2013年9月3日火曜日

[IS-REC] 堤未果著『(株)貧困大国アメリカ』を読む

オバマへの幻想を打ち砕く、“多国籍企業と1%のための株式会社国家”アメリカをあぶり出した本

   堤   未果の前々著である『ルポ貧困大国アメリカ』(2008年)は市場経済にまかせた小さな政府を良しとするブッシュ政権時代、格差社会と貧困層が増大するアメリカの現実をルポルタージュ形式で我々に伝えた好著であった。

   この頃から国民の多くが米国同様に貧困と格差社会が進行してゆく日本に危うさを感じ、アメリカに従属し、アメリカをモデルとする事に何らためらいをみせない当時の小泉内閣、更に続く自民党政治にノーを突きつけて民主党政権が誕生した。

   しかし政権を引き継いだ民主党政権も結局のところ腰砕けとなり、自民党政治が再び復活した。自民党そして民主党政権も、詰まるところアメリカ言いなり、アメリカ従属にも何らためらいを見せない現実。この二大政党に失望しつつも国民は経済再生に幻想を振りまいた自民党・現安倍政権に支持を託した。そしてTPPという関税自主権を放棄するに等しい亡国的政策もマスコミや御用学者によって日本回生の切り札となるかのような宣伝がなされて一定の期待が持たれる現実が今も続いている。

“自由と民主主義の国アメリカ”は既に幻想、オバマは“1%のために”を喝破

   本書、『(株)貧困大国アメリカ』は、米国民自体が既にTPPを推し進める勢力によって格差と貧困の負のスパイラルに貶められつつあることを如実に伝えている。前々著同様に様々なルポや統計的数値を駆使して説得力ある記述を展開しているが、TPPの危険性を理解する上でも、“食の安全”に関わる様々な米国内での現実を知る必要があり、この点についても本書は詳しくルポしている。養鶏や養豚での生産効率化、巨大産業化によって多くの生産農家が系列化される一方、それを支配するアグリビジネスは巨大化し、抗菌剤や成長ホルモン漬けの鶏や豚が市場に出回っている。食糧の法的規制は形骸化ないし骨抜きとされ、良心的小規模自営養鶏・養豚業者は次々と廃業に追い込まれる。雑草や自然災害に強いGM種子を使った主食作物を扱う小規模自営農家も然り。アグリビジネスに牛耳られ、多額の借金を抱えた農業労働者に変えられてゆく恐ろしい実態を克明に描写されている。

   多国籍企業やアグリビジネス、巨大製薬業などを経営する1%の人達に富は集約し、そのカネで政治や政策、法律さえ買える仕組みが既に出来上がっているというのだ。大統領が共和党から民主党に代わっても、ロビイストがそのまま政権中枢に入り込む、“回転ドア”がオバマの元でもスムーズに機能しているのだ。国民には民主党と共和党の表面的政策の違いが事の本質の如く喧伝される。しかし実態は1%のための政策が着実に実行に移されているのだ。すなわち、大統領選挙キャンペーンで並べられた、政策の“きれい事”もまったく実現しないばかりか真逆の方向に向かってしまっている。マスコミ(主にTV)に流されるアメリカの政策は実のところ、共和党も民主党も大差ない。その実は多国籍企業やそのオーナーである1%のために都合良いように進められており、その視点でその後の結末を眺めると良く理解出来るそうだ。

GM種子とGM作物による世界支配の意味

   食糧危機が叫ばれ、その収量や災害に強いという触れ込みで小麦や大豆、トオモロコシにも遺伝子組み換え(GM)品種が導入される。緊急食糧援助を口実に発展途上国やアフリカなどにもこのGM品種がどんどん植え付けられてゆく。アグリビジネスでは、その品種の種子を購入する代金から、GM品種以外の“雑草や害虫”を駆除する農薬代金、その特許料までまるまる儲けが転がり込む仕組みが出来上がる。一方伝統的品種はGM品種とセットで導入された農薬により根こそぎ使用困難となる。メキシコやアルゼンチンでは、労働集約と収量増のため農地の大規模化が進み、その農地にGM品種が一律蒔かれて生産される仕組みが出来上がった。その結果はその地の農民の食糧確保さえ困難な現実となって、食糧暴動が頻繁に起きているという。また食糧生産をその種子から農薬まで輸入に頼らざるを得なくなったとき、その輸入元の国(あるいは多国籍企業)に首根っこを押さえられたと同じこととなり、外交上の大きな弱点となる。

GM作物を餌とする家畜への影響、養豚・養鶏の集約化・増産を進めるための抗菌剤・成長ホルモン投与の怪

 

   米国内で進行する様々なアグリビジネスは、食糧を口にする国民の健康を大きく損ねる可能性がある。GM作物を餌とする家畜の発癌や奇形・早産・凶暴化など、様々な報告が世界の各地から上がっている。しかしそれらの事実も多国籍企業とその金権力に汚されたマスコミ・医学研究者などにより悉く表面化されないように仕組まれて、GM飼料作物・食品の安全性のみが強調される。牛肉や牛乳、養鶏・養豚で生産される各種のタンパク源もその品質表示や品質確保があいまいにされ、将来ヒトへ大きな健康被害がもたらされる可能性が高い。

   TPP交渉の結果どうなるかは、FTAで韓国の農業や畜産業が崩壊に瀕していることでも理解出来る。しかし、それ以上に怖いのは日本で安全な食糧確保が困難となり、米国などから輸入される安価だが健康被害がもたらされる可能性の高い食品が広く流通することだ。食品の安全性を担保出来ない食品輸入は何としても避けなければならない。

医療や製薬、教育にも大きな影響が・・・そして1%は相互扶助の義務からも上手に免れることを考えている

   米国では医療制度や自由に手に入る医薬品、保険、教育も1%が支配するようになり、結果的に富の集中とますますの格差社会が進行している。1%は残る99%に富を再配分する非効率を避けるため、自分たちだけの社会を実現する独立自治体すら結成し始めているという。「政治も政府そのものもカネで買われ株式会社化したのが今のアメリカの現実である」・・・・堤   未果の本書の結論である。この本を読んで、日本はこうなって欲しくないとしか言いようがない。TPPから撤退して欲しい、そして、日本にふさわしい地産地消の、 “里山社会主義とその経済体制” を打ち立てて欲しい。

0 件のコメント:

コメントを投稿

過去に記述した関連記事

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...