先頃読む機会のあった、G.トーベス著『人はなぜ太るのか』を検索していたとき、まったく同名の書が岩波新書から出版(2006年初版)されていることを知った。著書は岡田正彦氏である。
「肥満を科学する」と副題ついた本書の構成
本書のプロローグ。太りすぎたある患者さんの、“食べる量を十分減らしても太ってしまう“という言葉。そしてその回答を求めるとして、“肥満を最近のデータで科学する”と本書のねらいを示す。後の構成は、第1章:肥満の仕組み、第2章:肥満をはかる、第3章:肥満はなぜ健康に悪いか、第4章:健康的にやせるには?、という構成。核心は第1章。第1章では「太る」という言葉の定義「脂肪などがついて体重が増えること」を仮に挙げて、からだを構成する成分のうち、唯一タンパク質のみ遺伝情報に基づき人のからだを再生する、それ以外の脂肪や水分は物理法則に従って自然に構成されてゆくと説明する。
わかりやすい三大栄養素の消化と代謝の説明
代謝酵素そのものや運動を起こすのに必要な筋肉など、すべてタンパク質である。タンパク質は摂取されると胃腸でアミノ酸まで分解され、代謝が昂進した特殊な状態でない限り、再利用されることなくユビキチンがついて分解され排出されてしまう。すなわち、エネルギーとして利用されるのはごく少量だという。一方、炭水化物の多くはスターチ(でんぷん)。スターチは動物のグリコーゲンに相当する植物(食品の基本)の貯蔵糖である。スターチは摂取すると消化吸収されてブドウ糖まで分解され、エネルギー源となる。エネルギーに使われなかった分は肝や筋肉で貯蔵糖(エネルギー)のグリコーゲンに変えられる。だが炭水化物すべてが貯蔵エネルギーとはならず、実は多くが脂肪酸に変換され、中性脂肪となり、皮下や内臓に蓄積されてしまう。したがって炭水化物のとりすぎは肥満の原因である。
栄養素としての脂肪の役割は体を構成する細胞やホルモンなどの原材料となること、およびエネルギー源である。後者は肝臓で一旦分解され、必要に応じて中性脂肪に再合成される。
以上、ここら辺りの説明は一般向けでとてもわかりやすい。
肥満と食事の関係について岡田氏の主張
著者は、“太る食品”についての疫学的データを紹介している。それによると、男は甘味類すなわち糖分、女は脂肪を多く摂ると太るという比較的明快な結果が出ている。しかし肥満自体や脂肪の付き方など、個体差や人種差が大きく、背景に遺伝形質の違いが考えられると述べている。ここで肥満をもたらす食品としてジャンクフードに触れている。ハンバーガーは脂肪と炭水化物が多い。特に脂肪は1個で一日必要摂取量の40%にもなり習慣的に食べていると肥満になるのは当然であろう。
G.トーベスの主張との違いは?
2006年に出版された岡田氏の本書、2010年出版のG.トーベスの著書、この主張の違いをみる。人が太ること、ないし食事と肥満との関係について、二つの本の主張に矛盾はないが、後者の主張と結論は明快である。
G,トーベスの著書は後で出版されただけ、文献渉猟も網羅的であり、また肥満の問題について、その歴史についても詳しく述べて説得力がある。
岡田氏の本書を加味した肥満の原因の結論である。肥満の元凶は三大栄養素うち、炭水化物(糖質)であること。脂肪(脂質)はカロリー源としての熱量は大きいものの単独では肥満の原因とはならず、炭水化物と同時に摂取された時、相乗的に肥満の原因となる。
岡田氏の本書を追加して読み、肥満との関係でみた三大栄養素の消化・代謝機構の知識がよく整理できた。そして肥満の原因は総摂取カロリーにあるのではなく、糖質過多であることをあらためて再認識した。
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