2014年1月16日木曜日

[IS-REC]林 洋著『食と健康の話はなぜ嘘が多いのか』(日経プレミアシリーズ)

 

いたって真面目な栄養学の教科書

  本書は書名から私が期待した内容と多少異なって、いたって真面目な栄養学の教科書であった。その硬い内容を少しでも和らげ、飽きさせないよう漫談調で書かれている(その調子がやや鼻についてしまった)。しかしともかくも著者が食と健康情報の多くを敢えて『嘘が多い』と書名にするのは健康食品やサプリに確かな根拠なく“利いた”とか、“○○に効果がある”と宣伝するからだろう。私は本書を手に取り、こういった宣伝に対する真っ向からの反証を期待した。著者はしかし真正面からの衝突を回避し、正攻法で「どんなものが出ても、それを正しく評価できる能力が大切だ」と述べて、食(≒栄養)の生化学的知識をよく整理し提供している。その主だった点を紹介する(但し、内容が教科書的だからといってすべて正しいと思えない所のあったことを付記する)。

なぜ食の生化学が大切か?

  栄養は食べ物とほぼ同等の意味合いを持つ。しかし食べ物に表示される栄誉成分すべてが体に吸収される訳ではない。いくら口にする食品の栄養や健康効果を謳っても、また、いくら優れた食品組み合わせによる食事療法を実践しても、食が体に入りどう最終的に利用されるかを知らなければ、怪しげな食の宣伝文句にだまされてしまう。

ヒトの体組成と食の関係

  ヒトの体組成について分子レベルでみると、最大は水(全体重の60%)次いで脂質(20%)・蛋白(15%)、残るはミネラルと炭水化物。体組成を組織レベルでみると、最大は筋肉(40%)、次いで脂肪組織(20%)・血液・骨・皮膚・内臓と続く。栄養補給がこれら体組織の補充と生成にあたると考えれば、食(≒栄養)は主に肉中心で良いはず(著者はそうではないと否定する)。肉は特徴として、その含有蛋白の30%を強制的に体温上昇の熱産生に使うという。

三大栄養素の関係

  炭水化物は大雑把に言って体の動力源。生きるに必要だが補給がないと(絶食)、代わりに脂質や蛋白質から炭水化物が生成されその動力源を提供する。だから食べないと体構成蛋白や脂肪が減少して痩せる結果となる。


消化吸収

  この項で注目するのは、脂質吸収機構。脂質は消化酵素リパーゼや胆汁の力で小腸粘膜に吸収され、粘膜細胞に入ってから再び脂質となり、リポ蛋白の形でリンパ管を通り運ばれていく。このため脂質吸収と分解には時間がかかり、代謝に必要なエネルギーも炭水化物や蛋白質に比べて大きくなる。

糖質制限は体にいい?

  グリコーゲンは備蓄用ブトウ糖として肝や筋肉で作られる。しかしマラソンなどの長時間運動では最初の20分程度でそのすべてを使い果たす。その後のカロリー補給は脂肪組織から供給される中性脂肪がエネルギー源となる。この状態が続くと脂肪分解の不完全燃焼のためケトン体が持続的に発生し、組織に悪影響を及ぼす。糖の利用障害である糖尿病でも病態はほぼ同様である。


「酵素を食べても・・」


  遺伝情報はすべて蛋白質の設計図である。栄養素の消化や代謝に関わる酵素(蛋白質)をいくら食べてもそのままの形で利用される訳ではない。すべてアミノ酸まで分解され、あらためて身体に必要な蛋白質に再合成される。従っていくら酵素を食べても直接に体に利用され栄養効果を発揮する訳ではない。

微量栄養素(サプリ)


  ビタミンやミネラルなど微量栄養素は生体維持に必須。しかし微量で足りるはずであり、一般には不足は生じない。 

 

最後に私見:健康食品(サプリ)はホントに不要か?


  著者が本書で力説する通り食と健康の話、特に特定のサプリを売り込もうと目論んで書かれる情報には誇大宣伝や嘘も多いだろう。『未病』という言葉も生まれているように、本格的医療を必要とする前に大病を防ぐ努力が今求められている。厚労省が音頭をとった『生活習慣病』『メタボリック症候群』という用語も大いに普及して、必要以上と思われる薬がこれらの状態に対して処方されている。健康食品(サプリ)の中には医薬品として使われている類のものもあり、一定の効果をエビデンスとして示しているものもある。うたい文句に乗せられるのは困るが、それを服用する者がよく検討した上で上手に利用するのであれば、したり顏に、“ソンナノイミナイヨ”と言われてもまったく動じることはないのではないか?

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