと強調する。
言葉と暗黙知
読書でたくさんの言葉を知り、また語彙を増やす事ができる。上手に表現できなかった自分の心の内を言葉で表現できるようになる。
技・身体能力を鍛える読書
声に出して古典を読む素読の効用、付箋を挟んだり、三色ボールペンで書籍の骨子となる部分に赤線や青線を引いたり、気になる一節に緑線を引く。すべて著者の出版済み書籍の主張にあるところだが、この本でようやく著者の脈絡全体が見えてきたようだ。
読書は言葉を通じて教養の素材を提供する手段だけではない。声や指先なども使いながら身体全体で行うスポーツでもあり、それを体得できている者こそ「読書力がある」と言って良いのだろう。
本書にはイメージ喚起に優れた宮沢賢治の本、明治から大正にかけた「素読派」と「教養派」の違いを論じた唐木順三の本、幼児への読み聞かせ絵本の大作「ギルガメシュ王」の三部作を紹介するなど、これまで知らなかったり認識を新たにする事柄も多く盛られている。是非読んでおきたい一冊である。
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