2021年9月12日日曜日

[IS-REC/ISSUES] ~リハビリ科入院からみた寝たきり患者の拘縮

これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報NO566(2021年9月号)

●拘縮は予防できるか?

        重度片マヒや四肢マヒが残り、結果的に寝たきりとなった患者さんで問題となるのが四肢・体幹の拘縮である。20数年前、頼まれて秋田市内某総合病院の循環器科病棟をリハビリ医の立場でその診察と回診をさせていただいていた。主な役割は何らかの障害を残し、リハビリで良くなるケースあればリハビリ病院へ拾い上げることなのだが、もっとも困ったのは障害発生から時間が経ち四肢の痙性や拘縮が重度となったケースであった。寝たきりに近い状態の患者を病棟看護師は時間で一生懸命体位交換し、確かに臀部や踵の褥瘡は少ない。しかし四肢・体幹の屈曲あるいは伸展拘縮が進んで、股・膝・体幹が折れ曲がりおむつ交換も容易ではなくなっている。また手・手指関節は握り拳状となって指間が開かずそこに褥瘡も発生している。発症の早い時期から拘縮予防のROM(関節可動域訓練)をやっていれば予防できただろうに・・とも当時は考えた。しかし、その後の臨床経験からわかってきた事は拘縮予防ROMは、患者自身にその運動に協調できる自動能力が残り、かつ相当程度の頻度(たとえば毎日数時間かけるような)で実施しない限りほとんど無効であることだ。

●器械で自動・他動ROM訓練を行う

        訓練士によって限られた時間、ROM訓練を行っても拘縮予防が手ごわい事は以前から想像していた。そこで器械で自動・他動ROM訓練を行うことを考えた。幸い開発に手を貸してくれる器械メーカーがあって、まず最も実現可能性のあるマヒ上肢の手・手指関節を空気圧で伸展させる機器を試作した。医療器械としての安全性考慮などメーカー技術者の協力がなければ困難だったが何とか製品・市販まで漕ぎつけた。現在は多くのリハビリ施設や老健施設などで手の拘縮予防機器として使用されている。次いで下肢、特に足関節の尖足予防の機器開発を県立大学工学部の某教授と取り組んだ。しかしこれは結局未完成に終わった。下肢の足底側に押す力は非常に強く、空気圧のみで他動ROMを行うのは困難であり、これを補う硬性素材を使用した場合、医療機器として安全上の問題をクリアできないためであった。

●入院患者の現状と患者QOLを考慮したリハビリ介入の可能性

        当医師会病院の診療目標のひとつは、“慢性期リハビリテーション”である。医学的リハビリの柱の一つは患者さんの機能回復であることは言うまでもない。障害発生の早い時期に急性期病院での治療を終えて紹介され、リハビリのレールに乗り続けられれば、年齢や背景疾患にもよるものの障害を最小限にくい止めて自宅退院や施設入所が可能となる。

しかし障害自体が高度で、かつ背景疾患や合併症を抱える高齢者は機能回復が困難であり、主にケア対象のレベルに留まってしまうのが通例である。ベッド上の動作が要介助で、離床全介助、食事にも介助を要するような場合や静脈栄養、非経口栄養の場合、あるいは気切状態の場合などでは、退院後の受け入れ先がなく、医療リハビリの期限を超えて延々と療養入院を続ける結果となってしまう。そういった機能回復が既に期待できなくなったケースが他院からの紹介を含めて徐々に療養病棟を占めるに至っている。機能回復を期待して積極的リハビリを行っているケースは現在、全病床の3分の1に満たない状態。これは当院リハビリ医療の面からも深刻な状況である。高齢でさまざま合併症を持った入院患者さんの質が今後変わるはずもない。今、漠然と考えるのは従来の機能回復を第一義的に考えるリハビリ医療ばかりではなく、患者QOLを考慮したリハビリ介入の可能性である。ケアの面から考えたボトックスによる痙縮コントロール、そして最も難題である拘縮の予防と改善、認知症に対する取り組み等々。解決すべき課題は、まず口にしたり文字にしたりしないとその道筋すら見えてこない。今は残念ながらまだその課題を挙げて確認する程度の段階に留まっている。

2021年9月2日木曜日

[IS-REC/ISSUES]秋田県の無料広報雑誌「楽園」NO.65(令和3年6月1日)号掲載

 秋田県の無料広報雑誌「楽園」(平成22年~)は、中高年向けの健康記事を掲載しています。冊子は、 県内(銀行、図書館、宿泊施設、協力医療施設)および県外のアンテナショ ツプに設置されています。本稿はその65号(令和3年6月1日号)に掲載されたものです。

『養生のヒント  ~あなたは、“元気老人?”それとも“フレイル?”』


○リハビリ病院の患者さん達

        入院リハビリを受ける、それは日常生活が困難となる何らかの原因があって、急性期治療後も家に帰ることが出来ず、生活機能の回復を図る入院です。入院理由は要介護・寝たきり原因とほぼ共通。その主な原因は、認知症・脳血管疾患・高齢による衰弱・転倒後の骨折などが挙がっています(厚労省2019)。リハビリ入院はその中でも良くなると期待されるケースなので、認知症患者は除外されます。

○リハビリ入院患者に、“元気老人”はいない!

    
        リハビリ入院患者は、“アラエイティー(80歳前後)”で、フレイル、すなわちヤセで低栄養・筋量低下(サルコペニア)・活動量低下、が共通しています。フレイルでは握力が落ち、両下腿が細くなり、低栄養状態で、意欲・体力なく、栄養の改善を図らないとリハビリ実施は困難です。

○フレイルだから要介護や寝たきりとなる!

        一般にフレイルは老化に伴う心身機能低下と考えがちですが、老化の必須プロセスではありません。事実、私たちの身の回りには高齢でもたくさんの“元気老人”がいます。一方、徐々に食が細くなり痩せてきた、外出しなくなった、外出時には信号機のある横断歩道を渡り切れなくなった、などの症状があればフレイルの可能性が高くなります。フレイルになると簡単に骨折する、食事の偏りや低栄養、脱水から脳卒中・心筋梗塞などに罹患する、また認知症を発症する、などの可能性が高くなります。


○フレイルを予防して健康寿命を伸ばそう!

        寿命自体の調整は困難です。しかし細胞や遺伝子レベルで寿命制御機構が発見され、
実験動物から人の長寿化の試みが現実化しつつあります。他方、老化はプロセスであり個体差が大きく、個人の生活習慣に大きく左右されます。老化に抗して健康寿命を延ばしフレイルを予防するには日常の栄養が最も大切。高齢になるほど淡白で粗食を好み、また生活時間が不規則、食事も朝昼兼用、夕食が夜食となる、などのケースがみられます。三食をきっちりとる、魚肉・鶏肉など、蛋白質を多く食べ、副食多く主食は特に夕方に少なめとする、これが基本です。また自分の歯を残すように定期歯科健診を受け咀嚼力、口腔・嚥下機能を維持してオーラルフレイルを予防します。身体運動能力の維持・改善には毎日の運動が必要。朝のラジオ体操、また仲間と一緒に出来る運動などが良いでしょう。ウォーキングは速歩で息がはずみ汗をかく程度の負荷で行います。社会参加の面では、可能な限り就労を続けます。そうでない場合にはボランティア活動、友人とのおしゃべり・会食、または観劇などの文化活動も望ましいことです。これらの点に心がけるのはもちろん大切ですが、生活習慣病で治療を受けている方はかかりつけ医の投薬と指導で治療を中断しないようにしましょう。老化というプロセスからフレイル、サルコペニア、そして認知症を予防して要介護状態に陥らずに、いつまでも元気老人でい続けられるかどうかはあなたにかかっているのです。

2021年8月30日月曜日

[IS-REC/ISSUES]~脳卒中治療・リハビリテーション医療の進歩を活かすために~

 ※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報NO492(2015年1月号)

~脳卒中治療・リハビリテーション医療の進歩を活かすために~

●はじめに

        ここ数年、脳卒中治療やそのリハビリは大きく進歩している。今年まもなく「脳卒中治療ガイドライン2015」が公表・出版される。そこでは脳卒中リハビリについても多くの紙面が割かれるはずである。拙文ではその詳細に触れないが、当地区の現状を踏まえ今後その治療と技術の進歩を日常診療に活かすため、当地区全体で何を目指すべきか、その方向性について私見を述べる。

●由利本荘医療圏の現状

        平成24年度の由利本荘保健所管内の死因統計では、死因の多い順にガン・心臓病・脳血管疾患・肺炎・不慮の事故であり、脳卒中割合は死因第3位。また要介護・寝たきりの原因は全国共通し、脳卒中後遺症が第一位。これは当地区でもおそらく同様であると思われ、脳卒中治療とそのリハビリには未だ十分な力を注ぐ必要性を感じている。当医療圏は病院数6、多くは一般病床であり、療養病床は1病院50床のみ。リハビリに特化した病床はない。脳卒中医療やそのリハビリは、急性期から慢性期に区分されたシームレスな地域完結型医療が最も有効とされる。こういった地域の体制について当地区は残念ながら秋田県内でも相当遅れをとっている。一方、近年国の目指す医療と介護の一体化構想のもとで地域包括ケア病棟が生まれつつある。この中には在宅診療支援機能も含まれており、“慢性疾患やそれによる機能低下・生活機能障害(要介護状態)”に対して、有効な対処の枠組みが用意されたかにみえる。

●治療の進歩・リハビリの進歩

        脳卒中急性期治療について、当地区の脳卒中センター機能を担う由利組合総合病院は国内でも屈指の高い医療レベルを誇る。急性期病院でrtPA使用や血管内治療が行われ、引き続き急性期・亜急性期のリハビリが行われる。機能回復を目指すリハビリ、障害が残っても、その障害を代替したり補助的手段を導入して社会や在宅復帰につなげるリハビリ技術は大きく進歩している。身体機能という場合、特に脳卒中では運動麻痺に眼が奪われがちである。しかし近年注目されるのは運動障害治療以前の問題として、栄養障害や認知障害の問題があり、このような背景を改善することで機能予後が大きく変わることも周知の事実である。リハビリそれ自体は、要点として医師やセラピストのスキル(リハビリの質)と、訓練の量が挙げられている。特に後者の量的問題については理解しやすく、“24時間365日リハビリ”の有効性は実際高い。

●地域の実情にあわせて何が用意されるべきか?

        生活圏は広域であり、脳卒中後遺症を抱えて自動車運転が出来なくなると地域生活は“アウト”となる。痙性や拘縮で手の機能が低下するとそれまで可能だった身辺処理が自力で出来なくなる。疾患管理が悪いと脳機能が低下して嚥下障害が起こり誤嚥性肺炎を来す。家屋環境や季節的影響で運動やリハビリが行えないと運動過少による肥満から日常生活活動が困難となることもある。こういった様々な生活上の問題に対して適切な評価と指導(自動車運転であれば“運転シミュレーター”、痙性や拘縮は麻痺上下肢の管理と治療的ブロック療法、嚥下障害であればその評価と食事形態・栄養摂取法の検討、肥満であれば障害にあった運動・訓練法や栄養指導、など)がなされ、必要と適応あれば治療と短期集中リハビリが可能となる専門的施設(“リハビリセンター”)が利用される。それは脳卒中センター同様に地域全体で共有できる“リハビリセンター”でなければならない。そのためには地域で一貫した治療方針で患者さんをみる“地域連携医療”の中で利用される形が望ましい。地域連携医療は医療・介護の担い手個々の協力で可能だが、リハビリセンターなど、“ハコモノ”の設置は容易ではない。しかしリハビリの大きな目的は“要介護者を減らし、要介護度を下げ、tax-payerを増やすこと”。この目的実現で削減できるコストも大きいはずである。“リハビリセンター”の採算性を是非どこかで検討していただきたいものである。

●おわりに

        私個人の当面の目標は地域連携医療の構築で急性期から回復期へ脳卒中治療とリハビリの流れを作ること。そしてその結果を出して行くこと。なかなか大変な課題である。諸兄姉のご支援をお願いして筆を置きたい。


[IS-REC/ISSUES]リハビリ科入院からみた障害高齢者の治療スペクトラム


※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。
 由利本荘医師会報O550(2020年3月号)

●高齢者リハビリ入院の背景

    巷間の高齢者の多くは元気老人で、“人生100年時代”を謳歌している。一方で少子化による世帯人数減少、高齢者貧困世帯増加を背景に、目立った障害がなくともフレイルという要介護準備状態者が増加している。巷間の高齢者の一方はこのフレイルで、生活習慣病の不十分な治療や未治療、健康維持に必要な食事・栄養・運動習慣の不十分などがその原因となる。フレイルでは高血圧や糖尿病による大小血管病、骨粗鬆症による大腿骨折などをきっかけに、介護を必要とする様々な障害に見舞われる。急性期病院での治療後、“あとはリハビリで”と障害を持つフレイル高齢者が紹介されてくる。また市中の診療所で治療を受けながら徐々に機能が低下し介護が限界に達して紹介されてくる高齢者もある。慢性期医療病院のリハビリ科入院は概ねそのようなフレイル高齢者や既に相当以前から様々な疾病や障害を持った要介護高齢者がほとんど。元気老人が入院してくることはない。

●背景疾患を治療し、“機能的状態”を入院時より良くして帰せるかが問題

        背景疾患の治療を前医に引き継いで行う。新たに発生した障害はそのリスク管理を行いながらリハビリを行う。リハビリでは阻害因子を明らかにし、回復や改善の見通しをスタッフと共有する。その阻害要因が大きければ、時に“リハビリ適応なし”と判断するケースも出る。意識障害や全失語で訓練時の協調動作が期待できないケース、極度の栄養不良で訓練負荷に耐えられないケースなどはリハビリ適応外となる。これらの問題がない場合でも、フレイルや認知症によって、訓練しても機能的状態は変わらないか、悪化するケースがある。主治医の仕事は、したがって背景疾患を治療し、阻害因子の軽減を図り、家族やMSWと相談しながら退院先を決定する、チーム全体の方針の取りまとめを行う、などである。その場合、“患者の機能的状態が入院時より良くなっているか、退院後にその変化が患者本人のQOL改善につながるか?”を絶えず考える必要がある。

●リハビリとケアの境目

        “リハビリ適応外”、“現疾患治療優先でリハビリ困難”と判断されるケースのリハビリ科入院は悩みが多い。訓練で機能維持すら困難なケースもある。家族に状況を説明してケアに重点に置いたメニューを実施する。背景疾患が重症であったり、もともとフレイル高度な患者は、この“リハビリとケアの境目”に位置した治療目標を立てることとなる。

●ACP「人生会議」と 「エンド・オブ・ライフケア」

        「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」、いわゆるACPが提案され、その身近な代替語として「人生会議」が昨年から提唱されている。ACPは、自らが望む「人生の最終段階における医療・ケアの方針」を前もって話し合い、いざその場面となった時に活用しようという当事者中心のもの。一方、ケアを提供する側の指針「エンド・オブ・ライフケア」は、“リハビリ入院治療スペクトラム”の一端も説明しているように思われる。機能回復や改善を図るリハビリ、機能維持を図るリハビリが困難でも医療者として何かできることがあるはず だ。意識が良いのに四肢拘縮進行で苦しむ患者、経鼻胃管挿入のまま四肢の抑制を受けている患者などをみると、“リハビリとケアの境目”の患者でもそのQOL改善を目指す治療やケアがあると確信する。

●リハビリ科入院:これからの課題

        医療全般が進歩した。服薬アドヒアランスを上げるOD錠、ポリファーマシーを避ける合剤、安定した血糖変動が得られる持効型インスリン、などがそれである。リハビリ医学も対象患者の高齢化でその質と内容が少しずつ変化してきている。フレイルとの関連で、“リハビリ栄養”や“障害予防リハビリ”の言葉が生まれた。訓練場面でのロボティクス応用は高齢者リハビリ現場ではやや縁遠いので触れないが、変形拘縮予防のボトックス治療や物療の利用はもっと考慮すべきだろう。また、治療的胃瘻造設は終末期医療に至るまで「緩和ケア」や「エンド・オブ・ライフケア」の観点から有用と確信しており、まだまだそのプロパガンダが必要と思っている。

※医師会報掲載の関連記事は以下の通りです。



2021年8月29日日曜日

[IS-REC/ISSUES]『NO546「私のオススメ」ライフハックとaudible.com』

※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報O546(2019年12月号)

~ワークライフバランスの生活手法~

        精神科医・名越康文氏が『寅さん新聞』で語るように、物欲や望まない人との関係性などに煩わされず、また決まったスケジュールを持たない生活ができたらそれは最高の贅沢だろう。私はどう間違ったのか、歳をとるほどそんな贅沢に程遠い時間貧乏の生活を送っている。職場で走り回り、家にはクタクタで帰り、“メシ・フロ・ネル”の生活になりかねない毎日なのである。そこで当面の私の使命は、“時間に流されず、仕事もプライベートも充実した生活を送ること、しかもその“満点”生活を他人(ヒト)には卒なくこなしているようにみせること”、なそある。さて、以前からライフハックには大いに興味があった。ライフハックとは、人生をラクにする“IT時代の仕事術”である。タスク管理から知的生活の設計まで人生をラクに一歩ずつ変えるテクニックである(Lifehacking.jp )。出来るだけ手抜きせず迅速に仕事をこなし、残業などはせず、まっすぐ家に帰って趣味にも時間を使う。その理想をかなえる手段としてライフハックは必須であり、時間貧乏ゆえに日・週・月単位のスケジュールが必要となる。時には明治大学・齋藤 孝先生が披露するようにタイマーをかけて一つ一つの仕事をすることも必要なのだ(齋藤 孝著『人生を変える「習慣」の力』成美文庫)。


私のライフハック1:“ScanSnapとPaperPort”


        加齢とともに仕事をこなす要領が悪くなった。その最も大きい要因は身のこなしが悪くなったことと、言わずもがな記憶力の低下である。脳の記憶容量が減って複数の仕事を同時並行でこなすことができない、記憶を再認することは出来ても、記憶を直接引き出すことが出来ない、具体で呼称できず「あれ、これ・・」の世界なのである。こういった時、脳の記憶容量低下を補う手段がまさにITの力である。私は10数年来その目的で“ScanSnapとPaperPort”を使っている。要は職場であろうが自宅であろうが、記憶ないし心に留め置くことがあればすべて“ScanSnap”でスキャンして画像データベース“PaperPort”に取り込み、保存するのだ。月単位で目的別(日常業務・文献・出来事・趣味など)に作っている4つのフォルダに分類する。このスキャンして保存した文書などは一覧してわかるサイズのサムネイルで表示されるので簡単に探し出すことが出来る。数年以上前に保存した文書も、“everything”というデスクトップ検索ソフトを使えば瞬時に見つけることが可能である。この画像データベースは、“dropbox”に保存してある。その結果、職場や自宅など場所を問わず、ノートPCさえあれば出張先でもアクセス可能である。またPDF や JPEG形式保存なのでiPhoneでも閲覧できる。お蔭で脳の記憶貯蔵庫を開放して、脳を考えることだけに集中出来る。こういった技術・手段はアクセススピードの進歩を別とすれば相当以前から利用されてきた。仕事と趣味の境界必ずしも明瞭ではないが、週末にはゆっくり新聞記事や雑誌記事、文献などを切り抜きして取り込む。記事や文献内容も切り抜きと画像データベース取り込みという作業が入ることで記憶に残りやすくなり、また後日の参照も簡単に可能となる。特定のテーマでまとめて読み返すこともできる。書評の切り抜きはよくする。複数の新聞で書評が掲載される本はやはり買って手にとりたくなり、ついついアマゾンで“ポチッ”とやってしまっている。(組写真1:ScanSnapとPaperPort画面、“everything”による検索)


私のライフハック2:“Yahoo & Googleカレンダーとリマインダー"

職場の日常業務は時間でびっしり埋まる。検査や処置、面談、外来、会議など時間に遅れることなくこなすようにしている。看護師さんなどからその時間前にお呼びがかかり、貴重な数分間を時間泥棒されることも多い。親切心から出でいるものなので怒らないようにしている。この仕事スケジュールは“Yahooカレンダー”、プライベートは、“Googleカレンダー”に分けて入力している。週や月単位のスケジュールは課題としてクラウド上(iCloud)のリメンバーソフト、“リマインダー”に記録する。設定で期日前になるとアラームが出るようになっている。予定の記載などは最近の音声入力の正確度がアップしているので固有名詞を除いてiPhoneからの音声入力で十分事足りている(組写真2:Yahoo & Googleカレンダーとリマインダー )。


“ながら聴き”のaudible.com

自分の趣味と健康を兼ねてウォーキングやジョギング、体操などをする。その時、有料のauidible.comからダウンロードしたさまざまなメディアを“ながら聴き”する。シリーズものでは,吉川英治の「宮本武蔵」、「三国志」、「新・平家物語」、五木寛之「青春の門」など、さまざま長編大作を聴いた。audible.comを知るまでこういった作品を読む機会は死ぬまでないだろうと漠然と考えていたので、「聴き語り」形式ではあるが大作に触れるチャンスのあったことを幸運に思っている。運動しながら耳で聴く本を読むとは、まさに認知症予防のコグニサイズ、いいことずくめのようだ。しかし特に高齢者運動指導時には却ってその問題を指摘する論文(川嶋一成:高齢者運動指導時の留意点~「ながら運動」防止の観点から.日医雑誌148、2019年)もある。実際、私自身もトレッドミル運動など、運動に集中が必要な場合、宮部みゆき・貴志祐介・今野 敏、といったワクワク・ゾクゾクするようで内容的に軽めのホラーやサスペンスでない限り、“ながら聴き”の出来ないことがわかってきた(組写真3:audible.comのメディア案内)。

神はすべての人に等しく1日24時間を与えている。その時間を有効に使えるかどうかは、このIT時代に人間に備わった能力の一部を代替したり、補ったりできそうな機器を上手に使いこなす「ライフハック」力とそれを習慣化することが大切だと思っている。





2021年8月27日金曜日

[IS-REC/ISSUES]『NO542「いいたい放題」~「障害」の諸相 ~』

※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報NO542(2019年7月号)

社会の階層化が進んでいる。非正規雇用が増加し普通に働いても貯蓄できず、結婚出来ず、生活が苦しいという階層が相当割合を占め、かつて総中流であった中から貧困層やさらにアンダークラスという階層が生まれている。安定した雇用と収入は階層化が進む以前の中間層の絶対条件であった。現在の雇用流動化で、中間層から下層へ転落する不安や危惧が今や社会全体のぎすぎすした空気を生んでいるように見える。貧困や貧困化の重要な背景のひとつに“障害”がある。近年、障害者に対する理解が進んで、街中や駅、公共施設のバリアフリー化、障害者権利条約採択、障害者雇用の義務づけ等、生活や働く環境整備とその法的整備に力が入れられてきている。とはいえ障害内容と障害者自体の多様性からまだまだ“健常人”との差が大きい現実である。障害を負ったことで生活の貧困化、下層への転落が起こるとすれば、それは障害者を受け入れる社会が十分成熟していない証であろう。地域間経済格差と生活利便性の差、少子高齢化に影響された世帯構造の変化、すなわち高齢単身世帯の増加も、加齢や病気で障害を抱えた場合に起こる高齢者の貧困や生活困難と大きく関わっている。三世代家族が極端に減って、身近な所で障害ある高齢の肉親に手を差し延べる微笑ましい光景は滅多に見かけなくなった。現在多くの高齢者には障害を契機に社会参加への著しい困難が待ち受けているようだ。

○リハビリ医療における障害

リハビリ医療はもっぱら障害を問題とする。教科書的に言えば、障害は階層構造を持ち、機能障害-能力低下-ハンディキャップとして捉えられる(WHO,ICIDH,1980)。診療場面でくりかえし行われるリハビリカンファランスは、チーム医療として欠かせない役割を持つ。その際の議論でもこの障害の階層構造に沿って問題が解析されている。近年では“生活機能の低下を障害とする”*ICFの障害概念が取り入れられて、“障害”の軽減のみならず、患者の持つ生活機能へ働きかけで生活の質(QOL)向上を目指そうとするアプローチが主流となっている。

*ICF:国際生活機能分類、WHO、2001年

○日常生活と障害

多くの人は日常生活に眼鏡を必要としている。眼鏡を必要とする状態でもそれを障害とは言わない。私は加齢により体力が低下して山歩きする自信をなくした。グループで出かけた時に他人に迷惑をかけたくないからだ。また老眼が進んで以前からの趣味である自作PC作りも困難となった。PC筐体の深い所でのネジ止め等の操作が出来ないからだ。加齢や病気の結果起こる大小の障害、それは趣味の領域はもとより身近に必要な日常生活にも大きく影響を与えて生活機能の一部撤退を余儀なくしている。

○医療と介護を結ぶ視点としての障害

もっぱらの仕事を“慢性期医療”とする医師会病院では、慢性期の疾患管理とリハビリが主な診療内容である。受け入れる患者さんの多くは長い人生と生活の中で様々な病気と障害を持ち、ICFで言う“生活機能の低下”を抱えている。入院直後には病気悪化による症状の治療と、抱えている要素的障害の軽減が目標となる。全部の患者さんがリハビリに回される訳ではないが、障害状況に合わせた退院先を考える段階で、すべて介護の視点が医療とオーバーラップしてくる。すなわち入院から退院への流れの中で医療-リハビリ-介護に視点が移ってゆく。そこに一貫して流れるのは患者の“障害”に対する理解とそれを少しでも解決に結びつけようとするアプローチである。患者の“生活機能の低下”を注視する必要があるのだ。単に退院先を決めるのではなく、患者の“生活の質(QOL)向上”の視点が大切だと思っている。

※医師会報掲載の関連記事は以下の通りです。

2021年1月2日土曜日

[IS-REC/ISSUES]『湯に浸かって健康になる』

●温泉通い

 由利本荘市の本荘公園に近い鶴舞温泉は、家から歩いてすぐの所である。元々、温泉好き夫婦なので週2、3度は回数券を買ってここに通っている。時に医師会長W先生やいつも医師会病院に往診いただくS先生、また私のかかりつけである御門歯科O院長先生などとも一緒になる。気泡浴や露天風呂、サウナなどを利用して温泉を楽しむ。温泉から家に帰るともう時間は午後8時半過ぎ。後はもう寝るだけの生活である。温泉通いは秋田では秋田温泉へ。しかし温泉まで車30分の距離。いくら温泉好きでも月にせいぜい2度か3度がやっとだった。由利本荘市での生活ではワイフが遊泳館で毎日水中ウォーキングを楽しみ、夜は夫婦で鶴舞温泉に通う生活。近くにプールも温泉もある由利本荘市の生活満足度は秋田市に比べて相当高いこととなる。

●物理療法としての温泉

 過日、秋季リハビリ医学会総会があり学会の研修講演を連続して聴講した。その中の一つは温泉医学・物理療法。演者のM教授(国際医療福祉大学)はリハビリ医学でも少し毛色が変わっており、温泉医学を中心に現在も活躍している。今回の研修講演内容は物理療法・温泉療法オーバービュー。彼の解説では、温熱や電気を使い機能回復や疼痛緩和を図る物理療法(物療)の歴史は古く、記紀の神話世界からその記述があり、近年では江戸時代から明治・大正・昭和の戦前にも物療が盛んに行われたという。特に温泉は言わずもがな昔から日本人に欠かせない娯楽や療養手段であった。講演ではこの温泉の効用を温泉医学の立場から様々解説してくれた。温泉は温熱の一般的効果に加え、入浴中の体温上昇が早い(炭酸泉)、浸かった後の保温効果に優れる、リラックス効果も大きい(特に塩化物泉)等々で、実際の実験データを示しながら検証結果を説明した。また疫学研究で温泉の定期的利用者群とそうでない群の比較で大血管病や骨折リスク、死亡リスクが低かったことも話された。温泉の直接的効果については、“疼痛性疾患、関節拘縮、血行不全、肩手症候群、失調症状、褥瘡などの症状緩和や治療に役立つという。

●“ヒートショック”と“ヒートショックプロテイン(HSP)”は別物

 冬場のこの時期、特に東北地方の寒冷地仕様ではない戸建て住宅に暮らす多くの高齢者は風呂場で倒れることが多い。その大半は“ヒートショック”と言われ、注意が喚起されている。これは暖房のある暖かな部屋から寒い脱衣所、さらに冷えた浴室に入り、血圧の急上昇をきたす、さらに浴槽に浸かって血管が開くなど、急激な体温変化が原因となって血圧上昇下降があり、心筋梗塞や脳卒中を起こすというものだ。冬季の救急搬送はこの“ヒートショック”に因るものが多い。入浴前に脱衣所や浴室を前もって十分暖めて置くことが事故防止上、肝要である。さて、“ヒートショックプロテイン(HSP)”はこの高齢者浴室事故の原因、“ヒートショック”とは全く別物だから少しややこしい。HSPについて一般向け書籍を出している伊藤要子氏の「加温健康法」(法研2013)によると、HSPとは熱ストレスで増加する組織修復タンパク質のこと。脳卒中後の急性期に組織修復に働くタンパク質として、しばしば登場するので脳卒中を専門とする医師には結構馴染み深いタンパク質である。「加温健康法」で紹介される事例では、ネズミやウサギを使ったストレス実験でそのストレス負荷の前に加温時間を入れるとそのストレス緩和効果は絶大だという。また実生活上では、スポーツ選手のトレーニングメニューにマイルドな加温(サウナや入浴)を入れると入れないとではその疲労回復程度やスポーツ記録で相当の差が出るという。実際、カナダでの冬季オリッピックの際、日本選手が試合直前にサウナを利用し好成績を挙げたそうである。このHSP(特にHSP70)は体内に増加しても特段の副作用発現はない。また自己の工夫で体内に増やすことも比較的容易である。入浴で適度な熱ストレスを与えるとHSPが増加する。入浴中の体温を2度上昇出来れば、HSP増加は確実だ。体温を上げる運動や食べ物も有効だが、無理な運動は余分な酸化ストレスも増やすので前準備が必要となる。薬では抗潰瘍薬セルベックスの有効成分GAAによりHSPがふえるという。こういった事実から美容医学や抗加齢医学でしばしばHSP上昇法が紹介されている。

●和温(WAON)療法

 慢性心不全の高齢者が増加している。リハ医学進歩の恩恵を受けて、近年急性心筋梗塞後の心臓リハビリテーションの施設要件が緩和され、多くのリハ施設で心臓リハが取り組まれるようになっている。それでも循環器科や心臓血管外科が併設された病院や循環器センターなどでないと、なかなか一般のリハ施設で心臓リハを行う敷居は高い。ところが最近、我々の病院でも様々な障害で入院してくる高齢者の多くが慢性心不全や腎不全などの既往疾患を抱えている。否が応でもこういった心不全患者の治療を続けながらリハビリを行うこととなるのだ。さてこの十数年以来、HSPの組織修復や機能回復作用を利用した、低温サウナ浴による慢性心不全治療「和温(WAON)療法」が認知されるようになってきている。この4月に保険適応され、慢性心不全高齢者のリハビリにも応用されている。これは鹿児島大学の鄭忠和教授の開発によるもので、“日本循環器学会の慢性心不全に対するガイドラインにクラスIとして掲載され、「高度先進医療」として承認”されている(「和温(WAON)療法」ホームページから)。一人利用のサウナが“和温療法器”として市販され、低温サウナであるので治療の危険性は少なく、管理も比較的容易なようだ。一般の病院ではこの和温療法器を使って治療する。残念な事に東北地方では仙台の東北大学リハビリテーション部の一施設のみで可能。慢性期で高齢者のリハビリを行う施設にはもっと普及して欲しいものだ。

●“体温を上げて健康になる”

 10年ほど前、斉藤真嗣著「体温を上げると健康になる」という本がベストセラーとなった。この本はオーディオブックにもなって更に読まれるようになった。また最近では雑誌「アエラ」で「体温で24時間を整える」という特集記事があり、体温と生活リズムの関係、自分で熱を作り出す効用などを解説していた。最近は特に女性で低体温者が多く、コロナ感染のスクリーニングに体温を測定すると、その低体温ぶりには驚かされる。もっとも体温計自体の問題もある。サーモグラフィーによる非接触型や、脇の下や口中で測定する接触型でも15~25秒で結果が表示される予測値で実測値をみない体温計の信用性は乏しい。いずれ体温を上げると身体の免疫力(?)が上がって身体能力がアップし病気・障害に対する抵抗力が上がるのは間違いなく、我々はコロナ感染予防のためにも体温を上げる工夫と努力が必要である。

●実測体温計をくわえて湯に浸かる

 温泉に比較して水道水を使う自宅の風呂では浴槽に浸かってじっくり時間をかけないと、なかなか体温は上がってこない。我が家の風呂温度は43度。通常は41度前後の家庭が多いので、慣れないと43度は結構熱いと感じるだろう。43度の湯に浸かり実測体温計を口にくわえて体温を測る。2度上昇するのに約7~8分、42度で約10分、41度では15分かかる。もっと短時間に体温を上げたいなら炭酸入りの入浴剤を使う。いずれにせよ体温上昇効果は温泉浴に敵わない。入浴や温泉などに浸かってHSPを上昇させる、高価なサプリや薬を使わなくとも、身近なところに比較的安価な方法で適う健康法があるのだ。その健康法を自ら実践するため、“今日は温泉に行くか、じっくり自宅の風呂に浸かるのか”、夕食時からあれかこれかと悩む毎日なのである。

●参考図書・Web-URL

1)伊藤要子著「加温健康法」(法研2013)

2)斉藤真嗣著「体温を上げると健康になる」サンマーク出版(2009/6)

3)和温療法:http://www.waon-therapy.com/message.html

4)アエラ2020年11月23日号

(由利本荘医師会報2021年1月『新春随想』掲載)

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