小熊英二氏の論壇インタビュー、「自ら動いてネットワーク」の教えるもの
2014.1.10、わが地元紙・秋田さきがけ新聞、文化欄で小熊英二氏は語っている。〝20世紀型の社会秩序が限界を迎えている・・・、都市部でも地方でも政治の支持基盤が機能不全に陥り、従来の利益誘導型政策でもその回復は困難となった。・・・また利益誘導するパイ自体がなくなったから、政治家(屋?)は国民の多くが反対する原発稼働継続にあれほど固執するのだ〟彼の言は、現在の政治状況を非常に端的でわかりやすくとらえている。そしてこの閉塞した政治と経済状況を打破する鍵は、〝地道ながら地域の人と人との様々な横のつながり、そしてその活動にある〟とあるべき将来展望を語る。
『里山資本主義』が版を重ねて読まれるている!!
冒頭に紹介する『里山資本主義』は、 現在も多くの版を重ねている。楽天ブックスでは現在もビジネス・経済・就職部門で売れ行きランキング第2位となっている。そして多くの方々が本書に賛同する立場から書評を書いている。ここに再び書評めいたことを書くのは屋上屋を架す事となるので、私は以下の二点に絞って本書の読後感を記したい。一つは冒頭引用した小熊英二氏の述べる〝20世紀型社会秩序・政治の限界〟という点からみた本書の意味、二つ目は私自身のオーストリア生活体験から、極く身近に感じた本書紹介のオーストリア〝里山資本主義〟が何故これほど根付いているのかを解読してみることである。
閉塞感強い社会・政治状況を変える芽、それも〝里山資本主義〟
本書は、〝マネー資本主義によらない〟〝マネー経済に依存しない〟暮らし方、経済のしくみを実践している事例を日本各地や海外から、足で稼いだ現地報告として精力的に紹介する。そして、そういった事例の教える経済のしくみを〝里山資本主義〟と名付ける。地方にはマネー経済の中で見向きもされなかったもの、すなわち瞬間的にはマネーを産まないものに新たな価値(というよりそれまで価値を認識できず捨て去ってきたもの)を見いだし、マネー経済の外で成り立つ仕組みを実践している事例がたくさんある。そして、そういった事例では実践している当人すら、その価値に気づいていないことが多いというのだ。
人口減少社会・少産少死高齢化社会でGDPが結果的にすぼんでも、グローバルなマネー経済に関わらないローカルな仕組みも同時に持っていれば、決して慌てふためくことはない。こういった仕組みを持ちながら生活していると、思想としてではなく態度として現在の経済至上主義を前提とし、また原発再稼働をもくろむ政治にノーを突きつける事となる。小熊氏が政治と経済状況を打破する将来展望として着目する点は、言葉を変えると、まさに地方から進むこの〝里山資本主義〟そのものということになる。
EU優等生,森林国オーストリアのアンチグローバリズム・・・否応なく進むグローバリズムに抗して
これまで多数の識者が危惧していたとおり、米を含む主要5品目を守るという公約が破られ、TPP交渉が進んでいる。高齢化・人口減少社会の現実とかけ離れた“マッチョな”売らんかなの経済を指向し続けるグローバリゼーションの流れ。グローバリゼーションは果たして不可避であり、我々の求める将来社会に必要なのか?その反省を込めた回答に、本書〝里山資本主義〟や〝スローシティー〟の考え方が急速に普及する。
さて、医師なりたての1980年、約1年と少しの間、オーストリア第二の都市、古都グラーツで留学生活を送った。ここは留学先の国立グラーツ大学と並んでグラーツ工科大学があり、後者は本書でも紹介される森林という地上資源を有効活用するのに大きな役割を果たしている大学である。当時から日本以上に高齢化が進み、朝の通勤時間帯には近くの公園(ヒルムタイヒ)に日向ぼっこにでかける老夫婦がぞろぞろ歩いて行く。一方、子供は少なく大事に育てられている。広い森の中にある保育園は州立制。先生(保育士?)は多く、子供たちは多くの時間をピクニック気分で野外で過ごしている。ここは観光立国であると同時に精密機械や航空機エンジンに特化した企業もある。市内のアパートには概ね広い敷地があり、羊が放たれ雑草を食んでいる。まさに静寂で成熟した社会そのもの。そしてこの本で知った事であるが、このオーストリアはEU優等生なのだという。政治的、政策的意図か否かはともかく、観光資源や森林資源を有効活用し、国民も質素で外貨をあまり必要としない経済が当時から根付いていた。われわれが否応なく進む考えるグローバリズムに当時から自然体で抗していたのだ。市内は車社会というより公共交通(バス・電車)優先社会で、これは現在も変わっていないようだ。古都にふさわしくハプスブルグ家の別荘や公園も多い。街にしてはその生活時間も生活空間も実にゆったりした印象である。私が生活したのは都市部であったが、オーストリアという国そのものが〝里山資本主義〟や〝スローシティー〟という概念の生まれるにふさわしい土地柄をずっと以前より持ち合わせていたことは間違いない。
おわりに
閉塞感ただよう政治・経済状況、格差社会、少子高齢化社会と、思うに暗い日本の今を映す言葉。こういった言葉に負けることなく勇気と元気をもらえる本が本書であり、それが今も読まれ続けている理由なのだ。本書を読み終えて改めて納得した次第である。
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