2018年8月7日火曜日

[IS-REC/BOOKs]広井良典『持続可能な医療』(ちくま新書」を読む

“超高齢化”の現状とその意味

人口減少と高齢化で医療・介護・福祉すべてが危機に瀕している。医療の現場は治療効果が余り期待できない多病を抱えた超高齢者が戻る先も覚束ない状態で入院し、ベットを埋めている。週刊医学界新聞第3284号(2018/08月)の『連載:高齢者の「風邪」の診かた(8)』で高齢者の急性感染症の実際的治療指針が解説される。その中で、高齢者感染症の落とし所として、標準治療から“治療しない(緩和治療)”まで選択があり、“元々ADLに問題なく認知症もなければ基本的に標準治療をめざす”、“それ以外の場合は個々の患者の病態やそれまでの生活背景から落とし所を考えた方針を立てる”としている。超高齢者で、ADLに問題あり認知症もあるケースが大半を占める我々のようなリハビリ病院では、しばしば入院前後に起こる急性合併症治療のあり方をなかなかこうはっきりとは割り切れない想いである。

広井良典『持続可能な医療』

さて、広井良典先生の標題の本を先週末からかけてようやく読み終わった。“人口構造の超高齢化は母数となる子供や現役世代の減少の裏返しであり、超寿命の結果ではない”。米国の医学医療への財政配分を例にとりながら、“現状、日本では医学研究費も医療費にもあまり金をかけず、国民の寿命延伸に成功している。米国のように医療技術革新に大きな予算を配分しても、今後はその費用対効果は慢性疾患や老人退行性疾患が圧倒的に多い現状で著しく低下せざるを得ない”と医療費の配分は基礎的医学研究よりもますます高齢者介護や福祉に回されていくだろうと予測している。

「持続可能な医療」を指向する

「持続可能な医療」を指向する上でそれは「持続可能な社会」とも共通する。それには米国の大量生産・大量消費そして大量廃棄という生活スタイルからの脱却が必要であり、「持続可能な医療」にあっても必ずしも医療費の規模縮小の問題ではないとしている。また有限な社会保障費・医療費の使われ方として、その是正が様々な点で必要であると述べる。社会保障費の規模は全世界的には小さい部類なのに高齢者関係支出(年金)の規模が非常に大きいこと、あるいは歴史的・政治的背景があって、日本では病院より診療所に医療費配分が傾斜し過ぎており、これを是正する必要があること。医療・介護・福祉全般では陽の当たらない周辺部分に配分を厚くすることが求められていること、などなど。また社会保障全体の問題として、各人が人生の初めにおいて“共通のスタートライン”に立てるという状況が大きく崩れている事が問題だと指摘している。一方、高齢者の孤立の問題とも関係して、コミュニティーの再構築、一言で言えば“共助”を地域コミュニティーに再構築する重要性を説く。本書を通読しておおまかにその主張をまとめると、その内容は現状の社会保障や医療政策の批判的検討というよりは、個々の考え方(“超高齢化”という人口構造のとらえ方、ポジティブ思考、死生観など)のパラダイムシフトを促す内容に重点を置いており、問題の難しさ解決の道筋、方向性を一定示してはいるが、その多くを個の責任に帰された感じが強い印象を受けてしまった。

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