つい先頃63歳の誕生日を迎えたK.Y.さんが今日も夫の押す自操式車いすに乗って外来にやってきた。彼女49歳の折、クモ膜下出血を発症。当時私が所属するNセンターに入院して、開頭根治術を受けたが、脳内血腫や血管攣縮の影響で全失語と右片麻痺を後遺した。
急性期治療後、リハビリ科に移り、私との付き合いが始まった。あれからすでに14年経過、私を追うように現在の病院に代わり、通院加療と外来機能訓練を継続している。
発症当時は某銀行の食堂でまかないをし、夫婦と娘の3人暮らしで、とても明るい家庭であった。娘が自立し、今はやさしい夫との二人暮らし。起居移動が自力で困難なため、下の世話を含めて夫には相当負担がかかっている。介護負担から想像には難くない日常トラブルが生じないのは、K.Y.さんのすばらしい笑い声とその笑顔、そして夫のやさしい性格故なのだろう。
夫はこれまでそんな苦労の片鱗も話す事はなかったが、最近めまいや四肢のしびれを自覚するようになり、かかりつけ医を通して精査した結果、うつ病初期と診断された。夫には抗不安薬処方とともに外来受診時、出来るだけケアに伴う苦労を話すように仕向けた。その甲斐あってか、最近は夫の自覚症状も改善したようだ。数ヶ月前、K.Y.さんが市内のある施設の非常階段で転げ落ち、救急病院に運ばれるというハプニングがあった。幸いこれといったけがもなかった。夫によると、暇があると出入りの少ないその非常階段を利用して階段昇降を訓練していたとのこと。少しでも良くなって欲しい一心からとはいえ、一歩間違えば事故に直結するだけに即刻やめてもらった。
さて、本人の肥満が動作能力低下の元凶だけに体重増にもしばしば注意し、来院ごとに体重測定をしている。しかしこの食事管理にも夫は気を遣い過ぎているようだ。介護する家族の性格も考慮して指導する必要があるのだろう。なかなか難しいことだ。
K.Y.さんより数歳年上の夫も加齢とともに一人介護がだんだん大変となってきている。同じような問題を抱えたケースが多いだけに、K.Y.さんのケースも今後の適切な対応をアドバイスしながら最後まで見届け続けられたらと思っている。(2011年1月記)