抗老化(アンチエイジング)は体内に発生する老化促進の敵、〝活性酸素による酸化ストレス〟と〝AGE〟をしっかり理解して、その対処法を知ること
最近注目される、老化促進(原因)因子“AGE”(終末糖化産物)の研究者であり、糖尿病専門医の牧田善二先生がここ数年一般読者向けにとてもわかりやすく書いた一連の啓蒙書3冊を続けて読んだ。
●『老けたくないなら「AGE」を減らしなさい』 (ソフトバンク新書)
●『糖尿病は「生もの」を食べなさい』 (毎日新聞社)
●『糖尿病で死ぬ人、生きる人』 (文春新書)
である。センターの「抗加齢ドック」を担当し、普段からアンチエイジングに興味を持ち、さまざま勉強してきた。そんな中でここ数年、製薬MRのもたらす情報に降圧剤の臓器保護作用について、その臓器障害の原因となる “AGE”について小耳にはさむ機会が多くなった。アンチエイデジングの立場からは、活性酸素による酸化ストレスに加えて、この “AGE”による組織たんぱくの“糖化”の問題を十分理解する必要があると痛感していた。しかし “AGE”について総合的に解説した医学教科書は見当たらず、またわかりやすい解説書も知らなかった。
そして最近たまたま読んだ本から牧田善二という”AGE研究の第一人者”がわかりやすく一般向けにたくさんの本を書いていることを知った。牧田先生は上の三冊のみならず糖尿病関連本として多数の著書を出版していた。その一冊を手がかりに、2012年に書かれた、『・・・「AGE」を減らしなさい』まで逆上って読んだ三冊の本の内容を自分の“備忘録”として順次整理し紹介する。
“酸化ストレス”と”AGE”は組織脆弱化因子として相互に密接な関係のあることがわかった
“AGE”は、高血糖の条件下で体内に大量発生する。また体外からも食品として取り込まれているのだ。“メイラード反応”という学生時代に聞かされた、加熱による糖とたんぱくの反応は、“AGE”を大量に発生する。したがって加工食品や調理された食材に多く含まれる結果となる。あのこんがりこげ茶色になって食欲をそそる食品に大量の“AGE”が含まれている。食品からの“AGE”吸収は通常ごく少量。しかし高血糖状態にあると体内に取り込まれる量も、また体内で新たに産生される量も急激に増えるという。他方、酸化ストレスは組織構成たんぱくの膜脂質を変性し脆弱化する。そんな状態では組織たんぱくの“AGE”取込みも増加する。すなわち、酸化ストレスも “AGE”も組織脆弱因子として相互に密接に関係しているのだ。
『老けたくないなら「AGE」を減らしなさい』 で加齢にみられるさまざまな病的老化とAGEの関わりを説明
我々の身体の大部分を構成する体たんぱく。組織や器官を構成し、たえず新陳代謝を繰り返し、生成から消滅までの一生、その過程に関わる機構や傷害発生時の修復については、ブルーバックスの竹村政春著『たんぱく質入門』や、水島 徹著『HSPと分子シャペロン』に詳しい。しかしこれらの本には老化に伴う組織たんぱくの変性、その原因物質である“AGE”についてはまったく触れられていない。牧田先生はAGE研究を永年手がけてきたが、あくまで疾患治療を目指す臨床家として、疾患から体構成要素(たんぱく質)の劣化・老化を眺めてきた。一方、竹村氏や水島氏は基礎生物学の立場でたんぱく質そのものを眺めているので相互の接点や手法が異なっている。これら竹村・水島氏の書籍はまさに力作でとても勉強となるが、組織たんぱくの加齢や老化を含んだ知識の整理には不十分。誰かこれらのテーマ全体を俯瞰して解説してほしいところだ。
さて、牧田氏の「老けたくないなら・・」では、糖尿病患者に限らない一般向けに老化促進因子としての“AGE”を取り上げている。“AGE”が食品から体内に多少なりとも吸収され、また体内でも作られる。いずれ毎日の生活にも関わることだから、“塵も積もれば山となる”のだ。“AGE”は様々な臓器傷害の原因となる。それは糖尿病患者の合併症で有名。そのほか、変形性関節症や肌の老化(シミ・シワ)とも関連深く、その詳細なメカニズムについて触れており、興味深い。
本書や二冊目に紹介する、『糖尿病は生ものを・・』には、主にどんな食品に“AGE”が多く、また同じ食品でもどんな調理法をすれば“AGE”が増えてしまうかを解説している。そしてこの二冊目の表題にあるように、できる限り糖とたんぱく(食品)を一緒にして煮たり焼いたりして“メイラード反応”を起こすことなく食品を口にする工夫を書いている。この結果が、“糖尿病は生ものを・・”なのだ。
『糖尿病は生ものを・・』には、また、体内の“AGE”取込みを減らす食品や成分についても述べている。ビタミンB1、B6やカテキンなど。したがって抗老化対策として茶葉と豆乳の組み合わせて飲むことを勧めている。
ごく最近出版され、目に留まった本書、『糖尿病で死ぬ人、生きる人』は、糖尿病治療医として、何が大切かを教えてくれた。本書で主張される「糖尿病者でもその合併症をうまくコントロール出来れば長生きできる」は、糖尿病医であれば十分わかっているはずの事柄。しかしややもすれば患者と一緒に血糖値やHBA1cの値に一喜一憂していることが多い。糖尿病診療の最近の話題として、“高血糖は記憶される”という事実。過去に高血糖の時期が続けば、たとえ現在の血糖値が正常でも合併症は進行するのだ。そのメカニズムに “AGE”が関与している。したがって今々の血糖値にとらわれることなく、「合併症対策を主に考えて糖尿病治療しましょう」というのが本書の主張だ。幸いなことにある種の降圧剤が腎症の発症予防や腎症の治療に有効であることがわかってきた。こういった合併症治療のノウハウを知れば糖尿病でも長生きできるというわけだ。
これら三冊の読後感想は、 老化因子としての“AGE”は体たんぱくの糖化によってさまざまな老化現象を生ずること、特に高血糖が促進因子となること、糖化の結果起こった臓器傷害にも治療の手だてがあること、などが新たな知識として整理されたことである。老化メカニズムや糖尿病に関心ある方には是非、牧田先生のこれらの著書を読んでいただきたいと思った次第である。
0 件のコメント:
コメントを投稿