2024年8月18日日曜日

[IS-REC/ISSUES]~リハビリと自動車運転評価~

 ●高齢者の自動車運転

 自動車運転免許更新時に75歳以上高齢者の認知症検査が義務づけられ7年が経過した。検査の結果、免許更新ができなかったり自主返納するケースも増えてきている。運転操作ミスなどで死亡を含む大事故が跡を絶たないが、車の構造上の進歩もあり、いずれAIによる自動運転でこういった問題も解決するだろう。

●リハビリ入院患者さんの自動車運転

 脳卒中などでリハビリを受け、基本動作や日常生活活動が自立に近いと、年齢に関わりなく日常生活に欠かせない手段として自動車運転を希望する患者は多い。現状では高齢者に限らず、脳損傷により多少とも身体や認知行動に影響を受けると発症前同様に運転が可能かどうかを医学的立場から評価する必要が生じてくる。特に高齢患者では加齢や元々の骨関節疾患に伴う動作全般の障害があり、自動車運転を続けるには様々なハードルが横たわっている。リハビリ入院中に身体や認知機能の障害は日常生活上の能力として繰り返し評価される。自動車運転はそれと共通した能力に加え、さらに脳の統合的能力が要求される。脳の統合的機能とは大脳連合野機能としての高次脳機能、そのうち認知と運動を結び行動の指令的役割を果たす前頭連合野機能である。

●自動車運転に必要なスキルとメンタルの評価

 必要検査として自動車運転の身体的スキルの評価は理解しやすいだろう。患者は障害発生まで日常的に運転していた場合が大半であるから五感を含む新たな障害がなければ両手両足を使った運転操作に支障ないはずである。手足の麻痺が残った場合には車への乗降、ハンドルやブレーキ、クラッチ操作などで支障があり、これらを解決するか補助する車の改造が必要である。予め対麻痺用や片麻痺麻痺用に改造され、さらに本人が使用する車椅子積載を片手で簡単にできる構造の既製車も売られている。障害と車の構造的問題が解決しても次に操縦上の問題として、反応時間が上ってくる。ブレーキは一定時間内に踏み替えと踏み込む操作が要求される(通常は0.7秒程度)。次いで注意力。注意にはさまざまな側面があり、視覚的注意・配分的注意などが評価される。注意は、高次脳のうち前頭(連合野)機能と関わり、机上検査として、Stroopテストやかなひろいテスト、TMT(A&B)などが行われる。自動車運転評価の多くは、後2者で評価される。TMT(A&B)は、注意の持続と選択を視覚的探索、視覚と手の運動協調の面から評価する。テストAはランダムな25個の数字を線で順に結ぶ。テストBでは数字と仮名を交互に数の昇順、五十音順で結んでゆく。いずれも完成までの時間、誤反応の有無を評価する。図はその実際例である。本例のテストBでは完成に要した時間も誤反応数も多く注意力の低下があると判断される。

TMT(A&B)評価結果の例

自動車模擬運転


●経験例から

 相当以前の話だが前交通動脈瘤破裂くも膜下出血の若い患者でメンタルを含む脳機能障害の回復良く、てんかんのエピソードもない例を経験した。特に本人や家族から自動車運転の是非について相談なく、私自身も指導・アドバイスの必要性を失念していた。自宅退院数カ月後、自動車運転中の自損事故で死亡したことを新聞で知り、呆然とした。現在はリハビリ医療機関と運転免許センターの密な連携があり、このような痛ましい事例はないと確信する。他方、秋田県のような広域で交通不便な環境で生活するには自家用車は生活必需品であり、特に自営業に戻る場合には仕事上も車運転が是非とも必要である。したがって退院時には運転希望の有無、運転可否について必ず確認・評価・指導する必要がある。

○自験例1(KT65歳男性):自営業。仕事上、秋田と実家のある由利本荘を頻繁に往復する必要があり、自家用運転を希望された。右内頚動脈血栓性閉塞で急性期再開通療法が成功した。しかし右半球前方域のまだら梗塞が発生したため、軽度左片麻痺と前頭葉機能障害が残りリハビリを行った。入院中に麻痺はほぼ消失した。記憶検査は正常だが、易怒的で判断力・注意力に難があり、大仙市協和の県立リハセンで自動車模擬運転評価を行った。模擬運転では状況に応じた運転が可能であったが、机上検査で全般的注意力の低下、瞬時視や移動視で左視野に見落としがあり、結果は運転不可とされた。しかしその半年後の再検査では合格となり、保留中の運転免許更新と自家用運転が可能となった。

○自験例2(SK78歳男性):10数年来の右脳血栓で左片麻痺を後遺する。廃棄物処理業自営で自家用運転も普通にこなしていた。しかしここ数カ月前から物忘れがあり、また軽微な自損事故が目立つようになった。MRI画像のフォローアップで左放線冠に新たなラクナ梗塞を発見した。自覚的に障害が悪化した意識はなく、仕事上も自家用運転が必要なため、家族や主治医の免許返上のアドバイスは受け入れ難いようであった。リハセンで自動車模擬運転評価を行った。その結果、模擬運転や机上検査で失点が目立ち、この検査結果から本人もようやく免許返上に応じてくれた。

●高齢者・障害者など移動手段弱者の問題

 障害者に対する運賃割引精度に始まり、2000年の交通バリアフリー法で公共交通機関利用時の物理的障害の一部は解決した。しかし過疎化が進んで生活に必要な公共交通手段自体が乏しくなった。高齢者や障害者はますます遠くへの移動が困難となってきている。障害の程度や有無に関わらず誰もが自由に移動できる手段が必要である。しかし目下のところ、コストに見合う有効な解決策は見当たらない。時間がかかっても一度外出したらワンストップで用を足せる町づくり、コンパクトシティー化の環境整備が必要である。また生活や仕事にどうしても車が必要な場合には、もはや夢ではない段階まで技術が進んできたAIによる危険回避・自動運転可能な構造の自家用車普及が待たれている。

(本稿は2024年8月、由利本荘医師会報NO.602「いいたい放題」に掲載した)






2024年8月17日土曜日

[IS-REC/ISSUES]未就学児対応の外来ST』~これまでの診療活動~

 ●未就学児童のコミュニケーション障害

 現職場に勤務以来、リハ医として児童のコミュニケーション障害を診るようになった。数年前からいくつか関連する書籍を漁り、その中で自分に一番役立ったのが平岩幹夫先生の教科書であった。この書籍については自身のブログ読書録で以前に紹介した(脚注)。さて当院リハ科には県内唯一の認定言語聴覚士(言語発達障害領域)の資格を持つMさんが勤務しており、彼女を頼ってたくさんのケースが紹介されてくる。今回そのようなケースで、オーダリングシステム稼働後の330例を分析したのでその結果の一部を紹介したい。

●紹介元・紹介時年齢・診断病型(図1~3)

 対象330例の紹介元をみると(図1)、Mさん自身も一部関わる由利本荘市とにかほ市の相談健診の場で該当する児がピックアップされてくることが最も多い(177名・54%)。次いで秋田県立医療療育センター小児科からの紹介84名(25%)、市内などの小児科から紹介43名(13%)、そのほかに巡回相談や就学前健診を機に紹介される場合もある。紹介時の年齢をみると(図2)、1歳6カ月から就学直前の6歳11カ月に分布し、5歳児が最も多い。診断病型(図3)は外来STを行う診療報酬との兼ね合いもあり、必ずしも厳密ではない。機能性構音障害が最も多く、192名・58%、言語発達遅滞110名・34%、自閉症・自閉スペクトラム症(ASD)23名・7%、その他5名・2%である。
図1. 紹介元

図2.当院初診時の年齢分布

図3.病型一覧


●病型ごとの特徴と訓練終了時評価(表)

 機能性構音障害は生後、正しい発音が身についていないための構音障害で、口蓋裂など口腔の器質的異常を伴わない場合、適切な指導と訓練で治癒に至るケースが大半である。また器質的異常があっても適切な治療を受けた後の予後は同等である。機能性構音障害192名中164名・85%が治癒、就学前指導としての目標達成が13名・7%であった。言語発達遅滞は県立医療療育センターで診断されたものが多く、該当110名の訓練期間は機能性構音障害より平均1年長く、終了時評価の治癒と目標達成合わせた数は65名・60%であった。ASDもそのタイプや障害要素も様々だが、該当23名の平均訓練期間は言語発達遅滞より長く平均1年10カ月、終了時評価で就学に対する目標達成は14名・61%であった。
表:病型区分と訓練予後

●機能性構音障害

 ある音の発音が正しくできない状態があると、単語レベルから意図した内容が伝わらず家庭や保育園でのコミュニケーシがうまくゆかず何らかの対応が必要となる。そして3歳児や5歳児健診で指摘され小児科医院などに相談が寄せられる。これらは生後、正しい発音が未獲得の構音障害で、機能性構音障害と診断され、“ハビリテーション”(“リハビリ”ではない)が行われ当院外来STでも最も多い。誤りのタイプには子音の省略(sa,ta,ka→a)・子音の置換(ka,sa,si→ta.ta,chi)が多く、音の歪みや付加などもある。これらは訓練開始前後に行う知能を含めたさまざまな検査で予後を図りながら訓練プランが立てられる。誤りのタイプに沿ったプログラムはあるが、児童の発達や障害の程度に合わせて個別的訓練メニューが決まってゆく。訓練予後は最も良い病型である。

●言語発達遅滞とASD

 2022年の文部科学省調査では通常学級で「発達のでこぼこ」のある子が約8.8%(小学生のみで10.4%)を占めるという。病気ではなく、その子が折り合いを付けていく「特性」((京都教育大教授・小谷裕実)と考える。機能性構音障害は治癒に至るケースが多い。一方、言語発達のでこぼこでは言葉自体の発達が遅れ、緘黙状態であったり表出があっても単語レベルで幼児語に留まっていたりすることがある。相手の言葉の聴理解も遅れるている事が多い。訓練開始に合わせた観察や評価で言葉以外も含めた発達のでこぼこを見つけて個別プログラムを立てる。言葉の表出・理解、書き取り、事物操作、などを遊びの要素を交えながら進める。時間を要するが就学前に支援目標に半数以上が達している。さて、自閉症・自閉スペクトラム症(ASD)の診断例が増え、当院外来STへの依頼も増加している。言葉が出にくい、落ち着きなく動き回る、視線を合わせられない、他の子供と遊べない、等の言葉以外の症状も目立つのがその典型例である。ASDは外来STでの包括的支援のみで困難だが、担当STはその子の特徴や発達の度合いを総合的にみて対応を検討する。言葉が出せなくても人と関わる力をつけると意欲が出て生活力がつき課題のおおまかな改善が図られて指導目標達成に至る事が多い。無理に話させるとかえって失敗するので言葉によるコミュニケーションにこだわらないように親や学校にアドバイスする。比較的短期間で外来STが終了する場合があるのはこのためである。

●地域完結型医療として

 総合病院より専門病院、一病院完結型から地域完結型病院へと舵が切られている。リハビリの中でも小児に十分対応できる施設は限られており、特に精神・身体面、言語コミュニケーションに関わる小児発達障害を扱える施設は秋田県に限らず非常に数少ない現状である。当院では専門性高い分野の資格と知識・経験を持つSTが常駐する。当院リハ科外来で小児コミュニケーション障害も取り扱い可能であることを是非知っていただきたい次第である。

---------(脚注)-----------
https://akitanoichirosayama.blogspot.com/2018/04/is-recbook.html

(本稿は2024年8月、秋田医報NO.1627「銷夏随想」に掲載した)




[IS-REC/ISSUES]『働き盛りの息子・娘に負担かけたくない!』~医療・介護の家族サポートとケア考~

 ●遠隔地のキーパースン

 公務員退職後も長らく現役社会人だったH氏(94歳)が倒れた。急性期病院治療後に当科紹介、廃用症候群として原病治療継続とリハビリを行う予定であった。しかし転院後に原病に伴うさまざまな続発症や合併症を起こして死地を彷徨った。その都度、東京在住のキーパースンであるH氏長男に直接来院していただいた。電話連絡で済ませられる場合もあったが生死に関わる事が多く遠隔地からの来院要請は致し方なかった。H氏長男は年齢的にも要職に着くエッセンシャルワーカーであり、時間のやりくりは相当大変だったに違いない。20数年前に両親を亡くしている私とH氏長男とではケアされる世代の私とケアする側の彼とで立場はまったく異なるが、とても人ごととは思えなかった。自分がH氏のようになった場合、多忙な遠方の息子・娘は果たして仕事を放って当地まで駆けつけて来れるだろうか?

●家族介護の現実

 団塊世代が75歳を過ぎ、75歳以上人口は2000万人を超える。厚労省の推計で2040年に生産年齢人口(15歳~64歳)が現在より2割減少し、いわゆる「8がけ社会」となる。2050年には高齢一人暮らし世帯が44%、2060年には65歳以上高齢者の3人に一人は認知症で何らかのケアが求められるようになる。高齢化や過疎化進行が全国平均よりずっと前をひた走る秋田県。日常、障害を抱えリハビリを行い、その後も外来で治療を続けるたくさんの患者さんをみていると、介護保険があっても経済的に施設利用も在宅サービスも困難、一方家族による介護力も乏しいといった悲惨な現実に突き当たる。夫と二人暮らしで外来通院中のS(89歳)さんは受診時に決まってケアする夫への愚痴や不満を繰り返す。起立・移動が困難なSさんを在宅で介護する夫の負担は相当だろう。しかし介護保険の自己負担額を考えると施設や在宅サービス利用は困難なのだ。同様な例は、退院先や退院後のサービスを検討するリハビリカンファランスでもしばしば話題となる。家族の介護力から在宅ケア主体の自宅退院が困難と判断されても、経済的理由から在宅を選択する家族がしばしばみられる。また家族介護のために息子・娘が離職して遠隔地から当地に戻るケースも数多い。家族の負担を最小限とするはずの介護保険が少子高齢化と「8がけ社会」の現実を前に機能不全を起こしつつある。

●ヤングケアラーとビジネスケアラー

 ある大手半導体メーカーの正社員を対象に親の介護について調査したところ、現在既に親の介護をしている 割合が12%、将来的に親の介護のため離職を考えているが65%だったという(朝日新聞、けいざい+『増えるビジネスケアラー』2024.6.12)。中堅社員を多く抱える大企業では親の介護の問題を相談できる仕組み作りも進んでいる。介護に関する最近の話題は、高齢者増加と高齢者・障害者家族を介護するヤングケアラーやビジネスケアラーの問題である。ヤングケアラーの問題は子の将来に関わるため深刻であり法律上、行政支援の対象となった。しかしその実態把握は不十分で支援体制の地域間格差は大きいという(毎日新聞2024年6月28日社説)。ビジネスケアラーでは、仕事と介護を両立させるタイムマネジメントが大変である。今後、介護される高齢世代が増加し、働きながら介護する人が確実に増えていくだろう。また生産年齢人口を構成する若い世代が東京一極に集中しているため、遠隔地の故郷に戻って家族介護に当たるベテラン社員の介護離職が中央の中・小・大企業で生じて来るだろう。これは職場内に限らず、現役世代が減少を続ける社会全体の大きな問題である。

●ケアされる側と、する側の問題、そしてACP

 医療と介護の現場で仕事に従事し、医療と介護に関わる周辺家族の現実、医療と介護を受ける患者の状況を第三者の立場でみる習慣がすっかり身についてしまっている。しかし今後の医療と介護の問題は無論人ごとではない。自分自身の行く末を考えると、加齢や持病・疾病併発で健康寿命が尽き入院医療や介護が必要となる時が必ずやってくるだろう。また様々な手続きや意思決定が困難になると、遠方の息子・娘の直接・間接のサポートも必要となる。そんなディストピアに映る近未来で医療とケアを受ける自分と、それを支えるケアラーとしての家族(息子・娘)を具体的にイメージすることは辛いことだが避けては通れない。いつも他人事と感じているアドバンス・ケア・プランニング(ACP)も身近な自分と家族の問題として検討していかねばならないだろう。

●それでも健康長寿の元気老人を続けたい

 高齢でも元気で現役を通した日野原先生や瀬戸内寂聴さんの紹介本。最近では4回の月曜連載記事(読売新聞)で紹介された『「人生100年の歩き方」天野恵子さん(内科医)』の記事。カスピ海ヨーグルト創始者、家森幸男先生の近著『80代現役医師夫婦の賢食術』(文春新書)。いずれも健康で仕事を続ける自らの日常生活や食事のノウハウ、心構えを披露している。こういった健康情報で得た知識でわれわれ夫婦もすっかり、“健康お宅”である。妻は認知症予防にハングルを学び続け、ピアノレッスンを受けるのも欠かさない。多少の身体不自由を抱えるが毎日水中ウォーキングにでかけている。また朝市に通い、新鮮な野菜や魚を求めて朝の食卓に供している。私も現役医師を続けながら1日1万歩以上の運動ノルマを果たしている。一方、身近なところで友人や知人の脳卒中・心筋梗塞・ガン罹患や急逝の報を聞くことが多くなった。誰しも決して予期していなかった事に違いない。現在の境遇と健康に感謝する気持を忘れず、「働き盛りの息子・娘に負担はかけたくない!」の気持ちで健康長寿を全うしたい。
(本稿は2024年8月、由利本荘医師会報NO.602「銷夏随想」に掲載した)



2024年4月3日水曜日

IS-REC/ISSUES]楽園『悩める中高年に贈る 養生のヒント82』

 秋田県の無料広報雑誌「楽園」(平成22年~)は、中高年向けの健康記事を掲載しています。冊子は、 県内(銀行、図書館、宿泊施設、協力医療施設)および県外のアンテナショ ツプに設置されています。本稿はその82号(令和6年4月1日号)に掲載されたものです

ロコモ・フレイルを予防し 健康を維持する工夫


○ヒトはだんだん不精になる!

歳をとると程度の差はあれ自分からすること、新しく始めることが億劫になります。自ら計画して行動する段になると事は思うように運ばず無為に時間を過ごしがちとなります。以前からの習慣を別として、新しく始めることがからきしダメなのです。健康のために運動を含めた良い習慣を始めようと思っても、“まあ、まだ今日はいいか・・”という悪魔のささやきが、行く手を邪魔します。受動的でさほど努力なしでできる事を除いて、新しい習慣を獲得するまでこの億劫な気持ちがすべてを支配します。加齢により身体能力や集中力が落ちることも影響しています。しかし行動開始以前に、考えることすら億劫になれば、これは認知症の一歩手前か立派な認知症です。

○ロコモ・フレイル“を防ぐ今すぐできること

日常生活の中ですぐにできることもあります。建物内移動に階段を使う、屋外歩行は早足歩きをする、などはすでに皆さんも実践しているでしょう。少しハードルが高くなる健康習慣についてはどうでしょうか?

○“行動不精・運動不精”に陥りやすい課題の習慣化

食習慣については暴飲暴食を避け、飲酒・喫煙を節制する、運動習慣については一日8000歩以上のウォーキングや有酸素運動、筋肉トレーニング、ストレッチなど柔軟体操を行う、こういった課題を習慣化するには一工夫が必要です。市や町で主催する講座や企画に参加したり、ご近所誘い合ったウォーキングやスポーツ、ゲームがあればこれは継続できる良いきっかけになります。お金をかけてスポーツクラブやリハビリ教室に通えば、運動継続の力になるでしょう。しかし仲間を集ったり行事に参加するのが苦手、運動機会にお金をかけたりするのが困難な場合も多いでしょう。でも大丈夫です。心がけやかけ声だけではロコモ・フレイル・認知症を予防できませんが、一人で始める工夫はいくらでもあります。

○ロコモ・フレイル予防を一人でも始める工夫

毎日決まった時間に体重計にのったり、血圧を図ったりして記録しましょう。生活習慣病で通院中の皆さんは病院でも勧められますね。毎日測定して自分の健康状態に関心が及ぶとそれが次の行動につながります。“食べ過ぎや塩分取りすぎに注意”、“体重を落とす運動を続けよう”そういった食事や運動に対する動機付けができればチャンスです。息が弾む程度の運動(3メッツ以上の運動)を1時間も続ければ確実に1kg以上の減量が可能なことを実感してください。体重計とにらめっこしながらする運動が楽しくなります。ラジオやミュージック・プレイヤーで番組や音楽を楽しむ、あるいは“聴く読書”しながらのウォーキングは多くの人がすでに実践しています。“ながら運動”は認知症の予防にも有効で、ウォーキングに出かける大きな動機付けにもなります。スマホヤスマートウオッチを持たれる方も多くなりました。ご存じのようにこういった機器には、運動機能を即座に表示したりGPS機能を使って現在地表示や歩行距離を表示する機能があり、また一定時間以上の安静が続くと運動を促す機能もあります。上手に利用すれば運動を楽しみながら行う動機付けツールとなるでしょう。




2024年1月10日水曜日

IS-REC/ISSUES]『スマートウオッチと遊ぶ』

●大学同期会

 コロナ流行数年前の開催以来5年以上を経て、つい先頃大学医学部の同期会が開かれた。卒業から半世紀近い年月を過ごし古希をとうに越しているにも関わらず同期入学・卒業の半数に近い面々が元気に参集した。個々人のスピーチは卒業後の足どりと近況が主であったが、多忙さから一段落した我々の年齢では仕事以外の趣味やボランティア活動に触れた内容も多くなった。世代は皆一様なのだが仕事以外のそういった話はつい熱が籠もって若さを感じる。そして学生時代の生活からは想像に難い多彩な趣味やボランティア活動に打ち込んでいる旧友の話を聞くと、自分もまた楽しく、誇らしく思ってしまう。体型や風貌は人それぞれで大病を患った話も聞いたが、それとは別に何かに打ち込んで生活している姿にはつい若さと元気を感じてしまう。そして仕事に振り回されず自分の好むところに打ち込める時間や期間、空間は既に限られているだけに多忙極める自らの現在の姿を恨めしく思ったりもする。

●趣味の遍歴

 時間の多くを仕事に費やす生活は職業柄、致し方なかった。しかしこれまで仕事一筋だったかと問われれば決してそうではなかった。仕事に利用するとの口実で、パーソナルPCやワープロはそれが出始めた頃から嬉々として使っていた。デジタル原稿や学会スライド作成、また症例データベースの作成、健康ドック対象者のカルテ作り等も手がけて結構楽しんでいた。また、“ノマドワーカー”よろしく、デスクトップPCやノートPCを何台も揃えて同一環境を構築して仕事をこなし悦に入っていた。そのうち、自作PCに凝りだし、マザーボードと筐体をあれこれ組み合わせ最速・最強PC作成に打ち込んだ。昔は脳外科医としてマイクロサージェリーを行ったが、歳とともに視力は衰え、マイクロの眼も指先もすっかり駄目になった。自作PCの細かい作業はもう困難となった。

●健康管理とガジェット

 歳をとって生活習慣病に悩まされることが多くなった。リハビリ医となって、一般の方々や患者さんに健康講話をしたり、診療場面で生活上の健康アドバイスをする。自分の健康管理もできないで患者の指導もないだろうと、健康関連の本を読み漁ったり、雑誌や新聞の切り抜きをするようになった。紙媒体のデータベースをPC上に作り、それを機会ある毎にスライドや講話にまとめた。自分の趣味との接点では、体重や血圧・脈拍、運動指標の歩数・歩行距離・消費カロリー・脂肪燃焼量など記録するようになった。記録手段はノートなどに書き留めるのではなく、測定機器から直接スマホに記録する方法で、データを一括管理できるように測定機器は概ねオムロンに統一した。数年前、クラウドファンディング(CF)で理論上、経皮的、非侵襲的に血糖を持続モニタリング(CGM)可能なことを知り、そういったスマートウォッチ型の機器開発が手がけられていることから早速CFに応募した。見本も完成していてすぐにも実用化されるものと期待した。しかし精度管理上の問題がクリアできないらしく3年以上も経った今もも市販はされていない。

●持続血糖モニタリング(CGM)

 糖尿病管理や食事管理、体重管理には持続血糖測定(CGM)が有効である。スマートウオッチで非侵襲的にCGMが可能となるのを目前にしている。しかしそれを待ちきれずにCGM可能なFreeStyle Libre(Abbott社)とNight Rider(Ambrosia社)を使ってCGMを開始した。スマホとスマートウォッチに同時に5分毎の血糖値が数値やグラフで確認可能である(写真)。食後高血糖や食べ過ぎの高血糖時間間延長、長時間運動時の低血糖などをスマートウォッチで簡単に知ることができる。高血糖や低血糖のアラームも可能である。

●スマホからスマートウオッチへ

 スマホについてはいつしか人並みに携帯電話やメールのやり取りに使い始め、現在はさまざまな辞書機能・治療薬・臨床ノートの参照機器として、趣味より仕事や日常に欠かせないツールとして使用している。一方で活動量測定など、健康機器として使い始めたスマートォッチは、機能が飛躍的に進歩して、その便利さ、多機能さから今の自分をまったく虜にしてしまった。今、同系統機種の最新版「TicWatch Pro 5」を使用している。シンプルで見やすいなデザイン、快適でサクサクした操作性はまさに遊び心をくすぐるガジェットである。Wear OSの機能で必要な機能のインストールも可能で、定番のスケジュール機能と付随するリマインダーやアラーム機能、メールやニュースの通知機能など、ポピュラーな機能の視認性は当ウオッチが抜群である。健康管理機器として不整脈検出可能な脈拍・心拍数計測、酸素飽和度などがあり、基本的なバイタルチェック、体調管理に活用している。またスポーツウォッチとして運動種目に応じた運動量測定が可能で体操や筋トレ・トレッドミル走など、楽しさより継続に多少の努力が必要な運動にもモチベーションを維持する役割を担ってくれている。スマホを鞄やポケットから出し入れするのは格好よいものではない。スマートウォッチをそれとなく眺めて時間や情報を確認したり、アラーム機能をセットしてスケジュールを時間通りに行動する。私お好みのスマートウォッチは仕事と両立した上に自分の遊び心を大いにくすぐる必須アイテムである。

(本稿は2024年1月、秋田医報NO.1620「新春随想」に掲載した)





(写真説明)スマートウオッチの持続血糖モニタリングの表示結果画面. 
5分おきに血糖値がグラフと値で表示されている.




2024年1月7日日曜日

IS-REC/ISSUES]『ながら運動とオーディオブック』

 ●運動・食事と健康長寿

 ウォーキングの効用が繰り返し強調されている。健康寿命延伸には身体的フレイルを予防する、そのためには適切な運動と食事が必要である。ウォーキングはその最も有効な手段であり、“1日8000歩で病気予防、そのうち20分間を大またで力強く歩く、歩数や頻度が増えても死亡の減少率はほぼ同じ”(朝日新聞「知っ得・なっ得、正しい歩き方2・歩くとどんな効果が?」2023年11月25日号)などと具体的に目標と方法が書かれている。医学雑誌やその関連記事を読んでもおおよそ同じである。日常の身体活動量低下が問題であり、身体的フレイル予防にウォーキングなど有酸素運動や筋力トレーニング継続が有効である。また食事については良質な高タンパク食の摂取が勧められている。しかし食事はともかく、結構まとまった時間を要する運動を続けるのは決して容易ではない。私自身はリハビリ医として障害のある患者さんや高齢者に障害予防や健康維持の必要性、そのノウハウを話す機会が結構多い。そんな時、自らどれだけ実践しているかがいつも気になる。好きなだけ食べ、肥満して筋力衰え、動作ものろのろしているようでは、たとえそれが加齢の影響であっても誰も話に耳を傾けてくれないだろう。障害の悪化予防や健康長寿を伝えるにはその理屈以上に自ら実践しているという心身の張りや自負、自信が必要なのだ。

●運動継続の工夫

 運動継続にはそれを“習慣化する力”が必要だ。しかし多少でも辛いと感じる事は気合や掛け声、まして他人の促しでできるものではない。時間が限られる現職生活では尚更だ。誰かと一緒に運動するのも一つの工夫。朝早く夫婦や仲間を集ってウォーキングするのをよく見かける。私は娘婿の早朝ラジオ体操や筋トレ習慣を真似て、メールで互いに励まし合いながら毎朝実践できるようになった。しかし仕事から帰り、その日の歩数を万歩計で確認すると、せいぜい3000歩程度。8000歩にはほど遠くガックリ。帰宅してからの運動や何かにと予定の入る事が多い週末に運動をプランするのはやはり時間的のみならず精神心理的にも負担が大きい。運動を習慣化するには何らかの“奥の手”が必要だ。

●“読む”から“聴く”読書へ

 読書は若い頃からの習慣で、水上 勉や松本清張、高村 薫、宮部みゆきなどの社会派推理小説、五木寛之、遠藤周作、三浦綾子などのロマン派長編小説を読み、また仕事がらブルーバックスの脳科学など、サイエンスものもよく読んでいた。しかし視力の衰えとともに、最近は“ツンドク”はやっても通常の読書はだんだん億劫で難しくなくなってしまった。そんな頃、“耳で聴く読書”を知った。当初、 遠藤周作『沈黙』や水上 勉『雁の寺』などの名作をCD-ROMで購入し聴いた。夢中になり床についても聴いて寝不足になったが、確実に読書に代わる新しい趣味・習慣となった。そのうち、ネット上のオーディオブック、特にアマゾンのaudible.comから日本語版が出るようになり、有料会員となった。audible.com日本語版の収録作品が増え、一時収録作品が読み放題であったため、吉川英治の『新・平家物語』や『三国志』など歴史小説の大著を次々と聴いていった。そしてこの“聴く読書”と屋外ウォーキング、自宅でのトレッドミル運動とが自然に結びつくこととなった。屋外ウォーキングは市内の子吉川河川敷を本荘インター付近からその河口近くまで10数キロを2時間ほどかけて、ネックスピーカーからのaudible作品を聴きながら歩く。そして犬の散歩やサイクリングを除いて、同じウォーキングをしている多くの人もそういったmusic playerを聴きながら歩いているのに気づかされた。

●運動しながら“聴く読書”:認知症予防のDual Task

 毎日運動を継続する秘訣は私の場合、このaudible.comを聴く楽しみと運動を組み合わせた事だった。相当以前に秋田セントラルクラブで本を読みながらトレッドミルに上がって運動している強者をみかけたが、トレッドミル上を歩いたり、河川敷を歩きながら“聴く読書”はずっと容易に運動と読書のDual Taskを可能にしてくれた。帰宅して夕食後のトレッドミルも聴きかけた作品の続きが聴きたくて全く苦にならなくなった。毎日1万数千歩の歩数と距離も現在は当たり前となって、fltnessにも成功した。また最近物忘れが多く、自身の認知症を心配したり相談を受けたりするが、運動と“聴く読書”のDual Taskはその予防にも多少貢献しているのではないかと密かに思っている。

※本稿は、由利本荘医師会報NO.595「2024年新春特集号」“新春随想”に掲載した




IS-REC/ISSUES]嚥下障害と胃瘻造設

●当地域と当院の現状

  秋田県の高齢化と人口減少が進んでいる。最近、秋田市の人口総数が自然減で30万を割った事が報じられた。由利本荘地域では、2021年~2023年の2年間で由利本荘市7.5→7.18万人、にかほ市2.5→2.27万人と5000人以上の自然減がみられ、また超高齢化も進んでいる。要介護者や要介護者に占める認知症高齢者も多く、由利本荘市の統計では、2022年12現在で要介護認定5695人、集計時期は多少ずれるが、2023年7月までの要介護者認知症判定3528人で6割程度の要介護者が認知機能低下を合併している。この要介護認定に前後してリハビリを含む入院治療が当院に期待されている。入院目的はさまざまだが、急性疾患や外傷・骨折などで寝たきり、在宅生活が困難となって、その後の社会生活の道筋をつけること、入院治療・リハビリに多少なりとも介護やケアの軽減を期待されたものである。他方、全身状態が不良か、若しくは老衰状態で看取り目的の入院となるケースも半数以上を占めている。一月当たりでみると、死亡を含む退院患者が入院を上回る出超の月も多い。看取り以外の入院患者では紹介もとからの治療継続とともに、寝たきりによる廃用とその予防を目的に身体リハビリが行われる。また嚥下機能低下による栄養失調や誤嚥性肺炎治療後の栄養改善、嚥下評価・リハビリ目的の入院も多くなっている。

●嚥下障害入院の現状

 2022年10月から2023年10月末までの13カ月間に、嚥下障害・嚥下困難(ICD10でR13)の診断で入院対応した延べ総数は、入院総数465名中、67名(14.4%)であった。うち当院併設の介護医療院入所を含む入院ないし療養中は19名。現時点での転帰は死亡22名(33%)、経鼻胃管17名(25%)、嚥下調整食による経口摂取回復15名(22%)、胃瘻造設(PEG)9名(13%)、静脈栄養4名(6%)であった。嚥下障害患者は原則、嚥下評価として嚥下内視鏡(VE)、可能であれば嚥下造影(VF)を行うが主治医の判断で嚥下評価う行わない場合もある。胃瘻造設を行った例は全例、造設前にVEを行い、PEG後の栄養改善で車椅子座位がとれるようになったケースでは、VFを実施して気晴らし的となるが安全に経口摂取可能な食材・食種や食形態を検討している。認知機能が低下して経口摂取を拒否したり望まなかったりするケースはPEG栄養のみとなる。しかし身体機能が改善して座位が可能となり食思のあるケースでは、嚥下評価と造設後の嚥下訓練で何かしらの経口摂取が可能となっている。

●嚥下訓練とPEGの果たす役割

 嚥下障害が脳卒中急性期にみられるケースでは、当初経鼻胃管栄養を行っても、時間経過で十分な経口栄養を取り戻すことが多い。回復の予測は病変の広がりや陳旧性脳病変の有無、発症時年齢で予測可能である。しかし、むせ込みや嗜好の変化、体重減少などの嚥下障害の兆候が認められて数カ月以上経過しているケースでは、紹介時の脳画像で脳萎縮による両側島回の露出、硬膜下水腫、ラクネの多発を認めることが多い。臨床的には偽性球麻痺であり、嚥下障害に加えて構音障害や嗄声があり、認知機能低下を伴っていることが多い。このような場合、経口栄養のみでの生活体力維持は困難と判断される。ある程度の経口摂取が可能で身体機能の著しい低下がないケースでは、嚥下訓練で嚥下調整食(軟食やトロミ食などの嚥下治療食)で退院出来る場合も多い。しかしその後に再び誤嚥を起こすことがあり、その場合、栄養の安全弁にPEGを造設を勧めている。

●嚥下障害の予後

 嚥下障害の原因や発症後の期間、年齢や認知症の有無でその予後はさまざまである。しかし生命や体力維持のために何らかの栄養手段が必要である。重度の認知症や意識障害でない限り、生命維持に必要な栄養を手足を抑制して経鼻胃管や静脈栄養で行うことは患者に苦痛を強いる事になり賛成出来ない。また抑制を良しとしない施設入所も困難である。たとえ高齢であっても、また終末期であっても意識がある限り、苦痛を与えない緩和医療としてPEGは最良の方法であり、PEGは施設での看取りを可能とする有効手段でもあると考えている。

※本稿は、由利本荘医師会報NO.595「2024年新春特集号」“いいたい放題”に掲載した



2023年8月18日金曜日

[IS-REC/ISSUES]『大人の発達障害とリハビリ入院の接点』

 大人の発達障害については近年、話題性に富むテーマである。しかしその診断は精神科領域でもかなり難しいらしい。精神科診断で、“性格環境因性”という要素がある時に発達障害を可能性のひとつとして考えるようだ。ただ大人の発達障害は近頃さまざまな情報から社会生活上の困難があると、自ら“自分は発達障害ではないか?”として精神科を受診するらしい(宮岡 等・内山登紀夫著『大人の発達障害ってそういうことだったのか』医学書院2013年)。最近、リハビリ入院のケースに相次いでそういった事例を経験した。以下、ケースが特定できない範囲で自験例を紹介する。


事例A:40代男・高校卒独身


 実母が付き添い、急性期病院から脳出血後リハビリ目的に転院した。前医情報や付き添う母親の説明では既往に特記なく、介護職などの職歴もある。運動失語・右片麻痺の前医診断だがいずれも軽微。転院後短期間に歩行も可能となり、排泄を除く病棟生活も自立に近づいたが、言葉のやりとりだけは興奮しやすく困難であった。理解障害や言語表出に錯語はないため失語とは異なる情緒異常によるコミュニケーション障害と判断した。排尿困難が続き、留置カテーテル状態で退院。排泄の問題を除けば日常生活の自立度が高いため、復職の道筋を示した。しかし母親を仲立ちにした意思疎通で自ら障害者の軽作業所利用を希望した。


事例B:50代男・大学卒独身


 近県から紹介。既往に心疾患や高血圧・糖尿病あり。秋田県内に姉夫婦が在住し、姉を頼って来県した。生活歴では大学卒業後、職を転々とし最近は派遣職員として全国各地で生活していた。最終的に近県に在住、その折に姉が訪ねると居住先アパートはジャンクフードの山で、いわゆるゴミ屋敷同然であったという。背景疾患治療が不規則であったらしく出張先の屋外で転倒、そのまま起き上がれず近医へ入院した。糖尿病性ケトージスとサルコペニアの診断で前者の治療後、勤め先のある近県かかりつけ病院へ転院。治療とリハビリが行われた。当院へは継続リハビリ目的に紹介。入院時、低タンパク・低アルブミン血症とサルコペニア・筋力低下著しく、高タンパク食で低栄養改善と筋力回復を図った。しかし糖尿病性網膜症・白内障もあって歩行補助具は外せない状態で施設入所退院となった。


事例C:50代男・大学卒独身


 頭部打撲による脳挫傷後7週目にリハビリ目的で紹介。転院時、意識・見当識良く認知機能良好。筋力低下や体幹失調による開脚歩行傾向、手指巧緻障害がわずか指摘できる程度。両側前頭葉障害の影響で反復的行為あるが注意機能低下は目立たず、指示されれば自己行動制御も良好。後日の高次脳機能精査で遂行機能に軽度の障害あるが知識や記憶検査は正常であった。脳挫傷後遺症が心配され、前医でも予後は厳しいと説明された。約2カ月半の入院中、病棟生活は規則正しく訓練にも熱心で優等生レベル。但し過剰に礼儀正しい事や病棟廊下の頻回周回行動がやや異常に感じられた。ほぼ身体能力が回復した時点で今後の復職について相談した。返答は予想以上に消極的で結局、障害者福祉施設作業所の利用を自ら希望して退院となった。


若年のリハビリ入院では発達障害も背景にあるかも知れない

 3事例に共通する点は高卒以上の学歴に関わらず独身で就業に難があったこと、不足を親族が補っていたが生活管理上の問題を抱えていたこと、自己肯定感や自己高揚感に乏しいことなどが挙げられる。前述成書によれば大人の発達障害はその履歴をたどるのが難しく“性格環境因性”を証明できないことが多いという。以前、若年脳卒中患者を検討したことがある。該当3分の1は、血管異常(解離性動脈瘤・脳血管奇形・モヤモヤ)であったが残る3分の2は高齢者脳卒中と同様の原因であった。当時の検討では、大人の発達障害についてまったく眼中になく、背景因として検討しなかった。しかし今考えればそのようケースもきっとあったのだろうと考えられる。老リハ医となってもまだまだ実臨床から学ぶことが多いようだ。

由利本荘医師会報NO590『銷夏随想』

2023年8月14日月曜日

[IS-REC/ISSUES]高齢者の活動を支えるICTとモニタリング手法

○リハビリ入院する患者さんから思うこと

 
   高齢で要介護度の高いリハビリ入院患者さんが多くなっている。また地域で介護保険のお世話になっていない高齢者もさまざま持病があり、身体リスクを抱えてプレフレイル・フレイル・サルコペニアから要介護状態に陥る場合も多いだろう。健康寿命、男72歳・女75歳で寿命を終えるまで更に男9.0年・女12.4年の期間がある。この健康寿命を超えた時期にリハビリを希望して入院するから、患者さんや御家族に納得ゆく退院を提示するのはなかなか難しい。また入院する患者さんは、経済的支援や医療介護面での支援を必要とする背景、家族構成でいえば高齢二人世帯や、“80-50(80代親と50代子の同居)問題”などを抱えていることが多いので、そうなると障害の軽減・回復を図るリハビリ医療だけではもうお手上げ状態である。そこで、ある程度経済的に恵まれ、自ら障害の発生や進行を予防するヘルスリテラシーを持った高齢者を念頭に介護予防戦略を夢想してみる。


○健康維持やフレイル予防に役立つICTやAI機器の活用

 
 健康寿命延伸を目的にさまざまな地域の取り組みがある。コロナ感染の蔓延でそういった取り組みは一時下火となったが、それとは別にネットを利用した相互情報交換の場を事業として提供した自治体レベルの成功事例がある(宮寺ら、総合リハVol.51、2023年)。この取り組みでは自主学習や自主トレーニングを主体に、LINE活用によるネットでの相互学習効果が成功の鍵となっていたようだ。スマホ世代が増え、今後はこういった情報交流が社会的孤立を防ぎ、健康志向を生む結果につながってゆくのかもしれない。

○疾患増悪や障害発生を予防するモニタリング手法

 
 さまざま持病を抱え治療を受けている高齢者は多い。疾患を重複して抱え、多種の内部障害があっても元気に暮らしているケースは決して稀ではないのだ。いわゆる“無病息災”や“一病息災”である元気老人も確かに数多いが、大半は背景疾患を重複して持つ高齢者社会である。こういった高齢者も適切に疾病やバイタルサインをモニタリングできれば体力や筋力を維持向上することができる。リハビリ医学の領域では、フレイル・サルコペニアの診断と治療的介入から、1)体組成、2)心拍モニター、3)加速度モニター、を利用するようになっている。体組成は日内変動もあり、一定時間帯に電気インピーダンス法によって正確な測定をすることが望ましい。しかし個人向けで簡便に測定できる体組成・体重計もあり、精度の限界を知った上で上手に利用すれば結構参考となるだろう。心拍モニターや加速度計の機能は今のスマホやウエアラブルデバイスであるスマートウオッチにはがたいてい備わっている。操作法さえ知れば決して難しくはない。加速度計はいわゆる“万歩計”として多くの高齢者が利用している。スマートウオッチにある心拍モニターは突発性心房細動を検出できる。可能であれば利用したいものだ。


○血糖モニター、“フリースタイル・リブレ”


  I型糖尿病やインスリン注射が必要なII型糖尿病患者では持続血糖モニター(CGM)ができれば治療コントロールがとても容易となる。糖尿病に限らずハードな運動をこなすスポーツ選手などでも運動時のカーボローディイグを検討する上でCGM活用は有効だろう。最近、CGM機能を謳うAbbott社の“フリースタイル・リブレ”が市販もされるようになって一般にも普及しつつあり、世界的にも注目されている。これは皮下に細い留置針の電極を置いて組織間液の糖度をモニターするもの。血糖値との相関は良好で、その測定結果は血糖値として表示される。糖尿病の有無に関わらず、長時間運動を行う高齢者では“フリースタイル・リブレ”の活用を考えてみても良いだろう。


○医療者として高齢者の活動を支える

 
 高齢者が安全に運動を行い、フレイル・サレコペニアを予防して健康寿命を延ばすにはやはりそのリスク管理が大切である。そのためには専門領域の身近にあるさまざまなICT手法やモニタリング手法を宝の持ち腐れとせずに医療専門職として一般に広く紹介・普及させてほしいものだ。

 秋田県医師会報NO.・2023年8月銷夏随想から




2023年6月25日日曜日

[IS-REC/ISSUES]~“活かす医療”とモニタリング

●リハビリ科入院現況

 入院患者さんは平均寿命をとうに越した高齢者が多い。病院の主要な役割は病気を治療して元の生活に戻すこと。しかし実態はリハビリ入院であっても生活機能を回復して自宅に戻る例は多くない。加齢や疾患による嚥下機能低下は栄養失調やフレイル・サルコペニアの原因でリハビリ以前の問題である。リハビリ医療は最低でも患者さんを“活かす医療”であり、治療方針が自然な経過に任せる”看取りの医療“に振れない限り、とてつもなく大変な作業工程である。“リハビリ科”を標榜するとは、患者さんの機能回復、QOLや尊厳の維持を目標とすること。しかし最近はこの生命を取り戻すという最低限の要請に精一杯である場合が多い。

●治療の流れとモニタリング

 死期が近い場合や急変時には酸素吸入を行い、心電図や呼吸、血中酸素濃度のモニターを行う。この辺りはほとんど事後報告を前提にベテラン看護師の判断で行われる。これに対して採血・採尿検査や心電図・心エコーなどの生理検査、胸部レ腺、CTなどが入院時に行われる。これは、“活かす”か、“看取る”かの判断、入院治療の方針決定のために行われる。医療として当たり前の流れであるが、患者の活動(activity)を働きかけるリハビリの分野ではさらにリスク管理も念頭に入れたモニタリング手法が求められる。


●リハビリのモニタリング指標1:体組成計

 電気インピーダンス法により体組成を測定できるInBody®は、栄養や運動効果の客観的指標として欠かせない機器である。体重増加や減少が体組成の何によって生じているのか、特にサルコペニアの栄養と運動による治療効果判定には是非欲しい評価機器である。InBodyS10®は、立位・座位・仰臥位で体組成を測定できるので、嚥下障害による栄養障害を治療に掲げる歯科医院の報告がyoutube動画にもアップされている(https://www.youtube.com/watch?v=dgwavLciRco)。体組成計により大腿四頭筋など局所筋量増加を数値化し体力や動作耐久性の向上を筋量の増大として客観的に捉えられるのはすばらしい。


●リハビリのモニタリング指標2:嚥下機能

 嚥下障害の評価により経口栄養で生命維持できるか?、代替栄養としての胃瘻は必要か?、気晴らし的に経口摂取可能な食形態はどんなものまで許容できるか? これらは嚥下内視鏡VE、嚥下造影VFで評価され、今や数多い誤嚥性肺炎の既往ある嚥下リハビリに欠かせない手技である。


●リハビリのモニタリング指標3:心拍数と活動量

 スマホは年齢に関わらずその普及がめざましい。これに対してスマートウオッチを利用している高齢者はまだ多くはない。しかし活動量の指標でもある万歩計を利用する高齢者は多いだろう。今や安価なスマートウオッチでも心拍数と活動量をみる加速度計を備えていることが多いようだ。心拍と加速度を運動時にモニターすれば非常に有効な運動負荷時のリスク指標となり、リスクを抱える高齢者の日常活動監視(その例に不整脈監視機能が挙げられる)や適切な運動負荷判定が可能となる。リハビリ医療での運動負荷モニターに有効なのはいうまでもない。最近は導電性の着衣から活動計測(心拍と加速度)を行い、脊損患者など歩行不能なケースでも歩行量に代わる動きの指標、体幹運動指数を測定記録して活動性の回復をみる、“hitoe システム”がリハビリ現場でも報告されている。


●血糖モニタリング:フリースタイル・リブレ

 糖尿病治療での血糖測定の意義は大きい。最近は血糖を持続モニターするさまざまな機器が利用可能となり、医療現場ではI型糖尿病やインスリン療法を必要とするII型糖尿病で持続血糖モニタリング(CGM)が行われている。その目的で利用される、Abbott社の“フリースタイル・リブレ”は皮下に細い留置針の電極を置いて組織間液の糖度をモニターするもので血糖値との相関も良好で、測定値は血糖値として表示される。リブレはアマゾンで機器一式購入可能であり、糖尿病患者のみならずマラソン選手などでも利用されている。食事や運動に合わせて任意の時間にスマホを電極付近にかざせば簡単に血糖測定が可能である。針を刺さずにCGM可能なスマートウォッチもフランスのPKvitality社が開発中で K'Watch Glucose(ケーウォッチ グルコース)として近々市販されるそうである。CGMが簡単に可能となれば糖尿病管理が容易となり食事療法や運動療法にも一大革命となる。


●重複障害を持つ高齢者を“活かす”リハビリ医療

 心不全や腎不全、心筋梗塞後や脳卒中後、骨関節疾患を合併後の重複障害はハイリスクで従来であればリハビリ医療の対象外であった。しかしさまざまなモニタリング手法が利用されて、高齢者重複障害でも適切な運動療法で疾患自体の改善までもが期待できるようになった。リハビリ医学は今、“Adding life to years and years to life”を合い言葉に進歩してきている。









2022年11月15日火曜日

[IS-REC/ISSUES]:~リハビリ科入院、“生涯の終章を決めるもの”~


●当地区(由利本荘)診療圏概況と当院

秋田県と由利本荘地区人口動態統計調査によると、当該診療圏の総人口は95254人(2022年9月現在)、高齢化率38.3%(75歳以上で20.1%)である。世帯概況では高齢者のみ世帯割合32.7%(うち要介護者割合28.5%)、世帯主高齢者で一人暮らし世帯18.1%(同32.7%)、二人以上世帯14.6%(同23.3%)、すなわち全世帯の3分の2が高齢者のいる世帯であった。全世帯での世帯人数は平均3人未満で、高齢者が障害や重度慢性疾患を抱えると、その在宅介護力は介護保険利用を考慮しても期待が難しい状況と考えられた。当院は当診療圏の慢性期医療を担う医療機関として地域への復帰を目指すリハビリと、入院治療継続が必要な医療機能、そして終末期の看取りを行っている。本年1月から9月末日までの入院患者の実態を調査した(表1)。入院者は在宅や施設入所の地域復帰を目標としたリハビリの有無で大きく2群に分類された。リハビリあり147人・なし175人(総数322人)で後者には看取り目的の入院も含まれる。いずれの群も80歳代が4割で年齢の中央値は84歳・88歳であった。退院時転帰をみると、リハビリあり群では施設を上手に利用しながら自宅退院する割合が最も多く30.6%、次いで施設入所24.5%、死亡10.9%であった。ここでは在宅復帰割合が地域包括や療養病床に求められる7割以上からほど遠い数値であることに留意が必要である。入院時からリハビリを行わなかった群の理由はさまざまである。看取りのケースを別とすれば多くはリハビリに耐えられない全身不良か高齢、またはレスパイトを含む短期調整入院である。半数以上の100人(57%)が死亡退院であった。

●入院患者栄養の問題

 本年1月以降、毎月の栄養補給方法をみた(表2)。経口栄養・非経口(経管)栄養・静脈栄養の割合をその実数でみると、2:2:1の割合で変わらなかった。経口栄養のうち、嚥下調整(困難)食提供割合は30%前後で、特に最近は増加傾向である。超高齢者が多く、リハビリ実施困難が相当数おり、また看取りのケースが含まれることを考えると納得される数値である。

●超高齢入院者の飢餓・低栄養

 当院入院患者の多くが、数値上、低栄養・飢餓状態であり、体重減少、かつサルコペニアが多い。地域復帰を目標に行われるリハビリ実施例は徐々に機能障害が進行した、“廃用症候群”を病名とする場合が多く、リハビリ開始と並行して栄養障害を治療ターゲットとする必要がある。全身疾患に配慮しつつ、摂取カロリー量のアップ、蛋白摂取割合の増加(具体的には高タンパクゼリーの追加)を図っている。超高齢者の低栄養、慢性疾患関連低栄養は、オーラルフレイルや脳機能低下に伴う偽性球麻痺性嚥下障害が多い。そのほか、慢性炎症が関わるもの、疾患に起因しない栄養摂取不良(飢餓関連低栄養)があり、特に後者は加齢・薬剤性・精神心理的変化による食欲不振が多い。

●入院患者の生命・生活機能維持の栄養管理

 昨年から開始した、“嚥下評価入院”では、チームアプローチにより問題抽出とその解決を図っている。VE、VFなど嚥下機能の直接評価に加えて、食べやすさと栄養諸量を考慮した食材の提供(栄養科)、身体機能と口腔嚥下機能訓練(リハスタッフ)、服用薬剤チェック(薬剤科)、家族環境と精神心理的サポート(連携室と病棟看護チーム)を行う。まだ評価入院依頼のケースは少ないがそれ以外の入院患者を含めて成果は挙がっている。栄養障害がそれまでの独居、孤食などの環境要因が主たる原因であれば、要素的な嚥下困難は少なく、仮性認知症で障害は見かけ上にすぎない場合が多い。生活時間の工夫、上手なデイ利用などの環境調整、食材の工夫、サプリの利用で栄養の改善と生活機能の回復を図る事が可能となる。

●生涯の終章を決めるもの

 高齢化でもたくさんの元気老人がおり、新聞の“お悔やみ”欄を占める物故者年齢は90歳以上がその大半である。その“お悔やみ”欄の中には当院で亡くなられた方も散見される。“ピンピン・コロリ”と逝ったのか、それとも当面はその広告に載ることなく地域復帰を果たしたのか、その場に立ち会う機会のあった者として考えてみる。ヒトの生涯の終章を決めるものは何か? 癌死など寿命を損なう疾患死を除けば、やはり栄養の問題が大きいと思われる。高齢でも経済的にそこそこで、周囲に良い関係を持った家族縁者・知人・友人がおれば、こころの栄養は満たされる。身体の栄養も医療者の知恵を借りて何とか解決できるものだ。生涯の終章は、生きるに足りる栄養を維持した上で、“コロリ”と決めたいものだ。

※当院入院に関わる資料、栄養に関わる資料は地域連携室(岡本)および栄養科(東海林)の協力を得た。





2022年4月13日水曜日

IS-REC/ISSUES:「いいたい放題」リハビリ科入院からみた障害高齢者の現場~診療報酬改定~

由利本荘医師会報に掲載した記事を投稿します。(由利本荘医師会報NO.574・2022年4月号)

●超高齢化を反映する入退院

 リハビリ科入院(リハビリ目的入院)を語る前に当院の入退院の現状と病床運用について触れる。端的に言えば、入院患者の超高齢化である。看取りや終末期医療対象が増え、在宅復帰ケースが極限られている。現在、病棟は地域のニーズに応えること、病院収入を最大化することを目的に、一般病床(15)・地域包括ケア病床(35)・療養病床(50)・障害者病床(50)で構成される。この機能別病床をさらに効率的に運用するため、患者の病床間ベッド移動を毎日行い、一般病床の稼働ベット数と平均在院日数、地域包括ケア病床の在宅復帰率の最大化、障害者病棟の相当患者割合、療養病棟のADL区分2・3割合の最大化を図っている。

●リハビリ入院の実態

 当院は慢性期病院の主要な柱として、障害高齢者の機能回復・生活機能回復や生活の質向上を目指すリハビリを重視する。過去20カ月間(2020年1月初~2021年8月末)、実際に入院してリハビリを行った患者は総数387名、年齢分布27~98歳、中央値79歳であった。障害の原因をみると、国民生活基礎調査などでは、認知症・脳卒中・衰弱・骨折転倒が4大原因とされるが、当院の同時期の検討では廃用症候群が半数を超えていた。これは、障害が肺炎や心不全、その他の内科疾患・認知症・老化衰弱などで徐々に起こり自立生活が困難となった事を意味している。こういった背景での廃用症候群は、回復に時間を要し、また回復自体が望めない場合が多い。また患者の家族構成をみると、独居83(21%)・夫婦世帯67(17%)・患者と子の二人世帯40(10%)その他197(51%)で、ほぼ当地域の家族構成に一致していた。一般に障害を持つ高齢老人が在宅で過ごすためには、患者本人一人で留守居が可能か、在宅に適宜交替できる複数の介護者がいるかなどが目安となる。患者を含め3人以上の世帯でも患者以外は働きに出ている事が多く日中の介護力には期待できない。世帯構成での条件達成が困難な場合にはデイサービスやショートを適宜利用する。しかし実態をみると、在宅に戻るチャンスのないロングショートが施設利用者の大半を占めていた。

●診療報酬改定のねらいと当院の状況

 この度の診療報酬改定を日本慢性期医療協会・武久洋三会長の説明に基づいて、特に慢性期医療を中心に触れる。それは療養病床・地域包括ケア病床に関わらず、①その医療内容と質のレベルアップ、②栄養・薬剤・リハビリ重視、③質の向上を目指した機能分化・タスクシフト、である。特に①③に関連して、増え続ける高齢者の救急医療に対応する慢性期病院の整備を求めている。救急医療管理加算に該当しない場合でも24時間365日、患者を受け入れよという事である。①では、地域包括ケア病床の在宅からの入退院割合や救急(緊急)入院割合のハードルを高くしている。現状、出口である当院ケア病棟の在宅復帰率20%未満では到底条件をクリアできず、病床数を減らすかすべて返上するかの選択肢しか残されていないようにみえる。療養病床の質向上については栄養とリハビリに関して厳しい規準を要求している。リハビリ医の立場から妥当で既に実施済みの規準もあるが、いずれも診断・評価やカンファランス等で時間をとられ、少ないスタッフでは相当厳しい内容である。ADL改善度のFIM継時評価、またおむつがはずれた割合、IVHや非経口栄養の患者を経口栄養のみに改善させた割合などを規定して加算や減算を行う仕組みを取り入れている。摂食嚥下について言えば超高齢者を対象としたリハビリでは代替栄養と経口栄養の併用がせいぜいの現実的ゴールであり、経口摂取のみに切り換えられるケースは決して多くはない。

●超高齢化の現状に見合う改定なのか?

 現在の秋田県や由利本荘地区の高齢化率は、2045年頃の全国平均に一致する。今回改訂の主旨に沿った質の高い慢性期医療を当面実現可能な病院は当地区以外の全国にはたくさんあるのかもしれない。しかしそれらの“質の高い”慢性期病院が2045年頃も同じ質を維持しながら生き残り続けることは本当に可能なのだろうか?当地区・当院の現状からは到底そうとは思えないのである。


2022年1月11日火曜日

[IS-REC/ISSUES]『腰椎椎間板・左横ヘルニアにやられた』

 ●密かな自慢、運動習慣

   秋田に居た頃からの運動習慣は由利本荘市に転居してからも続いている。秋田では夕食後ひと休みしてからセントラルスポーツのジムで汗を流していた。由利本荘では夜遅くまで出来るスポーツジムがなく、自宅に小さなトレーニングルームを作りトレッドミルで走るのを日課とした。またウイークエンドは本荘大堤から水林に抜けるハイキングコースを通り、子吉川河川敷に沿って薬師堂踏切を超え自宅に戻る10数kmのウォーキングコースをオーディブルを聴きながら歩く。結構の運動をこなしているつもりでもやはり歳には勝てない。体重は変わらないが筋肉量が減って、めっきり寒がりになった。そこでこの春からダンベル運動などの時間を増やした。

●ヘルニアの前兆

   筋トレメニューにその場ジャンプや踵(かかと)落としも良いというので、これらも普段の運動に取り入れた。ところが、この7月頃から運動と関係なく平時の歩行中、左足を挙げた時(遊脚期)、左鼠蹊部を縛ったような感覚に陥り、また大腿から下腿の前面、足背に灼熱感を伴う痛みが出現した。この症状は左足だけに時々起こり、右足になく、また腰痛はほとんど生じなかった。中通病院の親友に相談した。末梢循環障害ではないかという。そこで早速、血圧脈波検査を受けたが、ABI1.12で末梢循環障害は否定的だった。その後も同じ程度の症状は時々あったが日常生活に影響するほどではなく運動も続けていた。

●腰椎MRIで“L4/5・L5/S1左横ヘルニア”

  9月半ばから起床時の左足のこむら返り、歩行時の左下肢の痛みが増悪した。最も困ったのは階段昇降時に痛みで足を宙に浮かせず、足先が段差で引っかかる事だった。もっぱらエレベーターを使うしかなかった。自院の整形外科S先生に相談した。診察の上、すぐに腰椎MRIがオーダーされた。その結果は、L4/5、L5/S1の腰椎椎間板左横ヘルニアによる椎間孔狭窄症の診断。灼熱痛はL5デルマトームと一致していた。まず神経障害性疼痛に対してタリージェ5mg2錠から開始となった。

●椎間板ヘルニア症状を実体験する

   痛みは診断が確定した心理的影響もあって、常時感じるようになった。そして組織損傷と釣り合わない疼痛や異常感覚(灼熱感)など、これが神経障害性疼痛というものか、と納得した。タリージェを処方してもらいその鎮痛効果はあったが、仕事を休まず続けていたため、そのほかの鎮痛剤も併用した。しかし腎障害少ないカロナールを含めてnsaidsは無効、セレコキシブも気休め程度だった。痛みがあると、仕事に集中できず、また患者さんに笑顔で向かえなくなった。手術も考えざるを得ないか、と暗い気持ちになっていった。

●自然回復を促す運動・廃用の回復

 改めて文献や教科書で椎間板ヘルニアの治療と予後を調べ、またネットでの検索も行った。福島県立医大・整形の菊地名誉教授や紺野慎一教授は「多くの場合、6カ月程度でヘルニアは自然になくなる」と述べており、この観察を信じ、さらに自然回復を促す運動、運動習慣を一時中断したことによる廃用の回復を図れないものか検討した。なかなかその方面の情報はない。そこで痛みをコントロールしながら主にロングウォーキングを再開した。ジャンプや踵落とし、腰の運動は怖くて出来なかった。筋トレを休み運動量を減らしたことで、これまで体重を落とせなかったのが1kg以上減って60kgを切った。これはやはり筋肉量が落ちたせいなのだろう。筋肉を落とすのは簡単でも増やすのはなかなか大変なことを改めて実感した。

●運動でヘルニアは起こるか?

 教科書やネット検索で椎間板ヘルニアの原因を調べるとおおよそ、“スポーツ、不適切な荷物の持ち上げ、長時間の座りっぱなしなど、背骨に負担をかける不適切な動作を繰り返すこと”とあり、想像通りであった。しかし紺野慎一教授は、“スポーツは、直接的には関係しない”、と述べ、またヘルニアがあっても症状が出ない場合もあり、症状出現には神経への圧迫の強さ、仕事上の満足度の低さ、そして、うつ・不安・ストレスなどが関係しているとしている。

●症状消失とヘルニア再発を予防するには・・

   タリージェは有効であったが日中の眠気が強く、また動作時のめまいも起こるようになり、早々に中止した。幸い、薬を止めても痛みを含むヘルニア症状は徐々に改善して消失した。11月には痛みや異常感覚は全くなくなり、主に筋力低下による歩行、特に階段昇降時の擦り足が問題であった。その擦り足も運動、特にトレッドミルや週末ロングウォーキングの再開で大分改善している。私の場合も症状出現にヘルニアによる直接神経圧迫以外の周辺要因があったのだろうか? 再発予防にはやはり“心の健康”が大切なようだ。

秋田県医師会報NO.1956(2022年1月号)『新春随想号』pp53-54、から転載

2021年9月12日日曜日

[IS-REC/ISSUES] ~リハビリ科入院からみた寝たきり患者の拘縮

これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報NO566(2021年9月号)

●拘縮は予防できるか?

        重度片マヒや四肢マヒが残り、結果的に寝たきりとなった患者さんで問題となるのが四肢・体幹の拘縮である。20数年前、頼まれて秋田市内某総合病院の循環器科病棟をリハビリ医の立場でその診察と回診をさせていただいていた。主な役割は何らかの障害を残し、リハビリで良くなるケースあればリハビリ病院へ拾い上げることなのだが、もっとも困ったのは障害発生から時間が経ち四肢の痙性や拘縮が重度となったケースであった。寝たきりに近い状態の患者を病棟看護師は時間で一生懸命体位交換し、確かに臀部や踵の褥瘡は少ない。しかし四肢・体幹の屈曲あるいは伸展拘縮が進んで、股・膝・体幹が折れ曲がりおむつ交換も容易ではなくなっている。また手・手指関節は握り拳状となって指間が開かずそこに褥瘡も発生している。発症の早い時期から拘縮予防のROM(関節可動域訓練)をやっていれば予防できただろうに・・とも当時は考えた。しかし、その後の臨床経験からわかってきた事は拘縮予防ROMは、患者自身にその運動に協調できる自動能力が残り、かつ相当程度の頻度(たとえば毎日数時間かけるような)で実施しない限りほとんど無効であることだ。

●器械で自動・他動ROM訓練を行う

        訓練士によって限られた時間、ROM訓練を行っても拘縮予防が手ごわい事は以前から想像していた。そこで器械で自動・他動ROM訓練を行うことを考えた。幸い開発に手を貸してくれる器械メーカーがあって、まず最も実現可能性のあるマヒ上肢の手・手指関節を空気圧で伸展させる機器を試作した。医療器械としての安全性考慮などメーカー技術者の協力がなければ困難だったが何とか製品・市販まで漕ぎつけた。現在は多くのリハビリ施設や老健施設などで手の拘縮予防機器として使用されている。次いで下肢、特に足関節の尖足予防の機器開発を県立大学工学部の某教授と取り組んだ。しかしこれは結局未完成に終わった。下肢の足底側に押す力は非常に強く、空気圧のみで他動ROMを行うのは困難であり、これを補う硬性素材を使用した場合、医療機器として安全上の問題をクリアできないためであった。

●入院患者の現状と患者QOLを考慮したリハビリ介入の可能性

        当医師会病院の診療目標のひとつは、“慢性期リハビリテーション”である。医学的リハビリの柱の一つは患者さんの機能回復であることは言うまでもない。障害発生の早い時期に急性期病院での治療を終えて紹介され、リハビリのレールに乗り続けられれば、年齢や背景疾患にもよるものの障害を最小限にくい止めて自宅退院や施設入所が可能となる。

しかし障害自体が高度で、かつ背景疾患や合併症を抱える高齢者は機能回復が困難であり、主にケア対象のレベルに留まってしまうのが通例である。ベッド上の動作が要介助で、離床全介助、食事にも介助を要するような場合や静脈栄養、非経口栄養の場合、あるいは気切状態の場合などでは、退院後の受け入れ先がなく、医療リハビリの期限を超えて延々と療養入院を続ける結果となってしまう。そういった機能回復が既に期待できなくなったケースが他院からの紹介を含めて徐々に療養病棟を占めるに至っている。機能回復を期待して積極的リハビリを行っているケースは現在、全病床の3分の1に満たない状態。これは当院リハビリ医療の面からも深刻な状況である。高齢でさまざま合併症を持った入院患者さんの質が今後変わるはずもない。今、漠然と考えるのは従来の機能回復を第一義的に考えるリハビリ医療ばかりではなく、患者QOLを考慮したリハビリ介入の可能性である。ケアの面から考えたボトックスによる痙縮コントロール、そして最も難題である拘縮の予防と改善、認知症に対する取り組み等々。解決すべき課題は、まず口にしたり文字にしたりしないとその道筋すら見えてこない。今は残念ながらまだその課題を挙げて確認する程度の段階に留まっている。

2021年9月2日木曜日

[IS-REC/ISSUES]秋田県の無料広報雑誌「楽園」NO.65(令和3年6月1日)号掲載

 秋田県の無料広報雑誌「楽園」(平成22年~)は、中高年向けの健康記事を掲載しています。冊子は、 県内(銀行、図書館、宿泊施設、協力医療施設)および県外のアンテナショ ツプに設置されています。本稿はその65号(令和3年6月1日号)に掲載されたものです。

『養生のヒント  ~あなたは、“元気老人?”それとも“フレイル?”』


○リハビリ病院の患者さん達

        入院リハビリを受ける、それは日常生活が困難となる何らかの原因があって、急性期治療後も家に帰ることが出来ず、生活機能の回復を図る入院です。入院理由は要介護・寝たきり原因とほぼ共通。その主な原因は、認知症・脳血管疾患・高齢による衰弱・転倒後の骨折などが挙がっています(厚労省2019)。リハビリ入院はその中でも良くなると期待されるケースなので、認知症患者は除外されます。

○リハビリ入院患者に、“元気老人”はいない!

    
        リハビリ入院患者は、“アラエイティー(80歳前後)”で、フレイル、すなわちヤセで低栄養・筋量低下(サルコペニア)・活動量低下、が共通しています。フレイルでは握力が落ち、両下腿が細くなり、低栄養状態で、意欲・体力なく、栄養の改善を図らないとリハビリ実施は困難です。

○フレイルだから要介護や寝たきりとなる!

        一般にフレイルは老化に伴う心身機能低下と考えがちですが、老化の必須プロセスではありません。事実、私たちの身の回りには高齢でもたくさんの“元気老人”がいます。一方、徐々に食が細くなり痩せてきた、外出しなくなった、外出時には信号機のある横断歩道を渡り切れなくなった、などの症状があればフレイルの可能性が高くなります。フレイルになると簡単に骨折する、食事の偏りや低栄養、脱水から脳卒中・心筋梗塞などに罹患する、また認知症を発症する、などの可能性が高くなります。


○フレイルを予防して健康寿命を伸ばそう!

        寿命自体の調整は困難です。しかし細胞や遺伝子レベルで寿命制御機構が発見され、
実験動物から人の長寿化の試みが現実化しつつあります。他方、老化はプロセスであり個体差が大きく、個人の生活習慣に大きく左右されます。老化に抗して健康寿命を延ばしフレイルを予防するには日常の栄養が最も大切。高齢になるほど淡白で粗食を好み、また生活時間が不規則、食事も朝昼兼用、夕食が夜食となる、などのケースがみられます。三食をきっちりとる、魚肉・鶏肉など、蛋白質を多く食べ、副食多く主食は特に夕方に少なめとする、これが基本です。また自分の歯を残すように定期歯科健診を受け咀嚼力、口腔・嚥下機能を維持してオーラルフレイルを予防します。身体運動能力の維持・改善には毎日の運動が必要。朝のラジオ体操、また仲間と一緒に出来る運動などが良いでしょう。ウォーキングは速歩で息がはずみ汗をかく程度の負荷で行います。社会参加の面では、可能な限り就労を続けます。そうでない場合にはボランティア活動、友人とのおしゃべり・会食、または観劇などの文化活動も望ましいことです。これらの点に心がけるのはもちろん大切ですが、生活習慣病で治療を受けている方はかかりつけ医の投薬と指導で治療を中断しないようにしましょう。老化というプロセスからフレイル、サルコペニア、そして認知症を予防して要介護状態に陥らずに、いつまでも元気老人でい続けられるかどうかはあなたにかかっているのです。

2021年8月30日月曜日

[IS-REC/ISSUES]~脳卒中治療・リハビリテーション医療の進歩を活かすために~

 ※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。 由利本荘医師会報NO492(2015年1月号)

~脳卒中治療・リハビリテーション医療の進歩を活かすために~

●はじめに

        ここ数年、脳卒中治療やそのリハビリは大きく進歩している。今年まもなく「脳卒中治療ガイドライン2015」が公表・出版される。そこでは脳卒中リハビリについても多くの紙面が割かれるはずである。拙文ではその詳細に触れないが、当地区の現状を踏まえ今後その治療と技術の進歩を日常診療に活かすため、当地区全体で何を目指すべきか、その方向性について私見を述べる。

●由利本荘医療圏の現状

        平成24年度の由利本荘保健所管内の死因統計では、死因の多い順にガン・心臓病・脳血管疾患・肺炎・不慮の事故であり、脳卒中割合は死因第3位。また要介護・寝たきりの原因は全国共通し、脳卒中後遺症が第一位。これは当地区でもおそらく同様であると思われ、脳卒中治療とそのリハビリには未だ十分な力を注ぐ必要性を感じている。当医療圏は病院数6、多くは一般病床であり、療養病床は1病院50床のみ。リハビリに特化した病床はない。脳卒中医療やそのリハビリは、急性期から慢性期に区分されたシームレスな地域完結型医療が最も有効とされる。こういった地域の体制について当地区は残念ながら秋田県内でも相当遅れをとっている。一方、近年国の目指す医療と介護の一体化構想のもとで地域包括ケア病棟が生まれつつある。この中には在宅診療支援機能も含まれており、“慢性疾患やそれによる機能低下・生活機能障害(要介護状態)”に対して、有効な対処の枠組みが用意されたかにみえる。

●治療の進歩・リハビリの進歩

        脳卒中急性期治療について、当地区の脳卒中センター機能を担う由利組合総合病院は国内でも屈指の高い医療レベルを誇る。急性期病院でrtPA使用や血管内治療が行われ、引き続き急性期・亜急性期のリハビリが行われる。機能回復を目指すリハビリ、障害が残っても、その障害を代替したり補助的手段を導入して社会や在宅復帰につなげるリハビリ技術は大きく進歩している。身体機能という場合、特に脳卒中では運動麻痺に眼が奪われがちである。しかし近年注目されるのは運動障害治療以前の問題として、栄養障害や認知障害の問題があり、このような背景を改善することで機能予後が大きく変わることも周知の事実である。リハビリそれ自体は、要点として医師やセラピストのスキル(リハビリの質)と、訓練の量が挙げられている。特に後者の量的問題については理解しやすく、“24時間365日リハビリ”の有効性は実際高い。

●地域の実情にあわせて何が用意されるべきか?

        生活圏は広域であり、脳卒中後遺症を抱えて自動車運転が出来なくなると地域生活は“アウト”となる。痙性や拘縮で手の機能が低下するとそれまで可能だった身辺処理が自力で出来なくなる。疾患管理が悪いと脳機能が低下して嚥下障害が起こり誤嚥性肺炎を来す。家屋環境や季節的影響で運動やリハビリが行えないと運動過少による肥満から日常生活活動が困難となることもある。こういった様々な生活上の問題に対して適切な評価と指導(自動車運転であれば“運転シミュレーター”、痙性や拘縮は麻痺上下肢の管理と治療的ブロック療法、嚥下障害であればその評価と食事形態・栄養摂取法の検討、肥満であれば障害にあった運動・訓練法や栄養指導、など)がなされ、必要と適応あれば治療と短期集中リハビリが可能となる専門的施設(“リハビリセンター”)が利用される。それは脳卒中センター同様に地域全体で共有できる“リハビリセンター”でなければならない。そのためには地域で一貫した治療方針で患者さんをみる“地域連携医療”の中で利用される形が望ましい。地域連携医療は医療・介護の担い手個々の協力で可能だが、リハビリセンターなど、“ハコモノ”の設置は容易ではない。しかしリハビリの大きな目的は“要介護者を減らし、要介護度を下げ、tax-payerを増やすこと”。この目的実現で削減できるコストも大きいはずである。“リハビリセンター”の採算性を是非どこかで検討していただきたいものである。

●おわりに

        私個人の当面の目標は地域連携医療の構築で急性期から回復期へ脳卒中治療とリハビリの流れを作ること。そしてその結果を出して行くこと。なかなか大変な課題である。諸兄姉のご支援をお願いして筆を置きたい。


[IS-REC/ISSUES]リハビリ科入院からみた障害高齢者の治療スペクトラム


※これまで由利本荘医師会報・秋田県医師会報に掲載した記事を順次投稿します。
 由利本荘医師会報O550(2020年3月号)

●高齢者リハビリ入院の背景

    巷間の高齢者の多くは元気老人で、“人生100年時代”を謳歌している。一方で少子化による世帯人数減少、高齢者貧困世帯増加を背景に、目立った障害がなくともフレイルという要介護準備状態者が増加している。巷間の高齢者の一方はこのフレイルで、生活習慣病の不十分な治療や未治療、健康維持に必要な食事・栄養・運動習慣の不十分などがその原因となる。フレイルでは高血圧や糖尿病による大小血管病、骨粗鬆症による大腿骨折などをきっかけに、介護を必要とする様々な障害に見舞われる。急性期病院での治療後、“あとはリハビリで”と障害を持つフレイル高齢者が紹介されてくる。また市中の診療所で治療を受けながら徐々に機能が低下し介護が限界に達して紹介されてくる高齢者もある。慢性期医療病院のリハビリ科入院は概ねそのようなフレイル高齢者や既に相当以前から様々な疾病や障害を持った要介護高齢者がほとんど。元気老人が入院してくることはない。

●背景疾患を治療し、“機能的状態”を入院時より良くして帰せるかが問題

        背景疾患の治療を前医に引き継いで行う。新たに発生した障害はそのリスク管理を行いながらリハビリを行う。リハビリでは阻害因子を明らかにし、回復や改善の見通しをスタッフと共有する。その阻害要因が大きければ、時に“リハビリ適応なし”と判断するケースも出る。意識障害や全失語で訓練時の協調動作が期待できないケース、極度の栄養不良で訓練負荷に耐えられないケースなどはリハビリ適応外となる。これらの問題がない場合でも、フレイルや認知症によって、訓練しても機能的状態は変わらないか、悪化するケースがある。主治医の仕事は、したがって背景疾患を治療し、阻害因子の軽減を図り、家族やMSWと相談しながら退院先を決定する、チーム全体の方針の取りまとめを行う、などである。その場合、“患者の機能的状態が入院時より良くなっているか、退院後にその変化が患者本人のQOL改善につながるか?”を絶えず考える必要がある。

●リハビリとケアの境目

        “リハビリ適応外”、“現疾患治療優先でリハビリ困難”と判断されるケースのリハビリ科入院は悩みが多い。訓練で機能維持すら困難なケースもある。家族に状況を説明してケアに重点に置いたメニューを実施する。背景疾患が重症であったり、もともとフレイル高度な患者は、この“リハビリとケアの境目”に位置した治療目標を立てることとなる。

●ACP「人生会議」と 「エンド・オブ・ライフケア」

        「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」、いわゆるACPが提案され、その身近な代替語として「人生会議」が昨年から提唱されている。ACPは、自らが望む「人生の最終段階における医療・ケアの方針」を前もって話し合い、いざその場面となった時に活用しようという当事者中心のもの。一方、ケアを提供する側の指針「エンド・オブ・ライフケア」は、“リハビリ入院治療スペクトラム”の一端も説明しているように思われる。機能回復や改善を図るリハビリ、機能維持を図るリハビリが困難でも医療者として何かできることがあるはず だ。意識が良いのに四肢拘縮進行で苦しむ患者、経鼻胃管挿入のまま四肢の抑制を受けている患者などをみると、“リハビリとケアの境目”の患者でもそのQOL改善を目指す治療やケアがあると確信する。

●リハビリ科入院:これからの課題

        医療全般が進歩した。服薬アドヒアランスを上げるOD錠、ポリファーマシーを避ける合剤、安定した血糖変動が得られる持効型インスリン、などがそれである。リハビリ医学も対象患者の高齢化でその質と内容が少しずつ変化してきている。フレイルとの関連で、“リハビリ栄養”や“障害予防リハビリ”の言葉が生まれた。訓練場面でのロボティクス応用は高齢者リハビリ現場ではやや縁遠いので触れないが、変形拘縮予防のボトックス治療や物療の利用はもっと考慮すべきだろう。また、治療的胃瘻造設は終末期医療に至るまで「緩和ケア」や「エンド・オブ・ライフケア」の観点から有用と確信しており、まだまだそのプロパガンダが必要と思っている。

※医師会報掲載の関連記事は以下の通りです。



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